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東京高等裁判所 平成2年(行ケ)286号 判決

神奈川県横浜市南区通町二丁目四四番地

原告

高田設備株式会社

右代表者代表取締役

高田正雄

右訴訟代理人弁理士

八鍬昇

神奈川県横浜市中区山下町七三番地 山下ポートハイツ九〇四号

被告破産者松田信一破産管財人

田子璋

東京都千代田区神田駿河台四丁目二番地八

被告

高砂熱学工業株式会社

右代表者代表取締役

石井勝

東京都中央区日本橋小網町一九番五号

被告

丸紅建設機械販売株式会社

右代表者代表取締役

尾地和男

東京都千代田区大手町一丁目七番二号

被告

株式会社東京ライニング

右代表者代表取締役

金井邦助

神奈川県横浜市中区山下町七三番地 山下ポートハイツ九〇四号

被告破産者東洋ライニング株式会社破産管財人

田子璋

右被告ら訴訟代理人弁護士

石川幸吉

弁理士

秋元輝雄

右訴訟復代理人弁護士

成瀬眞康

主文

特許庁が昭和六〇年審判第一九六一〇号事件について平成二年九月一三日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告らの負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

主文同旨の判決。

二  被告ら

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決。

第二  争点及びこれに対する判断

一  特許庁における手続の経緯(当事者間に争いがない)

被告らは、発明の名称を「パイプのそ生方法」とする特許第一二七六六七六号(昭和五四年一月一〇日出願、昭和五七年一一月二九日出願公告、以下「本件発明」という。)の特許権者であるところ、原告は、被告らを被請求人として、昭和六〇年一〇月四日、右特許を無効とすることについて審判を請求した。

特許庁は、右請求を昭和六〇年審判第一九六一〇号事件として審理の上、平成二年九月一三日、「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決をした。

二  本件発明の要旨(当事者間に争いがない)

(1)  設置されている老朽化したパイプを取りはずすことなくしてそ生するパイプのそ生方法であって、

(2)  旋回運動をしながら送出されかつ砂を含む圧縮気体をパイプの一端に供給してパイプ内を通過させ掃除する段階と、

(3)〈1〉  旋回運動をしながら送出されかつ主剤と硬化剤を混合したエポキシ樹脂塗料を含む圧縮気体をパイプの一端へ供給して通過させパイプの内面に塗膜する段階とを包含し、

〈2〉  前記エポキシ樹脂塗料は旋回運動する圧縮気体により螺旋状に延びながら旋回して送出されるようになっていること、

を特徴とするパイプのそ生方法(別紙図面(一)参照)(右(1)、(2)、(3)〈1〉、〈2〉の番号、段落は説明の便宜上付したものである。)。

三  審決の理由の要点(当事者間に争いがない)

1  本件発明の要旨は前項記載のとおりである。

(以下原告(請求人)が争う点のみを摘示する。)

2  本件発明の進歩性について

(一) 米国特許第三一三九七〇四号明細書(「引用例」)には、パイプラインの内面をこすってそのパイプラインの内面を掃除する方法であって、じゃま板を有するノズル内へ加圧空気又はガスを送って渦巻流を形成し、この渦巻流により砂と加圧空気又はガスの混合流をパイプ内部へ導入し、管内部を清掃後に、液状塗料で塗装する方法が記載されている。そして、この塗装段階は、例えば、ペイントやプラスチックのようなコーティング液が、洗浄液の導入方法と同じ方法で管路内に導入され、その管路の内部を被覆するとされており、洗浄液の導入方法としては、ボール一〇五を用い、空気又はガスによりボール一〇五と洗浄流体を管路の他端へ移動させることによりなされることが記載されている(別紙図面(二)参照)。

(二) 引用例には、旋回運動しながら送出されかつ主剤と硬化剤を混合したエポキシ樹脂塗料を含む圧縮気体をパイプの一端へ供給して通過させパイプの内面に塗膜する段階及び前記エポキシ樹脂は旋回運動する圧縮気体により螺旋状に延びながら旋回して送出されるようになっている、という塗膜形成の状況については何も記載されていない。

そして、本件発明は、主剤と硬化剤を混合したエポキシ樹脂塗料は旋回運動する圧縮気体により螺旋状に延びながら旋回して送出されるようになっていることにより、特許明細書記載の効果が得られたものと認められるから、たとえ、埋設管を取り外すことなくクリーニングすること、エポキシ樹脂塗料でコーティングすることが周知であったとしても本件発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとは認められない。

3  本件発明と先願発明の同一性について

(一) 本件発明の出願の日前に出願され、その出願後に出願公開された特願昭五三-三五四八六号(特開昭五四-一二七九四一号公報参照)の願書に最初に添付した明細書又は図面(「先願明細書」)には、管の内面を塗装する方法であって、管の内部にガスを供給して管内を旋回しつつ進行するガス流を生ぜしめ、管内に供給された塗料をこの旋回ガス流により管内面に吹きつけて塗膜を形成する管の内面塗装方法が記載され、この方法は、従来技術では困難また不可能とされていた管の内面塗装、とくに水道管や各種パイプラインのように固定された管の内面塗装を可能とするものであること、及び、近時、水道管、パイプライン等の内部を研掃するのに、窒素ガスで付勢された研磨剤によって管内を研掃する工法が開発されたが、この工法で内部を研掃された管の内面に塗装を施すのであれば、窒素ガス源(液体窒素)がすでに用意されているので、この方法をきわめて容易に、しかも好結果の得られる状態で実施できることが記載されている(別紙図面(三)参照)。

(二) しかし、先願明細書には、塗料が主剤と硬化剤を混合したエポキシ樹脂塗料であり、該エポキシ樹脂塗料は旋回運動する圧縮気体により螺旋状に延びながら旋回して送出されるようになっている、という塗膜形成の状況については何も記載されていない。そして、本件発明は、右の構成により、明細書に記載された効果が得られるものと認められるから、本件発明が先願明細書に記載された発明(「先願発明」)と同一であるものとは認められない。

四  原告主張の取消事由

1  甲第七号証及び甲第八号証に基づく原告の主張についての判断遺脱(取消事由(1))

原告は、審判手続請求書(甲第一一号証)において、引用例のほか甲第七号証(特開昭五二-四五四四号公報)及び甲第八号証(特公昭五一-一四二八八号公報)を引用して本件発明の進歩性を否定しその無効を主張した。しかるに、審決は、甲第七号証及び甲第八号証について何らの判断をすることなく、引用例のみにより、本件発明の進歩性を肯定したものであるから、判断を遺脱した。

2  進歩性についての判断の誤り(取消事由(2))

審決の理由の要点2(一)摘示の引用例の記載は認める。

本件発明は、特公昭五一-一四二八八号公報(「公報1」)(甲第八号証)に記載された塗料に関する周知技術を参酌すれば、引用例の記載自体から、又は引用例と特開昭五二-四五四四号公報(「公報2」)(甲第七号証)の記載から容易に想到することができる。

3  先願発明との同一性についての判断の誤り(取消事由(3))

審決の理由の要点3(一)摘示の先願明細書の記載は認める。

公報1の前記記載を参酌すれば、先願明細書には本件発明の構成(3)〈1〉、〈2〉の塗膜工程が記載されているものということができる。また、同明細書には本件発明の構成(1)、(2)も記載されている。

五  取消事由(3)に対する当裁判所の判断(書証の成立はすべて争いがない)

1  甲第二号証(本件特許公報)及び甲第九号証(補正後の本件特許公報)によれば、本件発明は、金属製パイプが内部で発生した錆などの付着物により老朽化した場合にパイプを取りはずすことなくパイプをそ生させるため、砂を含む圧縮気体を旋回させながらパイプ内を通過させ掃除し、かつ主剤と硬化剤を混合したエポキシ樹脂塗料を含む圧縮気体を旋回させながらパイプ内を通過させパイプ内面に塗膜し、この場合エポキシ樹脂塗料は螺旋状に延びながら旋回して送り出されるようになっているから、エポキシ樹脂塗料が大きい遠心力によりきわめて良好にパイプの内面に付着して無駄がなくなるとともにパイプがかなり長くても全長にわたって塗膜でき、パイプのそ生工事を簡単かつ迅速に行なうことができるという効果を奏するものであることが認められる。

そこで、本件発明と先願発明を対比する。

2  構成(1)について

甲第五号証(先願明細書)によれば、先願発明は、「管の内面塗装には静電塗装等の方法が用いられるが、長尺管、固定管あるいは曲管部の内面に塗装することは非常に困難か、不可能であった。」(第一頁右欄本文第一行ないし第三行)従来技術の欠点に鑑み、「このような従来技術では困難または不可能とされていた管の内面塗装、とくに水道管や各種パイプラインのように固定された管の内面塗装を可能とするもの」(第一頁右欄本文第四行ないし第七行)として、「管の内面を塗装する方法であって、管の内部にガスを供給して管内を旋回しつつ進行するガス流を生ぜしめ、管内に供給された塗料をこの旋回ガス流により管内面に吹きつけて塗膜を形成する管の内面塗装方法。」(第一頁左欄本文第五行ないし第九行)からなる構成を採用し、これにより、「水道管や各種パイプラインでは、長時間使用すると内部に水垢や挟雑物が堆積したり、錆がたまったりするので内部を研掃する必要がある。これらの管が内面塗装管の場合は、研掃により塗膜も除去されるので、研掃後に内面塗装を施さなければならない。このような管は埋設されていたり、固定されているし、また、非常に長尺で曲管部も含まれているので、本発明の方法を適用することによって顕著な効果を上げることができる。」(第一頁右欄本文第一二行ないし第二〇行)旨の効果を奏することが認められる。この事実によれば、先願発明は、「設置されている老朽化したパイプを取り外すことなくしてそ生するパイプのそ生方法」に係るものということができ、したがって、本件発明の構成(1)を具備しているものということができる。

3  構成(2)について

(一) 甲第五号証によれば、先願明細書には、塗装の前段階である管内面の掃除に関し、前記第一頁右欄本文第一二行ないし第二〇行のほか、「近時、水道管、パイプライン等の内部を研掃するのに、窒素ガスで付勢された研磨剤によって管内を研掃する工法が開発されたが、この工法で内部を研掃された管の内面に塗装を施すのであれば窒素ガス源(液体窒素)がすでに用意されているので、本発明の方法をきわめて容易に、しかも好結果の得られる状態で実施できる。」(第二頁右上欄第一五行ないし左下欄第一行)との記載があり、この記載によれば、先願発明においては、管の内面塗装に先立って窒素ガスで付勢された研磨剤で管内面を研掃することが予定されていることが認められる。しかして、甲第五号証によれば、先願明細書には、前記のとおり、旋回ガス流により管内に供給された塗料を管内に吹きつける旨の記載があり、また、実施例に関し「第1図(別紙図面(三)第1図)は本発明の原理を示す図である。内面塗装すべき管1内に支管2からガスを供給し、管1内に旋回しつつ進行(図においては右から左へ)する旋回ガス流を生ぜしめる。塗料は支管2より下流側にある支管3から管1内に供給され、この旋回ガス流に乗って管1の内面に吹きつけられ内面を塗装するのである。」(第二頁左上欄第二行ないし第八行)との記載があり、これらの記載によれば、ガスは支管2から供給され、その下流側にある支管3から供給される塗料を管内面に塗装するものであることが認められる。このような支管2及び3の役割に照らせば、これらの記載によれば、先願発明において、管内面を塗装する前に別紙図面(三)第1図の支管2の下流にある支管3より先ず研磨剤を供給し、支管2からの旋回ガス流によって研磨剤を含む圧縮気体を旋回運動させながら、管内を掃除し、しかる後に支管3から塗料が供給されているものと認めることができるから、先願発明は、本件発明の構成(2)を開示しているものということができる。

もっとも、本件発明においては管内の掃除に砂を用い、先願明細書では研磨剤を用いることが記載されているが、その研磨剤の種類は特定されていない。前記のとおり、先願明細書には塗装に先立ち管内面に堆積した水垢、夾雑物、錆などを除去する必要があることが記載されており、他方甲第二号証(本件特許公報)及び甲第九号証(右特許公報の補正)によれば、本件発明は「金属製パイプ内でさびが発生したりあるいは付着物が付着して老朽化した場合」(第一欄第三〇行ないし第三一行)にかかるパイプを取りはずすことなく管内面からこれらを除去した後、管内面に塗装するものであることが認められる。この事実によれば、両発明において、塗装に先立ち除去すべき対象物に差はなく、砂も研磨作用を有するものである以上、本件発明の構成(2)が先願発明に開示されているものと認めて差し支えない。

(なお、甲第四号証によれば、引用例には、「パイプの内部を掃除するためにサンドブラスト(砂噴射)される。」(訳文第七頁第一二行ないし第八頁第一行)、「研磨粒子(中略)、より具体的にいうと、空気もしくはガスと砂の混合体」(訳文第九頁第四行ないし第五行)との記載があることが認められる。これらの記載によれば、引用例において、砂を研磨剤として用いることが周知のものであることを前提としていることが認められる。)

(二) 被告らは、先願発明は、パイプのそ生方法に関する発明ではなく、清掃工程と切り離された内面塗装方法であって、先願明細書の「窒素ガスで付勢された研磨剤によって管内を研掃する工法」の記載は、先願発明とは関係のない傍論であり、先願発明には本件発明の構成(2)に相当する清掃工程は開示されていないし、「窒素ガスで付勢された研磨剤によって管内を研掃する工法」は、窒素ガスで付勢されたとのみ記載され旋回するとは記載されていないので、少なくとも、旋回運動によることが前提となっている本件発明の構成(2)とは異なると主張する。しかし、先願明細書の前記第二頁右上欄第一五行ないし左下欄第一行の記載は、窒素ガスで付勢された研磨剤による管内の研掃工法により研掃された管内面を、右窒素ガスを利用して塗装する技術を開示しているものと認めることができるから、右研掃工法は先願発明における塗装工法の前提であり、同発明と無関係な傍論であるということはできない。また、前記第二頁左上欄第二行ないし第八行の記載によれば、支管2から供給されるガスは管1内を旋回しつつ進行するのであり、このガス流によって先ず支管から供給される研磨剤により管内を掃除するものと認められるから、研磨剤も旋回運動をするのであって、被告らの主張によれば、ガスは同じ支管2から供給され、かつ管内における進行形態に特段の差異も認められないのに、研磨剤は単に付勢されるに止まり、他方、塗料は旋回運動をするという不合理な結果を容認することになる。よって、被告らの右主張は理由がない。

4  構成(3)〈1〉及び〈2〉について

(一) 甲第七号証(公報2)によれば、公報2は昭和五二年一月一三日公開の公開特許公報であって、同公報には、「従来、特に水道用金属製管の内面に被膜を形成するのに各種の方法が知られている。」旨記載(第一頁右欄本文第七行ないし第八行)され、そして、その従来方法の一つとして、「予熱した管の内部に粉体塗料を通過させることにより、その内面を被覆する方法、すなわち、プロバック(Provac)方式あるいはその類似方法(特開昭四九-五八一二三号)が知られている。」旨記載(第一頁右欄本文第一三行ないし第一六行)されている。右において引用された特開昭四九-五八一二三号(甲第一〇号証)には、使用する粉末塗料組成物の樹脂の一つとして、エポキシ樹脂が記載され、また、それらに添加吸収せしめるものとして硬化剤が記載されている(第一頁右欄本文第二行ないし第八行)。したがって、同公報には、金属製水道管内面を主剤と硬化剤を混合したエポキシ樹脂塗料で塗膜することが従来技術として記載されていると認められる。

甲第八号証(公報1)によれば、公報1は、昭和五一年五月八日公告に係る出願公告公報であって、同公報の特許請求の範囲には、「高圧水を噴射するジェットノズルを備えたスクレーパを埋設上水用配水管内に自走させ管内壁に定着した雑物を洗浄除去する第一工程と、この第一工程の終了後ガバナー羽根を備えた回転〓機により管内壁の素地を調整する第二工程と、この第二工程の終了後管内を再洗浄し雑物混合液を排除したうえ管内を乾燥する第三工程と、この第三工程の終了後管内壁面をエポキシ樹脂塗料によりライニングする第四工程の結合から構成されることを特徴とする埋設上水用配水管の補修工法。」が記載され、そして、発明の詳細な説明には、前記塗料に関して、「なお、図示する実施例では混合液40でライニングしているが、二液性樹脂塗料の主剤及び硬化剤を別送して噴霧時に強制攪拌するようにしてもよいのは当然である。」(第六欄第六行ないし第一〇行)旨記載されている。そうすると、同公報には、埋設上水用配水管内壁に定着した雑物を洗浄除去し、次いで、管内壁の素地を調整し、次いで、管内を再洗浄し雑物混合液を排除したうえ乾燥し、次いで、管内壁面を主剤及び硬化剤からなるエポキシ樹脂塗料によりライニングすることを特徴とする埋設上水用配水管の補修工法が記載されていると認められる。

しかして、公報2は、昭和五二年一月一三日に公開されたものであり、公報1は昭和五一年五月八日に公開されたもので、本件発明(出願日昭和五四年一月一〇日)及び先願発明(出願日昭和五三年三月二九日)のいずれよりも早く公開されたものであるから、右のとおり、水道管内を掃除してから主剤と硬化剤を混合したエポキシ樹脂塗料で塗膜することは、先願発明出願前において既に周知の事項であったものということができる。したがって、先願明細書に記載された「塗料」とは主剤と硬化剤を混合したエポキシ樹脂塗料を含むものと解される。

そうであれば、本件発明における主剤と硬化剤を混合したエポキシ樹脂塗料と先願発明における塗料とは同一と認められる。

(二) 次に、本件発明の構成(3)すなわち「〈1〉旋回運動をしながら送出されかつ主剤と硬化剤を混合したエポキシ樹脂塗料を含む圧縮気体をパイプの一端へ供給して通過させパイプの内面に塗膜する段階を包含し、〈2〉前記エポキシ樹脂塗料は旋回運動する圧縮気体により螺旋状に延びながら旋回して送出されるようになっている」構成と先願発明を対比すると、先願発明においても、加圧されたガスが供給され、これにより塗料を搬送するものであるから(甲第五号証第二頁右上欄第四行ないし第七行)、本件発明の構成(3)〈1〉(この記載は構成要件として記述されているものであり、原告主張のように、塗膜段階の状況、様子を作用的に記述したにすぎないものでないことは明らかである。)は、先願発明の「管の内部にガスを供給して管内を旋回しつつ進行するガス流を生ぜしめ、管内に供給された塗料をこの旋回ガス流により管内面に吹きつけて塗膜を形成する」構成と同一であることは明らかである。

甲第五号証によれば、先願明細書には、先願発明の塗装方法について、前記3に引用した第二頁左上欄第二行ないし第八行のように記載されているほか、「第1図においては、塗料は加圧されることなく、いわゆるタレ流しの状態で支管3から管1内へ供給されているが、他の方法としては、塗料に圧力を加えて管内に設けられたノズルから塗料を噴霧状で供給し、これを支管2からの旋回ガス流に乗せて管1の内面に吹きつけて塗膜を形成させることもできる。」(第二頁左上欄第一七行ないし右上欄第三行)と記載されていることが認められる。この記載によれば、先願明細書には、塗料を支管3から管1内へ供給する方法としてタレ流し状態で行なう場合と噴霧状で行なう場合があることが示されているが、いずれも旋回ガス流に乗って吹きつけられた塗料が霧状を呈することをうかがわせる記載は見い出せない。しかして、甲第五号証の先願明細書の「ガスおよび塗料の供給を開始すると管1内には旋回ガス流が生じ供給管7内を流下する塗料はその先端部でガス流に乗って管1の内面に万遍なく吹きつけられて塗膜を形成する」との記載(第二頁下欄右第三行ないし第七行)からみて、少なくとも塗料がタレ流し状態で供給され、ガス流に乗って塗装されるべき管の内面に万遍なく吹きつけられたとき、粘度の高い塗料の場合には、供給ガスの圧力の程度によって、旋回ガス流により螺旋状に延ばされながら旋回して送り出され、その結果、管の内面に万遍なく吹きつけられて塗膜を形成する場合(被告ら主張の押し延ばし方式)もあるものと解される。

このことは、甲第二号証の本件特許公報に、本件発明において粘性の大きい液状塗料を使用するため、圧縮空気に含まれた塗料は旋回する空気流により螺旋状に延びながら旋回して送り出されて大きい遠心力によりパイプの内面にきわめて良好に付着して塗膜を形成する旨説明されている(第四欄第一行ないし第五行)ことからも裏付けられる。

そうすると、先願発明の「管の内部にガスを供給して管内を旋回しつつ進行するガス流を生ぜしめ、管内に供給された塗料をこの旋回ガス流により管内面に吹きつけて塗膜を形成する」構成は、本件発明の構成(3)〈2〉を含むものと認めることができ、結局、本件発明の構成(3)〈1〉及び〈2〉は先願発明に開示されているものということができる。

(三) 被告らは、先願明細書に記載された塗装は噴霧吹きつけ方式であるのに対し、本件発明の特徴となっている塗装方法は押し延ばし方式によるものであり、その技術的な内容が異なる、と主張するが、先願明細書には、タレ流し状態で塗料を支管3から管1に供給する方法が示されており、少なくともこの場合には、本件発明の構成(3)〈2〉と同一であることは前記(二)に説示したとおりであるから、被告らの右主張は理由がない。

被告らは、先願明細書の「第1図においては、塗料は加圧されることなく、いわゆるタレ流しの状態で支管3から管1内へ供給されている」旨の記載について、このタレ流しの状態での供給により、本件発明の構成(3)〈2〉の「螺旋状に延びながら旋回して送出される」状態を現出することなく、供給後直ちに側方からの旋回ガス流により噴霧化することを意図した記載であると主張し、その前提として、噴霧状で供給された塗料とタレ流しの状態での供給された塗料がいずれも同じ状態で搬送されるためには、両者とも噴霧状にならなければならないと主張するが、先願発明の「管の内部にガスを供給して管内を旋回しつつ進行するガス流を生ぜしめ、管内に供給された塗料をこの旋回ガス流により管内面に吹きつけて塗膜を形成する」構成において、塗料の搬送方法は管内を旋回しつつ進行するガス流に乗せる方法と解されるが、塗料が噴霧状かタレ流しの状態でガス流に乗るかについては、限定はないから、供給された塗料がいずれも同じ状態で搬送されなければならないとする被告らの主張は失当である。

被告らは、さらに、本件発明は短時間の内に粘性が高くなり硬化する塗料を使用するのに対し、先願発明は粘性度が低く噴霧状で供給し得るような通常の塗料を使用するため、本件発明における圧縮空気は七kg/cm2となっているのに対し先願明細書においては、供給ガスは一kg/cm2となっている旨主張する。しかしながら、甲第五号証によるも、先願発明において、塗料の種類、粘度について特段の限定を付しているものとは認めることはできない。たしかに、甲第五号証の先願明細書には被告ら主張のとおり、供給ガスの圧力は一kg/cm2程度である旨記載されているが、その趣旨は、短時間で長尺管の他端まで塗料を搬送して、管の全内面を塗装することができる最低の供給ガス圧力を示したものと解されるのであって、先願発明においても、本件発明の前記七kg/cm2の圧縮空気の圧力を排除するものではなく、また、粘性の高い塗料の使用も排除するものでもないと認められる。したがって、被告らのこの点についての主張も理由がない。

5  先願発明が本件発明出願前に出願され、その出願後に公開されたことは当事者間に争いがなく、甲第二、第五号証によれば、本件発明者と先願発明者とが同一の者でないことは明らかである。

したがって、以上述べたように先願発明と同一である本件発明は、特許法第二九条の二第一項により特許を受けることはできないものであるから、同法第一二三条第一項第一号により無効であるといわざるを得ない。

6  よって、本件発明が先願発明と同一であるものとは認められないとした審決の認定判断は誤りといわざるを得ず、違法として取消しを免れない。

六  以上のとおり、原告の本訴請求は、その余の取消事由について判断するまでもなく、理由があるものとして、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条、九三条一項本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 濵崎浩一 裁判官 押切瞳)

別紙図面(一)

〈省略〉

別紙図面(二)

〈省略〉

別紙図面(三)

〈省略〉

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