大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

東京高等裁判所 平成7年(行ケ)114号 判決

アメリカ合衆国デラウエア 19801 ウィルミントン 9ス

マーケット ストリーツ(番地なし) デラウエア トラスト ビルディング

原告

ブリード オートモティブ テクノロジィ インク

同代表者

チャールズ ジェイ.スペランツエラ ジェイアール.

同訴訟代理人弁理士

志賀正武

渡辺隆

成瀬重雄

青山正和

鈴木三義

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

同指定代理人

蓑輪安夫

幸長保次郎

大屋晴男

関口博

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を90日と定める。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成5年審判第8159号事件について平成6年12月12日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文1、2項と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

訴外ブリード コーポレーションは、1984年2月15日アメリカ合衆国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和60年2月15日、名称を「機械センサ」とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(昭和60年特許願第28124号)をした。原告は、1988年11月3日同訴外会社から本願発明につき特許を受ける権利の譲渡を受け、平成2年1月5日その旨を特許庁長官に届け出たが、平成4年12月24日拒絶査定を受けたので、平成5年4月26日審判の請求をし、平成5年審判第8159号事件として審理された結果、平成6年12月12日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は平成7年2月6日原告に送達された。

2  本願発明の要旨

(1)  特許請求の範囲第1項記載の発明(以下「第1発明」という。)の要旨

車両の乗客区画に取付けられると共に、電力を用いないで、車両用の空気バッグ安全拘束システムの発火要素を発火させる低バイアスの機械センサにおいて、前記センサは、雷管と、バネで付勢される着火ピンと、前記バイアス以上の加速度が維持された場合に応答して前記着火ピンを解放して前記雷管と衝突させる加速応答手段とを含む感知手段配列を備えた機械センサ。

(2)  特許請求の範囲第16項記載の発明(以下「第2発明」という。)の要旨

加速に応答する付勢された感知手段と、前記感知手段が加速がバイアスを越えた後の空気バッグを膨張させる前に発生する速度変化を要求する手段とを備えた膨張性空気バッグ拘束システムを有する機械センサ。

(3)  特許請求の範囲第18項記載の発明(以下「第3発明」という。)の要旨

安全拘束システムを有する車両において、加速の所定レベルに応答する感知手段と、前記安全拘束システムの作動が始まる前の前記加速が前記レベルを越えた後に発生する速度変化を要求する手段とを備えた電力を用いないで動作する機械センサを備えた車両。

(4)  特許請求の範囲第19項記載の発明(以下「第4発明」という。)の要旨

加速に応答する感知重りと、この重りにバイアスを付加する付勢手段と、空気バッグの作動用に、所定の加速レベルで発生する前記感知重りの所定距離の移動を要求する手段とを備えた乗客拘束システムに使用される機械的バネ質量衝突センサ。

3  審決の理由

審決の理由は別添審決書写し記載のとおりであって、その要旨は、第1発明は、本願出願前日本国内において頒布された特公昭57-7939号公報(引用例1)、特開昭53-78536号公報(引用例2)に記載された事項、及び本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、第2発明は、引用例1に記載された事項、または引用例1に記載された事項及び本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められ、第3発明、第4発明は、引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから、いずれも特許法29条2項の規定により特許を受けることができない、としたものである。

4  審決の理由に対する認否

審決の理由Ⅱは認める。同Ⅲのうち、一致点及び相違点の認定、並びに相違点A、Bについての判断は認めるが、その余は争う。同Ⅳのうち、一致点及び相違点の認定、相違点Fについての判断、並びに「前記空気バッグ」を「空気バッグ」の趣旨と認定した点は認めるが、その余は争う。同Ⅴのうち、一致点及び相違点の認定、並びに相違点Hについての判断は認めるが、その余は争う。同Ⅵのうち、引用例1に記載された起動装置5、20がバネ質量衝突センサと認定した点、相違点Iの認定及び判断は認めるが、その余は争う。同Ⅶは争う。

5  審決を取り消すべき事由

審決は、相違点C、同D及び第1発明の作用効果についての判断を誤って、第1発明の進歩性の判断を誤り(取消事由1)、相違点E及び第2発明の作用効果についての判断を誤って、第2発明の進歩性の判断を誤り(取消事由2)、相違点G及び第3発明の作用効果についての判断を誤って、第3発明の進歩性の判断を誤り(取消事由3)、第4発明と引用例1に記載されたものとの一致点の認定を誤り、かつ、第4発明の作用効果についての判断を誤って、第4発明の進歩性の判断を誤った(取消事由4)ものである。

(1)  取消事由1

〈1〉 第1発明は、「低バイアスの機械センサ」を必須とするものであるところ、付勢手段が「低バイアス」であることは、引用例1には記載も示唆もされていない。

この点につき、審決は、特開昭57-813号公報(甲第6号証)及び特公昭52-13104号公報(甲第7号証)を周知の事項を裏付けるものとして挙示しているが、甲第6号証には、磁気センサに関する技術が開示されているにすぎず、しかも「低バイアス」という認識は示されていない。また、甲第7号証には、単なる加速度感知器に関する技術が開示されているにすぎず、「低バイアス」の示唆も存在しない。

第1発明は、「乗客区画」に「低バイアスの機械センサ」を設けた点に特徴の一つがあるのであって、このような技術的特徴は、次のような作用効果を有する。

ⅰ)センサの取付位置を乗客区画としたのは、エアバッグを起動するためのセンサは、乗客が存在する領域に設けられるべきだという設計思想に基づいている。特に最近の車両設計においては、車両の前部で衝突の衝撃を吸収し、衝撃を乗客区画に及ぼさないようになされているから、乗客区画にセンサを取り付けることが最適である。

ⅱ)しかし、車両の前部で衝撃が吸収されるから、乗客区画にセンサを取り付けると、乗客がけがをするような場合でも、センサが機能しないおそれがある。そこで、第1発明は、センサを低Gで動作する低バイアスとしたのである。つまり、第1発明は、センサを車両の乗客区画に設け、しかも低Gで動作する低バイアスとしたことによって、乗客の安全を確保することができるのであるが、そのような技術思想はいずれの引用例にも開示されていない。

したがって、相違点Cについて、「加速応答手段のバイアスを低バイアスとしたことは、当業者が容易に想到し得たものである。」とした審決の判断は誤りであり、第1発明によって得られる効果について、「引用例1、引用例2に記載された事項及び本願出願前周知の事項より当業者が容易に予測することができる程度のものである。」とした判断も誤りである。

〈2〉 審決は、引用例1に開示されている技術について、「前記構成は、着火ピンの解放がバイアス以上の加速度が維持された場合に応答して行われるものに相当するもの」と認定しているが、即断の謗りを免れない。確かに、引用例1には、「前記構成は、着火ピンの解放がバイアス以上の加速度が加わった場合に応答して行われるものに相当するもの」が記載されているが、「加速度の維持」までは記載も示唆もされていない。

第1発明は、この「加速度の維持」という点において、従来にない技術的特徴を有している。

まず、ここでいう「加速度の維持」とは、ある設定加速度を超えた状態がある一定時間以上続くことを意味するものである。すなわち、この発明の大きな特徴は、電力を使わずに作動する機械センサでありながら、一定の加速度を超えても、それが一定時間続かない場合には着火ピンが解放されず、逆に比較的小さな加速度であっても、それが一定時間継続すれば解放されるという点である。このような加速度の維持は、より具体的には、まず、本願の第8図、第9図(別紙図面1参照)に示されるように、バネ付勢着火ピン66の前端面と回転軸58の切欠下端面とが摺動し、これらの間に摩擦が作用する。着火ピンが最終的に右方向に移動するためには、この摩擦による抵抗と、バネ62の付勢力を越えるような加速度が作用しなければならない。しかも、そのような加速度は、回転軸が回動して所定の角度を一定時間だけ継続する必要があるのである。

第1発明は、「加速度の維持」を必須の構成とすることにより、以下の特有の効果を有する。

例えば、自動車が雪の壁に突入した場合や、ガードレールに斜めから突入した場合などにおいては、自動車の正面衝突やコンクリート壁などに衝突する場合と異なり、比較的小さい加速度が持続される。このような場合でも、運転者にとってはかなり危険な事故につながる場合がある。第1発明は、瞬間的に高い加速度が加わった場合のみならず、雪の壁に衝突するような場合であっても、加速度が持続されることにより、エアバッグを作動させることができるので、安全性をより高めることができる。勿論、車両が溝に落ちた程度では、加速度の加わり方が小さく、しかも加速度が持続しないから、エアバッグは作動しないので、誤動作もなく安全性が高いといえる。

したがって、相違点Dは実質的なものではないとした審決の判断は誤りであり、審決は第1発明の上記顕著な作用効果を看過したものである。

(2)  取消事由2

審決は、引用例1の構成を「感知手段が加速がバイアスを越えた後の空気バッグを膨張させる前に発生する速度変化を要求する手段を備えることに相当するもの」と認定しているが、誤りである。

第2発明が必須とする「加速が前記バイアスを越えた後の前記空気バッグを膨張させる前に発生する速度変化を要求する」の意味は、第1発明で特定されている「加速度が維持された」と同義である。すなわち、加速度が所定のバイアスを越えれば瞬間的にエアバッグが作動するのではなく、加速度が所定のバイアスを越えた後もある一定時間を必要とすることを意味しているのである。

したがって、バイアスが低い場合、第1発明と同様に、高い加速度が加わった場合のみならず、雪の壁やガードレールに衝突した場合でもエアバッグを作動させることができるので、安全性をより高めることができる。勿論、車両が溝に落ちた程度では、加速度の加わり方が小さく、しかも加速度が持続しないから、エアバッグは作動しないので、誤動作もなく安全性が高いといえる。

上記のとおりであるから、相違点Eは実質的なものではないとした審決の判断は誤りであり、第2発明の作用効果についての判断も誤りである。

(3)  取消事由3

第3発明は、第2発明の基本的特徴と同じであり、相違点Gは相違点Eに相当するから、上記(2)で述べたこと(但し、上記(2)のうち、「空気バッグ」を「安全拘束システム」、「バイアス」を「レベル」、「膨張させる前」を「作動が始まる前」とそれぞれ読みかえる。)は、相違点G及び第3発明の作用効果の判断に対しても妥当する。

したがって、相違点Gは実質的なものではないとした審決の判断は誤りであり、第3発明の作用効果についての判断も誤りである。

(4)  取消事由4

審決は、第4発明の「所定の加速レベルで発生する前記感知重りの所定距離の移動を要求する手段」と引用例1に記載された構成とが同一であると認定しているが、誤りである。

ここでいう「所定の加速レベルで発生する前記感知重りの所定距離の移動を要求する手段」とは、第2発明、第3発明と同様、第1発明で特定する「加速度が維持された」に相当する技術思想である。すなわち、第1、第2、第3の各発明では、エアバッグの作動タイミングを時間で特定しているが、第4発明では、時間に代えて距離で特定しているのである。換言すれば、所定以上の加速度が、ある一定時間継続すれば、当然に、感知重りは所定距離だけ移動するから、第4発明の「所定の加速レベルで発生する前記感知重りの所定距離の移動を要求する手段」は「加速度が維持された」の意味にほかならない。

これに対して、引用例1には、審決が認定するように、規制アーム部75、重錘40Aの外周、解除凹部49が開示されているが、このことが直ちに「所定の加速レベルで発生する前記感知重りの所定距離の移動を要求する手段」を意味するものではないことは明らかである。

したがって、審決は、第4発明と引用例1に記載されたものとの一致点の認定を誤り、かつ、第4発明の作用効果についての判断を誤ったものである。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1ないし3は認める。同5は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

2  反論

(1)  取消事由1について

〈1〉(a) 本願明細書の発明の詳細な説明に「かなり低バイアス、4Gおよび7G以下が予想される。」(甲第2号証5頁右上欄2行、3行)と記載され、第1発明の実施の態様を記載した請求項4項には「比較的低Gバイアス」、請求項13項には「付勢手段のバイアスは7Gよりも小さい」、請求項14項には「付勢手段の最大バイアスは約4Gである」と記載されていることからすると、第1発明の「低バイアス」は「7G以下」のものを意味するものと認められる。

ところで、甲第6号証には、「乗物のブレーキ動作だけでは乗客制限手段の展開を必要としないであろう。したがって、制限装置を作動させるために使用される速度変化センサは、該センサが受ける加速がブレーキ動作から得られる最大値よりも幾分多くなるまで作動を開始しないよう構成されたものでなければならない。」(3頁左上欄9行ないし15行)、「一般にブレーキ加速は1Gを決して超えないものと考えられている。他方、2.4Gsの定加速においては、典型的な大型乗物の前部座席の乗客は、24インチの移動の後に、時速12マイルの相対速度で乗物の構造部分に衝突するであろう。したがって、このような乗物のための衝突センサに対する初期偏倚は、約2.4Gsよりも大きくないことが望ましい。」(同頁右上欄1行ないし9行)と記載され、甲第7号証には、「各バネ座は振動質量即ち重錘50が各境界バネの付勢に打ち勝って軸方向に動き始める前に2~3Gの瞬動を受けることになる。重錘50、嵌合距離および境界バネの力は、短い時間々隔の間の重力荷重が軸方向の何れかの向きにおいて所定値とならないかぎりボール62が釈放されないように、所望に応じて設定できる。」(5欄42行ないし6欄4行)と記載されているが、このような付勢手段についての甲第6号証の「約2.4Gsよりも大きくないことが望ましい」、甲第7号証の「境界バネの付勢に打ち勝って軸方向に動き始める前に2~3Gの瞬動を受けることになる」との記載は、付勢力を「7G以下」とすることを示しており、甲第6号証、甲第7号証には付勢手段を「低バイアス」とする技術思想が存在するものであるから、原告の主張は失当である。

(b) 空気バッグを起動するためのセンサを乗客区画に取り付けること、センサを乗客区画に取り付けたとき衝突時の衝撃が車両に吸収されて弱められることは、本願出願前周知の事項であり、このような周知の事実から、空気バッグを起動するためのセンサを乗客区画に取り付ける場合、センサのバイアスを低バイアスとするのが通常であり、このことは本願出願前に周知の事項である。このような本願出願前の技術背景を考慮すれば、引用例2に記載された発明のセンサも乗客区画に取り付けられるセンサであり、衝突時の衝撃が車両に吸収されて弱められるものであるから、当然にバイアスは低バイアスとなっているものといえる。

第1発明は、引用例1に記載された構成のセンサを引用例2に記載されたように乗客区画に取り付けるセンサとし、その際に当然採用されるべき事項であり、また引用例2のセンサも有する「低バイアス」という事項をそのまま採用したものにすきず、作用効果も引用例1及び引用例2に記載された事項から予測し得る程度のものである。

〈2〉 引用例1(甲第4号証)には、「重錘に加わる加速度が消滅した後は、直ちにバネにより重錘の肩部42を介してアーム72が押し戻され、アームとリンクの係合が第4図の如き正規の原位置に戻される」(11欄25行ないし28行)、「重錘40Aが衝突時に前方へ移動した場合、これが設定値以前である場合には規制アーム部75が解除凹部49に達せず、従って検出アーム70Aはこれ以前の状況下における重錘40Aの移動では規制状態は解除されず、誤動作の虞れは一切無い。」(12欄23行ないし28行)、「重錘の設定値以上の移動で検出アームを作動せしめ、リンク機構を介して起動手段である撃針を作動させ、雷管を打撃して導爆管に点火する」(13欄28行ないし30行)、「重錘40の重量及びスプリング47、55のバネ荷重は以上の関係と、雷管60の起動特性等を考慮し適宜に定めるものとする。尚重錘40にはオリフィス45が設けられているため、重錘40の移動はスプリング47の弾発力と併せて所定の値減衰され、従ってスプリング47のバネ荷重の設定はオリフィス45による減衰力も考慮して設定する。」(10欄29行ないし36行)と記載されており、「重錘に加わる加速度が消滅した後は、直ちにバネにより重錘の肩部42を介してアーム72が押し戻され、アームとリンクの係合が第4図の如き正規の原位置に戻される」とは、重錘に加わる加速度がバイアス以上であり所定時間消滅することなく維持された場合に、空気バッグを起動することを意味するものにほかならない。引用例1のこれらの記載が「バイアス以上の加速度が維持された場合に応答して」空気バッグを動作させることを意味することは明らかである。

したがって、引用例1に記載されたものは、電力を使わずに作動するセンサでありながら、一定の加速度を超えても、それが一定時間続かない場合には着火ピンが解放されず、逆にバイアスを超える加速度が一定時間継続すれば解放されるものであって、「前記構成は、着火ピンの解放がバイアス以上の加速度が維持された場合に応答して行われるものに相当するもの」とした審決の認定に誤りはない。

引用例1に記載されたものも、上記のように「バイアス以上の加速度が維持された場合に応答して」空気バッグを動作させるものであるから、車両が溝に落ちた程度の持続しない加速度と衝突時の加速度とを識別できるものであり、自動車が雪の壁に突入した場合やガードレールに斜めから突入した場合などにも、エアバッグを作動させることができるものであり、誤動作もなく安全性が高いという効果を有することは明らかである。

(2)  取消事由2について

上記(1)〈2〉で述べたように、引用例1に記載されたものは、「バイアス以上の加速度が維持された場合に応答して」空気バッグを起動するものであるから、「感知手段が加速がバイアスを越えた後の空気バッグを膨張させる前に発生する速度変化を要求する手段を備える」ものであり、引用例1に記載された構成を「感知手段が加速がバイアスを越えた後の空気バッグを膨張させる前に発生する速度変化を要求する手段を備えることに相当するもの」とした審決の認定に誤りはない。

また、 第2発明は、「バイアス」が低いことを発明の構成に欠くことができない事項としていない。したがって、原告の「バイアスが低い場合」を条件とした作用効果の主張は第2発明の要旨外の主張である。

(3)  取消事由3について

取消事由3に対する反論は、上記(2)で述べたところと同じである。

(4)  取消事由4について

引用例1には、「自動車の衝突時、これの衝撃が設定値以上であってエアーバッグが必要とされる程度以上である場合、即ち重錘40との関係でスプリング47の予じめ設定されたバネ荷重以上の衝撃力に伴う慣性力が作用した場合、重錘40はスプリング47に抗して前方へ予め定められた値以上移動する。」(9欄37行ないし42行)、「重錘40Aが衝突時に前方へ移動した場合、これが設定値以前である場合には規制アーム部75が解除凹部49に達せず、従って検出アーム70Aはこれ以前の状況下における重錘40Aの移動では規制状態は解除されず、誤動作の虞れは一切無い。」(12欄23行ないし28行)、「重錘の設定値以上の移動で検出アームを作動せしめ、リンク機構を介して起動手段である撃針を作動させ、雷管を打撃して導爆管に点火する」(13欄28行ていし30行)と記載されており、これらの記載は、その表現どおり第4発明の「所定の加速レベルで発生する前記感知重りの所定距離の移動を要求する」と同じ内容を意味しているものであり、原告の主張は失当であって、引用例1に記載されたものが、「所定の加速レベルで発生する前記感知重りの所定距離の移動を要求する手段」をもつものであるとした審決の認定に誤りはない。

第4  証拠

本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(第1ないし第4各発明の要旨)、3(審決の理由)については、当事者間に争いがない。

そして、審決の理由Ⅱ(引用例1及び2の記載事項)、同Ⅲ(第1発明と引用例1に記載されたものとの対比・検討)のうち、一致点及び相違点の認定(審決の理由6頁15行ないし8頁15行)、並びに相違点A、Bについての判断(同8頁17行ないし9頁15行)、同Ⅳ(第2発明と引用例1に記載されたものとの対比・検討)のうち、一致点及び相違点の認定(同11頁12行ないし12頁13行)、相違点Fについての判断(同13頁12行ないし末行)、並びに「前記空気バッグ」を「空気バッグ」の趣旨と認定した点(同14頁末行ないし15頁7行)、同Ⅴ(第3発明と引用例1に記載されたものとの対比・検討)のうち、一致点及び相違点の認定(同15頁16行ないし17頁1行)、並びに相違点Hについての判断(同17頁19行ないし18頁6行)、同Ⅵ(第4発明と引用例1に記載されたものとの対比・検討)のうち、引用例1に記載された起動装置5、20がバネ質量衝突センサと認定した点(同18頁15行ないし末行)、相違点Iの認定(同19頁10行ないし14行)及び判断(同19頁15行ないし20頁3行)についても、当事者間に争いがない。

2  そこで、原告主張の取消事由の当否について検討する。

(1)  取消事由1について

〈1〉(a)  まず、第1発明の構成中、相違点Cに係る「低バイアス」の意味について検討する。

本願明細書の発明の詳細な説明中の「乗客保護装置は、車両に対して乗り手の移動が時速12マイル以上の速度になった事故に必要であることが認識された。従って、乗り手が時速約12マイル以上の速度で車両内部のある部分に衝突することから認識されるセンサが要求される。」(甲第2号証2頁左下欄19行ないし右下欄3行)との記載によれば、センサは、「車両に対して乗り手の移動が時速12マイル以上の速度になった事故」を検知できるものでなければならないのであるから、第1発明における「低バイアスの機械センサ」の「低バイアス」は、実質的には、機械センサを乗客区画に配置した状態において、乗客の安全を確保するのに必要な程度の加速応答手段のバイアス力の基準を表すものとして用いられているものと解される。

そこで、甲第6号証、甲第7号証において、加速応答手段が上記のような意味内容の「低バイアス」であることが認識ないし示唆されているか否かについて検討する。

甲第6号証記載の発明は、「特に、膨張可能な空気袋のような乗客制限手段をそなえた自動乗物に使用するための種類の速度変化センサに関し、このセンサは制限手段の作動を開始し且つ乗物の乗客のための保護を行なうよう所定の大きさおよび時間の乗物の速度変化に応答できるものである。」(2頁左上欄15行ないし右上欄1行)が、同号証には、「本発明にしたがって構成されたセンサは、・・・加速感知マスを有し、・・・自動乗物の乗客は、乗物が衝突を生じ、また乗客が約時速12マイルまたはそれ以上の速度でダッシュボードまたはウインドシールのような乗物の構造部材に衝突するような十分に速い速度で減速されたならば、傷付けられてしまうことが一般的に認められている。乗客をこれらの条件の下で保護するためには、乗物の速度変化は、乗客の負傷を生じるような状況の存在を予見し、また時速12マイルまたはそれ以上の速度で乗客が乗物の構造部分に衝突するのを阻止するのに十分な時間で乗客保護装置の展開を開始するような態様で感知する必要がある。・・・従って、受容可能な衝突センサは、乗客の方が要求される加速パルスと要求されない加速パルスとの間の区別を行うことができるようなものである。」(2頁右上欄2行ないし左下欄16行)、「制限装置を作動させるために使用される速度変化センサは、該センサが受ける加速がブレーキ動作から得られる最大値よりも幾分多くなるまで作動を開始しないよう構成されたものでなければならない。」(3頁左上欄11行ないし15行)、「一般にブレーキ加速は1Gを決して超えないものと考えられている。他方、2.4Gsの定加速においては、典型的な大型乗物の前部座席の乗客は、24インチの移動の後に、時速12マイルの相対速度で乗物の構造部分に衝突するであろう。したがって、このような乗物のための衝突センサに対する初期偏倚は、約2.4Gsよりも大きくないことが望ましい。」(3頁右上欄1行ないし9行)、「小型乗物のいくつかにおいては、前部座席の乗客と乗物のダッシュボードまたはウインドシールドとの間の距離は、24インチよりも小さい。このような乗物において使用するよう意図されたセンサは高い初期偏倚力を利用するが、5Gsの偏倚力を超える必要があるとは認められていない。」(3頁右上欄18行ないし左下欄4行)、「本発明にしたがって構成されたセンサにおいては、磁石33の強さ、感知マス18の重量および磁気透過性、並びにマスが最初の位置にある時のマスと磁石との間の距離は磁石によりマスに対して加えられる吸引力が約5Gsよりも大きくない値、好ましくは約2Gsになるようにつり合わせなければならない。」(4頁右下欄14行ないし5頁左上欄1行)と記載されていることが認められる。また、甲第7号証記載の発明は「加速度感知器」に係るものであるが、同号証には、「各バネは各バネ座68および70に十分な力をかけており、各バネ座は振動質量即ち重錘50が各境界バネの付勢に打ち勝って軸方向に動き始める前に2~3Gの瞬動を受けることになる。重錘50、嵌合距離および境界バネの力は、短い時間々隔の間の重力荷重が軸方向の何れかの向きにおいて所定値とならないかぎりボール62が釈放されないように、所望に応じて設定できる。」(5欄40行ないし6欄4行)と記載されていることが認められる。甲第6号証及び甲第7号証の上記各記載によれば、機械センサの加速応答手段のバイアス力は、乗客の安全を確保する観点から、その値を適宜選択するものであることが従来から普通に知られていたものと認められ、その意味で、上記甲各号証には、加速応答手段を「低バイアス」にすることが認識あるいは示唆されているものと認められる。

原告は、甲第6号証及び甲第7号証には、「低バイアス」の認識あるいは示唆は存在しない旨主張するが、採用できない。

ちなみに、第1発明の実施の態様を記載した請求項13項には「前記付勢手段のバイアスは7Gよりも小さい」、請求項14項には「前記付勢手段の最大バイアスは約4Gである」と記載され、本願明細書の発明の詳細な説明には、「かなり低バイアス、4Gおよび7G以下が予想される」(甲第2号証5頁右上欄2行、3行)と記載されていることから、第1発明のいう「低バイアス」が「7G以下」のものを意味するものであるとしても、上記認定のとおり、甲第6号証及び甲第7号証には、バイアスの値を「7G以下」にすることが示されている。

したがって、相違点Cについて、第1発明が加速応答手段のバイアスを低バイアスにしたことは、当業者が容易に想到し得たものであるとした審決の判断に誤りはない。

(b)  次に、原告は、第1発明は、センサを車両の乗客区画に設け、しかも低Gで動作する低バイアスセンサとしたことによって、乗客の安全を確保することができるのであるが、そのような技術思想はいずれの引用例にも開示されていない旨主張する。

しかし、引用例1には、センサの取付位置について記載されていないが、センサを乗客区画に取り付けることは当業者が容易に想到し得たものであり(当事者間に争いのない相違点Aの判断)、その場合に、乗客の安全を確保できるように低Gで動作する低バイアスセンサとすることも何ら格別のものとはいえず、また、引用例2の乗客区画に取り付けられたセンサ(この点は当事者間に争いがない。)も、車両の衝突時の乗客の安全を確保する目的から、その動作バイアスは当然低Gであると認められる。

したがって、原告の上記主張は採用できない。

〈2〉  本願明細書の発明の詳細な説明の項には、第1発明における「加速度の維持」の意味について具体的に説明した記載は存しないが、原告の主張するとおり、ある設定加速度を超えた状態がある一定時間以上続くことを意味するものであるとしても、第1発明は、上記一定時間について特に規定しているわけではない。本願明細書の発明の詳細な説明中の「先行技術の機械センサは乗客区画に配置された時に、空気バッグの必要時の衝突状態および空気バッグの不必要時の状態間の違いを区別できなかった。例えば、空気バッグが必要でない状態は、車が溝にはまった時、線路を横断した時あるいは道路の窪みにはまった時であう。先行技術の機械センサはこのような環境で空気バッグを不必要に膨張させた。」(甲第2号証3頁左下欄11行ないし18行)との記載に照らすと、第1発明にいう「加速度の維持」は、せいぜい不必要な空気バッグの膨張、例えば、「車が溝にはまった時、線路を横断した時あるいは道路の窪みにはまった時」に空気バッグが膨張することを防ぐこと、つまり、誤動作を防止するのに必要な時間という程度の意味を表すものとして用いられているものと認められる。

これに対し、引用例1(甲第4号証)には、「本発明の目的とする処は、自動車の衝突時これの衝撃の大きさを検出して摺動する錘体と、錘体と係合し、これの設定値以上の移動で作動する検出部材と、該検出部材で作動せしめられるリンク機構及びエアーバッグ起動手段より成り、設定値以上の衝撃による錘体の移動で検出部材を介してリンク機構を作動せしめ、エァーバッグ起動手段を駆動するようにしたエアーバッグ装置の起動装置を提供する。」(3欄27行ないし35行)、「自動車の一般走行時では重錘40はスプリング47で弾圧されているため第4図に示す如き平常位置に保持され、軽衝突、悪路走行時はスプリング47に抗して重錘40は前方へ若干移動することもあるが、この場合重錘40の肩42と検出アーム70の検出部72とが離間してもスプリング47で直ちに平常位置に復帰し、アーム70を駆動するにいたらない。」(9欄29行ないし36行)、「重錘40Aが衝突時に前方へ移動した場合、これが設定値以前である場合には規制アーム部75が解除凹部49に達せず、従って検出アーム70Aはこれ以前の状況下における重錘40Aの移動では規制状態は解除されず、誤動作の虞れは一切無い。」(12欄23行ないし28行)と記載されており(第4図については別紙図面2参照)、これらの記載によれば、上記エアーバッグ装置の起動装置は、錘体が設定値以上の衝撃により移動し、しかもその移動が設定値以上であるときに初めて作動するものと認められるから、それを加速度についてみれば、ある値以上の加速度が一定時間維持されたときに初めて作動する構成であるということができる。また、引用例1記載の発明が上記構成を採用した目的が起動装置の誤動作を防止することにあることも明らかである。

上記認定に反する原告の主張は採用できない。

したがって、相違点Dは実質的なものではないとした審決の認定、判断に誤りはない。

〈3〉  以上のとおりであって、相違点C、D及び第1発明の作用効果についての審決の判断に誤りはなく、取消事由1は理由がない。

(2)  取消事由2について

原告は、第2発明における「加速が前記バイアスを越えた後の前記空気バッグを膨張させる前に発生する速度変化を要求する」の意味は、第1発明で特定されている「加速度が維持された」と同義であるとし、審決が、引用例1記載の構成は、第2発明の構成要件である「感知手段が加速がバイアスを越えた後の空気バッグを膨張させる前に発生する速度変化を要求する手段」を備えることに相当するものであると認定したのは誤りである旨主張する。

しかし、上記(1)〈2〉で認定、説示したとおり、引用例1に記載のエアーバッグ装置の起動装置は、錘体が設定値以上の衝撃により移動し、しかもその移動は設定値以上であるときに初めて作動するものであり、これを加速度についてみれば、ある値以上の加速度が一定時間維持されたときに初めて作動する構成であって、第1発明の「着火ピンの解放がバイアス以上の加速度が維持された場合に応答して行われるもの」に相当する。

したがって、引用例1に記載の構成は「感知手段が加速が前記バイアスを越えた後の前記空気バッグを膨張させる前に発生する速度変化を要求する手段」を備えるものというべく、原告の上記主張は採用できない。

しかして、相違点E及び第2発明の作用効果についての審決の判断に誤りはなく、取消事由2は理由がない。

(3)  取消事由3について

原告は、相違点G及び第3発明についての審決の認定、判断には、相違点Eに係る取消事由2で述べたと同様の誤りがある旨主張する。

しかし、上記(2)で説示したとおり、相違点E及び第2発明についての審決の認定、判断に誤りはなく、同様の理由により、相違点G及び第3発明についての審決の認定、判断にも誤りはないものというべきである。

したがって、取消事由3は理由がない。

(4)  取消事由4について

原告は、第4発明の「所定の加速レベルで発生する前記感知重りの所定距離の移動を要求する手段」は第1発明で特定する「加速度が維持された」の意味であるとして、審決が、第4発明と引用例1に記載のものとが「所定の加速レベルで発生する前記感知重りの所定距離の移動を要求する手段」を有する点で一致していると認定したのは誤りである旨主張する。

しかし、引用例1に記載された構成が第1発明の「着火ピンの解放がバイアス以上の加速度が維持された場合に応答して行われるもの」に相当することは、上記(1)〈2〉に認定、説示のとおりである。

また、引用例1の前記「重錘40Aが衝突時に前方へ移動した場合、これが設定値以前である場合には規制アーム部75が解除凹部49に達せず、従って検出アーム70Aはこれ以前の状況下における重錘40Aの移動では規制は解除されず、誤動作の虞れは一切無い。」との記載によれば、規制アーム部75を解除するためには、重錘40Aを設定値以上移動すること、そのためには所定以上の加速度が維持されることが不可欠であることも明らかである。

したがって、第4発明と引用例1に記載されたものとの一致点の認定、及び第4発明の作用効果についての審決の判断に誤りはなく、取消事由4は理由がない。

3  よって、原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間の定めについて行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、158条2項を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

別紙図面1

〈省略〉

別紙図面2

〈省略〉

平成5年審判第8159号

審決

アメリカ合衆国 デラウェア 19801 ウィルミントン 9ス アンド マーケット ストリーツ デラウェア トラスト ビルディング (番地なし)

請求人 ブリード オートモティブ テクノロジィ インク

東京都新宿区高田馬場3丁目23番3号 ORビル 志賀国際特許事務所

代理人弁理士 志賀正武

昭和60年特許願第28124号「機械センサ」拒絶査定に対する審判事件(昭和60年12月9日出願公開、特開昭60-248457)について、次のとおり審決する。

結論

本件審判の請求は、成り立たない。

理由

Ι. 本願は、昭和60年2月15日(優先権主張1984年2月15日、アメリカ合衆国)の出願であって、その発明の要旨は、平成3年11月28日付け手続補正書によって補正された明細書及び図面の記載からみて、特許請求の範囲の必須要件項である第1項、第16項、第18項及び第19項に記載されたものと認められるところ、その第1項、第16項、第18項及び第19項に記載された発明(それぞれ以下「第1発明」、「第2発明」、「第3発明」、「第4発明」という)はそれぞれ次のとおりのものと認める。

第1発明

「車両の乗客区画に取付られると共に、電力を用いないで、車両用の空気バッグ安全拘束システムの発火要素を発火させる低バイアスの機械センサにおいて、前記センサは、雷管と、バネで付勢される着火ピンと、前記バイアス以上の加速度が維持された場合に応答して前記着火ピンを解放して前記雷管と衝突させる加速応答手段とを含む感知手段配列を備えた機械センサ。」

第2発明

「加速に応答する付勢された感知手段と、前記感知手段が加速がバイアスを越えた後の空気バッグを膨張させる前に発生する速度変化を要求する手段とを備えた膨張性空気バッグ拘束システムを有する機械センサ。」

第3発明

「安全拘束システムを有する車両において、加速の所定レベルに応答する感知手段と、前記安全拘束システムの作動が始まる前の前記加速が前記レベルを越えた後に発生する速度変化を要求する手段とを備えた電力を用いないで動作する機械センサを備えた車両。」

第4発明

「加速に応答する感知重りと、この重りにバイアスを付加する付勢手段と、空気バッグの作動用に、所定の加速レベルで発生する前記感知重りの所定距離の移動を要求する手段とを備えた乗客拘束システムに使用される機械的バネ質量衝突センサ。」

なお、第2発明については、特許請求の範囲第16項には「前記バイアス」と記載されているが、同項においてこの記載より前に「バイアス」に関する記載は存在しないので「前記バイアス」は「バイアス」の趣旨と認め、また、同じ理由で、「前記空気バッグ」を「空気バッグ」の趣旨と認めて、第2発明を上記のように認定した。

Ⅱ. これに対し、原査定の拒絶の理由に引用した特公昭57-7939号公報(昭和57年2月13日出願公告。以下引用例1という)には、

重錘40Aのセットの完了を検出するための電気回路を有し、自動車の衝突事故時、雷管60を打撃してこれを発火し、この発火で雷管60と接続された導爆管61を点火し、導爆作用でガス発生器2を起動させ、エアーバッグ1にガスを充填して膨張させ、乗員の衝撃緩和作用を行うものにおいて、衝撃の大きさを検出して摺動する重錘40Aと、前記重錘40Aの移動時に検出部72Aが重錘40Aの後肩部43Aに衝接して支軸71A回りに回動させられる検出アーム70Aと、雷管60と、収縮位置に維持させるために前記検出アーム70Aにリンク機構80により操作的に接続されかつスプリング55でバネ付勢された撃針50と、前記重錘40Aを常時後方へ付勢するスプリング47を備えると共に、前記検出アーム70Aに規制アーム部75を形成し、この規制アーム部75が重錘40Aの外周に当接し、規制アーム部75が解除凹部49の前進でこれに嵌入したとき検出アーム70Aが回動可能となるようにして、自動車の衝突時、重錘40Aとの関係でスプリング47の予め設定されたバネ荷重以上の衝撃力に伴う慣性力が作用した場合、重錘40Aはスプリング47に抗して前方へ予め定められた値以上移動してエアバック装置を起動させ、軽衝突、悪路走行時はスプリング47に抗して重錘40Aは前方へ若干移動することもあるが、重錘40Aに加わる加速度が消滅した後は、直ちにスプリング47により重錘40Aが押し戻されるようにされた、自動車に取り付けられるエアバッグ装置の起動装置5、20

が記載され、

また、原査定の拒絶の理由に同時に引用した特開昭53-78536号公報(昭和53年7月12日出願公開。以下引用例2という)には、

自動車のハンドル10のような車体の内側の支持部に取付られるエアバッグ式安全装置に、自動車の衝突時に気体発生源44に点火してエアバッグ34を作動させるため、装置に接して車体の減速度の所定のレベルに応答する検出器46を配置する点

が記載されている。

Ⅲ. 第1発明と引用例1に記載されたものを対比すると、両者は

車両(引用例1における自動車に相当。以下括弧内の記載は引用例1のものを指す。)用の空気バッグ安全拘束システム(エアーバッグ装置)の発火要素(ガス発生器2)を発火させるバイアスされた(重錘40Aを常時後方へ付勢するスプリング47を備える)センサ(起動装置5、20)において、前記センサ(起動装置5、20)は、雷管(雷管60)と、バネ(スプリング55)で付勢される着火ピン(撃針50)と、前記バイアス(スプリング47の付勢力)以上の加速度に応答して前記着火ピン(撃針50)を解放して前記雷管(雷管60)と衝突させる加速応答手段(重錘40A、スプリング47、検出アーム70A、リンク機構80)とを含む感知手段配列を備えた点で一致し、

第1発明は、センサが車両の乗客区画に取付られるのに対して、引用例1にはセンサの取付位置については記載されていない点(以下相違点Aという)、

第1発明は、センサが、機械センサであって、電力を用いないで車両用の空気バッグ安全拘束システムの発火要素を発火させるのに対して、引用例1に記載されたものは、加速応答手段を構成する重錘40Aのセットの完了を検出するための電気回路を有する点(以下相違点Bという)、

第1発明は、センサのバイアス力が低バイアスであるのに対して、引用例1に記載されたものは、センサのバイアス力に相当するスプリング47の付勢力が加速応答手段を構成する重錘40Aが衝突時の衝撃の大きさに応答する程度のものである点(以下相違点Cという)、

第1発明は、着火ピンの解放が、バイアス以上の加速度が維持された場合に応答して行われるのに対して、引用例1に記載されたものは、加速応答手段を構成する重錘40Aが衝撃の大きさを検出して、前記重錘40Aが前方へ予め定められた値以上移動したとき着火ピン(撃針50)の解放が行われる点(以下相違点Dという)で、相違する。

そこでこれらの相違点について検討する。

相違点Aについて

引用例2の検出器46も第1発明のセンサと同様に車両用の空気バッグ安全拘束システムの発火要素を発火させるセンサであって、また自動車のハンドルは自動車の乗客区画に設けられるものと認められるから、車両用の空気バッグ安全拘束システムの発火要素を発火させるセンサを乗客区画に取り付ける点が引用例2に記載されているものと認められるので、センサを乗客区画に取り付けることは当業者が容易に想到し得たものである。

相違点Bについて

引用例1に記載されたものにおける電気回路は、加速応答手段を構成する重錘40Aのセットの完了を検出するための電気回路であって、車両用の空気バッグ安全拘束システムの発火要素を発火させるために必要な構成ではないから、加速応答手段のセットの完了を検出することを要求せず前記電気回路を設けないで機械センサとすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

相違点Cについて

加速応答手段のバイアス力は、発火要素を発火させるときの衝突の衝撃の最低の大きさを決定するものであり、同時に車両の衝突時に空気バッグ安全拘束システムによる保護動作を開始する衝撃の最低の大きさを決定するものであって、乗員保護及び不必要な保護動作の回避の観点で従来より適宜選択されていることは周知の事項である(特開昭57-813号公報、特公昭52-13104号公報、参照)から、加速応答手段のバイアスを低バイアスとしたことは、当業者が容易に想到し得たものである。

相違点Dについて

引用例1に記載されたものは、加速応答手段を構成する重錘40Aが前方へ予め定められた値以上移動したとき着火ピン(撃針50)の解放が行われる構成であり、この構成により、衝撃が設定値以上でないとき、即ち空気バッグ安全拘束システム(エアバッグ装置)の作動が期待されていないとき、前記重錘40Aに加わる加速度が消滅した後、バイアス力(スプリング47)により前記重錘40Aが押し戻されるものであるから、前記構成は、着火ピンの解放がバイアス以上の加速度が維持された場合に応答して行われるものに相当するものであり、この相達点Dは実質的なものではない。

そして、第1発明によって得られる作用効果は、引用例1、引用例2に記載された事項及び本願出願前周知の事項より当業者が容易に予測することができる程度のものである。

したがって、第1発明は、本願出願前日本国内において頒布された引用例1、引用例2に記載された事項及び本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

Ⅳ. 第2発明と引用例1に記載されたものを対比すると、両者は、

加速に応答する付勢された感知手段(重錘40A、スプリング47、検出アーム70A、リンク機構80)を備え、感知手段が加速がバイアス(スプリング47の力)を越え後空気バッグ(エアーバッグ)を膨張させる、膨張性空気バッグ拘束システム(エアーバッグ装置)を有するセンサ(起動装置5、20)である点で一致し、

第2発明は、感知手段が加速がバイアスを越えた後の空気バッグを膨張させる前に発生する速度変化を要求する手段を備えるのに対して、引用例1に記載されたものは、感知手段を構成する重錘40Aが衝突時の衝撃の大きさを検出して移動し、前記重錘40Aが前方へ予め定められた値以上移動したとき、空気バッグ(エアーバッグ)を膨張させるものである点(以下相違点Eという)、

第2発明はセンサが機械センサであるのに対して、引用例1に記載されたものは、感知手段を構成する重錘40Aのセットの完了を検出するための電気回路を有する点(以下相違点Fという)で、相違する。

そこで、これら相違点について検討する。

相違点Eについて

引用例1に記載されたものは、感知手段を構成する重錘40Aが衝突時の衝撃の大きさを検出して移動し、前記重錘40Aが前方へ予め定められた値以上移動したとき空気バッグ(エアーバッグ)を膨張させる構成であるから、この構成により、衝撃が設定値以上でないとき、即ち膨張性空気バッグ拘束システム(エアーバッグ装置)の作動が期待されていないとき、前記重錘40Aに加わる加速度が消滅した後感知手段を構成するスプリング47のバイアス力により重錘40Aが押し戻されて空気バッグ(エアーバッグ)は膨張しないものであるから、前記構成は、感知手段が加速がバイアスを越えた後の空気バッグを膨張させる前に発生する速度変化を要求する手段を備えることに相当するものであり、この相違点Eは実質的なものではない。

相違点Fについて

引用例1に記載されたものにおける電気回路は、感知手段を構成する重錘40Aのセットの完了を検出するための電気回路であって、膨張性空気バッグ安全拘束システム(エアーバッグ装置)を作動させるために必要な構成ではないから、感知手段のセットの完了を検出することを要求せず前記電気回路を設けないで機械センサとすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

なお、前記のとおり「前記バイアス」は「バイアス」の趣旨と認めて第2発明を上記のように認定したが、「前記バイアス」が、請求項第1項の「低バイアス」、または請求項第4項の「比較的低Gバイアス」、または請求項第13項の「バイアスは7Gよりも小さい」、または請求項第14項の「最大バイアスは約4Gである」なる内容を引用するものであるとしても、バイアス力は、膨張性空気バッグ拘束システムによる保護動作を開始する衝撃の最低の大きさを決定するものであって、乗員保護及び不必要な保護動作の回避の観点で従来より適宜選択されていることは周知の事項である(特開昭57-813号公報、特公昭52-13104号公報、参照)から、バイアスを「低バイアス」とすること、またはバイアスを「比較的低Gバイアス」とすること、またはバイアスを「7Gよりも小さい」ものとすること、またはバイアスを「最大バイアスは約4G」とすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

また、「前記空気バッグ」は「空気バッグ」の趣旨と認めて第2発明を上記のように認定したが、「前記空気バッグ」が請求項第1項の「車両用の空気バッグ安全拘束システム」の「空気バッグ」を指すものとしても、引用例1に記載されたものにおける「エアーバッグ」も車両用の安全拘束システムに用いられるものであり、新たな相違点を生じさせるものではない。

そして、第2発明によって得られる作用効果は、引用例1に記載された事項により当業者が容易に予測することができる程度のものである。

したがって、第2発明は、本願出願前日本国内において頒布された引用例1に記載された事項、または引用例1に記載された事項及び本願出願前周知の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

Ⅴ. 第3発明と引用例1に記載されたものを対比すると、引用例1に記載された起動装置とエアバッグ装置は自動車に取り付けられるものであるから、両者は、

安全拘束システム(エアバッグ装置)を有する車両(自動車)において、加速の所定レベルに応答する感知手段(重錘40A、スプリング47、検出アーム70A、リンク機構80)を備え、安全拘束システム(エアバッグ装置)の作動が始まる前に加速が前記レベルを越えるようにしたセンサを備える点で一致し、

第3発明は、センサが、安全拘束システムの作動が始まる前の加速が所定レベルを越えた後に発生する速度変化を要求する手段を備えるのに対して、引用例1に記載されたものは、感知手段を構成する重錘40Aが衝突時の衝撃の大きさを検出して移動し、前記重錘40Aが前方へ予め定められた値以上移動したとき、安全拘束システム(エアーバッグ装置)を作動させるものである点(以下相違点Gという)、

第3発明は、センサが、機械センサであって、電力を用いないで動作するのに対して、引用例1に記載されたものは、感知手段を構成する重錘40Aのセットの完了を検出するための電気回路を有する点(以下相違点Hという)で、相違する。

そこで、これら相違点について検討する。

相違点Gについて

引用例1に記載されたものも、感知手段を構成する重錘40Aが衝突時の衝撃の大きさを検出して移動し、前記重錘40Aが前方へ予め定められた値以上移動したとき、安全拘束システム(エアーバッグ装置)を作動させる構成であるから、この構成により、衝撃が設定値以上でないとき、即ち安全拘束システムの作動が期待されていないとき、前記重錘40Aに加わる加速度が消滅した後前記感知手段を構成するスプリング47のバイアス力により重錘40Aが押し戻されて安全拘束システムの作動は始まらないから、前記構成は、センサが、安全拘束システムの作動が始まる前の加速が所定レベルを越えた後に発生する速度変化を要求する手段とを備えることに相当するものであり、この相違点Gは実質的なものではない。

相違点Hについて

引用例1に記載されたものにおける電気回路は、感知手段を構成する重錘40Aのセットの完了を検出するための電気回路であって、センサが動作するために必要な構成ではないから、感知手段のセットの完了を検出することを要求せず前記電気回路を設けないで機械センサとすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

そして、第3発明によって得られる作用効果は、引用例1に記載された事項により当業者が容易に予測することができる程度のものである。

したがって、第3発明は、本願出願前日本国内において頒布された引用例1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

Ⅵ. 第4発明と引用例1に記載されたものを対比すると、引用例1に記載された起動装置5、20は、重錘40Aがスプリング47にバイアスを付加されいて、自動車の衝突時の加速に応答するものであるから、バネ質量衝突センサであるものと認められ、両者は、

加速に応答する感知重り(重錘40A)と、この重りにバイアスを付加する付勢手段(スプリング47)と、空気バッグ(エアーバッグ1)の作動用に、所定の加速レベルで発生する前記感知重りの所定距離の移動を要求する手段(規制アーム部75、重錘40Aの外周、解除凹部49)とを備えた乗客拘束システム(エアバッグ装置)に使用されるバネ質量衝突センサ(起動装置5、20)である点で一致し、

第4発明は、センサが機械的センサであるのに対して、引用例1に記載されたものは、感知重り(重錘40A)のセットの完了を検出するための電気回路を有する点(以下相違点Iという)で、相違する。

そこで上記相違点Iについて検討する。

引用例1に記載されたものにおける電気回路は、感知重り(重錘40A)のセットの完了を検出するための電気回路であって、感知重りが加速に応答するためあるいは空気バックの作動用に必要な構成ではないから、感知重りのセットの完了を検出することを要求せず前記電気回路を設けないで機械的センサとすることは、当業者が容易に想到し得たものである。

そして、第4発明によって得られる作用効果は、引用例1に記載された事項により当業者が容易に予測することができる程度のものである。

したがって、第4発明は、本願出願前日本国内において頒布された引用例1に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められる。

Ⅶ. 以上のとおりであるから、第1発明、第2発明、第3発明及び第4発明は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

よって、結論のとおり審決する。

平成6年12月12日

審判長 特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

特許庁審判官 (略)

請求人のため出訴期間として90日を附加する。

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com