大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

東京高等裁判所 平成4年(行ケ)136号 判決

主文

特許庁が昭和六三年審判第一七〇〇五号について平成四年二月一九日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

理由

一  特許庁における手続の経緯、審決の理由の要点、本願商標の構成(別紙(1))、指定商品及び登録出願日、引用商標の構成(別紙(2))、指定商品、登録出願日、設定登録日及び更新登録日については、当事者間に争いはない。

二  取消事由に対する判断

(1) 本件商標は「星」の図形と「CONVERSE」なる文字とを組み合わせた結合商標であるが、白抜きの「星」の図形を内接させた黒色の角を丸くした四角形と「CONVERSE」なる文字とがごくわずかの間隔をおいて横に並び、縦幅において「星」の図形が二倍程度大きく、横幅において、「CONVERSE」なる文字群が四倍弱程度大きいが、全体の印象としては、両者は、角を丸くした長方形の輪郭が近接してその外側を囲む構成となり、「CONVERSE」なる文字に比べて、特に「星」の図形が強調されることなく、同図形と「CONVERSE」なる文字とが一連に観察される構成をとつているということができる。

(2) ところで、本願商標のように文字と図形の結合からなる結合商標の類否を判断するにあたつては、当該商標が使用されている商品の取引の実情、すなわち、取引者や需要者における当該商標の著名性や周知性、当該商品の属する分野における取引の形態、当該商品の特質等を考慮し、当該商票の文字と図形の両者が不可分一体をなして一個の呼称、観念を形成している場合には、これに基づいて引用商標との対比をなし、対比される両商標が同一又は類似の商品に使用された際、取引者、需要者において、商品の出所につき誤認、混同を生じるおそれがあるか否かによつて決すべきものである。

そこで、本願商標において、「星」の図形部分が取引上独立して自他商品の識別標識として機能するものとし、本願商標は、該「星」の図形部分に対応して、「ホシ」の呼称、「星」の観念を生じるとした審決の当否を検討する。

<1>  《証拠略》によれば、原告は、一九〇八年にアメリカ合衆国マサチューセッツ州で設立された「コンバース・ラバーシュー・カンパニー」を前身とする、バスケットボールシューズを中心とするスポーツシューズの製造販売を業とする法人で、一九一七年(大正六年)に発売したキャンバス・オールスターという製品が世界的な人気商品となり、今日に至つているほか、早くから全世界の市場においてスポーツシューズ、スポーツウェアを販売し、一九八六年(昭和六一年)には、世界九〇か国で、運動の幅広い分野で、スポーツシューズ、スポーツウェアを販売するに至つたこと、原告は、一九六四年(昭和三九年)に、茶谷産業を通じてキャンバス・オールスターの日本での販売を開始し、一九六六年(昭和四一年)には、井上商事にその販売権を付与し、同社はその販売網を通じて日本全国で同シューズの販売活動を展開し、一九六九年(昭和四四年)には西武百貨店及び伊勢丹百貨店で、キャンバス・オールスターが販売されるに至つたが、一九七〇年(昭和四五年)にはスポーツ用品の大手メーカーである美津濃と、一九七九年(昭和五四年)にはダイワと、一九八〇年(昭和五五年)にはゼットと原告とが提携することによつて、原告製品の販売ルートは拡大されたこと、原告は、一九八一年(昭和五六年)に月星化成を、原告のスポーツシューズ及びカジュアルシューズの総販売代理店に指定したうえ、同社が原告から輸入した原告製品のうち、カジュアルシューズは月星化成が、スポーツシューズはゼットと美津濃とがそれぞれ販売する体制を確立した結果、日本市場でのバスケットボールシューズの販売数で年間第一位の地位を確保したこと、一九八九年(平成一年)に美津濃との契約が終了したが、一九九一年(平成三年)以降は月星化成がスポーツシューズ及びカジュアルシューズの販売を、ゼットがそれ以外のスポーツ用及びカジュアル用の衣類及びバッグその他の関連製品を販売していること、原告製品の販売促進のため、原告及びゼットは、一九九〇年(平成二年)、一九九一年(平成三年)、年間総計、それぞれ、一億一、〇〇〇万円、一億六、〇〇〇万円、月星化成は、一九九〇年(平成二年)、一九九一年(平成三年)に、それぞれ、一億〇、三〇〇万円、一億六、三〇〇万円の宣伝、広告費用を費やしていること、一九八一年(昭和五六年)以降、原告のスポーツシューズ及びカジュアルシューズの総販売代理店の月星化成系列の代理店(卸売業者)(六〇店)を通じて、百貨店スポーツ用品売り場、スポーツ専門店等日本全国各地の小売店で「コンバース」ブランドのスポーツシューズ及びカジュアルシューズが販売されていること、「コンバース」ブランドのスポーツシューズは、マーケットシェアで、スポーツシューズ全体で上位の位置を占め、バスケットボールシューズでは第一位の位置(一九八一年(昭和五六年)に第二位、一九八二年(昭和五七年)以降第一位)を占めていることが認められる。

上記事実に《証拠略》をあわせると、原告は、「コンバース」のブランド名で、日本におけるバスケットシューズを中心とするスポーツシューズ及びカジュアルシューズの著名な製造販売業者であり、原告が、前記のとおり、一九一七年(大正六年)に製造・販売を始めたキャンバス・オールスターという製品には、「星」の図形と「CONVERSE」なる文字とを組み合わせた商標を一貫して使用してきたほか、原告の製造・販売する他のスポーツシューズ及びカジュアルシューズ等の殆どに「星」の図形と「CONVERSE」なる文字とを組み合わせた各種の商標が付されていること、したがつて、本願商標の構成中の「CONVERSE」なる文字と「星」の図形とは、その両者が不可分一体をなして、原告の著名なブランドのバスケットシューズを中心とする各種スポーツ用品ないし原告の商号の略称を表示するものと取引者、需要者に認識されているものと認められる。

<2>  これに対して、本願商標の構成中の「星」の図形及びその呼称の「ホシ」は、きわめてありふれた簡単なものである、成立に争いがない甲第二、第五、第七、第九号証の各一、二に徴すると、「星」の図形と文字との結合商標が各種登録されて使用されている実情にあることが認められることをあわせると、取引者、需要者にこれが特定的、限定的な印象を与える力は弱いものと認められるうえ、前記(1)のとおり、本願商標において、「CONVERSE」なる文字に比べて、特に「星」の図形が強調される構成でなく、同図形と「CONVERSE」なる文字とが一連に観察される構成であることを考慮すれば、前記<1>で判示した具体的取引の実情において、本願商標が指定商品に使用された場合には、著名なブランドを表示する、「CONVERSE」なる文字部分の観念あるいは「コンバース」の呼称が取引者、需要者に対して商品の出所の識別標識として強く支配的な印象を与えるから、それとの対比において、「星」の図形の部分のみからは、商品の出所を識別する機能としての呼称、観念は生ぜず、本願商標の「CONVERSE」なる文字部分あるいは「星」の図形部分と「CONVERSE」なる文字部分を一体として、「コンバース」、あるいは「ホシのコンバース」、「星のコンバース」の呼称、観念が生じるものというべきである。

(3) 以上のとおり、本願商標のうち、「星」の図形がそれ自体独立して自他商品の識別標識として機能するとは認められず、本願商標に接する取引者、需要者は、「星」の図形部分を捉えてこれより生ずる呼称、観念をもつて取引にあたるとは認められない。

三  以上によれば、本願商標につき「ホシ」の呼称、「星」の観念が生じるとして、本願商標と引用商標とが呼称、観念上類似するとした審決の判断は誤りであり、この誤つた判断に基づいて、本願を拒絶した原査定を妥当とした審決は違法であるから取消を免れない。

よつて、原告の本訴請求を正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤 博 裁判官 浜崎浩一 裁判官 押切 瞳)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com