大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

東京高等裁判所 平成6年(行ケ)29号 判決

神奈川県鎌倉市稲村が崎5丁目7番17号

原告

株式会社川角技術研究所

代表者代表取締役

川角眞六

訴訟代理人弁理士

柳川泰男

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

指定代理人

木南仁

及川泰嘉

小川宗

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1  当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成3年審判第11527号事件について、平成5年12月2日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨。

第2  当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和56年10月20日、名称を「電極層を有する電子部品とその製造方法」(後に「電極層を有する電子部品」と補正)とする発明(以下「本願発明」という。)につき、訴外三菱鉱業セメント株式会社(平成3年6月13日「三菱マテリアル株式会社」と名称変更)と共同で特許出願(特願昭56-166335号)をしたが、平成3年2月21日、拒絶査定を受けたので、同年6月13日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成3年審判第11527号事件として審理したうえ、平成5年12月2日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、平成6年1月17日、原告に送達された。

その後、三菱マテリアル株式会社は、本願発明についての特許を受ける権利を原告に譲渡し、平成6年2月15日にその旨を被告に届け出た。

2  本願発明の要旨

セラミックス製基板とその基板上に設けられた電極層からなる電子部品であって、電極層の実質的に内部のみに平均粒子径が5ミクロン以下の微粒子状のセラミックス粉末が分散状態で存在していて、かつ、セラミックス粉末の重量の合計が電極層の重量に対して90-10%の範囲にあることを特徴とする電極層を有する電子部品。

3  審決の理由

審決は、別添審決書写し記載のとおり、本願発明は、米国特許第3237066号明細書(以下「引用例」といい、そこに記載された発明を「引用例発明」という。)に記載された発明と同一であると認められるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができないとした。

第3  原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本願発明の要旨及び引用例発明の要旨の認定については、引用例発明の電極層の実質的に内部のみに、セラミックス粉末が分散状態で存在しているとする点を除き、認める。なお、審決の「セラミックス粉末の重量の合計が電極層の重量に対して46%である」との認定は「31%」の計算誤りである。

審決は、本願発明の「電極層の実質的に内部のみにセラミックス粉末が分散状態で存在する電極層」という構成を引用例発明が備えているものと誤認した結果、本願発明と引用例発明とは同一であると誤って判断したものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  通常の化学メッキを利用してセラミックス粒子を金属で被覆した被覆粉末を用いた電極層は、その金属単独の粉末を用いた電極層とは、電気的特性において桁違いに劣った数値を示すが、これは、電極層の表面にセラミックス相が露出すると、それがわずかでも電極の電気的特性に大きく影響を与えるためであると理解される。

これに対し、本願発明は、本願明細書(甲第3、第5号証)に記載されているとおり、電極用材料として用いる導電性金属材料の電気的特性を低下させることなく、その使用量の低減が可能な電極層を有する電子部品を提供することを主な目的とするものであり(甲第3号証4欄9~25行)、「実質的に内部のみにセラミックス粉末が存在している」電極層とは、「電極層の表面に、その電極層の電気的特性を明らかに変化させるなどの量のセラミックス粉末及び/又はセラミックス成分が露出もしくは存在していない」電極層である(同号証5欄27~38行)。そして、本願明細書の実施例1~5についての電気的データの記載(同10欄1行~17欄16行)と比較例についての電気的データの記載(同19欄15行~20欄32行)によれば、本願発明の金属被覆粉末を用いた電極層は、その金属単独の粉末を用いた電極層と、各種の電気的特性について、一般に10%以内、例外的に20%以内程度の相違に止まるものである。したがって、本願発明の上記「電極層の表面に、その電極層の電気的特性を明らかに変化させるなどの量のセラミックス粉末及び/又はセラミックス成分が露出もしくは存在していない」電極層とは、上記の程度の変化に止まる程度に「セラミックス粉末またはセラミックス成分が露出もしくは存在していない」電極層と解される。

被告は、上記実施例は、セラミックス粉末/導電性金属材料の重量比に関して限られた一部のケースについてのものであるから、本願発明の数値範囲の全てにおける「電極層の電気的特性を明らかに変化させない」程度を特定あるいは説明することはできないと主張するが、本願明細書の実施例1~5に示された各種の組合せの全てにおいて、各種の電気的特性が通常は10%以内、多い場合でも20%以内程度の変化に止まっているのであるから、これらの実施例の多様な実験データの整合性を考慮すれば、原告の上記主張は十分根拠を持つものである。

2  引用例(甲第4号証)には、引用例発明がその内部にのみセラミックス粉末を分散させているか否かを直接的に表現する記載はないが、その「一般に、上記の目的は、少なくとも部分的にパラジウムで被覆された非金属粒子をその中に分散させた有機ベヒクルからなる電極塗料から作られた電極を有するキャパシタを形成することによって達成される。」(同号証訳文2頁13~16行)、「電極が少なくとも部分的にパラジウムで被覆された小さいサイズのチタン酸バリウム粒子から本質的に構成されてなる」(同7頁16~18行)等の電極層の表面状態を示唆する記載、その電極層を製造するために用いられているパラジウム被覆セラミックス粉末に関する記載(同2頁19~21行、6頁14~18行等)によれば、引用例発明のパラジウム被覆チタン酸バリウムは、微粒子であって、それは少なくとも部分的にパラジウムにより均一に被覆されており、電気的な連続を要求される電極として使用可能であることが明らかにされているにすぎない。

また、引用例の実施例中の記載(同3頁13~14行、4頁8~13行)によれば、引用例発明の被覆粒子におけるパラジウムとチタン酸バリウムとの重量比は約37:17、その体積比は約1:1であるところ、粒径2ミクロンのチタン酸バリウムに同体積のパラジウムを被覆すると、生成したパラジウム被覆チタン酸バリウム粒子の粒径は約2.6ミクロンとなるはずであるにもかかわらず、被覆粒子の大部分(約91%)の粒径が5ミクロン以上と測定されており、このことからすると、引用例発明においては、被覆粒子がそれぞれ独立した単一な粒子ではなく、粒子の凝集体に被覆がされているものとしか考えられない。

そして、このように被覆された凝集体の大部分は、ベヒクルや有機バインダとともに混合、粉砕される工程において粒子単位毎に分離されるから、このような分離物粒子は、その表面の大部分は、パラジウムにより被覆されているものの、凝集時にチタン酸バリウム粒子間で接触していた領域にはパラジウムは当然存在せず、内部のチタン酸バリウム(セラミックス)が露出していると考えられる。このような部分的に内部のセラミックスが露出しているパラジウム被覆粒子の集合体を成形し、焼成することにより製造される電極層は、必然的に、その表面の部分にセラミックス露出領域を有するようになる。このような部分的なセラミック露出領域があっても、肉眼では均一なパラジウム金属表面を有する電極層として見えるのであり、被覆粒子を電子顕微鏡などの観察手段を用いて観察したことを示唆する記載はないから、引用例中の「最終金属メッキ粒子が驚異的に均一になった」(同2頁21行)との記載は、セラミックス微粒子の凝集体が均一にメッキされた被覆凝集体粒子であるか、肉眼では均一に見えるパラジウム被覆粒子を意味するにすぎない。

仮に、凝集体を形成するセラミックス粒子がそれぞれパラジウム被覆層を介して凝集しているとしても、形成されたパラジウムで被覆された凝集体の大部分は、比較的過酷な粉砕により崩壊するものと理解され、その凝集体の崩壊に際しては、その被覆層は、相接するセラミックス粒子の一方の側に残り、他の側のセラミックス粒子の表面に残ることはありえないから、セラミックス粒子の表面にセラミックス露出面が現れることになる。

原告が引用例における実施例についての追試実験を実施したところ、その実験結果(実験証明書・甲第6号証)は、原告の上記主張を裏付けるものである。

3  以上のとおり、引用例発明のような露出部分を持つ被覆粒子から得られる電極層は、当然その内部のみにセラミックスが分散された電極層とはなりえないから、審決の、引用例発明において電極層の実質的に内部のみにセラミックス粉末が存在しているとの認定は誤りであり、この点において本願発明と引用例発明とは相違し、同一ではない。

第4  被告の反論の要点

審決の認定判断は正当であって、原告主張の取消事由は理由がない。ただし、審決の「セラミックス粉末の重量の合計が電極層の重量に対して46%である」との認定が、「31%」の計算誤りであることは認める。

1  本願発明における「電極層の実質的に内部のみ」とは、「電極層の内部のみにセラミックス粉末が存在し」という状態に準じた状態を含めた状態を特定しているとするのが相当である。

原告は、本願発明の金属被覆粉末を用いた電極層は、その金属単独の粉末を用いた電極層と、各種の電気的特性について一般に10%以内、多い場合でも20%以内程度の変化に止まると主張するが、上記主張の根拠とする実施例は、セラミックス粉末/導電性金属材料の重量比がいずれも50/50のものであり、本願発明の「セラミックス粉末の重量の合計が電極層の重量に対して90-10%の範囲」の上限値及び下限値を含むものでもないから、本願発明の上記範囲の全てにおける「電極層の電気的特性を明らかに変化させない」程度を特定あるいは説明することはできず、また、上記実施例に示された電気的特性の種類は統一されておらず、どの電気的特性について「明らかに変化させない」とするのかも明確ではないから、原告の上記主張は失当である。

2  引用例(甲第4号証)の「非金属粒子の大きさを約2.0ミクロン又はそれより小さく限定することによって、最終金属メッキ粒子が驚異的に均一になった。」、「塗料ベヒクル中でのこの材料の比較的苛酷な粉砕の間でもパラジウムのシェルが粒子の表面にしっかり接着していると信じられる理由がある。」との記載によれば、個々のチタン酸バリウムがパラジウムで被覆され、その被覆層は苛酷な粉砕工程においても剥離しないことが明示されている。また、「パラジウムで被覆した後、キャパシタの形成で実施する次の焼成工程の間にチタン酸バリウムが再酸化される危険はない。パラジウムは水素以外の全ての気体に対して不浸透性であり、それでこの半導体粒子は酸素を排除する保護シェルを有する。」との記載によれば、パラジウムがチタン酸バリウム粒子の酸化防止のための保護シェルを形成すること、すなわち、個々のチタン酸バリウム粒子の周囲はパラジウムで被覆され、部品製造工程後半の焼成工程でのチタン酸バリウムと酸素との結合を防止していることが認められる。

引用例発明の実施例においても、セラミックス粒子を凝集しやすくするような工程はみられず、むしろ個々のセラミックス粒子を分散させるのに十分な攪拌が行われて(工程Ⅱ)、メッキ工程が進行し、その工程の中でパラジウムで被覆されたセラミックス粒子が金属結合により凝集するものと考えられる。このように0.5ミクロン以上のセラミックス粒子を導電性金属材料で被覆して強固な凝集体を形成することはよく知られており、本願発明と同様の粒径を有するセラミックス粒子に金属を被覆する際、攪拌を必要条件とし、その攪拌の状況を考慮しながら、個々のセラミックス粒子に薄い被膜を形成することは、周知技術ということができる(乙第4号証、乙第9~第11号証)。引用例発明は、セラミックス粒子の表面にしっかりとしたパラジウム被膜を形成することを目的としており、この目的から考えても、引用例発明の「粉砕」工程は、セラミックス粒子表面からのパラジウムの剥離あるいはセラミックス粒子表面が露出することのないようにブレンドする工程と考えるのが妥当である。

以上の引用例の記載、実施例及び周知技術を併せ考えれば、引用例発明ではチタン酸バリウムがまず凝集するのではなく、パラジウムに被覆された個々のチタン酸バリウムが凝集し、金属結合によって強固な結合体を形成しているものと認められ、このような状態が形成された電極は、その内部のみにセラミックス粉末が存在しているか、少なくともこれに準じた状態にあると認められるから、引用例発明には、「電極層の実質的に内部のみにセラミックス粉末が存在している」構成が開示されている。

原告が援用する実験証明書(甲第6号証)における実験は、引用例に記載のない技術を採用し、かつ最適の条件の下での実験ではなく、そのデータも本願明細書に示している電気的特性についてのものとはいえず信頼性に欠けるものであり、その結論も根拠がない。

3  したがって、審決が、引用例発明においても、電極層の実質的に内部のみにセラミックス粉末が存在していると認定したこと(審決書3頁11~13行)に誤りはない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録の記載を引用する。書証の成立については、いずれも当事者間に争いがない。

第6  当裁判所の判断

1  本願発明が、その要旨に示すとおり、「セラミックス製基板とその基板上に設けられた電極層からなる電子部品であって、電極層の実質的に内部のみに平均粒子径が5ミクロン以下の微粒子状のセラミックス粉末が分散状態で存在していて、かつ、セラミックス粉末の重量の合計が電極層の重量に対して90-10%の範囲にあることを特徴とする電極層を有する電子部品」であり、引用例発明も、「セラミックス製基板とその基板上に設けられた電極層からなる電子部品であって、電極層に平均粒子径が2ミクロンの微粒子状のセラミックス粉末が分散状態で存在しており、そのセラミックス粉末の重量の合計が電極層の重量に対して31%(審決の認定する「46%」は計算誤りである。)であることを特徴とする電極層を有する電子部品」であること、したがって、引用例発明が本願発明の電極層の実質的に内部のみにセラミックス粉末が分散状態で存在しているとする構成を備えているかどうかの点を除き、両者が同一であることは、当事者間に争いがない。

この電極層の実質的に内部のみにセラミックス粉末が分散状態で存在している点について、本願明細書(甲第3、第5号証)には、「本発明は、電極用材料として用いる導電性金属材料の電気的特性を低下させることなく、導電性金属材料の使用量の低減が可能な電極層を有する電子部品を提供することを主な目的とする。」(甲第3号証4欄22~25行)、「セラミツクス製基板に設けられる電極層は、その実質的に内部のみに微粒子状のセラミツクス粉末が分散状態で存在し、電極層の表面には、セラミツクス粉末および/またはセラミツクス成分が実質的に存在していないことを特徴とする電極層である。ここで、電極層の表面には、セラミツクス粉末および/またはセラミツクス成分が実質的に存在していないとは、電極層の表面に、その電極層の電気的特性を明らかに変化させるなどの量のセラミツクス粉末および/またはセラミツクス成分が露出もしくは存在していないことを意味するものである」(同5欄27~38行)との記載がある。

これらの記載及び前示本願発明の要旨によれば、本願発明の電極層の表面には、セラミックスの粉末又は成分が露出もしくは存在していないことが望ましいが、電極層の電気的特性を明らかに変化させるほどの量でなければ、セラミックス粉末又は成分が露出もしくは存在することが許されないものではなく、その露出もしくは存在することが許容されるセラミックスの量については、特に定量的、数値的な限定がなされていないことが明らかである。

したがって、本願発明の要旨にいう「電極層の実質的に内部のみに、・・・微粒子状のセラミックス粉末が分散状態で存在」している電極層とは、電極層の表面にある程度のセラミックス粉末又は成分の露出もしくは存在する電極層を排除するものではないと認められる。

原告は、上記の電極層の電気的特性を明らかに変化させるなどの量のセラミックス粉末及び又はセラミックス成分が露出もしくは存在していない電極層について、本願明細書の実施例1~5についての電気的データの記載(甲第3号証10欄1行~17欄16行)と比較例についての電気的データの記載(同号証19欄15行~20欄32行)に基づいて、本願発明の金属被覆粉末を用いた電極層は、その金属単独の粉末を用いた電極層と、各種の電気的特性について、一般に10%以内、例外的に20%以内程度の相違に止まる程度の電極層に限定されると主張する。

しかし、これらはあくまでも本願発明の実施例に関するものであり、本願発明の特許請求の範囲及びその詳細な説明には、電極層の表面に露出もしくは存在することの許されるセラミックスの量について具体的な特定が示されていないのは、前示のとおりである。しかも、上記実施例1~5は、いずれも製造過程における粉末中のセラミックスと導電性金属材料の重量比が50/50のものであるが、本願発明の特許請求の範囲の記載によれば、セラミックス粉末の重量の合計が電極層の重量に対して最大限90%まで許されており、重量比においては電極層の大部分がセラミックスで占められる場合があることを考慮すると、上記のように限られた重量比による実施例の記載のみによって、本願発明の電気的特性を限定するのが相当でないことも明らかである。したがって、原告の上記主張は採用できない。

2  一方、引用例発明において、その電極層は、平均粒径が2.0ミクロンのチタン酸バリウム(セラミックス)粒子にパラジウム(導電性金属材料)を被覆したものからなることは、当事者間に争いがない。

そして、このチタン酸バリウムヘのパラジウムの被覆生成について、引用例(甲第4号証)には、「一般に、上記の目的は、少なくとも部分的にパラジウムで被覆された非金属粒子をその中に分散させた有機ベヒクルからなる電極塗料から作られた電極を有するキャパシタを形成することによって達成される。・・・非金属粒子の大きさを約2.0ミクロン又はそれより小さく限定することによって、最終金属メッキ粒子が驚異的に均一になった。これにより電極金属の単位重量当りのより大きい表面積が生じる。そのキャパシタのキャパシタンスは、平均して市販のパラジウム電極塗料を使用する同じキャパシタよりも少なくとも10%大きくなる。この電極については、セラミック誘電体から剥離する傾向が少ないことも観察された。」(同号証訳文2頁13行~3頁3行)と説明され、実施例中の「工程Ⅱ.一セラミック粒子の増感」の項に、「2ミクロンの粒子サイズの予備焼成したチタン酸バリウムセラミック46gを、300mLのH20中に縣濁させる。この縣濁液に1%第一塩化錫溶液25mLを攪拌しながらゆっくり添加する。希PdC12溶液(1g/L)20mLを攪拌しながらゆっくり添加する。」(同訳文3頁13~17行)と、「工程Ⅲ.一セラミック粒子のパラジウムメッキ」の項に、「・・・工程Ⅱの増感したセラミックペーストの三分の一をこの溶液中に分散させる。工程Ⅰのパラジウムテトラミン錯体溶液2750mLを攪拌しながら250mLづつ添加する。」(同訳文3頁19~4頁1行)と説明され、この実施例の説明に基づいて、「上記実施例に於けるようにして、この材料を約2ミクロンの平均粒子サイズに細分し、パラジウムで被覆した後、キャパシタの形成で実施する次の焼成工程の間にチタン酸バリウムが再酸化される危険はない。パラジウムは水素以外の全ての気体に対して不浸透性であり、それでこの半導体粒子は酸素を排除する保護シェルを有する。パラジウム被覆粒子の核として半導体材料を使用する結果として、それから形成された電極は、メッキした粒子間の接触がある限り、電気的に連続していることが確かである。また、塗料ベヒクル中でのこの材料の比較的過酷な粉砕の間でもパラジウムのシェルが粒子の表面にしっかり接着していると信じられる理由がある。」(同訳文6頁8~18行)と説明されている。

これらの説明、特に「非金属粒子の大きさを約2.0ミクロン又はそれより小さく限定することによって、最終金属メッキ粒子が驚異的に均一になった。」、「材料を約2ミクロンの平均粒子サイズに細分し、パラジウムで被覆した後、キャパシタの形成で実施する次の焼成工程の間にチタン酸バリウムが再酸化される危険はない。」、「比較的苛酷な粉砕の間でもパラジウムのシェルが粒子の表面にしっかり接着していると信じられる」との説明によれば、引用例発明では、チタン酸バリウムを約2ミクロン程度に細分化してパラジウムを被覆しており、塗料中における粉砕工程でもそのパラジウムが比較的強固に接着していて剥離されず、被覆粒子間の電気的連続が保たれているとともに、焼成工程においてもチタン酸バリウムが再酸化されることを防止できる程度に接着しているものと認められる。

これに対し、原告は、引用例発明ではセラミックス粒子が凝集体を形成した後にパラジウムで被覆されるものであるし、仮に、パラジウムで被覆されたセラミックス粒子が凝集体を形成するものであるとしても、この凝集体の大部分は、その後の苛酷な粉砕工程において崩壊するから、被覆層は相接するセラミックス粒子の一方の側に残り、他の側の粒子表面に残ることはありえないと主張する。

この点につき、結合粉末の製造方法に関する特公昭53-8659号公報(乙第4号証)をみると、同公報には、「ニツケル又はニツケル合金の無電解メツキ浴中に、ニツケル又はニツケル合金の無電解鍍金に対して触媒活性をもつ微粒子粉末を分散せしめ、十分攪拌された状態で無電解鍍金を行なうと次の如き現象が起きる。先づ一ケーケの粒子の表面がニツケル又はニツケル合金により被覆され、次いで被覆された一ケーケの粒子が衝突し合つて、相互にニツケル又はニツケル合金をバインダーとして凝集・結合し集合体を作り、ここに結合粒子が形成される。」(同号証4欄13~22行)、「本発明方法は上述した出発原料、鍍金液を使用して通常の無電解鍍金を行なうことによつて結合粒子を得るものであり、無電解鍍金の条件等は後出の実施例に示される如く、周知のものであるが、鍍金浴の攪拌は必須であり、鍍金浴中の粒子粉末が鍍金浴の底に沈殿することなく充分分散され、しかも一ケーケの粒子がぶつかり合う様な条件で攪拌されなければならない。」(同13欄6~13行)との記載がある。

この記載によれば、微粒子粉末の結合体の製造工程においては、十分な攪拌を行ってメッキをすることにより、個々の微粒子が分散状態のまま金属で被覆され、被覆金属をバインダーとして微粒子が結合されることが認められ、特公昭53-1222号公報(乙第11号証)にも同様の事実の記載があることが認められる。また、特開昭49-59105号公報(乙第9号証)には、平均粒径2ミクロンのセラミックスの微粒子にパラジウム等の貴金属をメッキする工程において、十分な攪拌を行って当該金属を被覆することが開示されており、特開昭54-106040号公報(乙第10号証)にも同様のことが示されている。

これらの記載に照らせば、引用例発明においても、前示のとおり、セラミックス粒子の増感及びパラジウムメッキの工程において、十分な攪拌を行って溶液を徐々に添加しているのであるから、微粒子の分散状態の段階において金属による被覆が行われているものと推認するのが相当である。

また、引用例発明において、比較的苛酷な粉砕工程の間でもパラジウムのシェルが粒子の表面にしっかり接着していることは、引用例の前示記載から明らかであるし、電極層においては導電性金属材料で被覆されたセラミックス粒子を十分に分散させる必要があることとともに、各々の被覆セラミックス粒子が導電性金属材料の電気的特性を低下させることなく連接している必要があること、その後の焼成工程において再酸化を防止すべきことも当然の技術常識というべきであって、引用例発明においても、前示認定のとおり、そのことの重要性は認識されていたのであるから、あえてパラジウムの被覆層を剥離させるほどの粉砕を行うと考えることは合理的でない。

原告が引用例発明の実施例を追試験したとする実験証明書(甲第6号証)は、溶液の添加に際して重要な攪拌をどの程度行ったのか明らかでないうえ、引用例発明において特定されていない混練(ブレンド)工程について、3本ロール型混練機を採用しており、どの程度の粉砕を行ったのかも明らかでないから、その実験結果から、引用例発明の電極層が実用性においてはるかに劣るものであり、電極層表面に部分的にセラミックス相が露出しているものと直ちに結論付けることはできない。

以上のことからして、原告の上記主張は採用できず、引用例発明における混練工程での粉砕により、パラジウム被覆層が若干剥離して電極層表面にセラミックスが露出もしくは存在することがあるとしても、本願発明においても、ある程度のセラミックスの露出もしくは存在が許容されることは、前記1に説示したとおりであるから、この点において引用例発明と本願発明とが相違するということはできない。

したがって、両発明が同一であるとした審決の結論(審決書4頁10~11行)は正当であって、審決に取り消すべき違法はない。

3  よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 牧野利秋 裁判官 石原直樹 裁判官 清水節)

平成3年審判第11527号

審決

東京都千代田区大手町1丁目5番1号

請求人 三菱マテリアル株式会社

神奈川県茅ヶ崎市本宿町2-32

請求人 株式会社 川角技術研究所

東京都新宿区四谷2-14 ミツヤ四谷ビル8階 柳川特許事務所

代理人弁理士 柳川泰男

昭和56年特許願第166335号「電極層を有する電子部品」拒絶査定に対する審判事件(平成2年2月8日出願公告、特公平2-6206)について、次のとおり審決する.

結論

本件審判の請求は、成り立たない.

理由

Ⅰ.本願は、昭和56年10月20日の出願であって、その発明の要旨は、平成3年6月13日付の手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、その特許請求の範囲に記載された次のとおりのものと認める。

「セラミックス製基板とその基板上に設けられた電極層からなる電子部品であって、電極層の実質的に内部のみに平均粒子径が5ミクロン以下の微粒子状のセラミックス粉末が分散状態で存在していて、かつ、セラミックス粉末の重量の合計が電極層の重量に対して90-10%の範囲にあることを特徴とする電極層を有する電子部品。」

Ⅱ.これに対して、原査定の拒絶の理由である特許異議の決定の理由において引用した米国特許第3、237、066号明細書(以下、引用例という。)には、「チタン酸バリウム誘電体(セラミックス製基板に相当)、該チタン酸バリウム誘電体上に設けられ、パラジウム・コーティングされた粒径2ミクロンのチタン酸バリウム誘電体(微粒子状のセラミック粉末に相当)から構成される電極、からなるセラミックコンデンサ」(明細書第4欄32-36)、及び「パラジウムとセラミック粒子の重量比が37対17であること」(明細書第2欄43-46)が記載されていることから、

「セラミックス製基板とその基板上に設けられた電極層からなる電子部品(セラミックコンデンサ)であって、

電極層の実質的に内部のみに平均粒子径が2ミクロンの微粒子状のセラミック粉末が分散状態で存在していて、

かつ、セラミックス粉末の重量の合計が電極層の重量に対して46%であることを特徴とする電極層を有する電子部品。」

が記載されてあるものと認める。

Ⅲ.本願発明と前掲引用例記載の「電極層を有する電子部品」を対比すれば、両者は、目的において一致し、構成において共通する。すなわち、後者の構成は前者のそれに含まれる。

なお、請求人は、「本願明細書に示したようなゲル化分散液を利用した新規な貴金属被覆方法を利用して調整した貴金属被覆粒子を用いた場合にのみ、セラミックス粉末を電極層の実質的に内部にのみ存在させることができる」旨、主張するが、本願特許請求の範囲には当該主張を裏付ける記載を見い出せないので、この主張は失当である。

Ⅳ.したがって、本願発明は、引用例に記載された発明と同一であると認められるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成5年12月2日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com