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東京高等裁判所 平成3年(ネ)2510号 判決

控訴人

勝木国繁

勝木記子

右両名訴訟代理人弁護士

斉藤義雄

佐々木恭三

畑山実

朝倉正幸

被控訴人

日本体育・学校健康センター

右代表者理事長

古村澄一

右訴訟代理人弁護士

菅野祐治

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一控訴人ら

原判決を取り消す。

被控訴人は控訴人らに対し金一四〇〇万円及びこれに対する平成元年一〇月一〇日から右支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二被控訴人

主文同旨

第二事案の概要

一本件は、中学校のサッカー部員が冬休みに学校外のグランドで他の部員らとサッカーの練習中に急に倒れ、救急車で病院に運ばれたが、約二時間後に急性心不全で死亡した事故について、死亡した中学生の両親である控訴人両名が、被控訴人に対し、右死亡事故は日本体育・学校健康センター法(以下「センター法」という。)二〇条一項二号所定の「学校の管理下における児童又は生徒の災害」に該当するとして、同法施行令(以下「センター法施行令」という。)五条一項三号(平成四年政令第一四三号による改正前のもの、以下同じ)所定の災害共済給付(死亡見舞金一四〇〇万円)の支払を求めるものである。

二争いのない事実

1  昭和六二年一二月二五日埼玉県草加市の市営瀬崎グランドで同市立瀬崎中学校のサッカー部員二一名が午前八時ころから集まってサッカーの練習をしていた。控訴人ら夫婦の子である勝木繁(以下「繁」という。当時二年生、一四才)もこの練習(以下「本件練習」という。)に参加していた。午後一二時一〇分ころ、練習の最後に行われたリレーを走り終ると、繁はグランドに横になった。近寄った部員が繁の様子がおかしいのに気付き、同人を救急車で市内の病院に運んだが、同人は午後一時五五分ころ急性心不全により死亡したことが確認された(以下「本件死亡事故」という。)。

2  同日から瀬崎中学校は冬季休業日(冬休み)に入っていた。

3  本件練習は、サッカー部員約八〇名のうち希望者二一名の生徒だけが参加して行われたものであり、大木顧問をはじめ、教師は立ち会っていなかった。

4  被控訴人は、センター法によって設立した法人で、体育の振興と児童、生徒等の健康の保持増進を図るため、その設置する体育施設の適切かつ効率的な運営、義務教育諸学校等の管理下における児童、生徒等の災害に関する必要な給付、学校給食用物資の適正円滑な供給その他体育、学校安全及び学校給食の普及充実等を行い、もって国民の心身の健全な発達に寄与することを目的(同法一条)とし、義務教育諸学校の管理下における児童又は生徒の災害(負傷、疾病、障害又は死亡)につき、当該児童又は生徒の保護者に対し、災害共済給付(医療費、障害見舞金又は死亡見舞金の支給)を行うことをその業務の一つとしている(同法二〇条一項二号)ものである。

5  本件死亡事故について、草加市教育委員会は、昭和六三年九月二日付をもって被控訴人埼玉県支部に対し死亡見舞金支払請求をしたが、同支部は同年一〇月一一日不支給決定の通知をした。その理由は、本件災害がセンター法施行令七条二項各号に該当しない、すなわち、学校管理下における災害と認められない、ということであった。そこで、控訴人らは平成元年四月二四日被控訴人埼玉県支部に対し、さらに本件死亡事故につき死亡見舞金支払請求をしたが、同支部は、同年七月二四日「本件は、施行令第七条第二項第二号に規定する「学校の教育計画に基づいて行われる課外指導を受けているとき」に該当するものとは認められない。」との理由で、前決定を変更しない旨を通知した。

三争点

繁の死亡は、センター法二〇条一項二号にいう「学校の管理下における生徒の災害」にあたるかとの点が、本件の争点である。

1  控訴人らの主張の要旨

(一)(1) 本件練習の行われた瀬崎グランドは、市営のグランドであって学校のグランドではないが、瀬崎中学校サッカー部は、これまでもしばしば学校の承認のもとにこのグランドで練習していた。

(2) 本件練習当時の右サッカー部の顧問である大木克己教諭(以下「大木顧問」という。)は本件練習に立ち会っていなかったが、サッカー部の日常の練習(始業前、放課後、休日等に行われる)においても顧問教諭が立ち会わないことはしばしばあり、大木教諭が顧問となってからは顧問が練習に参加しないことが多く、このような顧問の参加しない自主練習が半ば日常化していた。そして、自主練習の場合は、生徒の中から選ばれた部長が顧問教諭に代わって練習の指導にあたっていたが、本件練習においても、部長の今泉(二年生)が大木顧問に代わって練習を指導していた。

本件練習までにおける右のようなサッカー部の部活動の実態に対し、瀬崎中学校側は、学校教育活動の一環として位置づけ、部員の自主的な練習、活動を奨励し、かつ、学校側の責任において実施するという対応を示していた。

(3) 本件練習の目的は、一軍と二軍に力の差があったので、二軍の力を強化することにあった。そのため、参加者二一名中一軍の部員(対外試合に出場するレギュラーメンバー)は三名で、他は繁も含めて二軍の部員であった。

(4) 本件練習をしようという話は、冬休み直前の昭和六二年一二月二〇日ころ部員の生徒の間から持ち上ったのであるが、この計画は大木顧問にも冬休み直前に部員から話してあり、同顧問は「自分はそのころスキーに行く予定なので練習には参加できない。」とは言ったものの、練習中止の指示などはせず、いつものように部長の指揮のもとに生徒だけで練習することを了解していたものである。

(二)(1) センター法施行令七条一項四号は、災害共済給付に係る災害の一つとして「児童又は生徒の死亡でその原因である事故が学校の管理下において発生したもの」を掲げ、同条二項二号は右の「学校の管理下」にあたる場合の一つとして「児童又は生徒が学校の教育計画に基づいて行われる課外指導を受けているとき」を掲げている。

(2) 右センター法施行令七条二項二号にいう「学校の教育計画」は学校が予め定めた形式的な計画に限定されるべきものではなく、部員が自主的に立案し指導担当教師が相談に応じるようなものも含まれると解すべきである。また、同号にいう「課外活動」は形式的に「学校の教育計画」の中に入っていなくても、教育的観点に立って、教師の直接又は間接的な監督・指導下で行われる場合には、その課外活動は学校の教育計画に基づいて行われたものというべきである。

本件練習は、生徒が立案したものではあるが、大木顧問にあらかじめ連絡し、同顧問もこれを承認したのであるから、「学校の教育計画に基づいて行われた」というべきであり、また瀬崎グランドで顧問教諭の立会いなしに部長の指揮のもとに練習をすることはサッカー部の日常の練習方法としてしばしば行われていたことであるから、日常の部活動と同様に「課外指導を受けているとき」にあたるというべきである。したがって、繁の死亡は、その原因である事故が学校の管理下において発生したものというべきである。

(3) 仮りに、本件練習がセンター法施行令七条二項二号の「学校の教育計画に基づいて行われる課外指導を受けているとき」にあたらないとしても、センター法二〇条にいう「学校の管理下」の範囲に関するセンター法施行令七条二項各号の規定は例示的なものであって、解釈の一応の参考基準を示すものにすぎず、「学校の管理下」の解釈は、センター法一条に定められた法の趣旨・目的、すなわち体育の振興と児童、生徒等の健康の保持増進を図るために災害共済給付等を行い、もって国民の心身の健全な発達に寄与するという目的に照らし、合目的的になされるべきであり、そのような見地からすれば、本件死亡事故は、瀬崎中学校サッカー部の日常の部活動と区別されるべき理由はなく、「学校の管理下」における災害にあたるものとして、災害共済給付の対象とされるべきである。

2  被控訴人の主張の要旨

(一) センター法二〇条一項二号の災害共済給付は、学校の管理下における児童又は生徒の災害に対して行われるものであるが、「学校の管理下における児童又は生徒の災害の範囲については、政令で定める」(同法二一条二項)とされ、この規定に基づいて制定されたセンター法施行令七条二項は、右の「学校の管理下」にあたる場合として一号ないし五号の規定をおいているが、その二号は「児童又は生徒が学校の教育計画に基づいて行われる課外指導を受けているとき」と規定している。本件練習が同号以外の一号、三号ないし五号の各場合(授業中、休憩時間中、通学中等)にあたらないことは明らかであり、二号に規定する場合にあたるか否かが一応問題となる。ところで、同号の「課外指導」とは、学校が編成した教育課程に基づく授業以外に、学校がその責任と指導体制のもとに計画し実施する教育活動(放課後や休日の部活動、林間学校、臨海学校、キャンプ、ハイキング、水泳指導、音楽会、補習授業等)であるが、それが「学校の管理下」とされるためには、その活動が、(1) 学校によってたてられた教育計画に基づいて行われるものであること、(2) 教師の指導監督のもとに行われるものであること、の二要件を満たすことが必要である。

(二) 瀬崎中学校における昭和六二年度冬休み中のサッカー部の部活動に係る教育計画は、その実施日時、場所等を記載した同校の同年度冬休みの部活動計画書(〈書証番号略〉、以下「本件部活動計画書」という。)に記載のとおりであるが、これによると、同校の同年度冬休みのサッカー部の部活動は昭和六三年一月四日からと記載され、昭和六二年一二月二五日から昭和六三年一月三日までの間は部活動の記載がないのであるから、昭和六二年一二月二五日に行われた本件練習は同校の教育計画に基づく部活動とはいえないものというべきである。

また、本件練習は瀬崎中学の教諭の監督・指導の下に行われたものではなく、大木顧問は、本件練習が行われることを事前に連絡を受けていなかった。本件練習は、一部のサッカー部員が、学校に連絡せず、学校とは関係なく任意に行ったものである。

(三) したがって、本件練習は前記(一)の二つの要件のいずれを欠くから、本件死亡事故は学校の管理下における災害にあたらないものというべきである。瀬崎中学校及び草加市教育委員会も被控訴人に対し、同旨の報告をしている。そこで被控訴人は死亡見舞金不支給の決定をしたものである。

第三証拠関係〈省略〉

第四争点に対する判断

一1  控訴人らは、本件死亡事故は、センター法二一条二項所定の「学校の管理下における児童又は生徒の災害の範囲」について定めたセンター法施行令七条二項二号に該当し、したがって、同条一項四号にいう「学校の管理下において発生したもの」に当たる旨主張するので、まずこの点について判断することとする。

センター法施行令七条二項二号は、児童又は生徒が学校の教育計画に基づいて行われる課外指導を受けているときを学校の管理下にある場合としているが、右にいう「学校の教育計画」とは、学校が教育の一環として予め又は必要に応じて立てた計画をいうものであることは、その文言上明らかであり、また、同条項にいう「課外指導」とは、学校が編成した教育課程に基づく授業以外に学校がその責任と指導体制のもとに計画し実施する教育活動をいうものと解すべきである。そして、右の「学校の教育計画」の有無は、当該学校における計画の定め方等をも考慮して判断すべきものと解するのが相当である。したがって、生徒らが自主的に企画し生徒らのみで実施する練習あるいは教諭が立ち会ってする生徒らの練習であっても、学校の教育計画に基づかないものであるときには、当該練習中に生じた事故は学校の管理下において発生したとはいえないものというべきである。

2  〈書証番号略〉、右証言及び原審における証人大木克己の証言並びに弁論の全趣旨によると、瀬崎中学校における昭和六二年度の冬休みの部活動の計画は、休み前に各部の顧問が予定を立て、部活動主任である誉田康三教諭が右各部の予定、同一のグランドを使用する部相互の使用日時の調整、教諭の休暇等を考慮して全体の計画を立案しこれを書面化して校長に提出し、その承認を得るという手続で決定されたものであること、このような手続で決定されたのが本件部活動計画書であること、これによると、右冬休みのサッカー部の部活動は昭和六三年一月四日からと記載され、昭和六二年一二月二五日から昭和六三年一月三日までの間は部活動の記載がないこと、右計画はサッカー部の各部員にも休み前に通知されていたこと、右計画以外に昭和六二年度冬休み中におけるサッカー部の部活動については瀬崎中学校において計画したものはなかったことが認められ、右の認定を覆すに足る証拠はない。

3 右認定の事実関係によると、本件練習は瀬崎中学校の教育計画に基づいて行われたものであるとはいえないから、本件死亡事故は瀬崎中学校の管理下において発生したものと認めることはできない。

二控訴人らは、本件練習の計画を一部の部員が大木顧問に話しており、同顧問は事前にこれを知っていたと主張し、〈書証番号略〉(部長今泉の陳述書)には、「私が大木先生に、この冬休みに自主練をやります、と伝えました。」、〈書証番号略〉(部員濱津の陳述書)には、「私も一二月二四日昼頃、終業式が終って帰るとき、階段を出たところで、大木先生に会い、「明日から自主練だ」と伝えました。」との記載があり、当審証人今泉仁も同旨の証言をしている。しかし、原審証人大木克己は、これを否定し、本件練習は事前には知らなかったし、本件死亡事故の発生は当日同僚らとともに赴いていた妙高スキー場において電話で知らされたものである、と述べている。いずれが真実であるかは断定し難い。しかし、右〈書証番号略〉の記載、当審証人今泉仁の証言が真実であるとしても、これらの証拠によれば、今泉らは本件練習をすることを自分達だけで決定し、大木顧問に事前に相談したり、都合や意見を尋ねたりしたことは全くなく、直前に「自主練をやる。」と一方的に通知したにすぎないというのである。そして、これらの事実を前提として考えても、生徒から本件練習について通知を受けた大木顧問が、本件練習を学校の教育計画の一環とするための手続をとり、本件部活動計画書の計画を変更又は追加する等しない限り、大木顧問が右通知を受けたことによって当然に本件練習が瀬崎中学校の教育計画の一環となるものとはいえないところ、大木顧問が右のような手続をとったことは本件全証拠をもってしても認め難いから、本件練習中に生じた本件死亡事故が瀬崎中学校の管理下において発生したものに当たらないことは、前示一1に説示のところから明らかというべきである。そして、このことは、瀬崎中学校におけるサッカー部の始業前や放課後の日常の部活動に顧問教諭の立ち会いのないことがしばしばあったとしても、また、瀬崎グランドでサッカー部の練習が学校の承認のもとにおいてしばしば行われていたとしても、異ならないものというべきである。他にも本件練習が瀬崎中学校における教育計画の一環としてされたとすべき事実関係は、これを認めるに足る証拠はない。

三以上のとおり、繁の死亡はその原因である事故が学校の管理下において発生したものに当たるということはできないから、その余の点について判断するまでもなく、控訴人らの被控訴人に対するセンター法二〇条一項二号、二一条二項、センター法施行令六条二項、五条一項三号に基づく死亡見舞金一四〇〇万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める本訴請求は理由がないものというべきである。したがって、これと同旨の原判決は相当であるから、本件控訴はいずれも理由がないものというべきである。

よって、控訴費用の負担につき、民事訴訟法九五条、八九条、九三条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官柴田保幸 裁判官白石悦穂 裁判官犬飼眞二は転補につき、署名捺印することができない。裁判長裁判官柴田保幸)

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