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東京高等裁判所 平成4年(行ケ)228号 判決

原告

株式会社システム・ホームズ

原告

三菱電機株式会社

被告

特許庁長官 麻生渡

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた判決

1  原告ら

特許庁が、平成3年審判第9374号事件について、平成4年9月24日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

(1)  (本案前)

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

(2)  (本案)

主文同旨

第2当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告らは、名称を「給湯装置」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許を受ける権利の共有者であり、昭和58年3月18日、上記発明につき、弁理士谷義一を代理人として共同で特許出願をした(昭和58年特許願第44514号)が、平成3年3月28日に拒絶査定を受け、その謄本は、同年4月16日上記代理人に送達された。

同年5月16日、上記拒絶査定に対する不服の審判の請求が代理人によることなくなされたが、請求書に請求人として記載されていたのは原告株式会社システム・ホームズ(以下「原告システム・ホームズ」という。)だけであり、原告三菱電機株式会社(以下「原告三菱電機」という。)の名は記載されたいなかった。

特許庁は、上記審判の請求を同年審判第9374号事件として審理したうえ、平成4年9月24日、「本件審判の請求を却下する。」との審決をし、その謄本は、同年11月7日、原告システム・ホームズに送達された。

2  審決の理由の要点

本件審判は、特許を受ける権利が株式会社システム・ホームズ及び三菱電機株式会社の共有に係る特許出願の拒絶査定に対する審判であるから、この請求は、特許法132条3項の規定により、上記共有者の全員が共同して請求しなければならないところ、その一部の者である株式会社システム・ホームズによってなされたものであるから、不適法な請求であって、その欠缺は補正することができない。

したがって、本件審判の請求は、特許法135条により却下すべきである。

第3被告の本案前の主張

原告三菱電機は、本件審判の請求人でも本件審決の名宛人でもなく、したがって、特許法178条2項にいう「当事者」に該当しないから、本件審決の取消しを求める本件訴えにつき、原告適格を有しない。

このような同原告を原告の一人とする本件訴えは、全体として不適法というべきである。

第4原告らの反論

原告三菱電機は、本願発明につき特許を受ける権利の共有者の一人であり、本願の共同出願人であるから、本件審判及び本件審決につき直接の利害関係を有する。したがって、同原告は、審決の名宛人でなくとも、特許法178条2項にいう「当事者」に準ずる者として、原告適格が認められるべきである。

第5原告ら主張の審決取消自由

1  特許を受ける権利の共有者による共同出願に係る手続につき審判の請求がなされた場合、それが共有者全員が共同して請求したものに該当するか否かは、単に審判請求書の請求人の欄の記載のみによって即断すべきではなく、たとえ、審判請求書の請求人の欄に共有者の一部の者のみが記載されていたとしても、請求書の全趣旨、当該出願につき特許庁側が知りえた事情等を勘案しつつ総合的に判断して決定すべきである。

2  本願出願は、特許を受ける権利の共有者である原告らを共同出願人としてなされており、出願手続一切を同一代理人に委任していたものである。そして、共同出願人は、出願人名義変更等がない限り、出願から登録に至るまで同一であり、このような共同出願人は特許権の取得に向け共同して行動するものであって、一部の者があえてこれに反する行動に出ることはおよそ考えられない。本件においても、共同出願人である原告らは、出願代理人を通じて相互に連絡し合い、共同して審判の請求を行うことに合意しており(甲第4~甲第6号証)、また、拒絶査定後に、原告らが出願に関し実用新案登録出願あるいは意匠登録出願に出願変更を行った事実もない。これらの点から見て、原告らが共同して本件審判を請求したことは十分に理解できるところである。

にもかかわらず、審決は、審判請求書の請求人の記載に関し、原告システム・ホームズが、過誤により、方式上不備に記載をしたことのみをとらえて、補正することができない欠陥があるとし、補正を命じないまま、本件審判の請求を却下したのであり、妥当な措置を欠いたものというべきである。

3  特許法132条3甲の規定する共同請求の要件は、共有者全員について合一にのみ確定すべき必要から設けられたものであるから、必ずしも審判請求時に満たされていなければならないものでなく、その後の審理段階で具わればよいと解すべきである。

このような場合に特許庁のとるべき措置につき規定する法規はないが、発明を適正に保護するという特許法の基本精神に照らすと、手続面での過誤に基づく欠缺は第三者に不当な不利益を与えない限り、極力補正を認めるべきであり、本件についても、尋問等の措置により原告ら両名を請求人にするよう適当な措置をとるべきである。

現に、特許庁においては、共同出願人の全員が一人の代理人に対して審判の請求を委任したにもかかわらず、代理人の過誤により審判請求人欄に一部の者だけしか記載しなかった場合、全員を記載するように補正を命じる取扱いがされている。特許法132条3項の規定の趣旨に鑑みれば、手続をした者が代理人であるか共同出願人の一部であるかで、取扱いを異にすべき理由はない。

本件審判手続においては、このような措置が何もとられないままに、審判の請求を却下したものであるから、審決は違法として取り消されなければならない。

第6被告の反論

本件審決の認定、判断は正当であり、原告主張の審決取消事由は理由がない。

1  共同出願人である特許を受ける権利の共有者が拒絶査定に対して不服の審判の請求をするに当たっては、共有者全員が共同して審判請求することを、請求書に表示するという方式で明示すべきものとされている(特許法131条1項、132条3項)。

ところが、本件審判の請求書には、請求人の欄に原告システム・ホームズの住所、名称、代表者の氏名の各記載及び代表者の押印はされているが、原告三菱電機に関する記載は一切ない。また、請求書の請求人の欄の記載以外にも、実質上本件審判請求が原告三菱電機によってもされていることを推認させる書面は何ら提出されていなかった。

このような状況の下では、本件審判の請求は原告システム・ホームズが単独でしたものと認めるほかはない。

2  本件新盤の請求が原告システム・ホームズにより単独でされたと認められる以上、請求書に原告三菱電機が請求人として記載されていない点をとらえて特許法131条1項所定の方式に違反しているとすることはできず、請求人の記載を原告ら両名に補正することは、請求書の要旨を変更することになるから、許されない(同法同条2項)。

3  したがって、審決が、本件審判の請求を、同法133条1項に規定する補正を命ずることなく、同法135条により直ちに却下したことに違法はない。

第7証拠

本件記録中の書証目録を引用する(書証の成立については、当事者間の争いがない。)。

第8当裁判所の判断

1  本件訴えは、特許を受ける権利を原告らが共有する特許出願の拒絶査定に対する審判の請求が共有者の一人である原告システム・ホームズのみによってなされたことを理由に、補正を命ずることなく、不適法として却下した審決の取消しを求めるものであって、仮に、原告主張の審決取消事由につき理由があると認められ、審決が取り消された場合には、事後の審判手続において、原告三菱電機が当初から共同審判請求人の地位にあったものとして、その手続が進められるものである。その意味において、原告三菱電機は、審決の名宛人となっていないとしても、特許法178条2項にいう「当事者」に実質的に当たるということができ、審決の取消しを求める本件訴えにつき、原告システム・ホームズと共同して原告となる適格を有するというべきである。

被告の本案前の主張は採用できない。

2  本件審判の請求書に請求人として記載されたのは原告システム・ホームズだけであり、原告三菱電機に関する記載がなかったことは、当事者間に争いがなく、また、実質上本件審判の請求が原告三菱電機によってもされていることを推認させる書面が提出されていたことは、本件全証拠によっても認めることはできない。

原告らは、特許を受ける権利の共有者である共同出願人は特許権の取得に向け共同して行動するものであって、その中の一部の者があえてこれに反する行動に出ることは通常考えられないなど、原告三菱電機も本件審判の請求人と見るべき事由を種々主張する。

しかし、特許法がその131条1項で、審判を請求する者は、「審判事件の表示」、「請求の趣旨及びその理由」と並んで「当事者及び代理人の氏名又は名称及び住所又は居所並びに法人にあっては代表者の氏名」を記載した請求書を特許庁長官に提出しなければならない旨を規定するとともに、その132条3項で「・・・特許を受ける権利の共有者がその共有に係る権利について審判を請求するときは共有者の全員が共同して請求しなければならない。」と明記していることに鑑みれば、同法は、特許を受ける権利の共有者が共同出願人である場合、これら共有者が拒絶査定不服の審判を請求するに当っては、共有者の全員それぞれが審判を請求する意思のあることを、審査手続におけるそれまでの経緯と離れて改めて、請求書に表示する様式行為によって明示することを求めたものであり、これによって何人が審判請求人であるかを一律に確定しようとしたものであると解される。この趣旨はまた、同法14条本文が、原則として複数当事者の相互代表を認めながら、その例外となる場合の一つとして拒絶査定不服審判の請求を規定していることにおいても現われている。

したがって、本件において、原告三菱電機が本件審判の請求人とされるためには、特許法の規定するところに従い、要式行為である審判請求書の提出により本件審判を請求する意思を表示すべきであったのであり、また、少なくとも、審判請求に係る書類自体の中に、実質上審判請求が同原告によってもされていることを推認させるものが含まれていなければならないというべきであり、これらがあったといえないことは、上述のとおりであるから、仮に原告らの主張する事由が認められたとしても、これをもって、原告三菱電機を本件審判請求の請求人と見るべき根拠とすることはできない。

このような本件審判の請求が原告システム・ホームズにより単独でされたと認められる以上、同原告だけを請求人として記載した本件審判の請求書が特許法131条1項所定の方式に違反しているとはいえず、請求人の記載を原告ら両名に補正することは、上記請求書の要旨を変更することになることは明らかであるから、許されない(同法同条2項)。したがって、このような補正を命ずることを含め適当な措置を講ずるべきであったとする原告らの主張は失当である。

3  以上のとおりであるから、本件審判の請求は原告システム・ホームズが単独でしたと認定し、請求は不適法であってその欠缺は補正することができないとして、これを特許法135条により却下した審決の判断は正当であり、審決に違法はない。

よって、原告らの本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、93条1項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 山下和明 裁判官 三代川俊一郎)

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