大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

東京高等裁判所 平成6年(行ケ)189号 判決

横浜市神奈川区宝町2番地

原告

日産自動車株式会社

代表者代表取締役

辻義文

東京都千代田区大手町1丁目5番1号

原告

三菱マテリアル株式会社

代表者代表取締役

秋元勇巳

原告両名訴訟代理人弁理士

志賀正武

渡辺隆

成瀬重雄

青山正和

鈴木三義

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

指定代理人

桐本勲

幸長保次郎

吉野日出夫

主文

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第1  当事者が求める裁判

1  原告ら

「特許庁が平成5年審判第21781号事件について平成6年6月23日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告らは、昭和61年5月7日、名称を「ボールエンドミル」とする考案(以下、「本願考案」という。)について実用新案登録出願(昭和61年実用新案登録願第68559号)をし、平成4年3月18日に実用新案出願公告(平成4年実用新案出願公告第10970号)されたが、実用新案登録異議の申立があり、平成5年8月19日、登録異議の申立は理由があるとの決定とともに、拒絶査定がなされた。そこで、原告らは、平成5年11月18日に査定不服の審判を請求し、平成5年審判第21781号事件として審理された結果、平成6年6月23日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決がなされ、その謄本は同年7月13日原告らに送達された。

2  本願考案の要旨

軸線を中心として回転せしめられる工具本体の先端部に、円弧状をなす切刃が形成された複数の切刃チップを、径方向および軸線方向へ互いにずらし、上記切刃の回転軌跡が全体として略四半分の円弧をなすように固定してなるボールエンドミルにおいて、上記切刃チップのうち最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップを超硬合金によって構成し、前記軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う他の二つの切刃チップを超高硬度焼結体によって構成してなり、前記各切刃チップのそれぞれは、連続した一定材料の切刃を有することを特徴とするボールエンドミル(別紙図面A参照)

3  審決の理由の要点

(1)  本願考案の要旨は、平成5年12月20日付け手続補正書により補正された明細書、及び、平成3年6月14日付け手続補正書により補正された図面の記載からみて、前項記載のとおりのものと認める。

(2)  これに対し、本願出願前に日本国内において頒布された昭和54年特許出願公開第6416号公報(以下、「引用例1」という。)及び昭和56年実用新案登録願第166096号(昭和58年実用新案登録出願公開第70812号公報)の願書に最初に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルム(昭和58年5月13日特許庁発行。以下、「引用例2」という。)には、それぞれ下記の技術的事項が記載されている。

a 引用例1

軸線を中心として回転せしめられる工具本体の先端部に、円弧状をなす切刃が形成された複数の切刃チップを、径方向及び軸線方向へ互いにずらし、前記切刃の回転軌跡が全体として略四半分の円弧をなすように固定してなるボールエンドミルにおいて、前記切刃チップのうち最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップを低速用の超硬合金またはハイスによって構成し、前記軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う他の切刃チップを高速用の超硬合金またはハイスによって構成してなり、前記各切刃チップのそれぞれは、連続した一定材料の切刃を有するボールエンドミル(別紙図面B参照)

b 引用例2

切刃部の内周部切削面を超硬合金で構成し、切刃部の外周部切削面をダイヤモンド焼結体、すなわち、超高硬度焼結体で構成したドリル(別紙図面C参照)

そして、切刃部の内周部切削面は、最も軸線寄りの位置に配置された切刃と、また、切刃部の外周部切削面は、軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う他の切刃と、それぞれ表現しうるものと認める。

(3)  本願考案と引用例1記載の発明とを比較するに当たり、検討する。

本願考案において、最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップを超硬合金によって構成した理由が、明細書に記載されているように「切刃の軸線側縁端に多大のスラスト加重が作用し、かつその部分の切削速度が極めて小さいため、ボールエンドミルを横送りした際にその端縁が被削材の壁部に強くこすられる。……その部分が容易に欠損してしまう問題があった。」という問題点を解決するために比較的靭性の高い材料を選択したことにあるのは明白である。

このことは、切刃チップのうち最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップを低速用の切削を行うのに適した材料によって構成したことにほかならない。

また、軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う他の切刃チップを超高硬度焼結体によって構成した理由が、「切削速度の速い工具外周側に耐磨耗性が優れた超高硬度焼結体よりなる切削チップを配置し」と明細書に記載されているように、耐磨耗性に優れた材料を選択したことにあるのは明白である。

このことは、軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う他の切刃チップを高速用の切削を行うのに適した材料によって構成したことにほかならない。

(4)  そこで、本願考案と引用例1記載の発明とを比較すると、下記の2つの相違点を除いては、

軸線を中心として回転せしめられる工具本体の先端部に、円弧状をなす切刃が形成された複数の切刃チップを、径方向及び軸線方向へ互いにずらし、上記切刃の回転軌跡が全体として略四半分の円弧をなすように固定してなるボールエンドミルにおいて、前記切刃チップのうち最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップを低速用の切削を行うのに適した材料によって構成し、前記軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う他の切刃チップを高速用の切削を行うのに適した材料によって構成してなり、前記各切刃チップのそれぞれは、連続した一定材料の切刃を有するボールエンドミル

として同一である。

a 相違点〈1〉

切刃チップのうち最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップ及び軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う他の切刃チップを構成する材料について、本願考案においては、前者を超硬合金とし、後者を超高硬度焼結体としたのに対し、引用例1記載の発明においては、前者を低速用の超硬合金またはハイスとし、後者を高速用の超硬合金またはハイスとした点

b 相違点〈2〉

軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う他の切刃チップについて、本願考案においては、二つのものとしているのに対し、引用例1記載の発明においては、分割されたものとする記載のない点

(5)  相違点〈1〉について検討する前提として、引用例2記載の考案について検討する。

a 引用例2には、これに記載された考案において、最も軸線寄りの位置に配置された切刃を超硬合金で構成した理由について、切刃の軸線側の端縁に多大のスラスト荷重が作用し、かつ、この部分の切削速度がきわめて小さいためにこの部分に発生する欠損を防止する目的で低速用の切削を行うのに適した比較的靭性の高い材料を選択したことにあることが、実質的に記載されている。

b また、引用例2には、これに記載された考案において、軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う他の切刃チップを超高硬度焼結体によって構成した理由について、この部分の切削速度が大きいためにこの部分に発生する磨耗を防止する目的で高速用の切削を行うのに適した比較的耐磨耗性の高い材料を選択したことにあることについても、併せて実質的に記載されている。

これらの事項を前提とすると、引用例1記載の発明と引用例2記載の考案において、切刃チップのうち最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップ及び軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う他の切刃チップを構成する材料を選択した理由が、本願考案が解決しようとする目的を達成する範囲内においては同一である。

したがって、引用例2記載の考案における、切刃チップのうち最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップ及び軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う他の切刃チップを構成する材料を、引用例1記載の発明におけるそれぞれのものに換えて適用することにより、この相違点において掲げた本願考案の構成のごとくにすることは、当業者がきわめて容易に考えることができたものである。

(6)  次に、相違点〈2〉について検討する。

エンドミルにおいて、軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う切刃チップについて、これを二つ以上に分割することは、例を引くまでもなく、本出願前において周知慣用の技術であり、このようなものを、引用例1記載の発明のボールエンドミルに適用したところで、そのものが備えている固有の機能を奏するに過ぎない。

したがって、この相違点に掲げた本願考案の構成のごとくすることは、当業者がきわめて容易に考えることができたものである。

(7)  そして、本願考案を全体としてみても、引用例1及び引用例2に記載された技術的事項並びに本出願前における周知慣用の技術手段の有する効果の総和以上の新たな効果を奏するものとも認めることができない。

(8)  以上のとおりであるから、本願考案は、引用例1及び引用例2に記載された技術的事項並びに本出願前における周知慣用の技術手段に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものと認められるから、実用新案法3条2項の規定により、実用新案登録を受けることができない。

4  審決の取消事由

審決は、本願考案及び引用例1記載の発明の各技術内容を誤認した結果、本願考案と引用例1記載の発明との一致点の認定を誤り、また、その認定した相違点の判断に当たり、本願考案と引用例2記載の考案との技術的思想あるいは技術的課題の違いを看過した結果、相違点〈1〉の判断を誤り、周知慣用の技術が相違点〈2〉に係る本願考案の構成を備えているものと誤認した結果相違点〈2〉の判断を誤り、かつ、本願考案が奏する作用効果の顕著性をも看過して、本願考案の進歩性を否定したものであって、違法であるから、取り消されるべきである。

(1)  一致点の認定の誤り

〈1〉 引用例1記載の発明の認定の誤り

審決は、引用例1には「切刃チップのうち最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップを低速用の超硬合金またはハイスによって構成し、前記軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う他の切刃チップを高速用の超硬合金またはハイスによって構成し」たボールエンドミルが記載されていると認定している。

しかしながら、引用例1には、「チップの材質に関しては、中心部切削用の刃部と外周部切削用の刃部とを異なる材料とし、例えば中心に低速用の超硬合金又はハイスを、外周を高速用のハイス又は超硬合金を組合せるようにしてもよい。」(4欄13行ないし17行)と記載されている。ここで例示されているチップの組合せ構成は、中心部切削用と外周部切削用の各切刃のチップ材料である超硬合金とハイスの表示順序が、中心と外周とで逆に記載されている。したがって、引用例1には、中心部切削用の刃部と外周部切削用の刃部は異なる材料を用いること、その具体例として「低速用の超硬合金と高速用のハイスの組合せ」及び「低速用のハイスと高速用の超硬合金の組合せ」が開示されていることが明らかである。

したがって、引用例1には、2種の切刃チップの構成として、低速用の超硬合金と高速用の超硬合金、あるいは、低速用のハイスと高速用のハイスのように、同一材料の組合せは記載されていないから、引用例1には「切刃チップのうち最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップを低速用の超硬合金またはハイスによって構成し、…他の切刃チップを高速用の超硬合金またはハイスによって構成」することが記載されているという審決の認定は、明らかに誤りである。

〈2〉 「低速用」と「高速用」の技術的意義

ところで、超硬合金とハイス(高速度鋼)の材質を比較すると、一般に、超硬合金よりもハイスの方が靭性が高く、耐磨耗性が小さい。したがって、引用例1が開示している「低速用の超硬合金と高速用のハイスの組合せ」は、中心側に靭性が低く耐磨耗性が大きい切刃チップが位置し、外周側に靭性が高く耐磨耗性が小さい切刃チップが位置する構成となり、「低速用のハイスと高速用の超硬合金の組合せ」は、軸線側に靭性が高い切刃チップが位置し、外周側に耐磨耗性が大きい切刃チップが位置する構成となる。

このように、引用例1が開示する2つの組合せは、中央側と外周側に配置する材料が逆になっている。この場合の材料選択の基準は、「低速用」と「高速用」の技術的意義によって判別されるのであろうが、引用例1には「低速用」と「高速用」の技術的意義は全く記載されていない。

この点について、審決は、「本願考案において、最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップを超硬合金によって構成した理由が、(中略)比較的靭性の高い材料を選択したことにあることは明白である。このことは、切刃チップのうち最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップを低速用の切削を行うのに適した材料によって構成したことに外ならない。また、軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う他の切刃チップを超高硬度焼結体によって構成した理由が、(中略)耐磨耗性に優れた材料を選択したことにあることは明白である。このことは、軸線より径外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う他の切刃チップを高速用の切削を行うのに適した材料によって構成したことに外ならない。」として、「低速用」を「比較的靭性の高い材料」、「高速用」を「耐磨耗性に優れた材料」と判断している。

そうすると、引用例1が開示している「低速用のハイスと高速用の超硬合金の組合せ」、すなわち軸線側に靭性が高い切刃チップが位置し、外周側に耐磨耗性が大きい切刃チップが位置する構成は合理性があるが、「低速用の超硬合金と高速用のハイスの組合せ」、すなわち中心側に靭性が低く耐磨耗性が大きい切刃チップが位置し、外周側に靭性が高く耐磨耗性が劣る切刃チップが位置する構成は、明らかに不合理である。

そのため、引用例1における「低速用」と「高速用」の技術的意義は、これらの記載に基づく組合せ例から考えて、「低速用」を「比較的靭性の高い材料」、「高速用」を「耐磨耗性に優れた材料」としたものとは、当業者であっても認識することはできず、「低速用」と「高速用」という概念は、靭性と耐磨耗性とに対応する概念ではないと判断せざるをえない。

このように、引用例1の前記記載は、中心側と外周側とでは異なる材料の切刃チップを採用するとし、その異なる材料の例として「低速用の超硬合金と高速用のハイスの組合せ」及び「低速用のハイスと高速用の超硬合金の組合せ」が開示されているにすぎないから、引用例1における「低速用」と「高速用」の技術的意義は、字義どおり、「低速用」は低速切削に用いるという程度の意味、「高速用」は高速切削に用いるという程度の意味にしか解するほかないから、「低速用」を「比較的靭性の高い材料」、「高速用」を「耐磨耗性に優れた材料」とした審決の判断は誤りである。

〈3〉 一致点の認定の誤り

本願考案は、「最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップを」、比較的靭性が高いと同時に耐磨耗性を備えた「超硬合金によって構成し」、その外周側は切削速度が速いので、「軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う他の二つの切刃チップを」、優れた切削性能を有し、靭性には乏しいが極めて硬く耐磨耗性に優れた「超高硬度焼結体によって構成し」たことを特徴とするものである。

すなわち、ボールエンドミルの先端に設けられている切刃は、回転軌跡が略四半分の円弧をなすように構成されている。そのため、切削のためにボールエンドミルを回転させた場合、回転軸線に近接した点の周速度は、外周側の点の周速度より小さいので、より低速で被削材の切削を行うことになる。したがって、切刃の軸線側端縁は、周速度が極めて小さいため、軸線方向に切削する際に多大のスラスト荷重が作用する。その上、横送りを行う場合は、低速で回転している切刃の端縁が被削材の壁部に強くこすられるため、切刃の端縁には、大きな耐欠損性、すなわち靭性が要求される。しかも、ボールエンドミルに特有の問題として、横送りの際に被削材の壁部に強くこすられる関係上、切刃の端縁が磨耗しやすい点があり、このため、軸線側端縁といえども、靭性だけでなく、ある程度の耐磨耗性が要求されることになる。

本願考案は、前記のように、工具本体の外周側に耐磨耗性が優れている超高硬度焼結体の切刃チップを配置することによって、高速切削が行われても、優れた切削性能を生かすことができるように構成されている。しかも、超高硬度焼結体の切刃チップを二つにし、径方向及び軸方向にずらせて配置することによって、切屑を分断でき、また、各チップが小型になるので、汎用性が高い形状の切刃チップを採用して、略四半分の円弧の軌跡を描くことが可能になっている。さらに、工具本体の最も軸線寄りに、超硬合金の切刃チップを配置することによって、その高い靭性によって軸線方向に多大なスラスト荷重が作用しても欠損を抑制でき、横送りの際に被削材に強く擦られても磨耗を生じないという優れた作用効果を奏するものである。

本願明細書には、最も軸線寄りの位置の切刃に耐磨耗性が要求されることについて直接的な記載はないが、これは、本願明細書における従来技術として挙げられたものがCBN焼結体からなる切刃チップを有するボールエンドミルであり、このCBN焼結体は極めて大きい耐磨耗性を有するので、最も軸線寄りの位置の切刃に耐磨耗性が要求されることはあえて記載していないだけである。のみならず、本願考案の実用新案公告公報(以下「本願公報」という。)の5欄2行ないし6欄22行には、本願考案が奏する作用効果を明らかにするための切削試験の結果が記載されており、同試験においては、外周側のCBN製切刃のみならず、最も軸線寄りの位置の切刃についても逃げ面磨耗量を測定しており、これによっても、最も軸線寄りの位置の切刃にも耐磨耗性が要求されていることが裏付けられる。そして、本願公報の第5図には、CBN製切刃と超硬合金製切刃の逃げ面磨耗量が示されているが、同図において、「超硬合金製の切刃チップの逃げ面磨耗量がCBN製の切刃チップの2倍程度で収まっていること」(6欄13行ないし15行)からみても、本願考案の最も軸線寄りの位置の切刃が耐磨耗性を備えていることは明らかである。

このように、本願考案が最も軸線寄りの位置に配置された切刃チップに超硬合金を選択した目的は、単に高い靭性を得るためだけでなく、外周側切刃チップに使用する超高硬度焼結体が有する耐磨耗性に、可能な限り匹敵する耐磨耗性をも考慮したからである。

この点について、本願公報には、「本考案品によれば工具外周側に配置されるCBN製の切刃チップの優れた切削性能を十分発揮させて高速切削を行いつつ切刃欠損を防止して工具寿命を大幅に高め得ることが確認された。」(6欄8行ないし12行)、「すべての切刃チップをCBNで構成した場合に比して各切刃チップの寿命が大幅に接近し、工具の経済性が大幅に高まっていることも明白である。」(6欄15行ないし18行)と記載されている。

ここにいう寿命には、磨耗に起因するものと欠損に起因するものとがあり、すべての切刃チップをCBNにすると中心部の欠損によって短時間で寿命となり、中心部の切刃チップを靭性の高い超硬合金にすると、欠損よりも逃げ面磨耗によって寿命となるが、超硬合金製切刃の磨耗量は、前記のようにCBN製切刃の2倍程度で抑えることができるので、工具全体としての寿命は大幅に延びることになる。本願考案は、耐磨耗性と靭性という相反する特性を最適に選択し、両切刃チップの寿命を接近させて、工具全体としての寿命を大幅に高めたものであるが、このことは、最も軸線寄りの切刃チップも耐磨耗性を備えていなければ達成できないものである。

この点について、被告は、超硬合金工具は超高硬度焼結体であるCBN焼結体あるいはダイヤモンド焼結体と比較して、靭性は高いが耐磨耗性は小さく、超高硬度焼結体はその逆であると主張する。

確かに、超硬合金とCBNとを比較すれば、超硬合金がCBNより靭性が高く、耐磨耗性が小さいことは当然であるが、このことは、超硬合金が耐磨耗性を備えていないことを意味するものではない。そして、単に靭性が高い材料を選択するというのであれば、高速度鋼(ハイス)を選択すればよいのであるから、本願考案が超硬合金を選択した理由が、単に靭性の高い材料である点のみでないことは明らかである。

以上のような中心部切削用の刃部と外周部切削用刃部とに、使用箇所に適した材料を組み合わせるという本願考案の技術的思想は、引用例1には全く開示されておらず、引用例1は、本願考案の技術的課題(目的)の解決に関して何らの示唆も与えるものではない。

すなわち、引用例1記載の発明は、「中心部から外周部までの連続した切れ刃を有する従来のボールエンドミルにおいては、特に切削速度が小さい中心付近の切削性が外周部に比較して著しくわるく、作業の能率化を妨げている」(2欄5行ないし9行)ことに鑑み、「中心切削部と外周切削部とを分離し、切れ刃をそれぞれ独立させることに着目し」(同欄10行、11行)、「中心部と外周部とで切れ刃の切削作用を平均することにより耐久性に優れたボールエンドミルを提供すること」(同欄12行ないし14行)を目的とするものである。そして、「刃部が中心部と外周部とがそれぞれ分離していることにより、特に中心域での切れ刃の切削作用を改善できるように種々の形状、寸法、材質あるいは構造の刃部を選択することが可能である。」(3欄1行ないし5行)としたうえ、形状に関する実施例として、「先端中心部の刃形は加工材の切屑を外方へ押出し、かつ加工材に内側から徐々に切込んで負荷を分散させるためにもスパイラルの形状が望ましい」(3欄17行ないし20行)としているのである。

このような引用例1の記載に照らせば、引用例1記載の発明は、「中心部と外周部とで切れ刃の切削作用を平均する」目的、あるいは、中心部の切れ刃に対する「負荷を分散させる」目的で創案されたものであって、欠損、靭性あるいは耐磨耗性に関する記載も、これらを示唆する記載もなく、これらの点に着目した発明でないことは明らかである。したがって、引用例1記載の発明において「種々の形状、寸法、材質あるいは構造の刃部を選択することが可能である」としても、それらは上記の目的のためにのみなされるものである。

なお、引用例1の「刃部1及び刃部2は超硬合金よりなる円形断面チップ及び矩形断面チップを使用、組合せて」(3欄37行ないし39行)という記載は、刃部1及び刃部2に同じ超硬合金を使用することが記載されているにすぎず、「低速用」と「高速用」の区別は全くなされていない。そして、引用例1には、切刃の中心部と外周部の材料を異ならせることによって得られる効果についての記載はないから、中心部と外周部の切刃を分離し、それらの形状を異なる構成にするならば、同じ材料でも異なる材料でもよいとしているとしか読み取れないのであって、材質の選択だけでもその目的を達成できることが開示されているとはいえない。

したがって、本願考案と引用例1記載の発明は、「切刃チップのうち最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップを低速用の切削を行うのに適した材料によって構成し、前記軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う他の切刃チップを高速用の切削を行うのに適した材料によって構成してなり、前記各切刃チップのそれぞれは、連続した一定材料の切刃を有するボールエンドミルとして同一である。」とした審決の認定は、誤りである。

(2)相違点〈1〉の判断の誤り

引用例2に、審決認定の技術的事項(事実欄3(2)b、及び、(5)a・b)が記載されていることは認める。

しかしながら、引用例2記載の考案はドリルに関するものであるが、ドリルは、軸線を中心に回転させつつ軸線方向に直線的に送って穴明け切削を行うのであるから、先端切刃の中心部は、軸線方向の圧縮応力によるスラストが大きく、欠損を生じやすいものである。そのため、引用例2記載の考案は、ドリルの先端切刃部の外周部切削面を耐磨耗性と耐付着性に優れたダイヤモンドで構成し、内周部切削面を耐欠損性に優れた超硬合金または高速度鋼で構成しているのである。そして、ドリルは、軸線方向の移動のみであって横送りがなく、軸線端縁が被削材によってこすられることもないから、ドリルの欠損防止は、耐磨耗性を考慮せず、靭性の高い材料を選択すればよいのである。

これに対し、ボールエンドミルは、軸線方向の送り切削も行われるが、主として横送りして壁部や溝等の切削を行うものである。そのため、ボールエンドミルに特有の問題として、横送りの際、最も軸線寄りの切刃の軸線側端縁が被削材の壁部に「強くこすられ」て磨耗しやすいことがある。この「強くこすられる」というのは、被削材に押圧されつつ被削材表面に沿って摺動することであるから、その際に複合的に発生する圧縮応力と曲げ応力とによって切刃の軸線側端縁が欠損しやすく、かつ、被削材表面に沿う摺動によって磨耗しやすいというのが、ボ-ルエンドミルに特有の問題である。すなわち、最も軸線寄りの切刃チップの切刃による低速回転切削時に横送り運動が加わると、切刃にかかる負荷・とりわけ曲げ応力が増大することになるのである。このような磨耗に関しては、引用例2には何らの記載もない。

本願考案は、ボールエンドミルに特有のこれらの問題点を解決するために、最も軸線寄りの切刃チップには、高速度鋼ではなく、複合的に発生する軸線方向のスラスト荷重と横送りによる磨耗とによる欠損を防止しうる超硬合金を選択したのである。

このように、ドリルとボールエンドミルは、同じ穴等の切削用工具であるが、用途あるいは切刃の送り方向、切刃にかかる負荷等が相違するから、欠損あるいは磨耗が生ずる原因も相違し、したがって、本願考案と引用例2記載の考案は、技術的課題あるいは技術的思想を異にするものである。そうすると、引用例1記載の発明と引用例2記載の考案とが、「切刃チップのうち最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップ及び軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う他の切刃チップを構成する材料を選択した理由が、本願考案が解決しようとする目的を達成する範囲内においては同一である。」とした審決の判断は、妥当とはいえない。

以上のとおりであるから、引用例2に、軸線側の切刃及び外周側の切刃に本願考案と同種の材料を選択することが開示されているとしても、ドリルの軸線側及び外周側の各切刃を構成する各材料を、引用例1記載のボールエンドミルの各切刃に採用することは、当業者がきわめて容易になしえたとは到底いえない。したがって、相違点〈1〉について、「引用例2記載の考案における、切刃チップのうち最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップ及び軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う他の切刃チップを構成する材料を、引用例1記載の発明におけるそれぞれのものに換えて適用することにより、この相違点において掲げた本願考案のごとくすることは、当業者がきわめて容易に考えることができたものである。」とした審決の判断は、誤りである。

(3)相違点〈2〉の判断の誤り

審決は、「エンドミルにおいて、軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う他の切刃チップについて、これを二つ以上に分割することは、例をひくまでもなく、本出願前において周知慣用の技術であ」ると判断している。

しかしながら、本願考案は、超高硬度焼結体で構成される2つの他の切刃チップを、径方向および軸線方向へ互いにずらし、最も軸線寄りの超硬合金で構成される切刃チップとともに、略四半分の円弧を構成するようにそれぞれ切刃が円弧状をなすように構成しているが、このような超高硬度焼結体から成る二つの他の切刃チップの構成が周知慣用であることを示す証拠はなく、審決の上記判断は誤りである。

本願考案は、超高硬度焼結体の切刃チップを2枚で構成することにより、高速切削を行う切刃に作用する衝撃を分割して、切屑を分断できる効果を奏する。また、外周側の切刃を二つのチップで構成することによって、各切刃チップを小型化でき、各切刃が略四半分の円弧の回転軌跡の一部を描く場合、引用例1記載の外周側の切刃チップのように特殊な形状のものとする必要がなく、これら二つの切刃チップを汎用性の高い形状のものにすることができるから、特に高価で硬度が高く加工しにくい超高硬度焼結体で構成される切刃チップのコストを低減できる特徴を有する。

しかも、ボールエンドミルは、穴の底面を半球面状に仕上げたり、横送りして壁部を加工したり、被削材の表面に溝加工を施す等の加工を行うから、切刃の軸線端縁にのみ軸線方向のみのスラスト荷重が作用するドリルと異なり、切刃の軸線側端縁のみならず、四半分の円弧をなす各部位で軸線方向あるいは軸線に対して斜めの方向にも荷重が作用する。したがって、ボールエンドミルにあっては、軸線側端縁だけでなく、四半分の円弧をなす各部位における切刃の寿命が問題になる。この場合、外周側の切刃を一つのチップによって構成すると、各種切削作業によって各方向から受ける荷重をその一つの切刃チップが全部受けることになり、一部でも欠損すると、他の部分がまだ使用に耐えうるものであったとしても、切刃チップ全体を交換しなければならず、不経済である。

本願考案は、最も軸線寄りの超硬合金で構成される切刃チップに対して、超高硬度焼結体から成る2つの他の切刃チップを径方向及び軸線方向へ互いにずらして配置したことにより、四半分の円弧の各部位に作用する荷重をこれらの切刃チップに分散させ、各切刃チップの荷重負担を軽減させることができる。

以上のように、本願考案は、超高硬度焼結体によって構成する二つの切刃チップを、超硬合金によって構成する切刃チップとともにボールエンドミルに用いるため、三つの切刃チップがそれぞれ低コストで切刃寿命が大幅に接近したものとなって、経済性が向上するという、特有の利点が得られるものである。

したがって、軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う切刃チップを二つ以上に分割した「ものを引用例1記載の発明のボールエンドミルに適用したところで、そのものが備えている固有の機能を奏するに過ぎない。したがって、この相違点において掲げた本願考案の構成のごとくすることは、当業者がきわめて容易に考えることができたものである。」とする審決の判断は、誤りである。

(4)作用効果の看過

本願考案は、下記の3点の作用効果を奏するものである。

a 外周側の超高硬度焼結体によって構成される切刃チップは、高速切削の際に優れた耐磨耗性と切削性能を発揮し、最も軸線寄りの超硬合金の切刃チップは高い靭性と耐磨耗性を発揮するから、特に軸線寄りの切刃チップの欠損を防止でき、工具寿命を飛躍的に高めることができる。

この作用効果は、ボールエンドミルの特性に基づくものである。すなわち、ボールエンドミルは、軸線近傍の切刃は周速度が遅いので切削抵抗が大きく、特に軸線方向に切削する際に多大のスラスト荷重がかかるうえに、横送りも行われるため、最も軸線寄りの切刃チップの端縁が被削材の壁部に強くこすられて磨耗し、その部分が欠損するので、最も軸線寄りの切刃には、高いスラスト荷重に加えて横移動時の耐磨耗性が要求される。一方、外周側の切刃では高速切削が行われるため、高い切削性能と優れた耐磨耗性が要求される。

本願考案は、最も軸線寄りの切刃チップを靭性が比較的高く、かつ耐磨耗性も備えた超硬合金によって構成し、これより外周側の二つの切刃チップを、靭性には劣るが硬度が比較的高く、耐磨耗性が優れた超高硬度焼結体によって構成することによって上記の要求を同時に達成したものであって、超高硬度焼結体製の切刃チップの優れた切削性能を十分に発揮させつつ、軸線側端縁の切刃チップの欠損及び磨耗を防止することができる、特有の作用効果を奏するものである。

この点について、被告は、本願明細書には最も軸線寄りの超硬合金の切刃チップが耐磨耗性を有するものであることは全く記載されていないと主張する。しかしながら、ボールエンドミルを横送りすると、切刃の軸線側端縁が欠損しやすいばかりでなく、被削材表面に沿う摺動によって磨耗しやすいことは前記のとおりであって、最も軸線寄りの位置の切刃には、靭性のみならず、ある程度の耐磨耗性も要求されることは自明のことである。

b 各切刃チップをすべて超高硬度焼結体によって構成した場合と比較して、各切刃チップの寿命が大幅に接近するので、工具の経済性が高まる。しかも、超硬合金を使用したものは比較的低廉で、加工性も良いので、工具の原料費及び製造費を低減できる。

上記aの作用効果によって、最も軸線寄りの超硬合金によって構成される切刃チップの寿命が向上し、かつ、三つの切刃チップが略四半分の円弧の回転軌跡をなすように、超硬合金と二つの超高硬度焼結体の各切刃チップをそれぞれ径方向及び軸線方向にずらして配設することによって、四半分の円弧の各部位に作用する荷重をこれら切刃チップに分散させて、各切刃チップの荷重負担を軽減させることができる。そのため、各切刃チップが寿命が大幅に接近するので、切刃チップの交換時期が近接し、チップ交換を同時期に行うことができる等、工具の経済性が高くなるという効果がある。しかも、超硬合金を使用した切刃チップは、超高硬度焼結体を使用した切刃チップと比較して、材料費で1/10程度であるうえに、加工性も良いので、超硬合金の切刃チップは、チップの寿命が延びるうえに、原料費及び製造費が低下する利点もある。

c 超高硬度焼結体によって構成した切刃チップを二つで構成することによって、各切刃が小型化し、切屑を小さく分断できるうえに、各切刃チップを汎用性の高い形状のものとすることができ、低廉で工具の経済性が高まる。

超高硬度焼結体によって構成した切刃チップを二つで構成することによって、各切刃チップの弧状の切刃長が短くなるため、個々の切刃を汎用性の高い形状のものにすることができる。そのため、超高硬度焼結体によって構成した切刃チップの製造コストも比較的低廉になるうえ、一つの切刃チップに複数の切刃を設けてコーナーチェンジして使用できる等、一つの切刃チップの寿命が数倍になり、この点でも工具の経済性が高まる。このため、三つの切刃チップの製造コストがそれぞれ低廉になるという利点もある。

以上のように、本願考案は、一連の構成要件が有機的に一体化することによって上記のような顕著な作用効果を奏するのであるから、「本願考案を全体としてみても、引用例1記載の発明及び引用例2記載の考案並びに本出願における周知慣用の技術手段の有する総和以上の新たな効果を奏するものとも認めることができない。」とした審決の判断も、誤りである。

第3  請求原因の認否及び被告の主張

1  請求原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願考案の要旨)及び3(審決の理由の要点)は認めるが、4(審決の取消事由)は争う。審決の認定及び判断は正当であって、これを取り消すべき理由はない。

2  一致点の認定について

(1)引用例1記載の発明の認定、及び、「低速用」と「高速用」の技術的意義について

原告らは、引用例1の「チップの材質に関しては、中心部切削用の刃部と外周部切削用の刃部とを異なる材料とし、例えば中心に低速用の超硬合金またはハイスと、外周を高速用のハイスまたは超硬合金を組合せるようにしてもよい。」(4欄13行ないし17行)という記載について、「低速用」を「比較的靭性の高い材料」、「高速用」を「耐磨耗性に優れた材料」とした審決の認定判断は誤りであると主張する。

しかしながら、引用例1には、「中心部から外周部まで連続した切れ刃を有する従来のボールエンドミルにおいては、特に切削速度が小さい中心付近の切削性が外周部に比して著しくわるく、作業の能率化を妨げている。本願発明者は上記にかんがみ、ボールエンドミルにおいて中心切削部と外周切削部とを分離し、切れ刃をそれぞれ独立させることに着目した。この発明の目的とするところは中心部と外周部とで切れ刃の切削作用を平均することにより耐久性にすぐれたボールエンドミルを提供することにある。」(2欄5行ないし15行)」と記載されている。

この記載は、ボールエンドミルは中心付近部の切削速度が外周部と比較して小さいこと、すなわち、中心付近部の切削速度が低速であり、外周部の切削速度が高速であることが原因となって、障害が生ずること、この障害を解消する目的で、中心付近部と外周部の切刃の切削作用を平均にする必要があること、この目的を達成するために、切刃のそれぞれの部分に適合した材料を選択する、すなわち、中心付近部に低速切削に適したものを、外周部に高速切削に適したものを選択することを開示するものである。

そして、このような目的を達成するための構成として、引用例1には、「刃部が中心部と外周部とがそれぞれ分離していることにより、特に中心域での切れ刃の切削作用を改善できるように種々の形状、寸法、材質あるいは構造の刃部を選ぶことが可能である。」(3欄1行ないし5行)、「実施例では、刃部1及び刃部2は超硬合金よりなる円形断面チップ及び矩形断面チップを使用、組合せて本体にろう付けした場合の例を示している。」(3欄37行ないし40行)と記載されている。

ここには、中心部切削用刃部と外周部切削用刃部を共に超硬合金からなるものとすることが示されており、前記の2欄5行ないし15行の記載を参照すると、上記記載は、中心部切削用刃部を低速切削に適した超硬合金とし、外周部切削用刃部を高速切削に適した超硬合金とすることを開示するものである。

以上の事項を前提として、引用例1の「例えば中心に低速用の超硬合金又はハイスを、外周を高速用のハイス又は超硬合金を組合せるようにしてもよい。」(4欄14行ないし17行)という記載の意味内容を検討すると、「超硬合金又はハイス」及び「ハイス又は超硬合金」は、それぞれにおける選択すべき要件を並列的に記載したものにすぎず、具体的な組合せ順序について記載したものではないと解するのが相当である。そして、4欄14行ないし17行の記載の意味内容は、1つの発明について記載された2欄5行ないし15行及び3欄37行ないし40行と同一の課題に係る一連の記載の一部であるから、これらの記載をも参照して解釈するのが当然である。

そこで、これらの記載を参照して「例えば中心に低速用の超硬合金又はハイスを、外周を高速用のハイス又は超硬合金を組合せるようにしてもよい。」という記載の意味内容を解釈すると、この記載は、中心部の切削に用いる低速切削に適した材料(すなわち、低速用の材料)と、外周部の切削に用いる高速切削に適した材料(すなわち、高速用の材料)とを並列的に例示したものであって、間接的にもせよ、その組合せ順序を示すものではないことは明白である。

また、審決が引用例1に記載されている技術的事項として摘示した「最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップを低速用の超硬合金またはハイスによって構成し、(中略)軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う他の切刃チップを高速用の超硬合金またはハイスによって構成し」という記載は、審決が本願考案と引用例1記載の発明との一致点の認定として摘示した「最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップを低速用の切削を行うのに適した材料によって構成し、(中略)軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う他の切刃チップを高速用の切削を行うのに適した材料によって構成し」という記載と同一の趣旨であって、その組合せ順序まで意図した記載でないことは明白である。

以上のとおりであるから、引用例1の「例えば中心に低速用の超硬合金又はハイスを、外周を高速用のハイス又は超硬合金を組合せるようにしてもよい。」という記載が、材料の組合せ順序まで示すものであることを前提として、引用例1記載の発明に係る審決の認定の誤りをいう原告らの主張は、失当である。

(2)一致点の認定について

原告らは、本願考案は最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップを比較的靭性が高いと同時に耐磨耗性を備えた超硬合金によって構成し、軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う他の二つの切刃チップを優れた切削性能を有し靭性には乏しいが極めて硬く耐磨耗性に優れた超高硬度焼結体によって構成したことを特徴とするものであるから、本願考案と引用例1記載の発明は「切刃チップのうち最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップを低速用の切削を行うのに適した材料によって構成し、前記軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う他の切刃チップを高速用の切削を行うのに適した材料によって構成してなり、前記各切刃チップのそれぞれは、連続した一定材料の切刃を有するボールエンドミルとして同一である。」とした審決の認定は誤りであると主張する。

しかしながら、本願考案の実用新案登録請求の範囲には、最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップを構成する超硬合金が比較的靭性が高いと同時に耐磨耗性を備えたものであることは記載されていないし、本願公報の考案の詳細な説明の項においても、最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップは靭性を要求されることが記載されているのみで、耐磨耗性をも要求されることの記載はない。そして、耐磨耗性を要求されることは、軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う他の二つの切刃チップについてしか記載されていないのである。したがって、最も軸線寄りの位置に配置される切刃チップが靭性と耐磨耗性とを併せて備えていることを必須要件とするものであることを実質的に意味する原告の上記主張は、本願明細書の記載に基づかないものであり、失当である。

のみならず、本願公報には、従来の「エンドミルでは、切刃がCBN焼結体によって構成されているため、極めて硬い半面靭性に乏しい。このため、切刃の端縁に上記のようなスラスト荷重が発生したり、被削材の壁部に強くこすられた場合に、その部分が容易に欠損してしまうという問題があった。この考案は、上記事情を考慮してなされたもので、CBN焼結体が有する優れた耐磨耗性を保持しつつ、切刃の軸線側の端縁の欠損を未然に防止することができるボールエンドミルを提供することを目的とするものである。」(3欄5行ないし15行)、「切削速度の速い工具本体の外周側に耐磨耗性の優れた超高硬度焼結体からなる切刃チップを配置し、最も軸線寄りの位置に比較的靭性の高い超硬合金を配置しているので、高速切削を行うことができるのは勿論のこと、切刃の軸線側端縁に多大なスラスト荷重が作用し、また被削材に強くこすられてもその部分が欠損することがない。」(3欄24行ないし32行)、「工具外周側に配置される超高硬度焼結体製の切刃チップの優れた切削性能を十分に利用して高速切削を行いつつ、超硬合金製の切刃チップの高い靭性を利用して工具軸線寄りの切刃チップの欠損を防止し、これにより工具寿命を飛躍的に高めることができる。」(6欄27行ないし33行)と記載されている。

これらの記載からすると、本願考案において、最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップを超硬合金とした理由が、比較的靭性が高い材料によって構成することにあることは明白であって、それが比較的靭性が高いと同時に耐磨耗性を備えたものであることは示唆すらされていないのである。そして、本願考案において、耐磨耗性が要求される切刃チップは、軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う切刃チップであり、最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップでないことも明白である。

なお、本願公報には、「切刃6aの長さLは、ボールエンドミルの外径をDとしたときに、1/10D~1/20Dに設定するのが望ましい。すなわち、(中略)Lが1/20Dを上回る場合には、切刃チップ6の切刃6aの外周側端縁における切削速度が速くなるため切刃チップ6が早期に摩耗してしまうからである。」(4欄13行ないし22行)と記載されている。この記載も、最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップに超硬合金を選択した目的が、比較的高い靭性を得るためであり、耐磨耗性を得るためではないことを示している。

そして、超硬合金は、超高硬度焼結体であるCBN焼結体又はダイヤモンド焼結体と比較して、靭性は高いが耐磨耗性は小さいこと、超高硬度焼結体はその逆であることは、本件出願当時の技術常識である。

以上のとおりであるから、本願考案において、最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップを超硬合金とした理由が、比較的靭性の高い材料によって構成することにあり、また、軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う他の切刃チップを超高硬度焼結体とした理由が、耐磨耗性に優れた材料によって構成することにあることは明らかである。

したがって、本願考案と引用例1記載の発明は切刃チップのうち最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップを低速用の切削を行うのに適した材料によって構成し、軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う他の切刃チップを高速用の切削を行うのに適した材料によって構成した点において同一であるとした審決の認定は誤りであるという原告らの主張は、本願明細書の記載に基づかないものであり、失当である。

3  相違点〈1〉の判断について

原告らは、ドリルとボールエンドミルは同じ切削用工具であるが、用途あるいは切刃の送り方向、切刃にかかる負荷等が相違するので、欠損あるいは磨耗が生ずる原因も相違し、したがって本願考案と引用例2記載の考案は技術的課題あるいは技術的思想を異にするから、引用例2に軸線側の切刃及び外周側の切刃に本願考案と同種の材料を選択したことが開示されているとしても、ドリルの軸線側及び外周側の各切刃を構成する各材料を引用例1記載のボールエンドミルの各切刃に採用することは、当業者がきわめて容易になしえたとはいえないと主張する。

しかしながら、引用例2には、「ドリルによる穴あけでは、切刃の中心部ではすくい角が小さく、かつ切削速度がゼロとなってスラストが大きい。」(明細書2頁16行ないし18行)と記載されている。この記載には、切刃の中心部では切削速度が極めて小さいことが開示されていることは明白である。

したがって、審決が引用例2に記載されている技術的事項として摘示した、「切刃の軸線側の端縁に多大なスラスト荷重が作用し、かつ、この部分の切削速度がきわめて小さいためにこの部分に発生する欠損を防止する目的で低速用の切削を行うのに適した比較的靭性の高い材料を選択したことにあることが、実質的に記載されている。」という認定に、誤りはない。

そして、本願公報には、「切刃の軸線側端縁には多大なスラスト荷重が作用し、かつその部分の切削速度がきわめて小さいため、ボールエンドミルを横送りした際にその端縁が被削材の壁部に強くこすられる。」(3欄1行ないし4行)と記載されている。

この記載によれば、ボールエンドミルにおいては、横送りであっても軸線方向の送りであっても、切刃の軸線側端縁の切削速度が極めて小さいという共通の原因によって、その部分に欠損が発生するのであるから、横送りであっても軸線方向の送りであっても、その部分が欠損することに関して解決すべき課題に差異はない。

また、ボールエンドミルは、プレス用金型等の三次元形状の加工に用いられるものであるから、横送りばかりでなく、軸線方向の送りも頻繁に行われるので、軸線の中心部付近まで切刃を備えている。これに対し、主として二次元形状の加工に用いられる横送りを主とするエンドミルは、側刃は備えているが、底刃(すなわち、端面の切刃)は全く備えていないか、軸線の中心部付近まで切刃を備えていない。したがって、ボールエンドミルがほとんど横送りして使用されるものであることを前提とする原告らの主張は、失当である。

なお、ボールエンドミルによる横送りを伴う切削加工は、切刃の回転運動と横送り運動とによって円弧状の連続切削として切削面を形成して加工するものである。すなわち、最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップの軸線側端縁は、切削作用を伴いながら被削材に対して相対移動するものであるから、「強くこすられるというのは、被削材に押圧されつつ被削材表面に沿って摺動することである」という原告らの主張は、失当である。そして、横送り運動による切刃の被削材に対する相対移動量は、回転運動によるものと比較して、極めて小さいものであるから、ボールエンドミルが軸線方向の移動のみならず横送りを伴って使用されることを根拠として、本願考案において最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップが、通常の切削工具が具備しなければならない以上に、特に耐磨耗性を具備するものであるとする原告らの主張は失当であって、このようなものを通常の超硬合金で構成することは、引用例1にも記載されており、本出願前において周知慣用の技術である。

以上のとおりであるから、引用例1記載の発明と引用例2記載の考案において、「切刃チップのうち最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップ及び軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う他の切刃チップを構成する材料を選択した理由が、本願考案が解決しようとする目的を達成する範囲内においては同一である。」としたうえ、「引用例2記載の考案における、切刃チップのうち最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップ及び軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う他の切刃チップを構成する材料を、引用例1記載の発明におけるそれぞれのものに換えて適用することにより、この相違点において掲げた本願考案の構成のごとくすることは、当業者がきわめて容易に考えることができたものである。」とした審決の判断に、誤りはない。

4  相違点〈2〉の判断について

原告らは、本願考案は、超高硬度焼結体で構成される二つの他の切刃チップを、径方向および軸線方向へ互いにずらし、最も軸線寄りの超硬合金で構成される切刃チップとともに、略四半分の円弧を構成するようにそれぞれ切刃が円弧状をなすように構成しているが、このような超高硬度焼結体から成る二つの他の切刃チップの構成が周知慣用であることを示す証拠はないと主張する。

しかしながら、審決は、「エンドミルにおいて、軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う切刃チップについて、これを二つ以上に分割すること」が本出願前における周知慣用の技術であると判断しているのであって、原告らが主張するように実質的には本願考案の構成そのものが周知慣用の技術であると判断したものでないことは明白である。

なお、上記の構成が本出願前における周知慣用の技術であることは、乙第1号証(昭和56年実用新案登録願第191144号(昭和58年実用新案出願公開第98120号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルムの写し)、第2号証(昭和55年実用新案登録願第188457号(昭和57年実用新案出願公開第108820号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルムの写し)、第3号証(昭和57年実用新案登録願第136260号(昭和59年実用新案出願公開第39121号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルムの写し)及び第4号証(昭和60年特許出願公告第48286号公報)によって明らかである。

そして、上記乙第1ないし第4号証はいずれもいずれもボールエンドミルに係るものであるから、この技術を同一の物品に係る引用例1記載の発明に適用することには何らの困難もなく、この相違点において掲げた構成により奏される作用効果は、それを適用した結果として当然に奏されるものである。

したがって、「この相違点において掲げた本願考案の構成のごとくすることは、当業者がきわめて容易に考えることができたものである。」とした審決の判断には、何ら誤りはない。

5  本願考案が奏する作用効果について

原告らは、本願考案が奏する作用効果についてるる主張する。

しかしながら、原告ら主張の作用効果a及びbは、引用例1及び引用例2記載の技術的事項が奏する作用効果である。また、原告ら主張の作用効果cは、引用例2記載の技術的事項及び乙第1ないし第4号証記載の周知慣用技術が奏する作用効果である。

なお、原告らは、本願考案が奏する作用効果aにおいて、最も軸線寄りの超硬合金の切刃チップは高い靭性と耐磨耗性を発揮する旨主張する。しかしながら、本願公報には最も軸線寄りの超硬合金の切刃チップが耐磨耗性を有するものであることは全く記載されていないことは前記のとおりであるから、原告らの上記主張は明細書の記載に基づかないものであって、失当である。

第4  証拠関係

証拠関係は、本件訴訟記録中の書証目録記載のとおりであるから、これをここに引用する。

理由

第1  請求原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願考案の要旨)及び3(審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。

第2  そこで、原告ら主張の審決取消事由の当否を検討する。

1  成立に争いない甲第2号証(本願公報)及び第3号証(平成5年12月20日付け手続補正書)によれば、本願考案の技術的課題(目的)、構成及び作用効果が下記のとおり記載されていることが認められる(別紙図面A参照)。

(1)技術的課題(目的)

本願考案は、回転中心から外周に至る略四半分の円弧をなす切刃が焼結合金からなる複数の切刃チップによって構成されたボールエンドミルに関する(公報1欄14行ないし17行)。

第3図及び第4図は従来のボールエンドミルを示すものであって(1欄19行、20行)、軸線Xを中心として回転せしめられる工具本体1の先端部に、円弧状をなす切刃2a…を有する3つの切刃チップ2…を、周方向へ120°をもって互いに離間させるとともに、径方向および軸線X方向へ互いにずらし、図中2点鎖線で示すように、切刃2a…の回転軌跡が全体としてほぼ四半分の円弧をなすように配置したものである。そして、各切刃チップ2は、超硬合金からなる基板3と、CBN焼結体(超高硬度焼結体)からなるチップ4とから構成され、チップ4の円弧状をなす周縁稜が切刃2aとされ、最も軸線X寄りに配置された切刃チップ2の切刃2aの端縁2bは、軸線Xから径方向へ僅かに離間せしめられている(2欄1行ないし14行)。このように構成されたボールエンドミルは、CBN焼結体からなるチップ4に切刃2aを形成しているので、耐磨耗性に優れており、高速切削に適している利点がある(2欄15行ないし18行)。

しかし、このようなボールエンドミルにおいては、切刃の軸線側端縁に多大なスラスト荷重が作用し、かつその部分の切削速度が極めて小さいため、ボールエンドミルを横送りした際にその端縁が被切削材の壁部に強くこすられる。ところが、このエンドミルでは、切刃がCBN焼結体によって構成されているため、極めて硬い半面、靭性に乏しい。このため、切刃の端縁にスラスト荷重が作用したり、被切削材の壁部に強くこすられた場合に、その部分が容易に欠損してしまうという問題点があった(2欄20行ないし3欄10行)。

本願考案は、CBN焼結体が有する優れた耐磨耗性を保持しつつ、切刃の軸線側の端縁の欠損を未然に防止することができるボールエンドミルを提供することを技術的課題(目的)とするものである(3欄11行ないし15行)。

(2)構成

本願考案は、上記目的を達成するために、その要旨とする実用新案登録請求の範囲記載の構成を採用したもの(手続補正書3枚目2行ないし14行)であって、超硬合金からなる切刃チップを工具本体の最も軸線寄りの位置に配置し、超高硬度焼結体からなる切刃チップを外周側に配置した構成である(公報3欄19行ないし22行)。

(3)作用効果

本願考案によるボールエンドミルは、切削速度の速い工具本体の外周側に耐磨耗性の優れた超高硬度焼結体からなる切刃チップを配置し、最も軸線寄りの位置に比較的靭性の高い超硬合金からなる切刃チップを配置しているので、高速切削を行うことができるのは勿論のこと、切刃の軸線側端縁に多大なスラスト荷重が作用し、また被切削材に強くこすられてもその部分が欠損することがない(3欄24行ないし32行)。

すなわち、工具外周側に配置される超高硬度焼結体製の切刃チップの優れた切削性能を十分に利用して高速切削を行いつつ、超硬合金製の切刃チップの高い靭性を利用して工具軸線寄りの切刃チップの欠損を防止し、これにより工具寿命を飛躍的に高めることができる。しかも、各切刃チップをすべて超高硬度焼結体で構成した場合に比して各切刃チップの寿命が大幅に接近するので、工具の経済性も高まる。さらに、一部の切刃チップに安価かつ加工性が良い超硬合金を使用しているため、すべての切刃チップを高価かつ加工性が悪い超高硬度焼結体で構成した場合に比して、工具の原料費及び製造費をともに低下できる(6欄27行ないし41行)。

2  一致点の認定について

(1)原告らは、引用例1には、ボールエンドミルの中心側と外周側とでは異なる材料の切刃チップを採用すること、その例として「低速用の超硬合金と高速用のハイス」及び「低速用のハイスと高速用の超硬合金」の組合せが開示されているにすぎないから、「切刃チップのうち最も軸線よりの位置に配置された一つの切刃チップを低速用の超硬合金またはハイスによって構成し、…他の切刃チップを高速用の超硬合金またはハイスによって構成」することが記載されているという審決の認定は誤りであると主張する。

成立に争いない甲第4号証によれば、引用例1は、名称を「ボールエンド刃フライスカツタ」とする発明の特許出願公告公報であって、下記のような記載があることが認められる。

a 「中心部から外周部まで連続した切れ刃を有する従来のボールエンドミルにおいては、特に切削速度が小さい「中心付近の切削性が外周部に比して著しくわるく、作業の能率化を妨げている。本願発明者は上記にかんがみ、ボールエンドミルにおいて中心切削部と外周切削部を分離し、切れ刃をそれぞれ独立させることに着目した。この発明の目的とするところは中心部と外周部とで切れ刃の切削作用を平均することにより耐久性にすぐれたボールエンドミルを提供することにある。この発明の要旨とするところは、複数の切れ刃を持つボールエンド刃フライスカツタ(ボールエンドミル)において少なくとも一つの切れ刃を中心部切削のみの切れ刃とし、その他の切れ刃を外周部切削のみの切れ刃としてそれぞれ適当な形状のチツプを埋め込んで独立させたものである。」(2欄5行ないし21行)

b 「このような発明の構成によれば、刃部が中心部と外周部とがそれぞれ分離していることにより、特に中心域での切れ刃の切削作用を改善できるように種々の形状、寸法、材質あるいは構造の刃部を選ぶことが可能である。この発明の構成によれば多数刃であることから切削抵抗が常時カツタに作用し、振動が少なく安定した切削ができるため、従来のハイスポールエンド刃カツタに比べて高速、早速り(「早送り」の誤記と考えられる。)が可能でしかも高寿命となる。」(3欄1行ないし9行)

これらの記載によれば、引用例1記載の発明は、ボールエンドミルは中心部の切削速度が外周部のそれに比較して低速であるため、中心部の切削性が著しく劣ることを従来技術の問題点と捉え、これを解決するために、切れ刃を中心部切削用と外周部切削用の2種類に分離して独立させ、それぞれの切れ刃に適する形状、寸法、材質及び構造を選択することによって、特に中心部の切削作用を高めて中心部と外周部の切削作用を平均化し、ボールエンドミルの耐久性を改善するために創作されたものと認めることができる。

以上の事項を前提にすると、引用例1の「チップの材質に関しては、中心部切削用の刃部と外周部切削用の刃部とを異なる材料とし、例えば中心に低速用の超硬合金又はハイスを、外周を高速用のハイス又は超硬合金を組合せるようにしてもよい。」(4欄13行ないし17行)という記載の意味内容は、前記a・bにおいて明らかにされている技術的事項と一連の繋りの中で理解すべきものであるから、中心部切削用刃部と外周部切削用刃部のそれぞれの材質を選択するに当たって考慮すべき要件を並列的に挙げたものであって、その組合せ順序を意図的に限定したものではないと解するのが相当である。現に、前掲甲第4号証によれば、引用例1には、「実施例では刃部1及び刃部2は超硬合金よりなる円形断面チップ及び矩形断面チップを使用、組合せて」(3欄37行ないし39行)と記載されていることが認められるところ、ここにいう刃部1は中心部切削用であり、刃部2は外周部切削用であって、いずれも超硬合金によって構成されているのであるから、引用例1記載の発明が、原告ら主張のように、限定された材質の組合せのみを開示するものではないことは疑いの余地がないというべきである。

したがって、審決の前記認定に誤りはない。

(2)次に、原告らは、引用例1記載の発明における切削材料の組合せは前記(1)のとおりであり、引用例1における「低速用」と「高速用」という概念は「靭性」と「耐磨耗性」に対応した概念ではないから、「低速用」の切削材料とは「比較的靭性の高い材料」であり「高速用」の切削材料とは「耐磨耗性に優れた材料」であるとした審決の認定判断は誤りであると主張する。

前記のように、引用例1の記載を全体としてみれば、引用例1には、ボールエンドミルの中心部には低速切削に適する材料を、外周部には高速切削に適する材料を選択すべきことが開示されていると理解することができるから、引用例1には原告ら主張のような限定された組合せのみが開示されていることを前提とする原告らの主張は、その前提において誤りがある。

一方、本願公報に、「ボールエンドミルにおいては、切刃の軸線側端縁に多大なスラスト荷重が作用し、かつその部分の切削速度が極めて小さいため、ボールエンドミルを横送りした際にその端縁が被切削材の壁部に強くこすられる。ところが、上記エンドミルでは、切刃がCBN焼結体によって構成されているため、極めて硬い半面靭性に乏しい。このため、切刃の端縁に上記のようなスラスト荷重が作用したり、被切削材の壁部に強くこすられた場合に、その部分が容易に欠損してしまうという問題点があった。」(2欄20行ないし3欄10行)と記載されていることは、前記1のとおりである。

そうすると、審決の、「本願考案において、最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップを超硬合金によって構成した理由が、(中略)比較的靭性の高い材料を選択したことにあることは明白である。このことは、切刃チップのうち最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップを低速用の切削を行うのに適した材料によって構成したことに外ならない。」という説示はまさしく正当であるから、比較的靭性の高い材料は低速用の切削に適したものということができる。

また、本願公報に、「切削速度の速い工具本体の外周側に耐磨耗性の優れた超高硬度焼結体からなる切刃チップを配置し」(3欄24行ないし26行)と記載されていることは前記のとおりである。そうすると、審決の、「(本願考案において)軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う他の切刃チップを超高硬度焼結体によって構成した理由が、(中略)耐磨耗性に優れた材料を選択したことにあることは明白である。このことは、軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う他の切刃チップを高速用の切削を行うのに適した材料によって構成したことに外ならない。」という説示もまさしく正当であるから、耐磨耗性に優れた材料は高速用の切削に適したものということができる。

したがって、「低速用」の切削材料とは「比較的靭性の高い材料」であり、「高速用」の切削材料とは「耐磨耗性に優れた材料」であるとした審決の認定判断には、何ら誤りはない。

(3)原告らは、さらに、本願考案と引用例1記載の発明との各切刃チップの構成についての審決の一致点の認定が誤っていることの理由として、本願考案が最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップを超硬合金によって構成したのは、比較的靭性が高いと同時に耐磨耗性を備えているからであり、この点に本願考案の特徴があると主張する。

しかしながら、本願考案の要旨である実用新案登録請求の範囲には、最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップを構成する超硬合金が、比較的靭性が高いと同時に耐磨耗性を備えているという点は記載されておらず、また、前掲甲第2号証によれば、本願公報の考案の詳細な説明の欄にも、これに副う記載は存しないことが認められる。したがって、本願考案が最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップを構成する材料として超硬合金を選択した理由は、超硬合金が比較的靭性が高い点に着目したからであって、その耐磨耗性に着目したからではないと考えるほかはない。

なお、成立に争いない乙第6号証によれば、株式会社工業調査会1979年5月10日発行「ダイヤモンド工具マニュアル」には、「従来、切削工具として超硬合金やダイヤモンドバイトが用いられてきたが、超硬合金は靭性が大で、大きな欠けが発生する不安はないが、耐磨耗性がダイヤモンドの1/10~1/100以下で、工具交換の頻度が高い。」(39頁左欄図2.24下7行ないし11行)、「コンパクトを構成する粒子はアトランダムであり、どの方向にも耐磨耗性が大である。」(同欄図2.24下20行ないし右欄1行)と記載されており、切削工具の材料としての超硬合金は、比較的靭性が高いものの、耐磨耗性がダイヤモンドバイトに比較すると極めて小さいこと、超高硬度焼結体の1種であるダイヤモンドコンパクトは耐磨耗性に極めて優れていることが認められる。

乙第6号証の上記の記載を前提とすれば、本願考案は、最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップを超硬合金によって構成することにより、超硬合金が有する靭性を利用して切刃チップの欠損を防止したものであって、原告ら主張のように、最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップを靭性と同時に耐磨耗性を備える材料によって構成して欠損を防止しようとしたものではないと解するのが相当である。

この点について、原告らは、本願公報の第5図(別紙図面A)にはCBN製切刃と超硬合金製切刃の逃げ面磨耗量が示されており、「超硬合金製の切刃チップの逃げ面磨耗量がCBN製の切刃チップの2倍程度に収まっていること」(本願公報6欄13行ないし15行)からみても、本願考案の最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップが耐磨耗性を備えていることは明らかであると主張する。

しかしながら、別紙図面Aの第5図は、あくまで本願考案の1実施例の比較試験の結果を表したものであるから、この結果から、本願考案の最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップが耐磨耗性をも備えることを要件とするといえないことは明らかである。

ちなみに、成立に争いない乙第7号証によれば、津和秀夫著「機械加工学」(株式会社養賢堂昭和48年8月10発行)には、「切削中の工具は図2.33に示すようなつぎの4種類の変化を受ける.

(1)刃先稜の微細な欠け(チッピング)[(a)図]

(2)工具材料の漸進的な磨耗[(b)図]

(3)突発的な切刃の欠損[(c)図]

(4)切刃の完全鈍化[(d)図]

(中略)(1)(2)の現象は、切削には必ず付随するものであり、漸進的な工具の性能低下をもたらせる.この性能低下がある一定の限度に達したときを工具の寿命点とする考え方が一般に実施されている.(1)のチッピングは測定が困難なために、(2)の磨耗によって工具寿命を規定している。工具の磨耗は図2.34に示すように、すくい面にはすくい面磨耗を、逃げ面には逃げ面磨耗を起こさせる.」(53頁図2.33下4行ないし19行)と記載されており、工具の性能低下をもたらすのはチッピングと磨耗であるが、チッピングは測定が困難なため、磨耗によって工具の寿命を測定することが認められる。したがって、別紙図面Aの第5図に表されている逃げ面磨耗量も、工具寿命を示す指標として用いられているのであり、これには当然チッピングも含まれているものと考えられるから、別紙図面Aの第5図から、本願考案の最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップが耐磨耗性をも備えているという結論を導き出すことはできないというべきである。

いうまでもなく、切削工具の切刃チップが耐磨耗性を全く有していないならば、切削工具としての用をなさないことは明らかであって、通常の切削工具に求められる程度の耐磨耗性は、本願考案の最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップのみならず、引用例1記載の低速用の切れ刃も当然に具備しているものと解される。

以上のとおりであるから、本願考案の最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップを構成する超硬合金は比較的靭性が高いと同時に耐磨耗性を備えているものであるという原告らの主張は、失当である。

(4)原告らは、中心部切削用の刃部と外周部切削用刃部とにそれぞれ適した材料を組み合わせるという本願考案の技術的思想は引用例1には全く開示されておらず、引用例1は本願考案の技術的課題(目的)の解決に関して何らの示唆も与えるものではないから、審決の前記一致点の認定は誤りであると主張する。

前記のとおり、本願考案は、最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップの材料として低速切削に適する比較的靭性の高い材料を選択し、軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う他の二つの切刃チップの材料として高速切削に適する耐磨耗性に優れた材料を選択したことを特徴とするものである。

一方、引用例1記載の発明も、前記(1)のとおり、ボールエンドミルの中心部の切削速度が低速であり、外周部の切削速度が中心部に比較して高速であって、中心部付近の切削性が著しく悪く作業の能率を妨げているとの課題を解決するため、刃部を中心部用と外周部用に分離し、それぞれの切削速度に適した材料を選択したものである。したがって、本願考案と引用例1記載の発明は、それぞれの切刃チップの材料を選択した理由が、中心部用刃部には低速切削に適したもの、外周部用刃部には高速切削に適したものとする点で全く同じであり、両者は解決すべき技術的課題(目的)において共通していることが明らかである。

この点について、原告らは、引用例1記載の発明は、「中心部と外周部とで切れ刃の切削作用を平均する」(2欄12行、13行)、あるいは中心部の切れ刃に対する「負荷を分散させる」(3欄19行)ことを目的とするものであると主張する。

しかしながら、引用例1には「この発明の目的とするところは中心部と外周部とで切れ刃の切削作用を平均することにより耐久性にすぐれたボールエンドミルを提供することにある。」(2欄12行ないし15行)と記載されていることは前記(1)のとおりであって、「中心部と外周部とで切れ刃の切削作用を平均する」ことの目的はボールエンドミルの耐久性の改善にあるから、この点は本願考案の目的と一致する。また、前掲甲第4号証によれば、引用例1には、「エンド刃フライスカツターの先端中心部の刃形は加工材の切屑を外方へ押出し、かつ加工材に内側から徐々に切込んで負荷を分散させるためにもスパイラルの形状が望ましい」(3欄16行ないし20行)と記載されていることが認められる。すなわち、この記載は、切れ刃の形状に着目すればスパイラルとすることが望ましいことを明らかにしたものであって、切れ刃の材質に着目したものではないから、この記載を根拠として本願考案と引用例1記載の発明は技術的課題(目的)を異にするという原告らの主張は、失当である。

(5)以上のとおり、本願考案と引用例1記載の発明は技術的課題(目的)において共通しており、配設位置の相違に関連する各切刃チップの構成についての本願考案の技術的思想は引用例1に開示されていると認められるから、審決の一致点の認定には原告ら主張のような誤りはない。

3  相違点〈1〉の判断について

原告らは、引用例2に審決認定の技術的事項(事実欄3(2)b、(5)a・b)が記載されていることを認めながら、ドリルとボールエンドミルは欠損あるいは磨耗が生ずる原因が相違し、したがって本願考案と引用例2記載の考案は技術的課題あるいは技術的思想を異にするものであるから、引用例1記載のボールエンドミルの各切刃に、引用例2記載のドリルの軸線側及び外周側の各切刃を構成する材料を採用することは当業者がきわめて容易になしえたものではないと主張する。

しかしながら、本願考案が、最も軸線寄りの位置に配置された一つの切刃チップを低速用の切削を行うのに適した比較的靭性の高い超硬合金によって構成し、軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う他の切刃チップを高速用の切削を行うのに適した耐磨耗性に優れている超高硬度焼結体によって構成したことを特徴とすることは、前記のとおりである。

一方、引用例2に、「最も軸線寄りの位置に配置された切刃を超硬合金で構成した理由について(中略)低速用の切削を行うのに適した比較的靭性の高い材料を選択したことにあることが、実質的に記載されている」(審決の8頁13行ないし20行)こと、及び、「軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う他の切刃チップを超高硬度焼結体によって構成した理由について(中略)高速用の切削を行うのに適した比較的耐磨耗性の高い材料を選択したことにあることについても、併せて実質的に記載されている」(審決の9頁1行ないし9行)ことは、前記のとおり原告らも認めて争わないところである。

そうすると、本願考案と引用例2記載の考案とは、切削用工具の中心側切刃と外周側切刃を構成する材料を選択する事由が、全く同一である。そして、前記2のように、この技術的課題(目的)は、引用例1記載の発明にも共通しているものである。

もっとも、引用例2記載の考案はドリルに関するものであり、ドリルが工具を横送りして切削を行うものでないことは原告らが主張するとおりである。しかしながら、前記のとおり、本願考案のボールエンドミルも引用例2記載のドリルも金属に孔等を形成するための切削工具である点において技術的に共通し、極めて親近性を有する技術であるだけでなく、ボールエンドミルにおいては、ドリルと異なって工具を横送りして切削することができるといっても、本願考案は、ボールエンドミルを横送りした場合に限定して、最も軸線寄りの位置に配置された切刃の欠損の防止を技術的課題(目的)としたものではなく、「切刃の端縁に(中略)スラスト荷重が作用したり、被削材の壁部に強くこすられた場合に、その部分が容易に欠損してしまうという問題」(本願公報3欄7行ないし10行)を解決することを技術的課題(目的)とするものであるから、これにドリルに関する引用例2記載の技術的事項を適用することに困難性はないというべきである。そればかりでなく、本願公報に「切削速度が極めて小さいため、ボールエンドミルを横送りした際にその端縁が被削材の壁部に強くこすられる。」(3欄2行ないし4行)と記載されているように、ボールエンドミルを横送りした際に切刃の端縁が強くこすられるのは切削速度が極めて小さいことが原因であるが、軸方向の送りのみを行うドリルにおいても、切削速度が極めて小さければ切刃の端縁が欠損することは同じであるから、最も軸線寄りの位置に配置された切刃チップに欠損が生ずることに関して解決すべき技術的課題(目的)は、本願考案と引用例2記載の考案との間に差異はないのである。

したがって、相違点〈1〉に係る本願考案の構成は当業者がきわめて容易に考えることができたとする審決の認定判断に、原告ら主張のような誤りはない。

4  相違点〈2〉の判断について

原告らは、本願考案は超高硬度焼結体で構成された2つの他の切刃チップを径方向及び軸線方向へ互いにずらし、最も軸線寄りの超硬合金で構成される切刃チップとともに略四半分の円弧を構成するようにそれぞれ切刃が円弧状をなすように構成しているが、このような超高硬度焼結体から成る2つの他の切刃チップの構成が周知慣用であることを示す証拠はないから、引用例1記載のボールエンドミルに周知技術を適用することにより相違点〈2〉に係る本願考案の構成のごとくすることができるとした審決の判断は誤りであると主張する。

しかしながら、審決が相違点〈2〉の判断において周知慣用の技術であるとしているのは、「エンドミルにおいて、軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う切刃チップについて、これを二つ以上に分割すること」のみであるから、これ以外の構成について周知慣用であることを示す証拠はないという原告らの主張は失当である。

そして、いずれも成立に争いない乙第1ないし第4号証によれば、昭和56年実用新案登録願第191144号(昭和58年実用新案出願公開第98120号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルムの写しには、「第1図は本考案の1実施例の複合ボールエンドミルの正面図であり、(中略)外周側の切刃12には高圧相型窒化硼素を60体積%含有する焼結体が固着されたものであり」(明細書4頁9行ないし14行)と記載され、第1図には外周側の切刃12が3個に分割されたものが表されていることが認められ、昭和55年実用新案登録願第188457号(昭和57年実用新案出願公開第108820号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルムの写しには、「残りのスローアウエイチツプ(4)を回転方向および軸方向へ順次ずらせて回転軌跡上で半球状を呈するように取り付けていることを特徴とするスローアウエイ式ボールエンドミル。」(明細書2頁2行ないし5行)と記載され、第1、第2、第5、第9図には外周側に2個のスローアウエイチツプが表されていることが認められる。また、昭和57年実用新案登録願第136260号(昭和59年実用新案出願公開第39121号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフィルムの写しには、「鋼からなるシヤンクの所定位置に超硬合金またはセラミックスからなるスローアウエイチップを複数取り付けたボールエンドミル」(明細書1頁5行ないし7行)と記載され、第7図には外周側に2つのスローアウェイチップB、Cが表されていることが認められ、昭和60年特許出願公告第48286号公報には、「この頭部2には、複数個のチップ座4が形成され、このチップ座4内に取付けられた切刃チップ5の切刃稜6が、その回転軌跡によって球面を創成する。」(5欄12行ないし15行)と記載され、第4図には外周側に3個の切刃チップ5が表されていることが認められる。

以上の刊行物の記載によれば、ボールエンドミルにおいて、軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う切刃チップについて、これを二つ以上に分割することは、本出願前における周知慣用の技術であり、この技術を引用例1記載の発明に適用しても、周知慣用の技術が本来有する作用効果を奏するにすぎないことが明らかである。

したがって、相違点〈2〉に係る本願考案の構成は当業者がきわめて容易に考えることができたとする審決の認定判断にも、原告ら主張のような誤りはない。

5  本願考案が奏する作用効果について

(1)作用効果aについて

これまでに述べたように、引用例1記載の発明及び引用例2記載の考案は、いずれも、切削工具の外周側に高速切削に適した材料を、中心側に低速切削に適した材料を使用しているものである。したがって、最も軸線寄りの位置に配置された切刃チップの欠損を防止し、工具の寿命を飛躍的に高めることができるという本願考案の作用効果は、引用例1記載の発明及び引用例2記載の考案においても当然に奏されているものである。

なお、最も軸線寄りの位置に配置された切刃チップが耐磨耗性をも発揮するという原告らの主張は、前記2(3)のとおり、明細書の記載に基づかないものであって、失当である。

(2)作用効果bについて

各切刃チップをすべて超高硬度焼結体によって構成した場合と比較して、各切刃チップの寿命が大幅に接近するので工具の経済性が高まるという本願考案の作用効果は、切削工具の切刃チップを低速切削用と高速切削用とに分離した構成によって生ずるものであるから、上記(1)の作用効果と同じく、引用例1記載の発明及び引用例2記載の考案においても当然に奏されているものである。

(3)作用効果cについて

軸線より径方向外方の位置から最大回転半径までの範囲で切削を行う切刃チップを二つ以上に分割することは、前記4のとおり、本出願前における周知慣用の技術である。したがって、超高硬度焼結体によって構成した切刃チップを二つで構成することによって、各切刃が小型化し汎用性の高い形状のものにすることができ、低廉で工具の経済性が高まるという本願考案の作用効果は、上記周知慣用の技術自体の当然の結果にすぎない。

(4)したがって、本願考案が奏する作用効果に顕著性はないとした審決の認定判断にも、原告ら主張のような誤りはない。

6  以上のとおりであるから、本願考案は引用例1記載の発明及び引用例2記載の考案並びに本出願前における周知慣用の技術手段に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたとする審決の認定判断は正当であって、審決には原告らが主張するような誤りは存しない。

第3  よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告らの本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、93条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 春日民雄 裁判官 持本健司)

別紙図面 A

1…工具本体 2…切刃チップ 2a…切刃 5…工具本体 6、7、8…切刃チップ 6a、7a、8a…切刃

〈省略〉

別紙図面 B

1…中心部切削用刃部(チップ) 2…外周部切削用刃部(チップ) 3…中心部切削用切れ刃 4…外周部切削用切れ刃 5…本体 6、7…本体に設けたチップ充填用凹部 8、9…中心部切削用切れ刃と外周部切削用切れ刃の切削時重なる部分

〈省略〉

別紙図面 C

1…切刃部 2…ドリル本体 11…外周部切削面 110…外周切削用切刃 12…内周部切削面 120…内周切削用切刃

〈省略〉

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com