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東京高等裁判所 平成5年(行ケ)118号 判決

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  平成五年七月一八日に行われた衆議院議員総選挙(以下本件選挙という。)における東京都第七区の選挙を無効とする。

2  訴訟費用は、被告の負担とする。

二  被告

主文同旨

第二  事案の概要

一  本件は、平成五年七月一八日に行われた第四〇回衆議院議員総選挙(本件選挙)の議員定数配分規定が憲法に違反するものであるとして、東京都第七区の選挙人である原告がその選挙区における選挙の無効の確認を求める訴訟である。

二  本件選挙は、公職選挙法の一部を改正する法律(平成四年法律第九七号。以下平成四年改正法という。)により改正された公職選挙法(昭和二五年法律第一〇〇号。以下公選法という。)の衆議院議員定数配分規定(同法一三条一項、同法別表第一、同法附則七ないし一一項。以下本件議員定数配分規定という。)に基づいて施行されたものである。

三  争点

本件議員定数配分規定は、投票価値の平等を要求している憲法一四条一項等に違反するか。

この点に関する原告及び被告の主張の詳細は、別紙一及び二のとおりである。

第三  争点に対する判断

一  選挙権の平等と国会の裁量権

議員定数配分規定の違憲を理由とする選挙無効訴訟に関する当裁判所の基本的な考え方は、すでに示されている最高裁判所の判例の趣旨と異ならない。その要旨は、次のとおりである。

1  法の下の平等を保障した憲法一四条一項の規定は、国会の両議院の議員を選挙する国民固有の権利につき、選挙人資格における差別の禁止にとどまらず、選挙権の内容の平等、換言すれば、議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等、すなわち投票価値の平等をも要求するものである。

2  憲法は、国会の両議院の議員を選挙する制度の仕組みの具体的決定を原則として国会の裁量に委ねている(憲法四三、四四条)。したがって、投票価値の平等は、憲法上、選挙制度の決定のための唯一、絶対の基準となるものではなく、原則として、国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないしは理由との関連において調和的に実現されるべきものと解さねばならない。

3  衆議院議員の選挙制度として採用されている中選挙区単記投票制の下で選挙区割及び議員定数の配分を決定するについては、選挙人数又は人口と配分議員数との比率の平等が最も重要かつ基本的な基準であるべきであるが、それ以外にも、種々の政策的技術的考慮要素があり、これらをどのように考慮して具体的決定に反映させるかについては客観的基準が存在するものでもないから、議員定数配分規定の合憲性は、結局は、国会が具体的に定めたところがその裁量権の合理的行使として是認されるかどうかによって決定するほかない。

そして、このような見地に立って考えても、具体的に決定された選挙区割と議員定数配分の下における選挙人の投票の有する価値に不平等が存在し、あるいはその後の人口異動により右のような不平等が生じ、それが国会において通常考慮し得る諸般の要素を斟酌してもなお、一般に合理性を有するものとは考えられない程度に達しているときは、右のような不平等は、もはや国会の合理的裁量の限界を超えているものと推定され、これを正当化すべき特別の理由が示されない限り、憲法違反と判断されざるを得ないものというべきである。

もっとも、制定又は改正の当時合憲であった議員定数配分規定の下における選挙区間の議員一人当たりの選挙人数又は人口の較差が、その後の人口の異動によって拡大し、憲法の選挙権の平等の要求に反する程度に至った場合には、そのことによって直ちに当該議員定数配分規定が憲法に違反するとすべきものではなく、憲法上要求される合理的期間内の是正が行われないときに初めて右規定が憲法に違反するものというべきである。

二  本件議員定数配分規定の合憲性

1  本件議員定数配分規定の改正経過として、証拠(乙一ないし一〇)によれば、次の事実を認めることができる。

(一) 昭和六一年法律第六七号の公選法の改正(議員定数の配分につきいわゆる八増七減の措置をとったもの)により、昭和六〇年の国勢調査人口による選挙区間の定数較差が最大一(長野県第三区)対二・九九(神奈川県第四区)にとどめられたが、その後の人口異動により較差が拡大し、平成二年の国勢調査人口によると、最大一(東京都第八区)対三・三八(千葉県第四区)の較差が生じた。

(二) 右昭和六一年の法改正の際に、衆議院は、「選挙権の平等の確保は議会制民主政治の基本であり、選挙区別議員定数の適正な配分については、憲法の精神に則り常に配慮されなければならない。今回の衆議院議員の定数是正は、違憲とされた現行規定を早急に改正するための暫定措置であり、昭和六〇年国勢調査の確定人口の公表をまって、速やかに抜本改正の検討を行うものとする。抜本改正に際しては、二人区・六人区の解消並びに議員総定数及び選挙区画の見直しを行い、併せて過疎・過密等地域の実情に配慮した定数の配分を期するものとする。」との決議(以下定数是正に関する決議という。)を行った。

その後、議員定数の改正を含む選挙制度の改革について政府及び各党の検討が進められ、平成三年八月、政府は、第八次選挙制度審議会の答申に基づき、衆議院議員の選挙制度をこれまでの中選挙区制からいわゆる小選挙区比例代表並立制に改めることなどを内容とする公選法の改正案を政治改革関連三法案の一つとして第一二一国会に提出した。この改正案では、新制度により定める選挙区間の議員の定数較差をおおむね二倍以下とするものとされていた。この国会には、日本社会党からも中選挙区制の下で定数較差を一・五六倍とする公選法改正案等が提出された。しかし、選挙制度の抜本改正等をめぐる各党間の対立は深刻であり、これらの法案は、平成三年一〇月四日、第一二一国会の閉会をもっていずれも審議未了・廃案となった。そこで、同日、各党の合意により、選挙制度等を含む政治改革の課題となるべき事項を検討し、その実現方策を見いだすことを目的として「政治改革協議会」が設置された。それ以来、この政治改革協議会及び同実務者協議会において広く政治改革全般にわたり協議が続けられ、相当数の項目については取りまとめが行われたが、選挙制度の抜本改正については協議がまとまらず、この間に、前記のように拡大した定数較差の現状を暫定的に是正するための措置として自由民主党から提示されたいわゆる九増一〇減案も合意事項とはならなかった。しかし、右九増一〇減案の審議入りをすることは了承され、自由民主党の提案として国会に提出されることになった。そして、平成四年一一月二七日、第一二五臨時国会において右九増一〇減等を内容とする公選法改正案が自由民主党から衆議院に提出され、平成四年改正法として成立し、同年一二月一六日公布された。右改正法を可決する際、衆議院の公選法改正に関する調査特別委員会において、「今回の公選法の改正は、違憲状態ともいうべき衆議院議員の定数に関する現行規定を早急に改正するための暫定措置であり、引き続き抜本的な政治改革に取り組み、その速やかな実現に努める。」旨の決議が行われた。

(三) 平成四年改正法の改正の趣旨は、前記のとおり最大一対三・三八にまで拡大した較差の現状と過去の最高裁判所の判例等に照らすと、この較差をそのまま放置しておくことは許されないとの認識の下に、当面の暫定措置として、議員一人当たりの人口の較差が特に著しい選挙区について、定数の増員、減員及び選挙区の区域の変更により是正を行おうとするものであり、その内容は、当分の間、議員定数について、議員一人当たり人口の多い選挙区から順に九選挙区(埼玉県第一区、第二区及び第五区、千葉県第四区、神奈川県第三区及び第四区、大阪府第五区、広島県第一区並びに福岡県第一区)において議員定数をそれぞれ一人増員し、議員一人当たり人口の少ない選挙区から順に一〇選挙区(岩手県第二区、宮城県第二区、東京都第八区、長野県第三区、三重県第二区、和歌山県第二区、熊本県第二区、大分県第二区、宮崎県第二区及び鹿児島県奄美群島区)において議員定数をそれぞれ一人減員し(いわゆる九増一〇減)、従来奄美群島区に属していた鹿児島県名瀬市及び大島郡は当分の間鹿児島県第一区に属することとし、これにより、衆議院議員の総定数は、当分の間一人減員して五一一人とするというものであった。

この改正の結果、平成二年の国勢調査の人口(確定値)に基づく選挙区別議員一人当たりの人口の較差は最大一(愛媛県第三区)対二・七七(東京都第一一区)となった。なお、平成二年国勢調査の人口(確定値)による衆議院の各選挙区別の人口、定数、議員一人当たりの人口の状況は、別表記載のとおりであった。

(四) その後人口の異動により、平成五年七月の本件選挙当時においては、選挙区別議員一人当たりの選挙人数の較差は、最大一(愛媛県第三区)対二・八二(東京都第七区)であった。

2  ところで、最高裁判所の昭和五八年一一月七日大法廷判決(民集三七巻九号一二四三頁)及び昭和六〇年七月一七日大法廷判決(民集三九巻五号一一〇〇頁)は、昭和五〇年改正法によって、昭和四五年一〇月実施の国勢調査による人口に基づく選挙区間の議員一人当たりの人口の最大較差が従前の一対四・八三から一対二・九二に減少したこと等を理由として、昭和五一年大法廷判決が違憲と判断した右改正前の議員定数配分規定の下における投票価値の不平等状態は、右法改正により一応解消されたものと評価し得る旨判示している。同判決は、右改正の目的が専ら較差の是正を図ることにあったことからすると、改正後の較差に示される投票価値の不平等は国会の合理的裁量の限界を超えるものと推定すべき程度に達しているとはいえないこと、国会が直近の国勢調査の結果に基づいて右改正を行ったものであることなどを挙げて、従前の違憲状態が一応解消されたと評価したものである。また、最高裁判所の平成五年一月二〇日大法廷判決(民集四七巻一号六七頁)も、昭和六一年改正法によって、昭和六〇年一〇月実施の国勢調査による人口に基づく選挙区間の議員一人当たりの人口の最大較差が従前の一対五・一二から一対二・九九に減少したこと等を理由として、昭和六〇年大法廷判決が違憲と判断した右改正前の議員定数配分規定の下における投票価値の不平等状態は、右法改正により解消されたものと評価することができる旨判示している。

これらの大法廷判決に示された趣旨に従うと、平成四年の法改正は、専ら違憲状態ともいうべき較差の現状を是正することを目的とした当面の暫定措置として、直近に実施された国勢調査の結果に基づいて行われたものであり、右改正法の下で生じている投票価値の不平等の程度も、大法廷判決により違憲状態が一応解消されたと認められた較差値を下まわることになるので、本件議員定数配分規定は、立法の当時もまた本件選挙の当時も憲法に反するものとはいえないと判断される。

原告は、議員の定数配分に当たっては、非人口的要素を考慮すべきでなく、全国の国勢調査人口を議員総数で除して得た議員一人当たりの人数を基準にすべきことを主張する。定数配分の本来のあり方に関する当裁判所の考えは後記3のとおりであるが、平成四年改正法は、前記のとおり、専ら当面の較差を是正するために、議員一人当たり人口が多い方の上位九選挙区につき定数増、少ない方の上位一〇選挙区につき定数減をしたものであって、その限りでは極めて単純かつ機械的な方法によった暫定措置である。国会がそれ以外の非人口的要素を考慮して配分を行ったというものではない。そして、昭和六一年改正の際に行われた前記の定数是正に関する決議は、衆議院が立法府としての立場で自らの適切妥当な立法権の行使についての決意を表明したものであり、重い政治的意味を有するというべきであるが、前記1(二)で認定した平成四年改正までの経過と、議員定数の配分が複雑多様な考慮要素と影響をもつという事柄の性質に照らして考えると、昭和六一年の改正から平成四年改正に至るまでの間の国会の対応が、先の定数是正に関する決議を無視して抜本改正の検討を怠りこれを放置してきたとまで断じるのは、当を得ないというべきである。右の事情の下では、国会が今後さらに抜本改正のための検討を続けることを前提として、当面違憲状態とされるまでに拡大した較差の現状を是正するための暫定措置を講じることとしたことをもって、立法裁量権の行使として是認する余地のない不合理なものであるということはできない。

3  議員定数の配分において投票価値の平等が確保されていることは、代議制民主主義の下における国家意思形成の正当性を基礎づける中心的な要素をなすものであり、国家統治の基本にかかわるのに対して、議員定数の配分において考慮される他の要素は、その性質上このような国家意思の正当性とは直接かかわりのないその時々の社会経済情勢や政治情勢によるのである。したがって、憲法上国家意思形成の中心機関とされる衆議院について、これを構成する議員の選挙の定数を配分するに当たっては、投票価値の平等は、他の考慮要素とは異なる本質的な重要性を有するのであって、議員定数について、他の要素に重点をおいた配分を行い、投票価値の平等につき他の要素と同列又は第二次的な考慮をしたにとどまるときは、その配分は、憲法一四条の定める法の下の平等の原則に反するばかりでなく、憲法前文及び四三条一項等の定める国家統治の基本にもとるものとして、違憲の評価を免れないものである。

このような観点からすると、衆議院議員の定数を、人口以外の他の要素をも考慮して配分するとしても、選挙権として一人に二人分以上のものが与えられることがないという基本的な平等原則をできる限り遵守すべきものであって、このことは、議員定数の配分をめぐる世論の等しく指摘するところであるばかりでなく、これまでの公選法の議員定数の改正をいずれも緊急措置あるいは当分の間の暫定措置であるとして、その抜本改正を必要としてきた国会自身の認識でもあったといえる。

このような議員定数の配分の本来のあり方及びこの問題が取り上げられるようになってからすでに相当の期間を経ようとしている現状を考慮すると、当裁判所としては、最高裁判所がこの問題について前記のような判断を従前示していたことからして、国会がこれを参考にして前記1(二)のような経過の下で暫定的に立法した本件議員定数配分規定を直ちに違憲とすることは相当とはいえないものの、今後速やかに実現すべき選挙制度の抜本改正における定数配分についても、これまでのような基準で違憲判断をするのが相当であるとはいえず、基本的には前記のような世論及び国会自身の認識に即した基準によるべきものと考える。

三  結論

以上のとおりであって、従前の経緯に鑑み本件議員定数配分規定を憲法に違反するというべきものでないから、本件議員定数配分規定の下において施行された本件選挙について、これを違憲、無効であるとすることはできない。

よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(別紙一)

原告の主張

一 憲法の要請する議員定数配分

我が国の国民に平等な選挙権が保障されている(日本国憲法第一四条一項、一五条一・三項、四四条但書)とは言っても、具体的に選挙権が行使される段階で完全な選挙権の平等を保障することは、「一選挙人一代表者」制を採らない限り不可能である。

しかしながら、国民全てに現時点における最大限の選挙権の平等を保障することは可能なのである。そして、現時点で採り得る方法の中で、最も選挙権の平等を保障する定数配分をし、全選挙区の国民に可能な限りの平等を保障することは、憲法の要請であり、国民主権、代表民主主義と直結する重大問題なのである。また、選挙権行使が、個人の尊厳(日本国憲法第一四条)に基づく政治的自己実現の最たるものであることからも、選挙権平等の問題は極めて重要である。とすれば、「基準人数に一議員を保障する」後述の「基準人数論」は、全ての選挙区の国民に現時点における最大限の選挙権の平等を保障する方法として、まさに憲法原則と言えるのである。

二 「基準人数」という概念を用いた議員定数配分(基準人数論)

既に訴状において述べている(請求原因四1)「基準人数」(国勢調査人口を議員総数で割った議員一人当たりに対応する人口値)という概念を用いることによって、現時点で採り得る方法の中で、最も平等を保障する定数配分をすることができる。この定数配分方法を仮に「基準人数論」と名付けるとして、この基準人数論をより詳しく説明すると、以下のようになる。

1 「基準人数論」は、既に選挙区の区割りがなされていることを前提として、全ての選挙区における選挙権の平等を図る方法である。

2 「基準人数論」は、国勢調査人口を議員総数で割った議員一人当たりに対応する人口値(これを「基準人数」という)に対して、必ず一名の議員を与える議員定数配分方法である。

3 「基準人数論」では、「基準人数に一議員を保障する」ため、「過不足人数」を算出してこの数値(但し、プラス・マイナスは問題にしない)が「基準人数」以上でないことを確認する。

過不足人数=各選挙区の人数-基準人数×その選挙区の議員数

右計算の結果、過不足人数(余った人数や不足人数)が「基準人数」を超えてはならないのは当然である。なぜなら、「基準人数」分の人数が余る(プラスである)とすると、その選挙区の国民に憲法上保障されている「一議員」が与えられなかったことになり、「基準人数に一議員を保障する」憲法原則に違反するからである。逆に、「基準人数」分の人数が不足する(マイナスである)とすると、その選挙区の国民に本来与えられるべきでない「一議員」が与えられてしまったことになり、これまた「基準人数に一議貝を保障する」憲法原則に違反するからである。

4 右3をよりわかりやすくするために、右過不足人数から過不足議員数を算出して議員定数配分の適正を確認することができる。

過不足議員数=過不足人数÷基準人数

過不足議員数は(プラス・マイナスは問題にしないで)一未満である必要がある。この理由は、右3の過不足人数が「基準人数」分を超えてはならない理由と同じである。

即ち、議員の一人分以上が余る(プラスである)とすると、その選挙区の国民に憲法上保障されている「一議員」が与えられなかったことになり、「基準人数に一議員を保障する」憲法原則に違反するからである。逆に、議員の一人分以上が不足する(マイナスである)とすると、その選挙区の国民に本来与えられるべきでない「一議員」が与えられてしまったことになり、これまた「基準人数に一議員を保障する」憲法原則に違反するからである。

5 この基準人数論を具体的に実践したのが本書末尾添付の別紙表である。別紙表は、(1)本件選挙当時の議員定数配分を平成二年国勢調査人口を資料に算出したものと、(2)議員定数を「基準人数」に基づいて配分し直したものとを記載している。

この表から明らかなように「基準人数」を用いて議員定数を配分することによって、過不足議員数がプラスマイナス一以上の区は〇になり、「基準人数に一議員を保障する」ことができ、真に憲法の国民主権の実現を図ることができるのである。

他方、本件選挙における配分では、表のようにプラスマイナス一以上が五三区(表では省略しているが、プラスマイナス二以上は一四区)にも及んでおり、選挙権の平等が図られているとは到底言い難く、むしろ選挙権の平等は侵害されていると言わざるを得ない。

「基準人数に一議員を保障」して憲法の根本原理である国民主権を可能な限り貫くことができる「基準人数論」に基づく配分と、本件選挙における配分とのどちらを選択すべきかは表の数値から明らかである。

三 投票価値論に対する批判

1 ところで、選挙権の平等を論じる場合に、投票価値という考え方がある。議員一人当たりの選挙人数の較差(定数較差)が、最大と最小で一対Aであり、投票価値が最小の選挙区はA倍の票をもってはじめて最大の選挙区の一票の投票価値とイコールになる、Aが二未満であれば合憲であるとか、三以下程度であれば合憲であるとかいう見解(仮に「投票価値論」という)である。確かに何も基準がないよりは一対Aなる基準があるほうがましかも知れない。

しかし、最大と最小のみを問題にするのでは、最大最小以外の選挙区は全く考慮されないという不都合がある。

2 不都合の例をあげてみよう。

例えば、本件選挙で最大の投票価値がある「愛媛3区」と最小の投票価値しかない「東京11区」との定数較差は一対二・七六八七で、「愛媛3区」の一票に相当するためには「東京11区」では二・七六八七票も必要となる。そして、これが憲法の許容範囲であると定義する。そして、右二区以外の全選挙区の定数較差につき一を超えて二・七六八七未満としつつも(=右許容範囲内を保ちながらも)、仮に「愛媛3区」を含む西日本の全選挙区の定数較差を可能な限り一に近づけ、他方「東京11区」を含む東日本の全ての選挙区の定数較差を可能な限り二・七六八七に近づけるとする。即ち、西日本の選挙区に対し東日本の選挙区の二倍以上の投票価値を与えるのである。

かかる議員定数配分も右許容範囲内であって憲法に違反しないのであろうか。違反しないとの結論はあまりに不都合である。かかる西日本の選挙区のみを不当に優遇した議員定数配分は、最大最小の比が一対二・七六八七であるとしても、最大最小以外の選挙区において西日本と東日本とで不当な差別がなされており、違憲と言うべきではないのだろうか。

右例は、最大最小以外の選挙区は全く考慮されない投票価値論に内在する不都合なのである。これに対し、「基準人数論」では、右例は明らかに違憲と言えよう。なぜなら、全ての選挙区に最大限に平等な選挙権を保障しないからである。

そもそも「基準人数」という概念を用いることによって、投票価値の最大と最小のみでなく全ての選挙区にとって、選挙権の平等を最大限に保障し得るのである。かかる「基準人数」という概念を用いた定数配分こそ、選挙権の平等を最大限に保障し得るものとして、現時点における憲法の要請原則と言えるのである。

3 もっとも、別紙表の「最高過不足議員数」欄からもわかるとおり、「基準人数論」は、ある選挙区の国民が他の区の国民より投票価値が不当に高い一票を持つことを許さないのであるから、投票価値論となんら敵対するものではない。むしろ、「基準人数論」は、投票価値論をも加味しつつ(最大最小の選挙区の定数較差を狭くしつつ)、一歩進んで最大最小区以外の全ての選挙区についても選挙権の平等をより実現し得るものなのである。

四 議員定数配分規定についての立法裁量論(司法判断について)

このように可能な限り選挙権の平等を実現してくれる「基準人数」という概念を用いる議員定数配分方法(「基準人数論」)を採用しないことの「合理的理由」が、いったいどこに存すると言うのであろうか。

この点、国会の裁量論の問題であるとの見解もあるが、同意できない。

確かに選挙区画を設ける段階では、一定の限度で政治的考慮が働くこともあろう。しかしながら、少なくとも、既に決定されている選挙区を前提に議員定数を配分する段階にあっては、一切の政治的考慮等を排除した、単なる数値、計算の問題が残るに過ぎないと言うべきなのである。

また、選挙権の平等は、我が国の基本原理である国民主権、代表制民主主義と直結する重大事項であるのだから、裁判所は積極的に司法判断をして、国民主権実現に対する障害を除去すべきである。仮にかかる重大事項において、裁判所が司法判断を控えるとするなら、国民主権、代表民主制を守る最後の砦である裁判所が自ら憲法違反を容認したことになるのではないだろうか。

選挙区の区割り等については、単に数値のみの問題とは言い難く、政治的考慮も働き、裁判所が判断するには困難が伴う場合もあろうが、選挙区の区割りが既になされている前提で議員定数を配分するには、人口、議員数、基準人数等、数値のみを問題にすればいいのであるから、司法に多大な負担を強いるものではないのである。

五 主張立証責任の転換について

そもそも選挙権の平等を制限するもの、特に議員定数配分に関する規定の「合理的理由」の主張立証責任は、国や選挙管理委員会側にあると考える。選挙人側は、現時点で採り得る方法(しかも国に不可能を強いるような方法ではなくて)の中で、最も平等を保障する定数配分ができることを主張立証さえすれば、その最も平等を保障する定数配分を採り得ない「合理的理由」を国等が主張立証すべきなのである。「基準人数に一議員を保障する」こと(「基準人数論」)は、まさに憲法の要請であり、民主主義の根幹に関わるものであるから、右主張立証責任の転換は、極めて重要である。

このように国民主権等憲法原理と直結する議員定数配分に対して、選挙人に大きく門戸を開いて可能な限り選挙権の平等を図り、我が国の国民主権実現を図ることもまた憲法の要請なのではないだろうか。

六 「基準人数論」を採用することの容易性

コンピューター技術の発達した現代社会において、前記「基準人数」を算出して議員定数配分を行うことは極めて容易なことである。そして、議員定数の配分に当たっては「基準人数」によって比例的配分をすることが、国民の選挙権行使を真に憲法の国民主権、代表民主制の具体化とする最も適切な方法であることは明らかなのである。それにも拘らず右算出を怠り、「保障可能な選挙権の平等」を侵害しているのは、立法府の怠慢以外の何物でもない。

このように判断が極めて容易でかつ国民主権等憲法原理と直結する議員定数配分に対して真に国民主権を実現する司法判断が下されることは、憲法の番人たる裁判所に対し国民が大きく期待するところである。

とにかく、現時点で採り得る方法(しかも国に不可能を強いるような方法ではなくて)の中で、選挙人にとって、最も平等を保障する定数配分方法が存在しているのである。判例等が例示する非人口的要素の大半は、多数決の原理、選挙区制、立候補制等の問題、即ち議員定数配分段階以前の問題であり、議員定数配分段階での問題ではない。

「基準人数」を使うことで最大限に「保障可能な選挙権の平等」を図れる以上、人口、議員数、基準人数等の数値以外の要素を安易に怠慢の理由にして「保障可能な選挙権の平等」を侵害する立法府の行為、即ち本件改正規定は、憲法の国民主権の精神に反する違憲なものである。

<別紙表>

本件選挙における議員定数配分と「基準人数」に基づく議員定数配分との比較

最高 過不足議員数 過不足議員数が+-1以上の区数 (+-2以上も含む) 過不足議員数が+-0.5以上 +-1未満の区数

(1) 3.556 53区 44区

(2) 0.532 0区 3区

<注>・(1):本件選挙における議員定数配分

(2):「基準人数」を用いた議員定数配分

・平成2年国勢調査人口により選挙区人数を算出する。

・選挙区総数:129区

・「基準人数」=全国人口÷議員総数

241,901=123,611,167÷511

・過不足人数:各選挙区の人数-基準人数×その選挙区の議員数

・過不足議員数:過不足人数÷基準人数

(別紙二)

被告の主張

第一 はじめに

本準備書面において、被告は、平成四年法律第九七号(以下「平成四年改正法」という。)による改正後の公職選挙法(以下「公選法」という。)一三条、別表第一、平成四年改正法附則二項及び七項ないし九項に定められた議員定数配分規定(以下「本件議員定数配分規定」という。)が何ら憲法に違反するものでないから、これに基づき平成五年七月一八日に施行された衆議院議員総選挙(以下「本件選挙」という。)が無効とされる余地のないことについて主張する。

第二 議員定数配分に際しての国会の裁量性

一 憲法上保障される選挙権の平等

憲法一四条一項、一五条一項、三項及び四四条但書の各規定からすると、憲法が選挙権の平等を保障していることは明らかであり、この点は最高裁判所の各判決(最高裁昭和五一年四月一四日大法廷判決・民集三〇巻三号二二三ページ(以下「五一年大法廷判決」という。)、同昭和五八年一一月七日大法廷判決・民集三七巻九号一二四三ページ(以下「五八年大法廷判決」という。)、同昭和六〇年七月一七日大法廷判決・民集三九巻五号一一〇〇ページ(以下「六〇年大法廷判決」という。)、同昭和六三年一〇月二一日第二小法廷判決・民集四二巻八号六四四ページ(以下「六三年第二小法廷判決」という。)、同平成五年一月二〇日大法廷判決・判例時報一四四四号二三ページ(以下「平成五年大法廷判決」という。)によれば、各選挙人の投票価値の平等もまた憲法の要求するところであると解されている。

しかしながら、このことは、憲法上、異なる選挙区間における投票価値が形式的な平等を欠く状態となれば、直ちに違憲として許容されないということを意味するものではなく、議員定数配分規定が国会の裁量権の合理的な行使として是認し得るものであれば、憲法の許容するものとして、合憲と評価されるべきであることは当然である。

以下この関係をふえんする。

二 衆議院議員の選挙における選挙区割と議員定数配分に関する国会の裁量について

1 議会制民主主義の下においては、選挙によって選ばれた代表を通じて国民の利害や意見が国政の運営に反映されるのであり、選挙制度上、一方においては、国民の多様な利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させることが要請されるが、反面、政治の安定という要請もあることから、国民の代表たる議員の定数配分の決定は、単なる数字上の操作だけでは解決できない高度の政治的、技術的要素を多く含むこととなる。したがって、議会制民主主義の下における選挙制度は、相互に矛盾する特質を持つ右のような要請を考慮しながら、究極において国民にとっての総合的な利益を実現するべく、それぞれの国において、その国の事情に即して具体的に決定されるべきである。そして、国民代表の的確な選任という要請を満たす選挙制度の設定は、現代のような多元的社会においては、国民の政治的意思が、様々な思想的・世界観的対立、多種多様の利益集団の対立、都市部対農村部の対立等を通じて複雑かつ多様な形で現れるため、極めて多種多方面にわたる配慮を必要とするのである。さらに、政党政治の発達に伴い、政党が現実に果たしていると評される国民意思の媒介等の機能も国民代表の観念を考える場合には無視し難い状況にあるものといえる。。他方、対外的には世界情勢の流動化や複雑化、国内的には福祉国家体制の進展に伴い、国家の社会、経済の各分野への積極的関与の度合いが高まり、政治の効率的な運営のために政局の安定も強く要請されている。

このように、選挙制度は、国民の多様な利害や意見の公正かつ効果的な反映等を考慮し、国民代表の的確な選任、政局の安定という諸要請を、それぞれの国の政治状況に照らし、多種多様で複雑微妙な政策的及び技術的考慮の下に、全体的、総合的見地から考察し、適切に調整した上で決定されるべきものである。その意味では、各国を通じ普遍的に妥当する一定の選挙制度の形態が存在するものではないというべきである。

2 憲法は、以上のような理由から、国会両議院の議員の選挙については、議員の定数、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとし(四三条二項、四七条)、両議院の議員の各選挙制度の仕組みの具体的決定を、原則として国会の裁量にゆだねている。したがって、投票価値の平等は、憲法上、右選挙制度の決定のための唯一、絶対の基準となるものでなく、原則とし、国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものと解される(前掲各最高裁判決参照)。

衆議院議員の定数配分の均衡の問題は、代表民主制下における選挙制度の在り方を前提とした国会の裁量権の範囲の問題としてとらえられるべきものであり、憲法の要請する平等原則も、具体的に決定された選挙区割と議員定数配分下における選挙人の投票価値の不平等が、国会において、前述の選挙制度の目的に照らし、通常考慮し得る諸般の要素をしんしゃくしてもなお、一般的に合理性を有するものとは到底考えられない程度に達しているか否かの問題であって、もともと客観的基準になじまず、また、これが存しない分野である。

3 このような意味から、衆議院議員の選挙については、いわゆる中選挙区単記投票制が採用されているところであり、この場合において、具体的にどのように選挙区を定め、これに配分すべき議員数を決定するかについては、異なる選挙区間の投票価値の平等を憲法が要求していると解する以上、各選挙区間の選挙人数又は人口数と配分議員定数との比率の平等が最も重要かつ基本的な基準とされるのであるが、それ以外にも、国会が正当に考慮し得る要素は少なくないはずである。五一年大法廷判決も、国会において実際上考慮され、かつ、考慮されてしかるべき要素について、「殊に、都道府県は、それが従来わが国の政治及び行政の実際において果たしてきた役割や、国民生活及び国民感情の上におけるその比重にかんがみ、選挙区割の基礎をなすものとして無視することのできない要素であり、また、これらの都道府県を更に細分するにあたっては、従来の選挙の実績や、選挙区としてのまとまり具合、市町村その他の行政区画、面積の大小、人口密度、住民構成、交通事情、地理的状況等諸般の要素を考慮し、配分されるべき議員数との関連を勘案しつつ、具体的な決定がされるものと考えられるのである。更にまた、社会の急激な変化や、その一つのあらわれとしての人口の都市集中化の現象などが生じた場合、これをどのように評価し、前述した政治における安定の要請をも考慮しながら、これを選挙区割や議員定数配分にどのように反映させるかも、国会における高度に政策的な考慮要素の一つであることを失わない。」と判示し、衆議院議員の選挙に関する選挙区割や議員定数配分の決定は、極めて多種多様、複雑微妙な政策的及び技術的考慮要素が含まれているとし、国会に広範な立法裁量権を認めている(なお、六三年第二小法廷判決、平成五年大法廷判決もほぼ同趣旨を判示している。)。

そして、国会が具体的に決定した議員定数配分規定が、その裁量権の合理的な行使として是認されるかどうかを裁判所が判断するに当たっては、事柄の性質上、特に慎重であることを要し、限られた資料に基づき、限られた観点から、たやすくその決定の適否を判断すべきものでないことはいうまでもない(五一年大法廷判決参照)。

4 以上から明らかなとおり、具体的に決定された選挙区割と議員定数の配分下における選挙人の投票価値の不平等が、国会において通常考慮し得る前述のような諸要素をしんしゃくしてもなお、一般的に合理性を有するものとは到底考えられない程度に達しているときに限り、右のような不平等は、国会の合理的裁量を超えているものと判断すべきものである。

第三 本件議員定数配分規定の合憲性

一 平成四年改正法と合憲性について

本件選挙が依拠した本件議員定数配分規定は、前述のとおり、平成四年改正法により改正されたものである。それによれば、平成二年一〇月実施の国勢調査(以下「国調」という。)人口に基づく選挙区間における議員一人当たりの人口の較差(以下「定数較差」という。)は、最大一(愛媛県第三区)対二・七七(東京都第一一区)であり、本件選挙時の選挙人名簿登録者数に基づく較差(以下「選挙人数比」ともいう。)は、最大一(愛媛県第三区)対二・八二(東京都第七区)であった。

このことを前提とすると、平成四年改正法による改正当時はもちろんのこと、本件選挙当時においても右定数較差が示す選挙区間における投票価値の不平等の程度が、前述のような国会の裁量権の性質に照らすならば、国会において通常考慮し得る諸般の要素をしんしゃくしてもなお一般的に合理性を有するものとは到底考えられない程度に達していたとはいえない。以下、具体的な理由について述べる。

二 平成四年改正法の成立経過

1 平成四年の公選法改正に先立つ昭和六一年法律第六七号による公選法改正により、昭和六〇年国調人口による定数較差は最大一(長野県第三区)対二・九九(神奈川県第四区)であったが、その後の人口異動により、較差は拡大していった。すなわち、平成二年に実施された国調人口による定数較差は、最大一(東京都第八区)対三・三八(千葉県第四区)となっていた。

2 このような衆議院議員の各選挙区間の定数不均衡状態に対し、各政党においても、その是正は緊急かつ重要な課題であるとして、その検討に取り組んだ。しかし、定数是正問題は、選挙制度の根幹にかかわるものであり、また、改正に伴う影響も大きいものがあること等から、成案をとりまとめるまでに日時を要したものの、その検討の結果を踏まえて、第一二五回国会において、定数是正案が自由民主党の議員提案により行われた。右法案は、議員総定数を五一一人とし、較差を二倍程度に近づけるよう漸次是正するという考え方のもとに、定数較差の著しい選挙区について、その是正を行うとするものであった。

右法案は、平成四年一一月三〇日、衆議院公職選挙法改正に関する調査特別委員会(以下「調査特別委員会」という。)において提案趣旨説明が行われ、各党から同法律案に対する質疑が行われた。

3 ところで、これより先、最高裁判所は、まず、五八年大法廷判決で、昭和五五年施行の総選挙における定数較差の最大値が千葉県第四区と兵庫県第五区の間の三・九四倍(選挙人数比)に及んでいたことについて、「本件選挙当時の右投票価値の較差は、憲法の選挙権の平等の要求に反する程度に至っていた。」と判示した(ただし、憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったものと断定することは困難であるとして、違憲とはしなかった。)。続いて、第一〇二回国会終了後間もない昭和六〇年七月一七日の大法廷判決で、昭和五八年施行の総選挙における定数較差の最大値が千葉県第四区と兵庫県第五区の間の四・四〇倍(選挙人数比)に及んでいたことについて、選挙の効力は事情判決により無効とされなかったものの、「本件選挙当時において選挙区間に存した投票価値の不平等状態は、憲法の選挙権の平等の要求に反する程度に至っていたもの」というべきであり、「憲法上要求される合理的期間内の是正が行われなかったものと評価せざるを得」ず、「本件議員定数配分規定は、本件選挙当時、憲法の選挙権の平等の要求に反し、違憲と断定するほかはない。」と判示し、さらに補足意見として、現行定数配分規定を是正しないまま、選挙が執行された場合には選挙の効力を否定せざるを得ないこともあり得るし、当該選挙を直ちに無効とすることが相当でないとみられるときは選挙無効の効果は一定期間経過後に発生するという内容の判決もできないものではないとする意見が付されるなど厳しい見解が示されており、その結果、定数是正は、一層急務な問題となっていた。このような状況は、前記昭和六一年の公選法改正によりいったん緩和されたものの、以後も問題は継続した。

4 その後、調査特別委員会では、減員対象区に委員を派遣して関係者から意見を聴取し、また、増員区の関係者を参考人として招き、意見を聴取するなどした。

かかる経過を踏まえ、平成四年一一月四日に招集された前記第一二五回国会では、定数是正問題が重要課題の一つとされ、各党の代表質問や予算委員会における質問でも取り上げられ、その後、前述の法案の審議は調査特別委員会において行われた。同委員会では、右法案についていろいろな角度から論議がなされた。

一一月二七日、第一二五回臨時国会において、自由民主党から衆議院議員の定数是正を内容とする「公職選挙法の一部を改正する法律案」が衆議院に提出され、一一月三〇日、調査特別委員会において、同法律案について趣旨説明がなされ、続いて各党から同法律案に対する質疑が行われた。翌一二月一日、調査特別委員会が開催され、参考人の意見陳述とそれに対する質疑、提案者に対する質疑の終了後、同法案について採決が行われ、自由民主党、公明党、民社党の賛成で可決された。

また、一二月三日、衆議院本会議において、自由民主党提案の衆議院議員の定数是正を内容とする「公職選挙法の一部を改正する法律案」が可決された。

参議院においては、一二月八日、選挙制度に関する特別委員会において提案者からの法律案の提案理由説明及び野党各党からの質疑が行われた後、自由民主党、公明党、民社党、連合、日本新党の賛成で可決され、さらに、一二月一〇日開催された本会議において、賛成多数で可決され、ここに平成四年改正法が成立し、懸案の定数是正の実現をみたのである。

三 平成四年改正法制定当時における本件議員定数配分規定の合憲性

1 昭和六一年改正法における定数較差について六三年第二小法廷判決が「昭和六一年改正法による議員定数配分規定の改正によって、昭和六〇年国勢調査の要計表(速報値)人口に基づく選挙区間における議員一人当たりの人口の較差は最大一対二・九九となり、本件選挙当時において選挙区間における議員一人当たりの選挙人数の較差は最大一対二・九九であったのであるから、前記昭和五八年大法廷判決及び昭和六〇年大法廷判決が、昭和五〇年法律第六三号による公職選挙法の改正の結果、昭和四五年一〇月実施の国勢調査による人口に基づく選挙区間における議員一人当たりの人口の較差が最大一対二・九二に縮小することとなったこと等を理由として、前記昭和五一年大法廷判決により違憲と判断された右改正前の議員定数配分規定の下における投票価値の不平等状態は右改正により一応解消されたものと評価できる旨判示する趣旨に徴して、本件議員定数配分規定が憲法に反するものとはいえないことは明らかというべきである。」と判示しており、右の判示も、本件選挙の合憲性を考察する上で基本的な基準となるべきことはもちろんである。前記のごとき国会の採用した定数較差の目安及び方針を含めて、その合憲性が確認されているところである。

2 平成四年改正法は、衆議院議員の総定数を公選法四条一項の規定にかかわらず、当分の間五一一人とし、議員一人当たり人口の多い選挙区から順に九選挙区について選挙すべき議員の数をそれぞれ一人増員し、議員一人当たり人口の少ない選挙区から順に一〇選挙区について選挙すべき議員の数をそれぞれ一人減員することとした。

この改正の結果、議員一人当たり人口の選挙区間の最大較差は、一(東京都第八区)対三・三八(千葉県第四区)から一(愛媛県第三区)対二・七七(東京都第一一区)に縮小し、前記各最高裁判決が示す定数較差の合憲性に係る許容範囲の目安を相当程度の余裕をもってクリアーするものとなった。

3 平成四年改正法によっても、選挙人数の少ない選挙区に、選挙人数の多い選挙区よりも、より多くの議員数が配分されている、いわゆる「逆転現象」が存在していることは事実であるが、投票価値の平等の問題は、あくまでも各選挙区の議員一人当たりの選挙人数又は人口の較差という観点から考えるべきであり、この点を特に問題とする必要はない。

四 本件選挙当時における本件議員定数配分規定の合憲性

右のとおり、平成四年改正法における本件議員定数配分規定については、その改正当時において合憲であったことが明白であるが、さらに、本件選挙当時においても違憲状態にはなかったことは次の点からも明らかである。

本件選挙は、平成四年改正法の公布の日(平成四年一二月一六日)から起算すればほぼ七か月後であり、選挙区間における投票価値の較差の拡大は、漸時的に生じた選挙区相互間の人口の異動を原因とするものであることは疑いないところであるが、選挙実施時点における定数較差の数値を改正当時に目安とされた定数較差の数値と比較した場合、ある程度の拡大ないし縮小といった偏差が生じるのはやむを得ない状況であるということができるから、本件選挙当時における議員定数配分規定は、改正法自体の合憲性が肯定され、かつ改正当時における定数較差に近似する数値である限りにおいて、合憲と評価し得る範囲内にあるものというべきものである。したがって、本件選挙当時における前記のごとき〇・七七から〇・八二(最大較差二・八二と二・〇〇の差)への較差の拡大が本件選挙時における公選法の違憲性を導くような事情とまではいえないことは明らかである。

五 結論

以上のとおり、本件議員定数配分規定については、平成四年の法改正当時はもちろんのこと、本件選挙当時においてもまた、前記各大法廷判決が示した基準である「具体的に決定された選挙区割と議員定数の配分の下における選挙人の投票価値の不平等が、国会において通常考慮しうる諸般の要素をしんしゃくしてもなお、一般的に合理性を有するものとはとうてい考えられない程度に達している」とは到底認められないのであり、したがって、本件選挙が無効とされる理由は全くないことは明らかである。

別表 衆議院議員選挙区別議員1人当たり人口の順位

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