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東京高等裁判所 平成3年(行ケ)227号 判決

神奈川県横浜市港北区岸根町35番地1

原告

株式会社 サンゴ

代表者代表取締役

佐藤正美

東京都千代田区丸の内1丁目1番2号

原告

日本鋼管株式会社

代表者代表取締役

山城彬成

原告両名訴訟代理人弁護士

吉原省三

佐藤義行

後藤正幸

弁理士

土橋秀夫

江藤剛

訴訟復代理人弁護士

野上邦五郎

小松哲

東京都品川区大崎5丁目8番2号日床ビル

被告

日本床工事工業株式会社

代表者代表取締役

渡辺竹三郎

東京都江東区永代1丁目8番8号

被告

東永産業株式会社

代表者代表取締役

武者昇

被告両名訴訟代理人弁理士

近島一夫

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第1  当事者が求めた裁判

1  原告ら

「特許庁が平成2年審判第1209号事件について平成3年7月11日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決

2  被告ら

主文同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告らは考案の名称を「体育館の床構造」とする実用新案登録第1788546号(出願日昭和58年10月6日但し、手続補正書提出の日、昭和63年4月15日出願公告、平成1年9月27日設定登録。以下「本件考案」という。)の実用新案権を共有している。

被告らは、平成2年1月30日、原告らを被請求人として特許庁に対し、本件考案につき登録無効審判の請求をし、平成2年審判1209号事件として審理されていたところ、平成3年7月11日、本件考案の登録を無効とするとの審決がなされた。

2  本件考案の要旨

下記3要素の結合から成り立つ体育館の床構造。

〈1〉  基礎コンクリート面上に支柱を立設すること。

〈2〉  前記支柱で支えた大引上に台形或いは矩形波状に連続成形し、鋼板と鋼板の間に粘弾性体を介装した制振屈曲薄鋼板を載せて固定したこと。

〈3〉  上記制振屈曲薄鋼板の上に木板やリノリウム等の表面板を敷設したこと。(別紙図面1参照)

3  審決の理由の要点

審決の理由の要点は別紙平成2年審判1209号審決写理由欄記載のとおりである。

上記記載のうち、甲第3号証、甲第5号証ないし甲第8号証をそれぞれ引用例1ないし5という。

4  取消事由

(1)  別紙平成2年審判第1209号審決写理由欄2頁より同14頁13行まで認める。同頁14行以下について、以下の〈1〉ないし〈5〉の点は認め、その余は争う。

〈1〉 引用例1の「調節足5」は本件考案の「支柱」に相当すること。

〈2〉 引用例1の「金属製の床張り用板2」は鋼製のものを含むことが技術常識上明らかであること。

〈3〉 一致点(イ)。

〈4〉 相違点(ニ)のうち、床構造が、本件考案では「体育館の床構造」に用いられるものであること。

〈5〉 相違点(ホ)が存すること。

(2)  取消事由1

審決が、本件考案と引用例1に記載された考案(以下「引用考案1」という。別紙図面2参照)との対比において、一致点の認定を誤った違法がある。

引用考案1の「上張りのベニヤ板1」は、本件考案の「木板の表面板」に相当せず、同じく「根太材3」は、「大引」に相当せず、また、同じく「金属製の床張り用板2」は「屈曲薄鋼板」に相当しない。すなわち、

〈1〉 引用考案1の根太材は本件考案の大引に相当しない。根太材は、床板の真下に45~50センチメートル間隔で配置されていて、床板を支える横架材であり、大引はその根太材を支えるもので、通常90~100センチメートル間隔で、根太材を受ける縦架材であって、これらは全く別のものである。

つまり、根太材の上に床板が置かれ、大引の上には根太材が置かれるものである。

引用考案1の第1図に示された根太材は床板を支える部材であり、第1図の根太材の上にある台形波状屈曲板からなる金属製の床張り用板は床板である。

一方、本件考案の第1図に大引と示されるものは大引そのものであり根太材ではない。本件考案の第1図の大引の上に存する台形波状屈曲板が根太材として用いられている。

〈2〉 引用考案1の金属製の床張り用板は本件考案の屈曲薄鋼板に相当しない。

引用考案1の台形波状屈曲板からなる金属製の床張り用板は上張りのベニヤ板を上面に張るための床板として用いられており、根太材の作用をしていることは、何ら示されていないのに対し、本件考案の台形波状の制振屈曲薄鋼板は床板を支える根太材として用いられているのであって、これらは形状は似ているが、全く別のものである。

〈3〉 引用考案1の上張りのベニヤ板は本件考案の木板の表面板の一部にすぎず、本件考案の根太材としての台形波状屈曲板の上にある床板、つまり、木板の表面板に相当するのは引用考案1では、上張りのベニヤ板と台形波状の金属製の床張り用板である。

体育館の床の表面板は本件考案のように二枚重ねになっており、その上の板を上張り板、下の板を捨板あるいは捨張り板という。これに対して引用考案1の上張りのベニヤ板は上張りといっていることからも明らかなように、床板の一番上に置かれる板で、本件考案でいえば、表面板のうちの上張り板に相当し、捨張り板に相当するのが、金属製の床張り用板である。

(3)  取消事由2

審決が引用考案1と本件考案との相違点のうち、(ニ)について、支柱や大引を用いた床構造やデッキプレート(屈曲薄鋼板)を使用した床構造を体育館の床構造に用いることは、当業者が必要に応じて適宜実施できる用途の限定にすぎないと判断したことは誤りである。

〈1〉 審決が台形波状に連続成形した屈曲薄鋼板は、引用例3の記載によれば、建築物の床材として使用されるような場合のデッキプレートと呼ばれているものに相当すると認定したことは誤りである。

引用例3には、台形波状屈曲薄鋼板がデッキプレートの名称で示されていて、このものが高層建築用の床板に用いられていることが記載されているが、同引用例には台形波状屈曲薄鋼板が建築物の床材としてどのような形態で用いられているのかについては示されていない。このことは、台形波状の屈曲薄鋼板が建築物の床材として用いられる場合は、台形波状の屈曲薄鋼板の上部へこみ部分にコンクリートを打設することによりコンクリートと屈曲薄鋼板とを一体にして床材として使用するものを前提とした記載であり、屈曲薄鋼板を単独で床材として使用することはない。ましてや、高層建築の床にデッキプレートを単独で床材として使用することは防火構造上の問題からその例はない。

〈2〉 審決が台形波状に連続成形した屈曲薄鋼板は、建築物の床材として使用されるような場合のデッキプレートと呼ばれているものに相当するとの認定を前提として、引用例4に記載された複合床の波形層(弾性層)3は、金属シートでも形成されるものであって、前記デッキプレートに該当すると認められ、この複合床のデッキプレート(波形層)は、弾性を有する床を得るために採用したものであるとして、引用例4に記載された考案(以下「引用考案4」という。別紙図面3参照)の波形層と本件考案の制振屈曲薄鋼板があたかも同様のものであるかのように認定しているが、引用考案4の波形層はデッキプレートではなく、しかも、本件考案の制振屈曲薄鋼板とは以下のとおり機能的にも配置的にもまたその弾力性においても異なっているから、引用考案4の波形層と本件考案の制振屈曲薄鋼板とは全く異なるものである。すなわち、

引用考案4の複合床の波形層は樹脂のような比較的弾力性のあるものが要求されている。つまり、床板とコンクリートスラブとの間にコンクリートスラブの上にべた置きされたクッション材として介在させたものであるから、上記波形層はそれを取り除いても床板がコンクリートスラブにより保持されるのであって、同波形層だけを大引の上に置くことは全く予定していないものである。べた置きされた波形層はたわみ変形できず、単に山谷が横に広がろうとすることによってクッション作用を生じるのみである。なお、クッション材として波形層を用いた理由は、床の換気をよくするためである。

これに対して、本件考案の制振屈曲薄鋼板は、鋼板を台形波状に屈曲させることにより、屈曲長手方向の曲げ剛性を高めて、大引の間に置いても十分耐えられる根太材として用いているのであって、これを取り除くと床板は大引だけでは保持できなくなる。

また、引用考案4の波形層の床板とコンクリートスラブとの間での弾力性は弾力性のある波形層がこれらの間で波形に屈曲していることによって生じるものである。これに対して本件考案の制振屈曲薄鋼板の床板と大引との間での弾力性は、鋼板の屈曲によって生じるものではなく、鋼板間に存する粘弾性体によって生じるものである。すなわち、制振鋼板が二枚の鋼板の間に粘弾性体を有していることにより、これら二枚の鋼板の合計厚さを持った一枚の鋼板と比べて、粘弾性体の横ずれのために板としての曲げに抵抗する力が弱い、言い換えると曲がりやすいという性質によるものである。したがって、両者の弾力性は全く異なった作用により生じているものであって、これらを同一視できない。

〈3〉 引用考案1の台形波状の屈曲薄鋼板は、本件考案の制振屈曲薄鋼板のような根太材の役割をしているものではなく、単なる床板の一部であり、建築物の床材としてコンクリートと一体となって用いられるデッキプレートでないから、引用考案1の屈曲薄鋼板と本件考案の制振屈曲薄鋼板とは同じデッキプレートではない。

〈4〉 引用考案4の波形層は、デッキプレートでなく、コンクリートスラブの上に直接べた置きされたものであるから、支柱や大引を用いた体育館の床構造が示されているにすぎない引用例5に記載された考案(以下「引用考案5」という。別紙図面4参照)から、支柱を大引で支え、この大引に引用考案4の波形層を配置するようなことは成り立たない。

〈5〉 よって、引用考案1の金属製の床張り用板から、引用考案4の波形層に想到し、さらには、本件考案の屈曲薄鋼板に想到することも、引用考案4の波形層を大引の上に置く床構造に想到することあり得ず、また、引用考案1は弾力性について、まったく考慮されておらず、体育館の床構造に使用できるものではないから、引用考案1を引用考案5に示されるような体育館の床構造に用いることは成り立たない。

(4)  取消事由3

審決が引用考案1と本件考案との相違点のうち、(ホ)について、引用考案1における屈曲薄鋼板に代えて、引用例2に記載の制振複合鋼板で形成されたデッキプレートを用い、体育館の床構造を本件考案のような構成にすることは当業者が設計的にきわめて容易になし得た程度のことであると判断したことは、誤りである。

〈1〉 引用例2には引用例3のデッキプレートを制振複合鋼板で形成して使用することは記載されていない。

引用例2に記載された制振複合鋼板の用途例としてのデッキプレートは、引用例3に記載されているような建築材料としてのデッキプレートではなく、また、類似の橋梁関係のデッキプレートでもなく、それ自体が振動している振動体本体としてのデッキプレートである。したがって、引用例2に示されているデッキプレートは台形波状のものではない。

また、引用例2の発行された昭和56年頃には、台形波状の制振鋼板は全く開発されていなかったのであって、当時、台形波状の鋼板が制振複合鋼板の使用例として存するはずはない。なお、本件考案出願時、台形波状の制振鋼板が使用されていたとして被告の引用する乙第4号証は、コンクリートの床の振動の伝搬を防ぐものであり、本件考案の目的と構成について全く異なるものである。

この点から考えても引用例3のデッキプレートを台形波状鋼板のことを意味するとは考え難い。

引用例2(甲第5号証382頁右欄)の鋼製階段は建材関係のものであるのに対し、表3(同382頁左欄)のデッキプレートは、振動体本体の例示として挙げられているもので、具体的用途の限定されたものであり、そのような中でデッキプレートを台形波状の形をした鋼板をイメージすることはなく、制振鋼板製のデッキプレートを想到することはない。

〈2〉 デッキプレートという文言は、台形波状の鋼板のみを意味するものではない。

デッキプレートが台形波状の鋼板を意味していない例は数多くある。(甲第17ないし35号証)

したがって、引用例2に記載されたデッキプレートは、引用例3のような台形波状の屈曲薄鋼板を意味しているとは考え難いので、制振複合鋼板で形成されたデッキプレートは建築物の床構造の属する分野においてよく知られているということはできない。なお、被告の引用するJIS工業用語は建材に関するものではなく、鉄道車両用語であって、鉄道車両以外の分野においてデッキプレートが波形鋼板であると認められているわけではない。

〈3〉 引用例1に記載されている屈曲薄鋼板は、本件考案の制振屈曲薄鋼板のように根太材として用いられておらず、本件考案の表面板の下の板に相当するものであって、引用例3に記載されているようなデッキプレートとは別のものである。

(5)  取消事由4

本件考案には、引用例1ないし5から予測される範囲のものでない格別の効果が認められるものであるにもかかわらず、かかる効果を認めない審決はその判断を誤ったものである。

本件考案は体育館の床の弾力性と床の硬さを改善するものである。

床の弾力性とは、人が着地した場合、人の保持するエネルギーを吸収する緩衝作用と運動動作に適度のはずみを与える反発作用とをいい、床の硬さとは、人が転倒した場合、衝突時の衝撃を緩和する作用をいう。

これまでは、体育館の床は上記のような条件の弾力性や硬さを十分に備えていなかったが、本件考案は台形あるいは矩形波状に連続成形した制振屈曲薄鋼板を利用して体育館としての上記要件を満たすことが可能な床構造を提供できるようになったものである。

引用考案1の床張り用板は単なる屈曲した金属板であり、制振鋼板ではないから、床の弾力性や床の硬さ等については制振鋼板とは全く異なるものである。

引用例2には、振動や騒音を少なくするために制振複合鋼板を用いることは記載されているが、これを床に用いた場合の人が運動して着地した場合の緩衝作用、運動動作に適度のはずみを与える反発作用、及び転倒した場合の衝撃を緩和する作用等に効果があるとは記載されていない。

制振鋼板は上から力を加えられたとき、鋼板の間に粘弾性体が存するため、それが横ずれを起こして、同じ厚さの一枚の鋼板が曲げられるときよりも上下方向にたわみやすくなるので、これを大引の上に置いて根太材として用いる場合、これまでの体育館の中で弾力性がなく硬い場所とされていた大引上の位置に弾力性を与え、やわらかくし、体育館の床に必要な弾力性に対する均一性が得られるという格別の効果が生じるのに対し、引用考案4の弾性のある波形層は、コンクリートスラブの上にべた置きされ、本件考案のように床の根太材として使用されているものではなく、その効果は全く異なっている。

本件考案出願前、制振鋼板には振動(振動数の高い振動)を減ずる効果が認められていただけで、上記のような、体育館の床に弾力性を与え、硬さを和らげ、体育館の床に必要な弾力性に対する均一性が得られるものとして、制振鋼板が用いられることは、全く知られていなかったのである。

第3  請求の原因に対する認否及び主張

1  請求の原因1ないし3は認め、同4は争う。

2  本件審決の認定判断は正当であり、原告ら主張の違法はない。

(1)  取消事由1について

根太材も大引も、床上に作用する荷重を受けて、支柱に伝えるものであり、換言すれば、共に床板を支持するものであり、その機能は同じである。

屈曲薄鋼板を用いるデッキプレートタイプの床構造にあっては、屈曲薄鋼板自体が高い剛性を有し、床上からの荷重に対して強い構造からなる以上、該屈曲薄鋼板を支える長尺の木材又は金属材は、通常の組床構造の根太材よりも設置間隔が広くなるのは当然である。このものを、根太材と呼ぶか、大引と呼ぶかは単なる表現上の問題である。

引用考案1の本件考案の支柱に相当する調節足に直接支持される観点からみれば、根太材は大引としてとらえることができる。

引用考案1の金属製の床張り用板は、台形状に連続成形された屈曲薄鋼板からなり、かつ該屈曲薄鋼板は、その台形波状に基づき、当然に上方からの荷重に対して強い構造となっており、特に、台形形状が延びる方向に対し、強い構造になっているから、平板状の薄鋼板に比べてその曲げ剛性が高くなり、該屈曲薄鋼板上に張られるベニヤ板を安定して支持する機能を有し、これは、通常の根太機能そのものであり、通常の組床構造において、断面ハット状の金属製根太材(甲第8号証参照)と同様な機能を有する。したがって、引用考案1における床張り用板は、本件考案の屈曲薄鋼板に相当する。

次に、体育館等の組床構造の表面板が一般に二枚構造となっているが、その上の部分はフローリングとよばれリノリウム又はムク板からなる幅の細い長板が用いられ、ベニヤ板が用いられることはなく、その下の捨張り板にベニヤ板が用いられ、通常捨張りベニヤと呼ばれている。したがって、引用例1は床構造に関するものであって、上張りのベニヤ板の上のフローリングの記載が省略されているものということができ、本件考案の表面板の下の部分が、引用考案1の床張り用板の上に張られた上張りのベニヤ板に相当する。

(2)  取消事由2について

デッキプレートは、台形波状に連結形成した屈曲薄鋼板を意味するものであって、単独で床材として使用されるものであるから、引用考案1における金属製の床張り用板は、デッキプレートと呼ばれるものである。(甲第4、6号証)。

引用考案4には、金属からなる台形波状の屈曲薄鋼板が床材として体育館に用いられることが示唆されているから、デッキプレートを使用した床構造に用いられることが示唆されている。

引用考案5には、支柱や大引を用いた床構造を体育館の床構造に用いることが示唆されている。

したがって、引用考案4及び5を参酌すれば、引用考案1の床構造を体育館の床構造に適用することは、当業者が必要に応じて適宜実施できる用途限定である。

なお、本件考案の制振屈曲薄鋼板は、昭和58年10月6日付手続補正書の実用新案登録請求の範囲の屈曲薄鋼板についての考案の詳細な説明の範囲中の「鋼板4と4との中間に防振ゴムをサンドイッチにした」との記載を考慮すれば、引用例2に示されるような、一般に販売されている拘束型制振鋼板を意味すると解すべきであるが、かかる拘束型制振鋼板における粘弾性体は、一般に0.03~0.5mm程度であって(甲第5号証22頁右欄11行)、この程度の粘弾性体での圧縮変形による弾性力は無視し得る程の微小なものである。したがって、引用考案4の金属シートよりなる波形層の弾力性と本件考案の制振屈曲薄鋼板の弾力性とは全く異なるものであるとの原告らの主張((3)取消事由2〈2〉)は、一般に販売されている拘束型制振鋼板でない制振屈曲薄鋼板に基づくものであって、本件考案の登録請求の範囲に基づかないものである。なお、制振鋼板が同じ厚さの鋼板より曲げ抵抗が弱いことは、制振鋼板の属性であり、極めて周知な性質である。

(3)  取消事由3について

引用例2の表3に記載されているデッキプレートは、引用例3に記載されているデッキプレートと同じであるから、引用例3に記載されている床材としてのデッキプレートは引用例2の表3に記載されているデッキプレート、さらには、本件考案の制振屈曲薄鋼板を示唆するものである。

すなわち、デッキプレートと単に記載されているものは、JISに規定されている「床板などに用いる台形状の板;波形鋼板」(乙第3号証の1)を意味すると解すべきであり、かかるデッキプレートは、建築、土木、車両その他の構造物に用いられていること(乙第6号証)は明らかである。

引用例2の受理日である昭和56年7月18日以前に、制振複合鋼板をデッキプレートとして用いる考え方は存在していた(乙第4号証第24図及び223頁左上欄11行~12行)。

デッキプレートは床板の他多くの用途があり、振動体本体に分類することが、建材関係に使用するデッキプレートを含まないことを意味するものではないから、引用例2の表3でデッキプレートが振動体本体に分類されていることは制振鋼板からなるデッキプレートを床材として用いることを想到することの妨げにはならない。

そもそも、本件考案の制振屈曲薄鋼板は、制振鋼板本来の用い方である振動及び騒音の減少のために用いられているのであるから、例え、本件考案の出願時、制振鋼板をデッキプレートとする製品が存在しなかったとしても、引用例2の鋼製階段に制振複合鋼板を用いてある使用例(382頁右欄)をみれば、当業者であれば、表3のデッキプレートをみて、JISに規定されている工業用語の通常の用い方である「床板などに用いる台形状に成形した板」をイメージするものであり、制振鋼板製のデッキプレートを想到することに何ら困難を伴うものではない。本件考案における体育館の床構造は、床上にて人が運動することに起因する振動を制振屈曲鋼板(デッキプレート)自体で吸収するものであって、該床構造におけるデッキプレートは、振動体本体に分類することも可能である。

したがって、引用考案1のデッキプレート(床張り用板)に、引用例2に示されるような制振鋼板からなるデッキプレートを用いることに何ら困難をともなうことはない。

(4)  取消事由4について

本件考案の明細書(甲第3号証)中「本件考案の効果」に記載されている振動がなく騒音を発生しないという効果は、制振鋼板を床装置に用いることにより当然に予測される効果にすぎず、体育館の床の性能についての効果は、引用例1のデッキプレートを用いた床構造を体育館の床構造に適用することにより、当然に予測される効果にすぎない。したがって、引用考案1の床張り用板に引用例2に示されるような制振鋼板からなるデッキプレートを用いることが体育館としての床の性能を改善するものであるとしても、該床の性能自体が、体育館に求められている基本的、普遍的な要求であって、当業者が当然に予測しえた効果にすぎない。

本件考案の明細書には、制振鋼板の制振作用以外の作用は記載されていないから、明細書に記載されていない制振鋼板の制振作用以外の作用により、体育館の床の性能が向上すると理解できるとすれば、かかる作用は制振鋼板の当然有する機能を体育館に適用したにすぎないからであり、制振鋼板の、本件考案の出願当時知られていなかった機能により、本件考案が顕著な作用効果を有するというならば、昭和58年10月6日付手続補正書に記載された本件考案の実用新案登録請求の範囲記載の屈曲薄鋼板の有する機能とは異なる本件考案の実用新案登録請求の範囲記載の制振屈曲薄鋼板の機能を主張するものである。

第4  証拠関係

証拠関係は本件記録中の書証目録記載のとおりである。

理由

1  請求の原因1ないし3及び審決摘示に係る引用例の記載内容は当事者間に争いがない。

2  原告ら主張の審決の取消事由に対する判断

(1)  本件考案の概要

成立に争いのない甲第3号証(本件考案の公告公報)によれば、本件考案は、体育館の床構造に係るもので、床表面の板の下に設けた台形或いは矩形波状に連続成形した制振屈曲薄鋼板が、床表面に生じる振動のエネルギーを熱エネルギーに変換して吸収することにより、振動を減衰させ騒音の発生を防止することが可能な床構造を提供することを目的として、本件考案の要旨のとおりの構成を採択したものであることが認められる。

(2)  取消事由1について

原告らは、審決が本件考案と引用考案1との一致点の認定を誤った旨主張する。前掲甲第3号証及び成立に争いのない同第4号証(引用例1、実公昭48-6495号)によれば、両者はともに床構造に係る考案である点において共通しており、本件考案が体育館の床構造に用いられるものであるのに対し、引用考案1がこのような用途に限定されない点において相違していること(相違点(ニ))が認められる。そこで、共通点である床構造そのものについて、当事者間に争いのない両者の構成及び前掲甲第3、第4号証により認められる両者の構成によって、上部の構造から順次両者の構成を対比する。

〈1〉  本件考案の木板の表面板と引用考案1の上張りのベニヤ板は、ともに床の表面部分であり、その上を直接人が通行し物が運搬されるものである点において、技術的に共通することは明らかであるから、後者が前者に相当するとした審決の判断に誤りはない。

次に、いずれも、その直下に設置される本件考案の制振屈曲薄鋼板と引用考案1の金属製の床張り用板を対比すると、金属製の床張り用板が鋼製のものを含むものであり、同板が台形波状に連続的に屈曲して成形されたものであることは当事者間に争いがないから、両者は、当事者間に争いがない相違点(ホ)を除き、ともに台形波状に連続成形された屈曲薄鋼板であるということができ、しかも、上記のように、木板の表面板又は上張りのベニヤ板の直下にあってこれを直接支えていることからみて、技術的に共通するものと認めることができ、後者が前者に相当するとした審決の判断に誤りはない。

さらに、いずれも、その直下に設置される本件考案の大引と引用考案1の根太材を対比すると、上記のようにともに技術的に共通していると認められる木板の表面板、屈曲薄鋼板又は上張りのベニヤ板、金属製の床張り用板を順次支え、かつ支柱又は調節足(引用考案1の調節足が本件考案の支柱に相当することは当事者間に争いがない。)に支えられているのであるから、両者は技術的に共通するものと認めることができ、後者が前者に相当するとした審決の判断に誤りはない。

〈2〉  以下、この点に関する原告らの主張を検討する。原告らの主張は要するに、本件考案の木板の表面板が引用考案1の上張りのベニヤ板と金属製の床張り用板に相当し、本件考案の屈曲薄鋼板が引用考案1の根太材に相当し、本件考案の大引は根太材としての屈曲薄鋼板を支える部材であり、これに相当する部材は引用考案には存在しないというにある。

確かに、別紙図面1第1図によれば、本件考案の公告公報には、符号5として木板の表面板として二枚重ねのものが示されており、他方別紙図面2第1図によれば、引用例1には符号1として上張りのベニヤ板一枚のものが示されているにすぎないが、別紙図面1第1図符号5として示された二枚重ねのものが原告ら主張の上張り板及び捨張り板であるとしても、木板の表面板を二枚重ねにすることは、本件考案の要旨とされておらず、同図は本件考案が体育館の床構造であるとして示された一実施例にすぎないのであり(成立に争いのない甲第8号証(引用例5、特公昭52-34132号)及び乙第5号証(「屋内運動場の床性能について屋内運動場の床の安全性に関する調査研究について」昭和56年度公立学校施設担当技術者連絡会議資料抜粋 財団法人日本体育施設協会発行)によれば、根太材の上に床として、下張り板及びフローリングを敷設するのが体育館の一般的工法であると認められ、本件考案はかかる一般的工法を技術的前提としているものと解される。)、考案の用途が体育館であるか否かは両者の相違点として捉えるべき事項であることに鑑みれば、床構造自体として対比する限り、上記のように、引用考案1の上張りベニヤ板は本件考案の木板の表面板に相当するものというべきである。したがって、引用考案1において、金属製の床張り用板は床そのものではなく、上張りベニヤ板の直下にあってこれを支えているもので、床構造として対比する限り、上記のように、本件考案において、木板の表面板を直接支えている屈曲薄鋼板に相当することが明らかである。もっとも、引用考案1において、上張りのベニヤ板が直接表面を形成することなく、その上にフローリングが設けられることもあり得るが、その場合でも、本件考案の木板の表面板との関係においては、上張りベニヤ板はフローリングと一体となって床表面を形成するものとして対比して差し支えないものというべきである。

次に、成立に争いのない甲第9号証(鋼材倶楽部編「鋼構造事典」彰国社昭和35年4月10日発行)、第12号証(日本建築学会編「建築便覧」3版 丸善株式会社昭和40年2月15日発行)によれば、建築用語の定義に従えば、平板状の床板を用いる通常の組床構造において、大引とは、一階床の根太を受ける横架材であって、一般に90センチメートル間隔で配置され、根太とは、床板を受ける横架材であって、普通大引、根太掛けにより支えられるものであること、いずれも英語では、Sleeperと呼称されること、大引、根太、床板の三つの部材を使用した床構造がある一方、大引を用いず根太、床板の二つの部材のみを使用した根太床と呼ばれる床構造もあること、角材としては、一般に大引が10~12センチメートル角であるのに対し、根太は6センチメートル角くらいであること、根太材の場合は大引に比較して、間隔が狭く配置される点と材木の太さが比較的細い点で相違があることが認められる。

しかしながら、大引も根太材もいずれも英語では、上記のように、Sleeperと呼称されること、及び、同じ太さの材木が前掲甲第12号証の根太寸法の表3・25及び大引寸法の同3・26に示されており、このことは、用途、材質に応じ同じ太さのものが、ある時は根太材として、ある時は大引として用いられている事実を示すものであること、このように根太材と大引の相違は相対的なものであるといえる。しかも、大引と根太材が別のものとする上記の定義は床板に平板状の板を用いる通常の組床構造におけるものであって、本件考案及び引用考案1におけるように、平板状の板に屈曲薄鋼板を組み合わせて組床構造に使用する場合についてまで、用いられるものであるか否かは明らかでない。

いずれにせよ、大引又は根太材と名称上の相違はあるものの、いずれも各考案において設置される位置が対応しており、かつその機能において変わるところはないのであるから、床構造として対比する限り、引用考案1の根太材は本件考案の大引に相当するものというべきである。

以上のとおり、取消事由1に関する原告らの主張は理由がない。

(3)  取消事由2について

〈1〉  デッキプレートについて

成立に争いのない甲第6号証(引用例3、社団法人日本鉄鋼協会編「第3版鉄鋼便覧Ⅵ二次加工・表面処理・熱処理・溶接」丸善株式会社昭和57年5月31日発行)には、板に波付けをし、平板より剛性を高めたデッキプレート(図8・13)と称する鋼板の用途として高層建築用の床材、車両の床材、建屋の外壁が記載されていることが認められる。

そこで、デッキプレートの意義について検討する。まず、成立に争いのない乙第3号証の1ないし3(「JIS工業用語大辞典」財団法人日本規格協会昭和57年12月6日発行)によれば、鉄道JIS工業用語のうちの車両用語としてのデッキプレートは床板などに用いる、台形状に成形した板とされていることが認められる。次に、成立に争いのない乙第6号証(「JISハンドブック鉄鋼」財団法人日本規格協会平成3年4月20日発行)によれば、1979年(昭和54年)改正のJIS規格で建築、土木、車両、その他の構造物に用いる冷間成形の鋼製のデッキプレート(steel deck)が規定されており、平板に波付けが施されているものが示されていることが認められる。さらに、成立に争いのない乙第7号証(「建築材料データブック」株式会社オーム社昭和58年6月25日第1版第1刷発行)によれば、JIS規格(G3352-1979)のデッキプレートが熱間圧延軟鋼板、冷間圧延鋼板、一般構造用圧延鋼材またはこれらに亜鉛めっきを施したものをV形、U形、M形、W形などに波付けしたもので床、外壁、屋根などに用いられるものとして示されていることが認められる。

上記によれば、本件考案出願(昭和58年10月6日)前において、建築物の床工事に携わる当業者であれば、デッキプレートとは床構造に用いる平板に波付けが施されている鋼板と理解するのが自然であると認められる。なお、成立に争いのない甲第18ないし第35号証は上記のデッキプレートの意義とは異なる用法を示すものであるが、上記の意味でのデッキプレートとは当業者にとって極めて一般的な文献に記載されているものであり、当業者としては、デッキプレートなる語に接すれば、先ず上記のような床構造に用いる波付け鋼板を想起するものと認めて差し支えない。

原告らは、引用例3は屈曲薄鋼板の上部のへこみ部分にコンクリートを打設することにより、同鋼板とコンクリートとを一体として床材として使用することを前提とする記載である旨主張するところ、確かに成立に争いのない甲第13号証には屈曲薄鋼板の上部のへこみ部分にコンクリートを打設する工法が記載されているが、同号証では、スチールプレート型枠現場打ちコンクリート工法におけるコンクリートの型枠がわりに用いるスチールプレートの使用法に関し、スチールプレートをコンクリートの単なる型枠がわりに用いる考え方と構造材の一部と考え、その上に打ち込まれるコンクリートと強度的に一体となって働く構造とする考え方の二つをあげ、それぞれの場合におけるデッキプレートの用法が記載されていることが認められるが、引用例3に記載されている高層建築用の床材としてのデッキプレートの用途を同号証に記載されている工法に用いられる場合に限定して解すべき根拠はない。

〈2〉  引用考案4の金属シートよりなる波形層、引用考案1の金属製の床張り用板と本件考案の制振屈曲薄鋼板との対比について

上記〈1〉で判示したところによれば、デッキプレートは床構造に用いる、平板に波付けが施されている鋼板と解されるところ、本件考案の制振屈曲薄鋼板(制振材である点についての判断は後記(4)。)及び引用考案1の台形波状の金属製の床張り用板は前記(2)〈1〉のとおり、台形波状に連続成形された屈曲薄鋼板で床構造に用いられるものであるから、いずれも上記〈1〉に述べたデッキプレートの範疇に入るものと認められる。さらに、当事者間に争いがない引用例4の記載及び成立に争いのない甲第7号証(引用例4、特公昭48-32454号)によれば、引用考案4は複合床に関する発明であること、複合床は弾性を有する床を得るために採用されること、実質的に固体基礎スラブ上に設けるようになっている複合床はその中間に弾性波形シートを備えた予備組み立てしたユニットとなっているが、引用考案4はかかるユニットに設置するのが特に好適な床ユニットを提供するものであること、波形層に弾性波形シートとして金属シートを用いることがあり、その添付図面の第2図において金属シートとして台形波状のシートが用いられることが示されていることが認められる。前記のとおり、金属製の床張り板は鋼製のものを含むことが技術常識上明らかであることは当事者間に争いがないから、床構造に用いられる引用考案4の金属からなる弾性波形シートもデッキプレートの範疇に入るものと認められる。

原告らは、引用考案4の金属製の弾性波形シートはデッキプレートでない旨主張する。前掲甲第7号証によれば、引用考案4において用いられる剛性ポリビニルクロライドよりなる波形層は床構造の一部であり、その厚さは0.5~1.5mmであることが認められるから、同考案において金属シートにより波形層を形成する場合の厚さも同程度であると推測され、他方前掲甲第6号証、乙第6、第7号証によれば、1mm前後の屈曲薄鋼板がデッキプレートとして記載されていることが認められるから、引用考案4の金属シートよりなる波形層もデッキプレートであるということができる。

したがって、本件考案の屈曲薄鋼板も引用考案4の波形層に用いられる金属製の弾性波形シートも引用考案1の床構造の構成部分として用いられる台形波状をした金属製の板もいずれもデッキプレートと理解されるものと認められる。そして、引用例4には、金属からなる弾性波形シートを用いた床構造は体操場に用いる場合があることについて記載があることは当事者間に争いのないところであり、この体操場は本件考案の体育館に相当することは明らかである。

原告らは、引用考案1の金属製の床張り用板及び引用考案4の波形層は本件考案の制振屈曲薄鋼板とは機能的にも配置的にもまたその弾力性においても異なっていると主張する(取消事由2〈2〉、〈3〉)。しかし、原告らの主張は引用考案4の金属製の弾性波形シートがデッキプレートでないことを前提としている点で失当である。のみならず、屈曲薄鋼板を床構造に使用していること自体は引用考案1において開示されているところであり、別紙図面3によれば、屈曲薄鋼板同様デッキプレートである引用考案4の金属製の弾性波形シートは床構造材として、床カバー6、層5、絶縁層4の下に配置されているところから、審決は、引用考案4を金属製の弾性波形シート、すなわち、屈曲薄鋼板を体育館の床構造の構成部分として使用することが開示された先行技術として引用し後記引用考案5と相俟って、これを引用考案1の床構造を体育館に用いることの容易性を判断したものであり、また、制振屈曲薄鋼板の機能の点は、相違点(ホ)の問題であるから、原告らのこの点に関する主張は当を得ていない。

〈3〉  次に、当事者間に争いのない引用例5の記載及び前掲甲第8号証(引用例5)によれば、引用考案5は、主として体育館のような建築物の広い室における床下地を構成する床下地装置に関する発明であるが、別紙図面4の同装置では、束ボルト2、束パイプ3、束ボルト4がコンクリート上に立設されているから、これら束ボルト、束パイプは一体として本件考案の支柱(引用考案1の調節足)に相当し、また、同装置では、束ボルト、束パイプの上に根太材7、下地板8、床板9を支える大引板6が支持されているから、大引板は本件考案の大引(引用考案1の根太材)に相当すると認められる。すなわち、引用考案5は支柱と大引を備えた床構造が体育館の床構造に用いられることを開示しているものということができる。

〈4〉  以上説示したところによれば、引用考案1の床構造に適宜必要な改変を加えて体育館の床構造に用いることは、引用考案4及び5の示唆によりきわめて容易になし得るところということができる。審決のこの点に関する判断に誤りはなく、原告ら主張の取消事由2は理由はない。

(4)  取消事由3について

〈1〉  上記(3)〈1〉判示のとおり、一般に、デッキプレートとは床構造に用いる平板に波付けが施されている鋼板を示し、建築、土木、車両、その他の構造物に用いられるところ、前掲甲第6号証、成立に争いのない甲第5号証(引用例2、日本接着協会誌Vol.17 No.9(1981)所収堺健二外一名著「制振複合鋼板」)によれば、制振複合鋼板とは鋼板とプラスチックなどの粘弾性体とを積層したもので、目的とする吸収周波数を選択的に吸収することができること(同第6号証11・6・2複合形制振鋼板の項)、この特性により物体が衝突して発音している板金部材や機械的に加振して発音している板金部材に使用すると大きな減音効果が得られること(同第5号証25頁左欄4行~6行)、制振複合鋼板の使用用途の一例としてその減音効果を利用した振動体本体としてのデッキプレートが示されており、使用用途には振動体本体の他に建材関係、橋梁関係、内燃機関、自動車関係等が上げられていること(同頁表3)、制振複合鋼板には制振材料と鋼板を上下に配した非拘束型と鋼板の間に制振材料をサンドイッチ状に挟んだ拘束型があること(同号証21頁図1)、鋼板-ポリプロピレン-鋼板という組合せでプレス加工や折り曲げが可能な積層材として注目を集めていること(同第6号証11・6・2複合形制振鋼板の項)ことが認められる。

〈2〉  さらに、上記〈1〉及び当事者間に争いのない引用例2の記載によれば、引用例2に振動を吸収し減音する効果を有する制振複合鋼板を振動体としてのデッキプレートに用いることが示されていることは明らかである。しかして、デッキプレートとは前記のように床構造に用いる、平板に波付けが施されている鋼板を意味するものであるから、前掲甲第5号証に制振複合鋼板の用途において、振動体本体としてのデッキプレートが記載されているだけで、建材関係として鋼製階段等が示され、建築用材としてのデッキプレートが明示的に示されていなくても、前記のような振動を吸収し減音する制振複合鋼板の特質に照らし、騒音防止の要請の強い床構造への適用が否定されているものではなく、当業者として、引用考案1に示されたデッキプレート(金属製の床張り用板)に代えて、制振複合鋼板からなるデッキプレートを特に騒音防止が求められている体育館の床構造へ転用することを着想することはきわめて容易であるということができる。そして、このように着想される床構造材は「台形或いは矩形波状に連続成形し、鋼板と鋼板の間に粘弾性体を介装した制振屈曲薄鋼板」にほかならない。この点に反する原告らの主張は採用しがたい。また、原告らは、引用例2の発行された昭和56年当時台形波状の制振鋼板は開発されていなかった旨主張するが、本訴において提出された成立に争いのない乙第4号証(昭和56年7月3日出願、昭和58年1月14日公開、特開昭58-7049号)によれば、本件考案の出願前に床構造材としてかかる制振複合鋼板を用いた技術が公開されているが、この乙第4号証によるまでもなく、昭和56年以前から台形波状の屈曲薄鋼板がデッキプレートとして床構造に用いられていたことは、前掲甲第4、第7号証から明らかであるから、体育館の床構造材として、台形波状の屈曲薄鋼板に代えて台形波状の制振屈曲薄鋼板(制振複合鋼板)を採択することはさして困難なことではなかったというべきである。

そうであれば、この点に関する審決の判断に誤りはなく、原告ら主張の取消事由3は理由がない。

(5)  取消事由4について

前掲甲第3号証によれば、本件考案の公告公報の「従来の技術」の項には、「体育館に要求される床の性能と評価は、下地材について一般的に弾力性、転倒及び衝突時の床の硬さ等が問題となる。中略。従来の体育館は、これらの条件を確実に満足するものは存在しない。」旨、「作用」の項には、「表面板5に生じる振動は制振屈曲薄鋼板の粘弾性体で受け、剪断変形を起こして振動のエネルギーを熱エネルギーに変換して吸収し、振動は著しく減衰し、音も消える。」旨、「考案の効果」の項には、「本考案は従来の根太式床構造と異なり、振動がなく騒音を発しないため、体育館の床構造としての要件を全て満足させることができる。」旨の記載があることが認められる。

上記記載によれば、体育館の床の下地材について一般的に弾力性、転倒及び衝突時の床の硬さ等の条件を満足させることが体育館に要求される床の性能を満足させることであるが、本件考案の効果として、公告公報の考案の詳細な説明には「体育館の床構造としての要件を全て満足させることができる。」と記載されてはいても、制振屈曲薄鋼板を用いた場合の効果として振動がなく騒音を発しない旨の記載しかなく、本件考案のどういう構成が上記効果以外の体育館に要求される床の性能を満足させるかについての記載はなく、体育館の床の弾力性と床の硬さを改善するについての制振屈曲薄鋼板の格別な効果についての記載もないことが認められる。

前掲乙第5号証によれば、上記本件考案の公告公報の「従来の技術」に記載された体育館の床の性能は、昭和56年度公立学校施設担当技術者連絡会議資料の「屋内運動場の床性能について」と題する書面「2.屋内運動場の床に要求される性能(11)安全性・快適性イ.転倒衝突時のやわらかさ」の項の6頁17行ないし18行の部分及び「3.屋内運動場の床に要求される性能の2~3の測定・評価方法(1)弾力性の測定・評価方法」の項の8頁下から2行ないし9頁1行の部分の各記載をほとんどそのまま転記したにすぎないものであって、本件考案のみが見い出した課題ではなく、従来から体育館に要求されている普遍的な課題を記載したものと認められる。

したがって、本件考案「作用」及び「考案の効果」の項に記載されている本件考案の作用効果は、従来から体育館床に要求されている性能を当然満足させることを前提として、制振屈曲薄鋼板を用いた効果として「振動がなく騒音を発しない」ことを記載したものと認められる。しかして、制振屈曲薄鋼板のかかる効果は上記(4)〈1〉で判示した制振複合鋼板の特性であるにすぎないものであり、本件考案の奏する効果については、公告公報にはそれ以上の格別のものは記載されていないと認められるのであるから、本件考案の奏する効果も引用例1ないし引用例5に記載された事項から予測される範囲のものであり、それ以上の格別な効果を奏するものとも認められない。

この点についての審決の判断に誤りはなく、原告らの取消事由4の主張は理由がない。

(6)  以上のとおりであるから、本件考案は、引用例1ないし5に基づいて当業者がきわめて容易に考案することができたとする審決の認定判断は正当であって、審決には原告ら主張の違法はない。

3  よって、原告らの本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法93条1項本文、89条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 松野嘉貞 裁判官 濵崎浩一 裁判官 押切瞳)

別紙図面1

〈省略〉

別紙図面2

〈省略〉

別紙図面3

〈省略〉

別紙図面4

〈省略〉

〈省略〉

平成2年審判第1209号

審決

東京都品川区大崎5-8-2日床ビル

請求人 日本床工事工業 株式会社

東京都江東区永代1丁目8の8

請求人 東永産業 株式会社

東京都大田区西蒲田7丁目41番地5号 遠藤ビル4階 近島特許事務所

代理人弁理士 近島一夫

岐阜県養老郡養老町高田481番地

参加人 東海住建工業 株式会社

東京都大田区西蒲田7丁目41番地5号 遠藤ビル4階 近島特許事務所

代理人弁理士 近島一夫

神奈川県横浜市港北区岸根町35番地1

被請求人 株式会社 サンゴ

東京都千代田区丸の内1丁目1番2号

被請求人 日本鋼管 株式会社

東京都中央区日本橋2丁目1番17号 丹生ビル 土橋特許事務所

代理人弁理士 土橋秀夫

東京都中央区日本橋2-1-17 丹生藤吉特許事務所内

代理人弁理士 江藤剛

上記当事者間の登録第1788546号実用新案「体育館の床構造」の登録無効審判事件について、次のとおり審決する。

結論

登録第1788546号実用新案の登録を無効とする。

審判費用及び参加により生じた費用は、被請求人の負担とする。

理由

1.本件登録第1788546号実用新案(昭和58年7月25日に実願昭58-115178号として出願した実用新案登録出願(以下、「原出願」という.)に関する昭和58年10月6日付け手続補正書による補正後の考案について実用新案法第13条において準用する特許法第53条第4項の規定により昭和61年12月1日にした新たな実用新案登録出願、名称「体育館の床構造」、平成1年9月27日設定登録.以下、「本件考案」という。)の要旨は、明細書及び図面(実公昭63-13317号公報.以下、「本件公報」という.)の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める.

「下記3要素の結合から成り立つ体育館の床構造.

(イ)基礎コンクリート面上に支柱を立設すること.

(ロ)前記支柱で支えた大引上に台形或いは矩形波状に連続成形し、鋼板と鋼板の間に粘弾性体を介装した制振屈曲薄鋼板を載せて固定したこと.(ハ)上記制振屈曲薄鋼板の上に木板やリノリウム等の表面板を敷設したこと.」

2.一方、本件請求人の実用新案登録の無効の審判の請求は、次の(A)、(B)のような趣旨のことをその理由とするものである。

(A)本件考案は、昭和58年10月6日付手続補正書に記載された考案ではなく、出願日が手続補正書を提出した時に遡及する利益は認められず、その原出願である実願昭58-115178号の公開公報(甲第2号証)に記載された考案であるか、又は、同考案に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第1項第3号又は同法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。

(B)出願日の遡及の利益は認められたとしても、本件考案は、甲第3号証ないし甲第8号証の刊行物に記載された考案に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである.

そして、その証拠方法として前記(A)の理由に関しては、甲第1号証の1(実願昭58-115178号の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム)、甲第1号証の2(実願昭58-115178号の昭和58年10月6日付手続補正書)及び甲第2号証(実開昭60-23522号公報)を提出し、前記(B)の理由に関しては、甲第3号証(実公昭48-6495号公報)、甲第4号証(特開昭58-7049号公報)、甲第5号証(日本接着協会誌vol.17、No.9、(1981).P378~P383.)、甲第6号証(第3版鉄鋼便覧、日本鉄鋼協会編、丸善株式会社、昭和57年5月31日発行.P340、341、467、468.)、甲第7号証(特公昭48-32454号公報)及び甲第8号証(特公昭52-34132号公報)を提出している。

3.そこで、本件考案についてその実用新案登録を無効とする請求の理由の存否につき検討する。

(1)まず、前記(A)の理由について検討すると、その理由の要点は、甲第1号証の2の手続補正書にあっては、防振ゴムをサンドイッチにした屈曲薄鋼板4の記載があるが、これは2枚の屈曲薄鋼板4と4の間に防振ゴムを介在したことを意味するもので、この屈曲薄鋼板4は、いわゆる制振鋼板として近時確立された2枚の鋼板の間に粘弾性高分子材料を固定して介在し、曲げ振動に伴う高分子材料のずり変形(Shear)により制振性能を発揮する技術及び製品を示唆するものではなく、かつその作用効果も制振鋼板を示唆するものではないから、本件考案は、前記手続補正書には何等開示又は示唆のない事項である「制振屈曲薄鋼板」を要旨とするものであり、これは明らかに前記手続補正書に記載された考案とは相違し、本件出願は、実用新案法第13条において準用する特許法第53条第4項の規定の適用を受けられる出願に相当するものではなく、出願日遡及の利益は受けられないから、原出願の公開(甲第2号証)後の出願となり、したがって、本件考案は、甲第2号証に記載された考案と同一又は同考案に基いて当業者がきわめて容易に考案することができたものであるという趣旨のことを主張している。

しかしながら、前記手続補正書に記載の防振ゴムは、その材料を特に限定しているわけでもなく、その補正時の技術水準からみて、粘弾性的な性状の高分子材料からなるゴムを含むことが明らかであるから、「制振屈曲薄鋼板」は、防振ゴムをサンドイッチにした屈曲薄鋼板の自明の態様に相当すると解することができる。

したがって、この点に関する請求人の請求は理由がない。

(2)次に、前記(B)の理由について検討する。

本件考案は、体育館の床構造に関するもので(本件公報の第1頁第1欄第14行)、体育館の下地材について一般的に弾力性、転倒及び衝突時の床の硬さ等が問題となる(本件公報の第1頁第1欄第16行ないし第18行)ところ、従来の体育館(本件考案の第2頁第3欄第10行ないし第11行に記載の制振屈曲薄鋼板を用いない従来の根太式床構造のもの)は、これらの弾力性、床の硬さ等の条件を確実に満足するものは存在しないが、本件考案は、台形或いは矩形波状に連続成形した制振屈曲薄鋼板を利用して体育館としての要件を満たすことが可能な床構造を提供することを課題として(本件公報の第1頁第2欄第1行ないし第6行)、前記本件考案の要旨のとおりの構成を採用したもので、その構成を採用したことにより振動がなく騒音を発しない体育館としての要件を満たす床構造が得られるという本件公報記載の作用効果を奏し得たものであることが認められる。

これに対し、本件請求人が提出した本件考案の出願(前記手続補正書提出日)前に日本国内において頒布されたことがいずれも明らかな甲第3号証、甲第5号証ないし第8号証の刊行物には、次のような事項について記載されていることが認められる。

(a)甲第3号証(実公昭48-6495号公報)には、本件考案の要旨に対応する事項として、「第1図に於て1は上張りのベニヤ板、2は床張りに専用すべく造られた金属製の床張り用板でその下に根太材3がある。根太材は…M型チャンネル材の如き金属材を用いる。5は調節足で…支え足7、外足6、承板8より成る。以上のような床構造を構成するにはコンクリート打ちした凹凸ある床下面に根太材を並べ次にその下に調節足5を適数立て(る)」(本甲号証公報の第1頁左欄第22行ないし第30行及び図面の第1図)事項について記載されており、前記金属製の床張り用材は、台形波状に連続的に屈曲して成形した形状のものが第1図に示されている。

(b)甲第5号証(日本接着協会誌vol.17、No.9、(1981).P378~P383.)には、本件考案の要旨の構成における制振屈曲薄鋼板に対応する事項に関して、「近年、産業公害に対する社会的関心が高まっており、問題解決に多大な努力が払われてきている.これらの中でも振動・騒音の問題は局所的でかつ多発的であるという点で解決に難点をもっており、また、機器の高出力化、軽量化などにともなう振動・騒音の増大に対応するためには、従来の防止法のほかに新しい技術と材料の開発が要望されている。いったん発生した騒音の防止には表1に示した吸音材料、遮音材料による空気伝幡音対策がとられているが、発生源での振動・音響エネルギを減衰、吸収することがより効果的であるとして、器体伝幡音対策への関心が強くなってきている。こうした背景に基づき、振動減衰性能(以下、制振性能と称す)の高い制振材料の開発が要望され、国内・外の鉄鋼、化学メーカとも各種の制振材料を開発、市販している。制振材料の利用は今後も拡大していくものと予測されるが、本稿では、その制振性能の高さから最も有望視されている制振複合鋼板、特に拘束型制振複合鋼板の性能、用途などにつき報告する。…2.1制振複合鋼板の構造 鉄鋼材料は強度が高く、価格が安いため、各種の機器材料として使用されるほか、密度が高く遮音性に優れていることから、機器のカバー類としても使用されている。しかし、鉄鋼材料は外部からの振動エネルギにより共振励起されやすく、大きな騒音源となることがある。一方、粘弾性高分子材料に振動エネルギが与えられた場合、その損失弾性率(E’)に応じて、大きなエネルギ吸収がある。…制振複合鋼板は鋼板と粘弾性材料(以下樹脂と称す)を組合すことにより、両者の利点を有効に活用したものである。」(本甲号証の第378頁左欄第2行ないし同右欄第13行)「制振複合鋼板は積層構造であること、粘弾性樹脂が使用きれていることなどから加工上の制約を受ける.(中略)しかし、拘束型のものは両面が鋼板であり、樹脂厚も薄いことから、軟鋼板に準じた加工が可能である。」(本甲号証の第381頁左欄第18行ないし第24行)「3.制振複合鋼板の用途例 制振鋼板はその機能上、物体が衝突して発音している板金部材や、機械的に加振して発音している板金部材に使用すると大きな減音効果が得られる。」(本甲号証の第382頁左欄第3行ないし第6行)という事項について記載されており、第382頁左欄の表3には、制振複合鋼板の使用用途の一例としてデッキプレートがある旨が記載されている.

(c)甲第6号証(第3版鉄鋼便覧、日本鉄鋼協会編、丸善株式会社、昭和57年5月31日発行)には、本件考案の要旨の構成における制振屈曲薄鋼板に対応する事項に関して、「(2)広幅断面製品(図8・13、8・14)デッキプレート、キーストンプレートなどのプレート材で、板に波付けをし、平板より剛性を高めたものである。(中略)用途別としては、高層建築用の床板…にも用いられている。」(本甲号証の第340頁右欄第10行ないし第341頁左欄第7行)の事項が記載されており、台形状に波付けをし連続形成されたデッキプレートが第340頁右欄の図8・13に図示されている。

(d)甲第7号証(特公昭48-32454号公報)には、複合床に関して、「第1図を参照するに、本発明に係る複合床は実質的に中実の基礎スラブ又は基部、例えばコンクリートスラブ1より成り、該スラブ1は絶縁層2を支承し、該2は…ファイバ層より成るものである。絶縁層2は波形層3のベッドとしての役目をし、該層3は弾性要素を形成し、そして硬い樹脂…より成るものである。層3の頂部には絶縁層4が配置されており、該層4はアスファルトを含侵させたいわゆる“ワッフルボード”で構成するのが好ましい。絶縁層4の頂部には、圧力を分配するための比較的に硬い層5が設けられ、そしてこの層は、木片、ファイバーボード、合板、プラスタプレート、積層板又は同等品より成ることが好ましい。最後に、層5の頂部には床カバー6が配置され、該床カバー6は例えばリノリュームカバー、織物材料のカバー、寄木細工の床又は損耗に強い他の材料で作られている.」(本甲号証公報の第1頁右欄第14行ないし第32行)「層3の材料は樹脂である必要はなくエージングに強い好適な他の材料であればよい。さらに、腐食を阻止するために保護層によって効果的に被覆されている金属シート又は金属箔を弾性層3に用いることもできる。」(本甲号証公報の第2頁左欄第35行ないし第39行)の事項が記載されており、そして、波形層3を用いた床を作る場合に、例えば体操場又は同等品のように大きな室に用いる場合のあること(本甲号証公報の第2頁左欄第40行ないし第42行)について記載されている。

(e)甲第8号証(特公昭52-34132号公報)には、体育館などの建築物の床下地構造に関して、「第1図および第2図は本発明床下地装置を用いて体育館の床下地構造を構成した場合を示すものであり、図中1は床部全域にわたって土地に施工したコンクリート基礎である。(中略)このコンクリート基礎1には後述する大引体の配設方向に沿って複数本の第1の束ボルト2が直立して設けられており、これら束ボルト2には束パイプ3の下部が螺合されていて、束パイプ3の上部には第2(〔注〕第1は第2の明白な誤記と認められる)の束ボルト4が螺挿されている。第2の束ボルト4には防振材5が取付けられていて、この第2の束ボルト4の上方に位置するように間隔を存して平行に配置された複数本の大引板6が支持されている。大引板6にはこれと直交するように平行に間隔を存して複数本の根太体7が配置して取付けられており、これら根太体7には複数枚の下地板8が並べて敷設されており接着またはビス止めにより取付けられている。これら敷設された下地板8上には複数枚の床板9を敷設して床下地構造が構成されている.」(本甲号証公報の第1頁右欄第9行ないし第27行)の事項が記載されている。

そこで、本件考案と、甲第3号証、甲第5号証ないし第8号証に記載されたものとを対比して検討する。

本件考案と甲第3号証に記載された考案とを比べると、甲第3号証に記載された考案の「上張りのベニヤ板」は、本件考案の「木板の表面板」に相当し、同じく「根太材」は、その第1図の記載を併せみると実質上本件考案の「大引」に相当し、同じく「調節足」は「支柱」に相当すると認められ、また、「金属製の床張り用板」は、鋼製のものを含むこと演技術常識上明ちかであり、かつ、第1図に図示のような台形波状をしていることからして、本件考案の「屈曲薄鋼板」に相当すると認められるから、両者は、「下記3要素の結合から成り立つ床構造。(イ)基礎コンクリート面上に支柱を立設すること.(ロ)前記支柱で支えた大引上に台形波状に連続成形した屈曲薄鋼板を載せて固定したこと。(ハ)上記屈曲薄鋼板の上に木板の表面板を敷設したこと。」の構成を備えている点で一致し、次の(ニ)、(ホ)の点で相違する。

(ニ)前記床構造が、本件考案では、「体育館の床構造」に用いられるものであるのに対し、甲第3号証に記載された考案は、このような用途のものに限定されそいない点。

(ホ)前記屈曲薄鋼板が、本件考案では、「鋼板と鋼板の間に粘弾性体を介装した制振屈曲薄鋼板」であるのに対し、甲第3号証に記載された考案は、このような屈曲薄鋼板ではない点。

ところで、台形波状に連続成形した前記屈曲薄鋼板は、甲第6号証の記載によれば、建築物の床材として使用されるような場合のデッキプレートと呼ばれているものに該当すると認められる.甲第7号証に記載された複合床の波形層(弾性層)3は、金属シートでも形成されるものであって、前記デッキプレートに該当すると認められ、この複合床のデッキプレート(波形層3)は、弾性を有する床を得るために(甲第7号証の第1頁第2欄第3行ないし第4行)採用したものであり、しかも甲第7号証には体操場にこのデッキプレートが用いられることが記載されており、この体操場は本件考案の体育館に相当することが明らかである。また、甲第8号証には、体育館などの床下地構造が記載されており、これに記載された束ボルトと束パイプからなるものは本件考案の支柱に相当し、大引体は本件考案の大引に相当すると認められるものであって、この体育館などの床下地構造にこのような支柱や大引を用いることが示されている.

したがって、甲第7号証及び甲第8号証に記載されているように、支柱や大引を用いた床構造やデッキプレート(屈曲薄鋼板)を使用した床構造を体育館の床構造に用いることは従来公知のことであるから、甲第3号証に記載された考案において、その床構造を体育館の床構造に用いることは、当業者が必要に応じて適宜実施できる用途の限定にすぎない。

次に、甲第3号証に記載された考案との相違点である本件考案が採用している前記(ホ)の点の構成について検討すると、この点の構成は、前記したように台形或いは矩形波状に連続成形した制振屈曲薄鋼板を体育館の床構造に利用する旨の本件考案の課題に対応するものである.

しかしながら、甲第6号証に記載されたようなデッキプレートを振動・音響エネルギを減衰、吸収するために制振性能を有する粘弾性体を鋼板と鋼板の間に介装した制振複合鋼板で形成して使用することが甲第5号証に記載されており、甲第5号証と甲第6号証とに記載されたものを併せ考えると、鋼板と鋼板の間に粘弾性体を介装した制振複合鋼板で形成されたデッキプレートは、本件考案の出願前に建築物の床構造の属する技術の分野においてはよく知られたものであったことと認められる。そして、このようなデッキプレートは、その構成に照らして、本件考案の制振屈曲薄鋼板に相当することも明らかである。

してみれば、甲第3号証に記載された考案における屈曲薄鋼板に換えて、甲第5号証に記載の制振複合鋼板で形成されたデッキプレートを用い、体育館の床構造を本件考案のような構成にすることは当業者が設計的にきわめて容易になし得たことである。

そして、本件考案の奏する効果も甲第3号証、甲第5号証ないし甲第8号証の刊行物に記載された事項から予測される範囲のものであり、それ以上の格別な効果を奏するものとも認められない。

4.以上のとおりであるから、本件考案は、その実用新案登録出願(前記手続補正書提出日)前に日本国内において頒布された甲第3号証、甲第5号証ないし甲第8号証の刊行物に記載されたそれぞれの考案に基いて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであって、その実用新案登録は、実用新案法第3条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第37条第1項第11号に該当し、無効とすべきものである。

よって、結論のとおり審決する。

平成3年7月11日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

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