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東京高等裁判所 平成5年(行ケ)31号 判決

長崎県諫早市天満町13番33号

原告

進栄株式会社

同代表者代表取締役

古賀康夫

同訴訟代理人弁護士

水田耕一

同弁理士

林宏

同弁理士

内山正雄

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 麻生渡

同指定代理人

常盤務

中村彰宏

井上元廣

関口博

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成4年審判第341号事件について平成5年1月11日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和57年11月10日、名称を「蒸気ボイラ装置」とする考案(以下「本願考案」という。)につき実用新案登録出願(実願昭57-170064号)をしたところ、平成2年4月9日出願公告(実公平2-12402号)されたが、登録異議の申立があり、平成3年9月30日拒絶査定を受けたので、平成4年1月9日審判を請求した。特許庁は、この請求を平成4年審判第341号事件として審理した結果、平成5年1月11日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年3月3日原告に送達された。

2  本願考案の要旨

蒸発量を制御するための自動燃焼装置を備えたボイラと蒸気を使用するユーザーとをボイラからの蒸気を飽和熱水として蓄積するスチームアキュムレータを介して接続し、該スチームアキュムレータに、ボイラの自動燃焼装置に接続され、スチームアキュムレータの内部圧力及びその勾配を検出すると共に、その圧力及び勾配に応じて該自動燃焼装置を制御する圧力制御装置を付設し、該圧力制御装置に、自動燃焼装置を直接制御して、上記内部圧力が高圧レベルを越えて上昇しかつその圧力勾配が正のときには、蒸発量を減少させ、一方、上記内部圧力が低圧レベルを越えて下降しかつその圧力勾配が負のときには、蒸発量を増大させる制御機能をもたせたことを特徴とする蒸気ボイラ装置。(別紙図面1参照)

3  審決の理由の要点

(1)  本願考案の要旨は前項記載のとおりである。

(2)  特開昭57-112601号公報(以下「引用例1」という。)、特開昭57-62303号公報(以下「引用例2」という。)及び特許第84951号明細書(以下「引用例3」という。)には、それぞれ下記の考案が記載されている。

〈1〉 引用例1

蒸発量を制御するための自動燃焼装置を備えた複数個のボイラ10a~10cと蒸気を使用するユーザーとをボイラからの蒸気を飽和熱水として蓄積するアキュムレータ14を介して接続し、該アキュムレータに、ボイラの自動燃焼装置に接続され、各ボイラからの流量、アキュムレータの内部圧力及びその勾配を検出すると共に、その流量信号、圧力及び勾配に応じて該自動燃焼装置を制御する流量指示調節装置を付設し、該流量指示調節装置は、流量弁の開閉動作を介して結果として自動燃焼装置を作動させ、かつ「ボイラの作動または停止の作動信号を発する」ように構成して、上記内部圧力が高圧レベルを越えて上昇しかつその圧力勾配が正のときには、蒸気流入量を減少させ、一方、上記内部圧力が低圧レベルを越えて下降しかつその圧力勾配が負のときには、蒸気流入量を増大させる制御機能をもたせたことを特徴とする蒸気ボイラの運転システム。(別紙図面2参照)

〈2〉 引用例2

燃料制御弁8を備えたボイラ1と蒸気を使用するユーザーとをボイラからの蒸気を蓄積するアッキュムレータ2を介して接続し、該アッキュムレータに、ボイラの自動燃焼装置を構成する燃料制御弁に接続され、アッキュムレータの内部圧力を検出すると共に圧力伝送器6を介してその圧力に応じて該燃料制御弁を制御する制御装置3を付設し、該圧力伝送器及び制御装置を介して、燃料制御弁を直接制御させる蒸気ボイラ装置。(別紙図面3参照)

〈3〉 引用例3

蒸発量を制御するための自動燃焼装置を備えた燃焼室14の汽缶10と蒸気を使用する需要側とを燃焼室からの蒸気を蓄積する蒸気蓄積装置50を介して接続し、該蒸気蓄積装置は、燃焼室の自動燃焼装置に接続され、蒸気蓄積装置の内部圧力を検出すると共に、その圧力に応じて該自動燃焼装置を直接制御する制御機能を持たせた蒸気設備。(別紙図面4参照)

(3)  本願考案と引用例1に記載の考案とを対比すると、後者の「アキュムレータ14」及び「蒸気ボイラの運転システム」は、前者の「スチームアキュムレータ」及び「蒸気ボイラ装置」に相当するから、両者は、「蒸発量を制御するための自動燃焼装置を備えたボイラと蒸気を使用するユーザーとをボイラからの蒸気を飽和熱水として蓄積するスチームアキュムレータを介して接続し、該スチームアキュムレータに、ボイラの自動燃焼装置に接続され、スチームアキュムレータの内部圧力及びその勾配を検出すると共に、その圧力及び勾配に応じて該自動燃焼装置を制御する装置を付設し、該装置に、自動燃焼装置を制御して、上記内部圧力が高圧レベルを越えて上昇しかつその圧力勾配が正のときには、蒸発量を減少させ、一方、上記内部圧力が低圧レベルを越えて下降しかつその圧力勾配が負のときには、蒸発量を増大させる制御機能をもたせたことを特徴とする蒸気ボイラ装置。」である点で一致する。

そして、両者は下記の点で相違している。

A 自動燃焼装置の制御に当たって、前者は、「スチームアキュムレータの内部圧力及びその勾配」の信号による「圧力制御装置」によって行うようにしているのに対し、後者は「スチームアキュムレータの内部圧力及びその勾配」の信号に加えてボイラからの流量の信号による「流量指示調節装置」によって行うようにしている点。

B 自動燃焼装置の制御に当たって、制御装置から、前者は「直接」行っているのに対して、後者は流量弁の開閉による流量の調節を介して間接的に行い、かつ「ボイラの作動または停止の作動信号」に関しては「直接」行っている点。

(4)  そこで、上記相違点A、Bについて検討する。

蒸気ボイラ装置の自動燃焼装置の制御に当たって、「アキュムレータの圧力情報のみ」で制御を行うこと、及び該情報を自動燃焼装置に送ることによって自動燃焼装置を圧力制御装置により「直接制御」するようなことは、共に引用例2及び引用例3に記載されているように本出願前周知であるから、上記周知技術を用いることにより自動燃焼装置を制御するに当たって、後者における「スチームアキュムレータの内部圧力及びその勾配」の信号に加えてボイラからの流量の信号による「流量指示調節装置」によって行う構成に代えて、前者のように「スチームアキュムレータの内部圧力及びその勾配」の信号による「圧力制御装置」により行うこと、及び、後者における流量弁の開閉による流量の調節を介して間接的に行う構成に代えて前者のように「直接」行うように構成するようなことは共に当業者にとって格別困難なことではない。

そして、本願考案の効果は、引用例1に記載の考案及び引用例2、3に記載の周知技術がそれぞれ有する効果から当業者であれば予想できる程度のものである。

(5)  したがって、本願考案は引用例1に記載された考案及び引用例2、3に記載された本出願前周知の技術から当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

4  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点(1)は認める。同(2)は争う。同(3)のうち、引用例1の「アキュムレータ14」が本願考案の「スチームアキュムレータ」に相当することは認めるが、その余は争う。同(4)、(5)は争う。

審決は、引用例1の記載内容を誤認して、本願考案と引用例1記載の考案との一致点及び相違点の各認定を誤り、更に、引用例2及び引用例3の記載内容を誤認して、相違点A、Bについての判断を誤り、かつ、本願考案の効果の顕著性を看過して、本願考案の進歩性を否定したものであるから、違法として取り消されるべきである。

(1)  一致点及び相違点の各認定の誤り(取消事由1)

〈1〉 引用例1には、複数のボイラを運転するための制御システムに関する考案が記載されており、そのシステムは、次の2つの制御システムから構成されるものとされている。

ⅰ その1は、ボイラからアキュムレータへの蒸気流入量に基づいて、複数のボイラの作動の開始又は停止及び飽和運転状態への固定又は解除の制御を行うものである。

甲第4号証(引用例1)第3頁右上欄1行ないし11行、同頁左下欄3行ないし7行、同頁左下欄11行ないし右下欄1行の各記載から明らかなように、複数のボイラの運転の制御においては、複数のボイラ中の1つのボイラの作動を開始させ、又は停止させること、及び他の1つのボイラを飽和運転状態に固定すること又はその固定を解除することが行われるにとどまり、スチームアキュムレータの内部圧力及びその勾配に応じて個々のボイラの自動燃焼装置を制御し、ボイラの蒸発量を増加させ又は減少させる制御は行われない。

ⅱ その2は、アキュムレータの内部圧力及びその圧力勾配に基づいて、ボイラからアキュムレータへの蒸気流入量を増加させ、又は減少させるものである。

甲第4号証第2頁右下欄下から4行ないし第3頁左下欄13行の記載から明らかなように、アキュムレータへの蒸気流入量の制御においては、流量弁を開放し又は絞ることによって、アキュムレータへの蒸気流入量を増加させ又は減少させ、もってアキュムレータの内部圧力を正常値に復帰させることが行われるにとどまり、ボイラの自動燃焼装置を制御して、ボイラの蒸発量を増加させ又は減少させることは行われない。

〈2〉 審決は、引用例1の蒸気ボイラの運転システムが、「(アキュムレータの)内部圧力が高圧レベルを越えて上昇しかつその年力勾配が正のときには、蒸気流入量を減少させ、一方、上記内部圧力が低圧レベルを越えて下降しかつその圧力勾配が負のときには、蒸気流入量を増大させる制御機能」を有していると認定しているが、上記のとおり、アキュムレータの内部圧力とその勾配に基づく制御は、流量弁22の開閉により、ボイラからアキュムレータへの蒸気流入量を増減させる制御について行われるものである。その場合、当該蒸気流入量の増減がボイラのドラム内圧力を変動させ、その変動がドラム内圧力の許容変動幅を超えたとき、それをボイラの自動燃焼装置が検知してボイラの蒸発量を増加させ又は減少させるきっかけとなることはあるけれども、その制御は、審決のいうような流量指示調節装置がボイラの自動燃焼装置に接続され、これを制御することによって行われるというものではないのはもとより、流量弁の開閉動作を介して自動燃焼装置を制御するものとみることができるものでもない。また、引用例1の蒸気ボイラの運転システムにおいて、流量指示調節装置がボイラの自動燃焼装置に接続され、これを制御することによって行われる制御は、前述のとおり、ボイラからアキュムレータへの蒸気流入量の変動に基づいて行われる制御であって、その制御は、複数のボイラの作動の開始又は停止及び飽和運転状態への固定又は解除をするものであり、ボイラからアキュムレータへの蒸気流入量を減少又は増加させるものではない。

引用例1には、制御に用いる要素、制御に用いる手段及び制御の対象をそれぞれ異にする2つの制御システムが明確に区別して記載されているのに、審決は、それらを混同してその内容を認定し、上記制御システムその2において、自動燃焼装置が制御されるもののように誤って認定したものである。

〈3〉 上記のとおり、引用例1記載の考案において、「ボイラの自動燃焼装置に接続され、該自動燃焼装置を制御する装置」としてスチームアキュムレータに付設されている流量指示調節装置19が、自動燃焼装置を制御して行う制御は、複数のボイラの作動の開始又は停止及び飽和運転状態への固定又は解除であって、「(アキュムレータの)内部圧力が高圧レベルを越えて上昇しかつその圧力勾配が正のときには、蒸発量を減少させ、一方、蒸気内部圧力が低圧レベルを越えて下降しかつその圧力勾配が負のときには、蒸発量を増大させる」というものではない。

したがって、審決のした引用例1の記載内容の認定、及び一致点の認定は誤りである。

〈4〉 審決は、相違点Aの認定に関して、制御に用いる要素及び手段が、本願考案においては、「スチームアキュムレータの内部圧力及びその勾配」の信号による「圧力制御装置」であるのに対して、引用例1のそれは、「スチームアキュムレータの内部圧力及びその勾配」の信号に加えて、ボイラからの流量の信号による「流量指示調節装置」であるとしているが、この認定は、次のとおり誤りである。

審決は、引用例1記載の考案について、制御の手段を、「スチームアキュムレータの内部圧力及びその勾配の信号に加えて、ボイラからの流量の信号」として、両者を併列的に扱っているが、この場合、ボイラからアキュムレータへの蒸気流入量に基づいて制御を行うのは、その蒸気流入量を、第1のボイラの最大供給量又は第1及び第2のボイラの最大供給量の合計と比較して、第2のボイラ又は第3のボイラの作動を開始させ、又は作動を停止させる必要があるかどうかを判断させるためである。

したがって、制御の要素として用いられるのは、ボイラからアキュムレータへの蒸気流入量であることは、上記制御の目的に照らして明白であり、審決の前記認定にはこの点についての認識が欠けているものといわなければならない。すなわち、引用例1のものについて、審決は、「ボイラからの流量の信号による『流量指示調節装置』によって行うようにしている」とのみ認定しなければならなかったのである。

〈5〉 審決は、相違点Bの認定に関して、引用例1記載の考案は、自動燃焼装置を制御するに当たって、流量弁の開閉による流量の調節を介して間接的に行うものとしているが、誤りである。

引用例1記載の考案において、アキュムレータの内部圧力及びその勾配により制御されているのは流量弁にすぎないから、これをもって、「自動燃焼装置を制御する」ものとみることができないことは明らかである。アキュムレータの内部圧力及びその勾配に基づく流量弁の開閉は、それによるボイラからアキュムレータへの蒸気流入量の増減が、ボイラのドラム内圧力を、その許容変動幅を超えて変動させる場合には、その限度において、自動燃焼装置によるボイラの蒸発量の増加又は減少の制御のきっかけになるということはできるが、アキュムレータの内部圧力及びその勾配がボイラの蒸発量を制御するものとは到底いうことができないのである。

審決が、「間接的に行い」としている意味は明らかではないが、アキュムレータの内部圧力及びその勾配がボイラの蒸発量の増減のきっかけになるというだけの意味であれば、認定自体格別の意味を有しない。また、間接的とはいえ、そこに「制御」が行われているという意味であるならば、上述のとおり、アキュムレータの内部圧力及びその勾配に基づいて、流量弁を開閉したからといって常にそれに追随して蒸発量の増加又は減少を生じるというわけではなく、流量弁の開閉と蒸発量の増減との間には必然的な相関関係がみられないものであるから、「流量弁の開閉による流量の調節を介して間接的に」制御が行われるとみることが当を得ないことは明らかである。

(2)  相違点A、Bに対する判断の誤り(取消事由2)

〈1〉 引用例2記載の考案において、燃料制御弁8の制御は、アッキュムレータの内部圧力が通常圧力域値内にある限り、蒸気流量伝送器によって計測されるプロセス蒸気流量(Gi)の変動に基づいて行われるのであって、アッキュムレータの内部圧力による制御は、プロセス蒸気流量(Gi)が増加して、ボイラ負荷設定値Gsが、Gs>ΣGi/tとなる状態が続き、アッキュムレータの内部圧力が限界を超えて減少した場合、又はプロセス蒸気流量(Gi)が減少して、ボイラの負荷設定値Gsが、Gs<ΣGi/tとなる状態が続き、アッキュムレータの内部圧力が限界を超えて増大した場合に行われるのである。

したがって、「蒸気ボイラ装置の自動燃焼装置の制御に当たって、『アキュムレータの圧力情報のみ』で制御を行うこと」が、引用例2によって本出願前周知であったということはできない。

しかも、引用例2記載の考案において、プロセス蒸気流量(Gi)の変動に基づく制御と、アッキュムレータの内部圧力の変動に基づく制御とは、不可分の一体をなしているものであって、引用例2に接した当業者が、その中から後者のみを取り出し、アッキュムレータの内部圧力のみに基づいてボイラの自動燃焼装置の制御を行うことに考え到ることはあり得ない。この点からみても、「蒸気ボイラ装置の自動燃焼装置の制御に当たって、『アキュムレータの圧力情報のみ』で制御を行うこと」が引用例2に記載されているとすることはできない。

〈2〉 また、引用例3記載の考案において、燃料制御弁及び空気統制用「ダムパー」の制御は、蒸気蓄積装置50の内部圧力が正規操業状態の範囲内にある限り、高圧渠38内の蒸気流量の変動に基づいて行われるのであって、蒸気蓄積装置の内部圧力による制御は、蒸気蓄積装置の内部圧力が正規操業状態の範囲を逸脱して増加又は減少した場合にのみ行われるものである。

したがって、「蒸気ボイラ装置の自動燃焼装置の制御に当たって、『アキュムレータの圧力情報のみ』で制御を行うこと」が、引用例3によって本出願前周知であったということはできない。

しかも、引用例3記載の考案において、高圧渠内の蒸気流量の変動に基づく制御と、蒸気蓄積装置の内部圧力の変動に基づく制御とは、不可分の一体をなしているものであって、引用例3に接した当業者が、その中から後者のみを取り出し、蒸気蓄積装置の内部圧力のみに基づいて汽缶の燃料制御弁及び空気統制用「ダムパー」の制御を行うことに考え到ることはあり得ない。

〈3〉 上記のとおり、引用例2及び3には、蒸気ボイラ装置の自動燃焼装置の制御に当たって、「アキュムレータの圧力情報のみ」で制御を行うことの記載も示唆もなく、このことが周知であるということはできない。

したがって、審決の周知技術の認定には誤りがあるものというべく、これを前提とする相違点A、Bに対する判断も誤っているものといわざるを得ない。

しかも、引用例1記載の考案において、「ボイラからの流量」の信号により流量指示調節装置が行う制御は、前述のとおり、複数のボイラの作動の開始又は停止及び飽和運転状態への固定又は解除であって、ボイラの蒸発量の増加又は減少の制御を行うものではない。

審決は、引用例1記載の考案における上記制御が自動燃焼装置を制御してボイラの蒸発量を増減させるもののごとく誤認したために、ボイラの蒸発量の増減の制御を行う引用例2及び3に記載の周知技術を引用例1記載の考案に適用し得るかのように判断したものであって、その判断の誤りは明らかである。

更に、引用例1記載の考案においては、流量弁が開閉したからといって常にそれに追随して蒸発量の増加又は減少を生ずるというわけではなく、かつ時間的にみても、量的にみても、流量弁の開閉と蒸発量の増減との間には、必然的な相関関係がみられないものであるから、「流量弁の開閉による流量の調節を介して間接的に」蒸発量の増加又は減少の「制御」、すなわち自動燃焼装置の制御が行われているものとみることはできないのである。したがって、審決が、引用例1記載の考案において、自動燃焼装置の制御を「間接的に行う構成」があるとしているのは誤りであり、したがってまた、本願考案が引用例1記載の考案の間接的な制御を「直接」行うものに代えたものとみている点も誤りであるといわなければならない。

(3)  効果の顕著性の看過(取消事由3)

〈1〉 引用例1記載の考案の2つの制御システム中、複数のボイラの作動の開始又は停止及び飽和運転状態への固定又は解除の制御を行うものは、本願考案と全く別個の技術思想に属するから、両者はそれぞれ別個の効果を有し、当業者が、引用例1記載の考案の効果から本願考案の効果を予想することはできない。

また、引用例1記載の考案の2つの制御システム中、アキュムレータの内部圧力及びその勾配に基づいてボイラからアキュムレータへの蒸気流入量を増加又は減少させる制御を行うものは、制御のための要素がアキュムレータの内部圧力及びその勾配である点において本願考案と同一であるが、引用例1記載の考案は、ボイラからアキュムレータへの蒸気流入量を増加又は減少させてアキュムレータの内部圧力を正常値に復帰させるものであるのに対し、本願考案は、ボイラの自動燃焼装置を直接制御して蒸発量を増大させ又は減少させるものであるから、両者はそれぞれ別個の効果を有し、当業者が引用例1記載の効果から本願考案の効果を予想することはできない。

なお、引用例1記載の考案の場合、流量弁の開閉によるボイラからアキュムレータへの蒸気流入量の増減に伴って、ボイラのドラム内圧力に変動を生じ、それが許容変動幅を超えたとき自動燃焼装置が働いてボイラの蒸発量を増減させるという結果を生ずることはあるが、その場合、ボイラの蒸発量の増減という結果の発生は緩慢かつ不正確である。それに対して本願考案は、その構成により、ボイラにおける蒸発量の迅速かつ正確なコントロールを可能にしたものである。

以上のとおり、本願考案は、引用例1記載のアキュムレータの内部圧力及びその勾配に基づいてボイラからアキュムレータへの蒸気流入量を制御するものに比して、ボイラの蒸発量の迅速かつ正確なコントロールを実現した点で優れた効果を有することは明らかである。

〈2〉 また、引用例2及び3に記載のごとき周知技術においてボイラの燃焼の制御のために用いられている制御の要素のうち、アキュムレータの内部圧力の変動のみを仮に取り出して、それにより制御を行うものとすれば、ボイラの燃焼を、最大から最小へ、また最小から最大へと変更するという極限状態から極限状態への制御を行うことになるので、到底効率のよい制御を行うことができない。これに対し、本願考案においては、アキュムレータの内部圧力が、予め設定された高圧レベルPHを超えた状態にある場合にも、圧力勾配が負又は零である場合には、蒸発量を減少させることをしないで、その際の蒸発量を維持し、圧力勾配が正の場合に限って蒸発量を減少させるものとし、また、アキュムレータの内部圧力が、予め設定された低圧レベルPLを下回った状態にある場合にも、圧力勾配が正又は零である場合には、蒸発量を増大させる制御を行わないで、その際の蒸発量を維持し、圧力勾配が負の場合に限って蒸発量を増大させるものとしているから、ボイラの蒸発量が不必要に減少したり、増大したりすることがなく、過剰制御を防止することができるのである。

したがって、本願考案が引用例2及び3記載の周知技術(但し、それらの周知技術の中からアキュムレータの内圧のみによる燃焼の制御を取り出して行うものとした場合)に比して、優れた効果を有することは明らかである。

〈3〉 以上のとおりであるから、本願考案の効果は、引用例1に記載の考案及び引用例2、3に記載の周知技術がそれぞれ有する効果から当業者であれば予想できる程度のものであるとした審決の判断は誤りてある。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1ないし3は認める。同4は争う。審決の認定判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

2(1)  取消事由1について

〈1〉 引用例1には、「流量指示調節装置19は、上記流量加算器18からの流量信号と圧力検出装置20からの圧力信号とによってアキュムレータ14の一次側蒸気管21に接続されている流量弁22を開閉し、アキュムレータ14に流入する蒸気流量をコントロールすると共に、上記流量信号と圧力信号とが後述するような特定の関係になったときにボイラの作動または停止のための警報信号または制御信号を発するようにしたもの」(第2頁左下欄8行ないし16行)という記載と共に、一連の記載として次のように示されている。

(a) 「この状態で低圧ユーザ15の負荷が変動すると、アキュムレータ14からの蒸気流出量が増減するためその内圧Apもそれに伴って変動する。そして、例えば、負荷の増大によってアキュムレータ14の内圧Apが低くなり、それが第3図(B)に示すように設定された低圧レベルLよりも低下し且つその勾配が負を示していると、これらの圧力信号が圧力検出装置20から流量指示調節装置19に入力されてこの流量指示調節装置19から流量弁22の開放信号が発せられ、流量弁22は徐々に開放されてアキュムレータ14への流入量は増大し、その内圧Apは低圧レベルLより高い正常値に復帰する。逆に、負荷が減少して内圧Apが別に設定された高圧レベルHを超え、且つその勾配が正を示している場合には、流量弁22が絞られてアキュムレータ14への蒸気流入量が制限され、その内圧Apは正常値へ復帰する。」(第2頁右下欄下から4行ないし第3頁左上欄13行)

(b) 「いま、負荷が大幅に増大した場合には、第3図(B)におけるイ部のように、アキュムレータ14の内圧Apが低圧レベルLよりも低く且つその勾配が負を示している場合に、上記の如く流量弁22の開放によりアキュムレータ14への蒸気流入量は増大するが、『この状態において、』(注 『 』は被告において付加したもの)流量加算器18によって検出される第1のボイラ10aからの蒸気流量が、第3図(A)に示すようにその最大供給量10T/Hを超えた場合には、それが流量指示調節装置19で検出され、この流量指示調節装置19から警報信号またはボイラの作動信号が発せられ、この信号に基づいて第3図(C)に示すように第2のボイラ10bが新たに作動せしめられる。」(第3頁左上欄14行ないし右上欄8行)

上記一連の連続した記載から明らかなように、引用例1に記載の蒸気ボイラの運転システムは、上記(a)の蒸気ボイラ全体の制御を行う基本的なシステムと、上記(b)の蒸気ボイラの運転台数を増減する付加的なシステムとから構成されている。

審決は、上記(a)の蒸気ボイラ全体の制御を行うシステムについて認定したものであり、ただ、基本的なシステムだけでは不十分であることから、「『ボイラの作動または停止の作動信号を発する』ように構成して」とし、上記付加的なシステムを付け加えたものであって、引用例1の記載内容の認定に誤りはない。

したがって、この認定を前提とする、一致点及び相違点の各認定も正当である。

〈2〉 原告は、引用例1記載の考案においては、アキュムレータの内部圧力及びその圧力勾配がボイラの蒸発量を制御するものではない旨主張する。

しかし、同考案において、ボイラからアキュムレータへの蒸気流入量の増減に追随して、必然的にボイラにおける蒸発量の増減を実現することは、引用例1の「本発明は、負荷変動に追随して複数のボイラを効率良く運転することのできる運転システムの提供を目的とするもので、スチームアキュムレータを用いてその内圧の変化により現在の負荷変動を検出すると共に、流量検出器によってボイラからの総蒸気流量を検出し、これらに基づいて複数のボイラを作動または停止させることにより必要量の蒸気がユーザに提供されるようにした」(第2頁左上欄2行ないし10行)との記載を併せて考察すれば明らかであり、アキュムレータの内部圧力及びその勾配による蒸気流入量の増減に伴うボイラ内の圧力変動を介した間接的な制御も、制御であることに変わりがない。

引用例1記載の考案において、アキュムレータの内部圧力及びその勾配により制御されているのは、流量弁の開閉によるボイラからアキュムレータへの蒸気流入量の増減を介してのボイラからの蒸発量、及び、直接的には個々のボイラの自動燃焼装置の作動の開始又は停止及び飽和運転状態への固定又は解除である。

したがって、原告の上記主張は理由がない。

(2)  取消事由2について

〈1〉 審決は、引用例2を、ボイラからアキュムレータへの流量信号を用いていないこと、及びアキュムレータの内圧の増減が直接ボイラの燃焼制御に作用する周知例として示したものであるが、同引用例記載の考案においては、アッキュムレータ内の圧力の増減に関連して、燃料制御弁を直接制御している。

また、引用例3は、アキュムレータの内圧によりボイラの自動燃焼装置を直接制御する技術が本出願前周知であることを示すために例示したものであるが、同引用例の、「蓄積装置内の圧力が、一定範囲内にある限りは、流れを制御する調整機構には何等の作用なきも、圧力の増加大なるときは・・流れの制御機構の作用に関係なく・・汽缶の火を弱くす。・・蓄積装置内の圧力が、著しく低下すれば・・汽缶の火を強くし・・」(第5頁2行ないし9行)との記載をみても、同引用例記載の考案においては、蒸気蓄積装置の内圧に応じて自動燃焼装置を直接制御している。

〈2〉 乙第1号証の第181頁ないし第189頁に掲載の「第8章 ボイラ自動制御とアキュムレータの併用」の項の記載によれば、ボイラの自動燃焼制御の直接制御用のコントローラとしてアキュムレータ圧力を用いることは、本出願前に周知の事項である。

〈3〉 したがって、審決の周知事項の認定に誤りはなく、したがって、該周知事項を前提とする相違点A、Bに対する審決の判断に誤りはない。

(3)  取消事由3について

審決では、本願考案の効果は、引用例1記載の考案及び周知技術がそれぞれ有する効果から当業者であれば予想できる程度のものと判断しているのであって、引用例1記載の考案が有する効果のみをもって判断しているのではない。

また、本出願前周知の技術は、「アキュムレータ内の圧力信号を用いた直接ボイラの自動燃焼装置を制御する技術」であり、この技術が、本願考案の「迅速な蒸発量のコントロール」等の効果を有していることは明らかである。

したがって、本願考案の効果に関する審決の判断に誤りはない。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本願考案の要旨)及び同3(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

2  本願考案の概要

甲第2号証(本願考案の実用新案出願公告公報)及び第3号証(平成4年2月7日付け手続補正書)によれば、本願考案は、スチームアキュムレータを使用した蒸気ボイラ装置の改良に関するものであること、スチームアキュムレータの内部圧力及びその勾配を検出すると共に、その圧力及び勾配に応じてアキュムレータの一次側に設けた流量弁を開閉させ、蒸気の流入量をコントロールすることにより、結果的にボイラの自動燃焼装置を作動させて蒸発量をコントロールするようにした公知の蒸気ボイラ装置においては、スチームアキュムレータの内部圧力の今後の変動を予測して制御のための信号を得るようにしているため、早期にスチームアキュムレータ圧力を設定された目標範囲内に戻すためには有効であるが、その信号により一次側管路の流量弁の開口量を制御しているため、迅速に蒸発量をコントロールすることが困難であり、一方、アキュムレータの内圧を検出して直接ボイラの自動燃焼装置を制御する公知のものも、内部圧力が上限の設定レベルを越えた領域において、圧力勾配が負であるにもかかわらず不必要に蒸発量を減少させ、逆に、内部圧力が下限の設定レベルよりも低下した領域において圧力勾配が正の時に不必要に蒸発量を増大させるという問題があるとの知見のもとに、本願考案は、これらの問題を解消し、特に、スチームアキュムレータの内部圧力及びその勾配を検出してそれらの信号によりボイラにおける蒸発量を制御し、スチームアキュムレータの内部圧力の変動に対応する追従性を高めるに際し、上記信号に見合う追従性をもったボイラ制御手段を採用し、追従性に関してバランスのとれた装置により、ボイラにおける蒸発量を一層迅速かつ正確にコントロールできるようにすることを目的として、上記要旨のとおりの構成を採用したものであることが認められる。

3  取消事由1について

(1)  まず、引用例1(甲第4号証)の記載内容について検討する。

〈1〉  甲第4号証によれば、引用例1記載の考案は「蒸気ボイラの運転システム」に関するものであって、その特許請求の範囲の記載は、「複数のボイラをスチームアキュムレータを介してユーザに接続し、各ボイラからの蒸気供給管に蒸気流量検出器をそれぞれ接続すると共に、ボイラとアキュムレータとの間に蒸気流量を制御するための流量弁を設け、ユーザにおける負荷変動に応じて変動するアキュムレータの内圧のレベル及び勾配を圧力検出装置によって検出すると同時に、アキュムレータに流入するボイラからの総蒸気流量を上記流量検出器が接続された流量加算器によって検出し、上記圧力検出装置からの圧力信号と流量加算器からの流量信号とに基づいて複数のボイラを作動または停止させることを特徴とする蒸気ボイラの運転システム。」(別紙図面2参照)というものであること、引用例1には、第2図に示す第1実施例の構成及び作用について、次のとおり記載されていることが認められる。

(a) 「流量指示調節装置19は、上記流量加算器18からの流量信号と圧力検出装置20からの圧力信号とによってアキュムレータ14の一次側蒸気管21に接続されている流量弁22を開閉し、アキュムレータ14に流入する蒸気流量をコントロールすると共に、上記流量信号と圧力信号とが後述するような特定の関係になったときにボイラの作動または停止のための警報信号または制御信号を発するようにした」(第2頁左下欄8行ないし16行)

(b) 「第2図において、各ボイラ10a~10cがいずれも10T/Hの容量をもつものと仮定し、さらに高圧ユーザ13における負荷変動はほとんどないものと仮定すると、両ユーザ13、15における蒸気使用量が10T/H以下の状態では第1のボイラ10aのみが運転され、他のボイラ10b、10cは停止している。・・・この状態で低圧ユーザ15の負荷が変動すると、アキュムレータ14からの蒸気流出量が増減するためその内圧Apもそれに伴って変動する。そして、例えば、負荷の増大によってアキュムレータ14の内圧Apが低くなり、それが第3図(B)に示すように設定された低圧レベルLよりも低下し且つその勾配が負を示していると、これらの圧力信号が圧力検出装置20から流量指示調節装置19に入力されてこの流量指示調節装置19から流量弁22の開放信号が発せられ、流量弁22は徐々に開放されてアキュムレータ14への流入量は増大し、その内圧Apは低圧レベルLより高い正常値に復帰する。逆に、負荷が減少して内圧Apが別に設定された高圧レベルHを超え、且つその勾配が正を示している場合には、流量弁22が絞られてアキュムレータ14への蒸気流入量が制限され、その内圧Apは正常値に復帰する。」(第2頁右下欄1行ないし第3頁左上欄13行)

(c) 「いま、負荷が大幅に増大した場合には、第3図(B)におけるイ部のように、アキュムレータ14の内圧Apが低圧レベルLよりも低く且つその勾配が負を示している場合に、上記の如く流量弁22の開放によりアキュムレータ14への蒸気流入量は増大するが、この状態において、流量加算器18によって検出される第1のボイラ10aからの蒸気流量が、第3図(A)に示すようにその最大供給量10T/Hを超えた場合には、それが流量指示調節装置19で検出され、この流量指示調節装置19から警報信号またはボイラの作動信号が発せられ、この信号に基づいて第3図(C)に示すように第2のボイラ10bが新たに作動せしめられる。このとき、2つのボイラ10a、10b間の干渉を防止するため、第1のボイラ10aは自動燃焼装置が解除されて飽和運転状態に固定される。」(第3頁左上欄14行ないし右上欄11行)

(d) 「そして、負荷が更に増大すると、同様に流量加算器18からの流量信号と圧力検出装置20からの圧力信号とに基づいて第3のボイラ10cが新たに作動され、第2のボイラ10bは飽和運転状態に固定される。次に、3台のボイラの作動状態において負荷が大幅に減少し、アキュムレータ14の内圧Apが高圧レベルHより高くなると共にその勾配が正を示し、且つ流量加算器18における総蒸気流量が20T/Hを下回った場合には、流量指示調節装置19から警報信号またはボイラの停止信号が発せられ、第3のボイラ10cが停止される。このとき、第2番目のボイラ10bは飽和運転状態への固定から自動燃焼装置に切換えられる。・・・同様にしてさらに負荷の減少が生じると第2のボイラ10bが停止される。」(第3頁左下欄3行ないし右下欄1行)

〈2〉  引用例1の特許請求の範囲の記載及び第2図、並びに上記(a)ないし(d)の記載によれば、引用例1には、蒸発量を制御するための自動燃焼装置を備えた複数個のボイラ10a~10cと蒸気を使用するユーザーとをボイラからの蒸気を飽和熱水として蓄積するアキュムレータ14を介して接続し、該アキュムレータに、ボイラの自動燃焼装置に接続され、各ボイラからの流量、アキュムレータの内部圧力及びその勾配を検出する流量指示調節装置を付設した蒸気ボイラの運転システムが記載されていることは明らかである。

そして、上記(a)ないし(d)の記載によれば、(b)には、アキュムレータの内部圧力及びその勾配が流量指示調節装置によって検出され、同装置の指示に基づく流量弁の開閉動作によって、ボイラからアキュムレータへの蒸気流入量が制御されるシステム(以下「システム甲」という。)が示されており、このシステムは、引用例1の個々の蒸気ボイラの制御に通じるものであること、(c)及び(d)には、アキュムレータの内部圧力及びその勾配と、ボイラからアキュムレータへの蒸気流入量が流量指示調節装置によって検出され、同装置の制御により、直接的に個々のボイラの自動燃焼装置の作動の開始又は停止及び飽和運転状態への固定又は解除を行うシステム(以下「システム乙」という。)が示されており、このシステムは、蒸気ボイラの運転台数を増減するためのものであること、が認められる。

なお、引用例1記載の「アキュムレータ14」が本願考案の「スチームアキュムレータ」に相当することは、当事者間に争いがない。

(2)  ところで、上記のとおり、システム甲において、アキュムレータの内部圧力とその勾配が流量指示調節装置によって検出され、これによって直接的に制御されているのは、流量弁の開閉動作によるボイラからアキュムレータへの蒸気流入量の増減であるが、そのことは、単にアキュムレータの内部圧力を正常値に復帰させるものというにとどまらず、蒸気流入量の増減が、結果的にボイラの自動燃焼装置を作動させ、ボイラにおける蒸発量の増減をもたらしていることは明らかである(原告も、ボイラからアキュムレータへの蒸気流入量の増減が、ボイラのドラム内圧力を、その許容変動幅を超えて変動させる場合には、自動燃焼装置によるボイラの蒸発量の増加又は減少のきっかけとなることは、自認している。)。そして、引用例1の「本発明は、負荷変動に追随して複数のボイラを効率良く運転することのできる運転システムの提供を目的とするもので、スチームアキュムレータを用いてその内圧の変化により現在の負荷変動を検出すると共に、流量検出器によってボイラからの総蒸気流量を検出し、これらに基づいて複数のボイラを作動または停止させることにより必要量の蒸気がユーザに提供されるようにしたことを特徴とするものである。」(第2頁左上欄2行ないし10行)、「本発明に係る運転システムによれば、現在の負荷に追随して複数のボイラを運転することができ、従来のように蒸気使用量を予測しながら運転する必要がないため、その運転効率を著しく高めることができる。」(第4頁左上欄1行ないし5行)との各記載からも明らかなように、引用例1記載の考案は、負荷変動に追随して効率良くボイラを制御して、必要量の蒸気を提供することを課題としているものであって、このことに照らしても、引用例1記載の考案は、ボイラからアキュムレータへの蒸気流入量の増減に追随してボイラにおける蒸発量の増減が得られるものとして、アキュムレータの内部圧力及びその勾配の信号を利用しているものと認めるのが相当である。

そうすると、システム甲において、アキュムレータの内部圧力及びその勾配を検出する流量指示調節装置は、流量弁の開閉による蒸気流入量の増減を介して、自動燃焼装置を作動させボイラにおける蒸発量の増減を得ているものといい得るのであって、これをもって、間接的に自動燃焼装置を制御して蒸発量を制御しているものと評価して妨げはないものというべきである。

ちなみに、本願明細書にも「スチームアキュムレータの内部圧力及びその勾配を検出すると共に、その圧力及び勾配に応じてアキュムレータの一次側に設けた流量弁を開閉させ、蒸気の流入量をコントロールすることにより、結果的にボイラの自動燃焼装置を作動させて蒸発量をコントロールするようにした蒸気ボイラ装置は既に知られている」(甲第3号証第2頁11行ないし18行)と記載されているように、上記のような場合、当業者には、蒸発量はコントロール、すなわち制御される対象として理解され、扱われているものと認められる。

(3)  上記(1)、(2)によれば、審決が、システム甲及び乙を総合したものとしてした、引用例1の記載内容の認定、及びそれを前提とする一致点の認定に誤りはないものというべきである。そして、引用例1記載の考案においては、自動燃焼装置の制御について、スチームアキュムレータの内部圧力及びその勾配の信号とボイラからの流量の信号による流量指示調節装置によって行い、また、システム甲においては、流量弁の開閉による蒸気流入量の調節を介して間接的に行い、システム乙においては、ボイラの作動または停止の作動信号を直接行っているから、相違点A、Bの認定についても誤りはない。

(4)  原告は要するに、引用例1の蒸気ボイラの運転システムにおいて、アキュムレータの内部圧力とその勾配に基づく制御は、流量弁の開閉により、ボイラからアキュムレータへの蒸気流入量を増減させる制御について行われるものであって、その場合、当該蒸気流入量の増減が、ボイラのドラム内圧力を変動させ、その変動がドラム内圧力の許容変動幅を超えたとき、それをボイラの自動燃焼装置が検知してボイラの蒸発量を増加させ又は減少させるきっかけとなることはあっても、常にそれに追随して蒸発量の増加又は減少を生じるというわけではなく、流量弁の開閉と蒸発量の増減との間には必然的な相関関係がみられないものであるから、「流量弁の開閉による流量の調節を介して間接的に」制御が行われるとみることはできないこと、及び、流量指示調節装置がボイラの自動燃焼装置に接続され、これを制御することによって行われる制御は、複数のボイラの作動の開始又は停止及び飽和運転状態への固定又は解除であって、「(アキュムレータの)内部圧力が高圧レベルを越えて上昇しかつその圧力勾配が正のときには、蒸発量を減少させ、一方、上記内部圧力が低圧レベルを越えて下降しかつその圧力勾配が負のときには、蒸発量を増大させる」というものではないことを理由として、引用例1の記載内容の認定、一致点及び相違点の各認定の誤りを主張する。

前述のとおり、システム乙において、ボイラの自動燃焼装置に接続されている流量指示調節装置は、直接自動燃焼装置を制御して、複数のボイラの作動の開始又は停止及び飽和運転状態への固定又は解除を行っており、この点は原告主張のとおりである。しかし、システム甲において、アキュムレータの内部圧力とその勾配に基づく制御は、直接的には、流量弁の開閉によるボイラからアキュムレータへの蒸気流入量の増減であるが、流量弁の開閉による蒸気流入量の増減を介して間接的に、自動燃焼装置を作動させて蒸発量の増減を得ているものであり、間接的とはいえ、自動燃焼装置を制御しているものと評価し得るものであるから、原告の上記主張は採用できない。

(5)  以上のとおりであって、取消事由1は理由がない。

4  取消事由2について

(1)  甲第5号証によれば、引用例2には、燃料制御弁8を備えたボイラ1と蒸気を使用するユーザーとをボイラからの蒸気を蓄積するアッキュムレータ2を介して接続し、該アッキュムレータに、ボイラの自動燃焼装置を構成する燃料制御弁に接続され、該燃料制御弁を制御する制御装置3を付設したものが記載されているが、燃料制御弁8の制御は、アッキュムレータの内部圧力が通常圧力域値内にある限り、蒸気流量伝送器7によって計測されるプロセス蒸気の流量の変動を制御の要素として燃料制御弁8の制御を行い、アッキュムレータの内部圧力が限界を超えて減少し又は増大した場合にのみ、ボイラの負荷設定値(ボイラの蒸発量の設定値)Gsが、Gmax(最大負荷設定値)又はGmin(最小負荷設定値)となるように、燃料制御弁8の制御を行うものであることが認められる。

また、甲第6号証によれば、引用例3には、蒸発量を制御するための自動燃焼装置を備えた燃焼室14の汽缶10と蒸気を使用する需要側とを燃焼室からの蒸気を蓄積する蒸気蓄積装置50(アキュムレータに相当)を介して接続し、該蒸気蓄積装置は燃焼室の自動燃焼装置に接続された蒸気設備が記載されているが、同引用例記載の燃料制御弁及び空気統制用「ダムパー」の制御は、蒸気蓄積装置の内部圧力が正規操業状態の範囲内にある限り、高圧渠内の蒸気流量ができるだけ一定となるように、ベンチュリメーターで測定される蒸気流量の変動に応じて、汽缶の蒸発量を増加し又は減少する制御を行い、蒸気蓄積装置の内部圧力が蒸気範囲を超えて変動した場合にのみ、ボイラの燃焼を最大まで増加させ、又は最小まで低下させる制御を行うものであることが認められる。

審決は、相違点A、Bを判断するについて、蒸気ボイラ装置の自動燃焼装置の制御に当たって、「アキュムレータの圧力情報のみ」で制御を行うこと、及び該情報を自動燃焼装置に送ることによって自動燃焼装置を圧力制御装置により「直接制御」することが、本出願前周知であることを例示するものとして引用例2及び3を挙示しているが、上記のとおり、引用例2及び3記載のものは、蒸気流量の変動とアキュムレータの圧力の変動との2つの要素に基づいて燃焼制御が行われているものであって、アキュムレータの圧力情報のみにより自動燃焼装置を直接制御しているものではないから、これらの引用例からは、上記の点が周知であると認定することはできない。

(2)  ところで、本願明細書には、本願考案の従来例の説明中に「アキュムレータの内圧を検出して直接ボイラの自動燃焼装置を制御することも従来から知られている」(甲第3号証第4頁14行ないし16行)と記載されていること、乙第1号証(前田利春著「アキュムレータ」・昭和39年10月25日日刊工業新聞社初版発行)の第8章「ボイラ自動制御とアキュムレータの併用」の項には、「マスターコントローラによりアキュムレータ圧力とボイラ燃料量との関係を第8・7図(a)のように作動させるとアキュムレータを使ってボイラを完全に自動制御することができる。図に示すようにアキュムレータを用いる場合はボイラ蒸発量をできるだけ一定に運転させるという原則から、アキュムレータの作動圧力の上限ならびに下限付近のみで燃料を比例的に増減させ、中間広範囲の圧力では、一定燃焼を行なわせる方法である。」(第184頁下から2行ないし第185頁8行)、「アキュムレータ設置によって工場の負荷変動が吸収されるので、ボイラACCはアキュムレータの蓄積量が減少してきたとき、あるいは最大に近づいてきたときに燃油量を徐々に調節してやればよく、中間の状態では工場負荷の平均値で一定燃焼をさせればよい。ボイラACCの検出端をアキュムレータ圧力にとれば上述の制御をすることができる。この例の場合はアキュムレータからの検出圧力を空気圧信号に変換し、圧力選択リレーと空気圧演算器を介して前述のPOSRに連絡され、第8・9図に示すようにアキュムレータの圧力に応じて燃油量が制御される。」(第187頁8行ないし18行)と記載されていることがそれぞれ認められ、この事実によれば、アキュムレータの圧力情報のみでボイラの自動燃焼装置を直接制御することは、本出願前に周知の技術であると認められる。

そうすると、上記の点が本出願前周知であるとした審決の認定は、結論において誤りはないものというべきである。

上記のとおりアキュムレータの圧力情報でボイラの自動燃焼装置を直接制御することが周知であり、また、引用例1には、アキュムレータの内部圧力とその勾配の信号を利用して、間接的ではあるが、ボイラにおける蒸発量を制御するという技術思想が開示されているのであるから、上記周知技術を用いることにより自動燃焼装置を制御するに当たって、引用例1記載の考案における「スチームアキュムレータの内部圧力及びその勾配」の信号に加えてボイラからの流量の信号による「流量指示調節装置」によって行う構成に代えて、本願考案のように「スチームアキュムレータの内部圧力及びその勾配」の信号による「圧力制御装置」により行うこと、及び、引用例1記載の考案における流量弁の開閉による流量の調節を介して間接的に行う構成に代えて本願考案のように「直接」行うように構成するようなことは、当業者にとって格別困難なこととは認められず、相違点A、Bに対する審決の判断に誤りはないものというべきである。

(3)  原告は、審決の周知技術の認定に誤りがある旨主張するところ、引用例2及び3が不適切な例示であることは前記のとおりであるが、結論的に審決の認定に誤りがないことは前記のとおりである。

また、原告は、引用例1記載の考案において、ボイラからの流量の信号による流量指示調節装置の行う制御は、複数のボイラの作動の開始又は停止等であって、自動燃焼装置を制御してボイラの蒸発量を増減させているものではなく、また、流量弁の開閉と蒸発量の増減との間には必然的な相関関係はなく、自動燃焼装置の制御が行われていないとした上、審決はこれらの点について誤認しているとして、相違点の判断の誤りを主張する。

しかし、原告の上記前提となる主張が理由のないことは、前記3項において説示したとおりであって、原告の主張と採用できない。

(4)  以上のとおりであって、取消事由2は理由がない。

5  取消事由3について

(1)  本願明細書には、本願考案の効果について、「本考案によれば、ボイラの自動燃焼装置に、スチームアキュムレータの内部圧力及びその勾配を検出する圧力制御装置を付設し、この内部圧力が大小2つの設定レベルの範囲外にあるときにその圧力勾配に応じてボイラの自動燃焼装置を直接制御するようにしたので、上記内部圧力の変動に伴ってボイラにおける蒸発量を迅速且つ正確にコントロールすることができる。しかも、圧力勾配に応じた制御方式であるため、内部圧力が高圧レベルを超えた領域において圧力勾配が負のときに不必要に蒸発量が減少したり、逆に、内部圧力が低圧レベルより低下した領域において圧力勾配が正のときに不必要に蒸発量が増大するようなことがなく、従って、ボイラのオーバーコントロールを防止し、燃焼状態を安定させて運転効率を高めることができる。」(甲第2号証第4欄26行ないし41行)、「スチームアキュムレータの内部圧力が高圧または低圧の設定レベルを越えてさらに増大または低下を継続し、可及的速やかにその内部圧力を設定範囲内に復帰させる必要がある場合を予測して検知し、それに見あう追従性をもった手段により、迅速且つ正確なボイラ蒸発量のコントロールが行われ、ボイラがオーバーコントロールされることもない。」(甲第3号証第6頁14行ないし第7頁3行)と記載されていることが認められる。

ところで、引用例1記載の考案は、「スチームアキュムレータを用いてその内圧の変化により現在の負荷変動を検出すると共に、流量検出器によってボイラからの総蒸気流量を検出し、これらに基づいて複数のボイラを作動または停止させることにより必要量の蒸気がユーザに提供されるようにした」(甲第4号証第2頁左上欄4行ないし9行)ものであって、「現在の負荷に追随して複数のボイラを運転することができ、従来のように蒸気使用量を予測しながら運転する必要がないため、その運転効率を著しく高めることができる。」(同第4頁左上欄2行ないし5行)という作用効果を奏するものであること、アキュムレータ内の圧力信号を用いて直接ボイラの自動燃焼装置を制御する周知技術においては、アキュムレータの圧力情報が直接自動燃焼装置に接続されているのであるから、この技術を採用することにより、アキュムレータの内部圧力の変動に伴ってボイラにおける蒸発量を迅速且つ正確にコントロールすることができるという効果が得られることは、当業者において容易に予測し得ることであること、及び、本願明細書に公知例の説明として、「スチームアキュムレータの内部圧力及びその勾配を検出して行うコントロールは、スチームアキュムレータの内部圧力の今後の変動を予測して制御のための信号を得るようにしているため、早期にスチームアキュムレータ圧力を設定された目標範囲内に戻すためには有効である」(甲第3号証第3頁2行ないし7行)と記載されていることを併せ考慮すると、本願考案の上記効果は、引用例1記載の考案及び周知技術がそれぞれ有する効果から当業者が予測できる程度のものと認めるのが相当であって、本願考案の効果についての審決の判断に誤りはないものというべきである。

(2)  原告は、本願考案は、引用例1記載のアキュムレータの内部圧力及びその勾配に基づいてボイラからアキュムレータへの蒸気流入量を制御するものに比して、ボイラの蒸発量の迅速かつ正確なコントロールを実現した点で優れた効果を有する旨、また、本願考案は、ボイラの蒸発量が不必要に減少したり増大することがなく、過剰制御を防止することができる点で周知技術に比して優れた効果を有する旨主張する。

しかし、審決は、本願考案と引用例1記載の考案及び周知技術とを各別に対比して、その作用効果の優劣を判断しているわけではないから、各別の対比に基づいてその優劣を論ずる原告の主張は、その点で当を得ないものである。そして、本願考案の上記効果は、引用例1記載の考案と周知技術がそれぞれが有する効果から当業者であれば予測できる程度のものであることは前記のとおりであるから、本願考案の効果の顕著性をいう原告の主張は採用できない。

(3)  以上のとおりであって、取消事由3は理由がない。

6  よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 押切瞳)

別紙図面 1

〈省略〉

別紙図面 2

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別紙図面 3

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別紙図面 4

〈省略〉

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