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東京高等裁判所 平成7年(行ケ)65号 判決

アメリカ合衆国

ニュージャージ州 08540 プリンストン インデペンデンス・ウエイ 2

原告

アールシーエー トムソン ライセンシング コーポレイション

同代表者

エリック ピー ハーマン

同訴訟代理人弁理士

田中浩

荘司正明

木村正俊

弁理士田中浩復代理人弁護士

飯沼信明

樫永征二

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

同指定代理人

山田益男

長島孝志

及川泰嘉

小池隆

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

この判決に対する上告のための附加期間を90日と定める。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成5年審判第19589号事件について平成6年10月7日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

(本案前の申立て)

主文1、2項と同旨の判決

(本案の申立て)

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決

第2  請求の原因及び原告の主張

1  特許庁における手続の経緯等

(1)  訴外アールシーエー コーポレーションは、1981年8月27日にアメリカ合衆国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和57年8月25日に名称を「ビデオ・ディスク再生装置」(その後「ビデオ記録媒体再生装置」と補正)とする発明(以下「本願発明」という。)につき特許出願(昭和57年特許願第148474号)をしたところ、平成3年3月27日出願公告(平成3年特許出願公告第22758号)されたが、特許異議の申立があり、平成5年5月12日拒絶査定を受けたので、同年10月12日審判を請求した。特許庁は、同請求を平成5年審判第19589号事件として審理した上、平成6年10月7日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年11月16日、訴外アールシーエー コーポレーションの代理人に送達された。なお、出訴期間として90日が附加された。

(2)  上記手続の間の1987年(昭和62年)12月31日に、訴外アールシーエー コーポレーションは、アメリカ合衆国ニューヨーク州法に基づき設立された法人であり、主たる事業所をアメリカ合衆国 ニューヨーク州 12345 スケネクタデイ リバー・ロード 1に有する訴外ゼネラル エレクトリック カンパニイに吸収合併された。

原告は、1995年(平成7年)3月9日に上記訴外ゼネラル エレクトリック カンパニイから、本願発明につき特許を受ける権利を譲り受け、平成7年6月8日特許庁長官に特許出願人名義変更届を提出した。

2  本願発明の要旨

ビデオ記録媒体を所定の速度で移動させるための機構と、

上記ビデオ記録媒体から信号を再生して垂直タイミング成分を含むビデオ出力信号を発生する第1の手段と、

再生装置が第1の動作モードにあるとき上記ビデオ出力信号を禁止し、上記再生装置が第2の動作モードにあるとき上記ビデオ出力信号を有効にする制御手段と、

上記ビデオ記録媒体の上記所定の移動速度に関連する周波数をもった速度指示信号を発生する第2の手段と、

上記速度指示信号を発生する第2の手段の出力および上記ビデオ出力信号を発生する第1の手段の出力をそれぞれ受信するように結合された各別の入力を有し、上記速度指示信号の周波数と上記ビデオ出力信号中の上記垂直タイミング成分の位相とに応答して、上記第2の動作モードの動作期間中は上記再生された垂直タイミング成分と周波数および位相が実質的に等しい垂直基準信号を同期的に発生し、また上記第2の動作モードから第1の動作モードへの転換に引き続いてこの転換の直前において上記垂直タイミング成分が呈する周波数および位相と実質的に一致した周波数および位相をもった上記垂直基準信号を発生し続ける同期化手段と、

上記信号再生手段および上記同期化手段の出力に結合されていて、上記再生装置が上記第1の動作モードにあるときは表示装置に上記垂直基準信号を供給し、上記再生装置が上記第2の動作モードにある間は上記表示装置に上記垂直タイミング成分を供給する信号選択手段と、からなるビデオ記録媒体再生装置。

3  審決の理由の要点

(1)  本願発明の要旨は前項記載のとおりである。

(2)  これに対して、特開昭和52-57714号公報(昭和52年5月12日出願公開、以下「引用例」という。)には、「映像信号が1フィールドまたは1フレームづつ磁気トラックとして記録されている。・・・磁気媒体より、上記磁気トラックを磁気ヘッドにより繰り返し走査してスティル映像信号を再生するようにした装置において、上記磁気トラックと上記磁気ヘッドとが相対的に送られているときには、上記磁気ヘッドよりの再生信号に代えてこれと同期関係にある疑似映像信号を取り出すようした静止画像の再生装置。」(特許請求の範囲)に関して次のような記載がなされている。

「静止画像の再生装置として例えば第1図に示すように磁気カードを使用するものがある。すなわち、第1図において、(1)は映像信号用の磁気カード、・・・(4)・・・は案内ドラムで、ドラム(4)の周面には、映像信号用の1対の磁気ヘッド(6A)、(6B)が・・・設けられる・・・そしてドラム(4)の回転軸(4a)にはモータ(7)が設けられてドラム(4)は例えば2フィールドが1回転の割り合いで回転駆動される・・・」(1頁右下欄2~18行)

「本発明は、・・・次のスティル画像が現れるときの同期の乱れ・・・がないようにしようとするものである。このため本発明においては、ヘッド(6A)、(6B)が不要なトラックを横切っている期間t2~t4には、ヘッド(6A)、(6B)よりの映像信号に代えて疑似映像信号をモニタ受像機に供給するようにした・・・」(3頁左上欄12~18行)

「第3図において、(41)はこの再生装置を制御するためのシステムコントロール回路を示し・・・」(3頁左上欄20行~右上欄1行)

「ヘッド(6A)、(6B)により再生された映像信号(この例ではFM信号とする)が、再生アンプ(21A)、(21B)を通じてスイッチ回路(22)に供給されると共に、このスイッチ回路(22)はドラム(4)の回転に同期して1フィールドごとに交互に切り換えられ、従ってスイッチ回路(22)からはFM信号が連続して取り出される。そしてこのスイッチ回路(22)よりのFM信号が、リミッタ(23)を通じて復調回路(24)に供給されて第4図Bに示すように映像信号Syが復調され、この映像信号Syがスイッチ(25)に供給される。この場合、第4図Bにおいて、Pvは垂直同期パルス・・・を示す・・・」(3頁右上欄13行~左下欄5行)

「ドラム(4)には180°の角間隔を有して例えば着磁されて磁性片(34A)、(34B)が設けられると共に、この磁性片(34A)、(34B)に対向するように検出用の磁気ヘッド(35)が設けられ、ヘッド(35)からは第4図Dに示すように、フィールド周期のパルスPgが取り出され、このパルスPgがアンプ(36)を通じて遅延回路(37)に供給され、第4図Eに示すように、映像信号Syに含まれる垂直同パルスPvの位置まで遅延されたパルスPuとされ、このパルスPuが混合回路(33)に供給される。・・・こうして混合回路(33)からは第4図Fに示すような疑似映像信号Sx、すなわち、パルス・・・Puを・・・垂直同期パルスと(する)・・・疑似映像信号Sxが取り出される。・・・そしてこの疑似映像信号Sxは、スイッチ回路(25)に供給される。」(3頁左下欄18行~4頁左上欄3行)

「装置(41)からは第4図Gに示すように、時点t1から時点t3までの期間、立ち上がっている矩形波信号Srが取り出され、・・・マルチバイブレータ(43)からは、第4図Ⅰに示すように、・・・時点t4に立ち下がる矩形波信号Swが得られる。そしてこの信号Swが、スイッチ回路(25)にその制御信号として供給され、・・・スイッチ回路(25)よりのスティル映像信号Syまたは疑似映像信号Sxが、バッファアンプ(26)を通じてモニタ受像機(27)に供給される。このような構成によれば、トラック(11A)、(11B)あるいは(18A)、(18B)がヘッド(6A)、(6B)によって正しく走査されているとき、すなわち、時点t2以前及び時点t4以後には、信号Swによりスイッチ回路(25)は図の状態に切り換えられているので、第4図Jに示すように、スイッチ回路(25)からはスティル映像信号Syが取り出され、これがモニタ受像機(27)に供給される。従って、そのトラック(11A)、(11B)あるいは(18A)、(18B)よりのスティル映像信号が受像機(27)に再生される。一方、カード(1)、(2)が送られている期間t2~t3及びカード(1)、(2)の送りが終り、次の垂直同期パルスPvが得られるまでの期間t3~t4には、信号Swによりスイッチ回路(25)は図とは逆の状態に切り換えられているので、スイッチ回路(25)からは疑似映像信号Sxが取り出され、これがモニタ受像機(27)に供給される。」(4頁左上欄5行~左下欄7行)

「なお上述において、・・・同期パルスPu・・・を外部の基準信号から形成し、それに映像信号Sy及びドラム(4)・・・の回転を同期させてもよい。」(5頁左上欄13~16行)

(3)  そこで、本願発明と引用例に記載されたものとを対比すると、まず、引用例に記載されたものにおける「磁気カード(1)」、「磁気ヘッド(6A)、(6B)」は、本願発明における「ビデオ記録媒体」、「第1の手段」に相当する。そして、引用例に記載されたものにおいては、「磁気ヘッド」を所定の速度で移動させることにより「磁気カード」と「磁気ヘッド」とが所定の速度で相対的に移動するようになされており、本願発明においては、「ビデオ記録媒体」を所定の速度で移動させることにより「ビデオ記録媒体」と「第1の手段」とが所定の速度で相対的に移動するようになされているが、両者とも、記録媒体と再生手段とが相対的に移動するようになきれていることには変わりなく、引用例に記載されたものにおける「モータ(7)」と、本願発明における「ビデオ記録媒体を所定の速度で移動させるための機構」とは、共に、「ビデオ記録媒体と第1の手段とを所定の速度で相対的に移動させるための機構」であるということができる。

また、引用例に記載されたものにおける「システムコントロール回路(41)」、「検出用の磁気ヘッド(35)」、「モニタ受像機(27)」、「スイッチ回路(25)」は、それぞれ、本願発明における「制御手段」、「第2の手段」、「表示装置」、「信号選択手段」に相当し、引用例の「期間t2~t4」、「時点t2以前及び時点t4以後」における動作状態が、それぞれ、本願発明の「第1の動作モード」、「第2の動作モード」に相当する。

さらに、引用例に記載されたものにおける「アンプ(36)」、「遅延回路(37)」よりなる回路手段は、「垂直同期パルスPv」と周波数および位相が実質的に等しい「パルスPu」を、時点t2以前、期間t2~t4、及び時点t4以後のすべての期間にわたって発生し続けるものであるから、上記回路手段及び本願発明における「同期化手段」は、共に、「第2の動作モードの動作期間中は再生された垂直タイミング成分と周波数および位相が実質的に等しい垂直基準信号を発生し、また上記第2の動作モードから第1の動作モードへの転換に引き続いてこの転換の直前において上記垂直タイミング成分が呈する周波数および位相と実質的に一致した周波数および位相をもった上記垂直基準信号を発生しつづける信号発生手段」であるということができる。

したがって、本願発明と引用例に記載されたものとは、「ビデオ記録媒体と第1の手段とを所定の速度で相対的に移動させるための機構と、

上記ビデオ記録媒体から信号を再生して垂直タイミング成分を含むビデオ出力信号を発生する第1の手段と、

再生装置が第1の動作モードにあるとき上記ビデオ出力信号を禁止し、上記再生装置が第2の動作モードにあるとき上記ビデオ出力信号を有効にする制御手段と、

上記所定の速度に関連する周波数をもった速度指示信号を発生する第2の手段と、

上記第2の動作モードの動作期間中は上記再生された垂直タイミング成分と周波数および位相が実質的に等しい垂直基準信号を発生し、また上記第2の動作モードから第1の動作モードへの転換に引き続いてこの転換の直前において上記垂直タイミング成分が呈する周波数および位相と実質的に一致した周波数および位相をもった上記垂直基準信号を発生し続ける信号発生手段と、

上記信号再生手段および上記信号発生手段の出力に結合されていて、上記再生装置が上記第1の動作モードにあるときは表示装置に上記垂直基準信号を供給し、上記再生装置が上記第2の動作モードにある間は上記表示装置に上記垂直タイミング成分を供給する信号選択手段と、からなるビデオ記録媒体再生装置」である点で一致し、次の点で相違する。

〈1〉 本願発明においては、「ビデオ記録媒体」を所定の速度で移動させているのに対し、引用例に記載されたものにおいては、「磁気ヘッド」を所定の速度で移動させている点。

〈2〉 本願発明における「信号発生手段」では、「速度指示信号を発生する第2の手段の出力およびビデオ出力信号を発生する第1の手段の出力をそれぞれ受信するように結合された各別の入力を有し、上記速度指示信号の周波数と上記ビデオ出力信号中の垂直タイミング成分の位相とに応答して、第2の動作モードの動作期間中は上記再生された垂直タイミング成分と周波数および位相が実質的に等しい垂直基準信号を同期的に発生する」ようにしているのに対し、引用例に記載されたものにおける「信号発生手段」では、「垂直タイミング成分」(垂直同期パルスPv)と「垂直基準信号」(パルスPu)とを同期化させていない点。

(4)  そこで、上記各相違点について検討する。

〈1〉 相違点〈1〉について

記録再生装置において、記録媒体から信号を再生する場合、記録媒体と再生手段とは相対的に移動することが必要であるが、その際、記録媒体と再生手段のうち、どちらを移動させてもよいということは、当業者にとって明らかである。

したがって、引用例に記載されたものにおいて、再生手段ではなく記録媒体を所定の速度で移動させるようにすることは、当業者が適宜になしうるものと認められる。

〈2〉 相違点〈2〉について

(a) 引用例に記載されたものにおいて、パルスPuは、磁気ヘッド(6A)、(6B)に対して相対的な位置が固定されている磁性片(34A)、(34B)の磁気を磁気ヘッド(35)によって検出することにより取り出されるパルスPgを垂直同期パルスPvの位置まで遅延させて作っているので、パルスPuと垂直同期パルスPvは、同期をとらなくても必然的にその位相は一致することになる。

しかしながら、パルスPuの発生のさ章方は、上記のようなものに限ったものではなく、引用例の5頁左上欄14~16行には、「同期パルスPu・・・を外部の基準信号から形成し、それに映像信号Sy及びドラム(4)・・・の回転を同期させてもよい。」と記載されている。

(b) この記載によって示唆されることは、とにかく、どのような手段であっても、「同期パルスPu」、「映像信号Sy」、及び「ドラム(4)の回転」を同期させれば、「同期の乱れがないようにする」という所期の目的を達成することができるということである。、

してみれば、引用例に記載ざれたものにおいて、「垂直タイミング成分」(垂直同期パルスPv)と「垂直基準信号」(パルスPu)の位相が必然的に一致するような構成をとらないようにする代わりに、両者の位相を一致させる何らかの同期化手段を設けるようにすることは、当業者が容易に想到しうるものと認められる。

そして、そのような同期化手段を具体化して構成する際に、「速度指示信号を発生する第2の手段の出力」と「ビデオ出力信号を発生する第1の手段の出力」とを「各別の入力」によって受信し、「速度指示信号の周波数」と「ビデオ出力信号中の垂直タイミング成分の位相」とに応答させて「垂直タイミング成分」と同期のとれた「垂直基準信号」を発生させるような構成を採用するようにすることは、当業者が適宜になしうるものと認められる。

(5)  さらに、本願発明の要旨とする構成によってもたらされる効果も、引用例に記載されたものから当業者ならば容易に予測することができる程度のものであって、格別のものということはできない。

(6)  したがって、本願発明は、引用例に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものと認められるので、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

4  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点(1)ないし(3)、(4)〈1〉は認める。同(4)〈2〉(a)は認めるが、同(b)は争う。同(5)、(6)は争う。

審決は、相違点〈2〉及び本願発明の効果についての判断を誤って、本願発明の進歩性を否定したものであるから、違法として取り消されるべきである。

(1)  取消事由1(相違点〈2〉についての判断の誤り)

〈1〉 審決が引用する引用例5頁左上欄14行ないし16行の「同期パルスPu・・・を外部の基準信号から形成し、それに映像信号Sy及びドラム(4)・・・の回転を同期させてもよい。」との記載は、引用例が第1図~第4図に示し、かつ本文中に説明した具体的構成の代わりに、同期パルスPuを、映像信号Syから形成する方式、及び外部基準信号から形成する方式の2方式の利用可能性を示すだけで、審決がいうような「どのような手段であっても、「同期パルスPu」、「映像信号Sy」、及び「ドラム(4)の回転」を同期させれば「同期の乱れがないようにする」という所期の目的を達成することができる」(甲第1号証15頁2行ないし6行)ということを示唆しておらず、審決のこの判断は、引用例の記載内容を不当に拡大解釈した結果によるものであって、誤りである。

また、引用例には本願発明の「同期化手段」のごとき信号発生手段に関する開示が全くないから、「そのような同期化手段を具体化して構成する際に、「速度指示信号を発生する第2の手段の出力」と「ビデオ出力信号を発生する第1の手段の出力」とを「各別の入力」によって受信し、「速度指示信号の周波数」と「ビデオ出力信号中の垂直タイミング成分の位相」とに応答させて「垂直タイミング成分」と同期のとれた「垂直基準信号」を発生させるような構成を採用するようにすることは、当業者が適宜になしうるものと認められる。」(甲第1号証15頁13行ないし16頁2行)とした審決の判断は、上記拡大解釈を更に具体的手段の内容まで拡大した不当な判断であって、明らかに誤りである。

〈2〉 被告は、「同期パルスPu」、「映像信号Sy」及び「ドラム(4)の回転」の3者の同期をとるための方策として、引用例の示唆する方策か、「映像信号Sy」と「ドラム(4)の回転」の2者を同期化手段に入力させてこの2者に同期した「同期パルスPu」を発生させるという本願発明に相当する方策のいずれを採るかは当業者が適宜なしうることである旨主張するが、引用例には上記本願発明に相当する方策の開示も示唆もなく、またこの方策が当業者間で周知の技術であったという事実も存在しないのであるから、つまり2つの選択肢の一方を欠くのであるから、当業者といえども、同期のさせ方として、「適宜になし得る」はずはない。

(2)  取消事由2(効果についての判断の誤り)

引用例に記載されたものでは、磁気ヘッド(35)の増幅出力に応動する固定遅延回路(37)は、再生装置の正規の静止画像再生動作中、磁気ヘッド(6A、6B)によって再生された映像信号中の垂直タイミング成分(垂直同期パルスPv)と位相の一致した出力パルス(Pu)を生成する。しかし、この位相の一致を得るためには、記録カード(1)をドラム(4)の周囲に巻き付けるとき、磁性片(34A、34B)のドラム(4)上の位置に対する磁気トラック(11A、11B等)の終端部の位置に常時ある特定位置に正しく設定しなければならない。具体的には、磁性片(例えば34B)からこの磁気トラック(11A、11B等)の終端部までの弧状間隔が磁気ヘッド(35)の位置から磁気ヘッド(6A、6B)の位置までの弧状間隔に対応するような位置に、常時磁気カード(1)を位置付けせねばならない。そうしないと、上記出力パルスPuの位相を、遅延量の固定された遅延回路(37)によって垂直同期パルスPvの位相に正しく一致させることができなくなる。つまり、磁気ヘッド(35)の出力のみ(単一の入力信号)で制御される装置により適正な出力パルスPuを発生して表示画像の垂直ロールを解消しようとすると、ドラム(4)上に支持された磁性片(34A、34B)に対して磁気カード(1)のトラック終端部を上記のように極めて精密に位置付けせねばならない、という厳しい条件を満足させねばならないことになる。

一方、本願発明における垂直基準信号発生装置(同期化手段)は、正常な記録再生モードの動作期間中は第1と第2の両手段から供給される2つの入力によって、垂直基準信号を垂直タイミング成分の周波数と位相に引込み、休止モードの動作に切り換えられると第2の手段から供給される単一の入力によって上記引込まれた周波数及び位相関係をそのまま維持する、いわゆる2入力応答引込み/単一入力応答維持型の2重モード方式であって、何物かに対する記録媒体の特定の位置付けや方向付け等の煩雑な制限条件に煩わされずに、したがってこのような条件を満足させる手段を講ずる必要なしに、容易確実に表示画像の垂直ロールを解消することができる。そして、このような本願発明の効果は、引用例の記載からは当業者といえども容易に予測し得ないものである。

したがって、本願発明の効果に関する審決の判断は、上記の2重モード方式の特徴を看過したことによるもので誤りである。

5  被告の本案前の主張に対する原告の主張

被告はこれまで、原告の当事者適格の不備について主張をせず、本案につき答弁及び主張をしてきた。被告が、ここに至って、本件訴えはアールシーエー トムソン ライセンシング コーポレイションのみが提起したものとして本件訴えの却下を求めるのは信義則に反するものである。

第3  被告の本案前の主張

原告は、本件訴提起当時及び訴提起期間内に、訴外ゼネラル エレクトリックカ ンパニーから本願発明につき特許を受ける権利を譲り受けたことを特許庁長官に対して届け出ず、その届出をしたのは訴提起期間後である平成7年6月8日である。したがって、原告の提起した本件審決取消の訴えは、審決の名宛人となっていない者又は審決の名宛人となっている者から特許を受ける権利の譲渡を受けたことを主張し得ない者、すなわち審決取消の訴えの原告となり得ない者の提起した不適法なものであるから、却下されるべきである。

第4  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1ないし3は認める。同4は争う。審決の判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

2  反論

(1)  取消事由1について

〈1〉 確かに、引用例の「なお上述において、垂直同期パルスPuを映像信号Syから形成し、あるいは同期パルスPu、Pkを外部の基準信号から形成し、それに映像信号Sy及びドラム(4)、(5)の回転を同期させてもよい。」(甲第8号証5頁左上欄13行ないし16行)という記載は、引用例が第1図ないし第4図に示し、かつ本文中に説明した具体的構成の代わりに、同期パルスPuを、映像信号Syから形成する方式、および外部基準信号から形成する方式の2方式の利用可能性を示している。

審決においては、上記2方式のうち、特に、「外部基準信号から形成する方式」に着目してはいるが、審決の意味するところは、引用例には、「同期パルスPuに映像信号Sy及びドラム(4)の回転を同期させてもよい」旨が記載されているということである。

審決で「どのような手段であっても」と述べたのは、同期させるための手段として、引用例に具体的な同期化手段を特定することの明記はないが、「同期パルスPu」、「映像信号Sy」及び「ドラム(4)の回転」を同期させることについての記載が引用例中にあるということを示したものである。

そして、上記のように、「同期パルスPu」、「映像信号Sy」及び「ドラム(4)の回転」を同期させることの意味は、次のようなことである。

すなわち、引用例が第1図ないし第4図に示し、かつ本文中に説明した具体的構成(以下「具体的実施例」という。)においては、「垂直タイミング成分」(引用例の具体的実施例では第4図Bに示される映像信号Sy中に含まれる垂直同期パルスPv)と「垂直基準信号」(引用例の具体的実施例ではドラム(4)の回転位相を一定値だけ遅延させた第4図Eに示される同期パルスPu)の位相が必然的に一致するような構成をとっているのであるが、その代わりに上記のように「同期パルスPu」、「映像信号Sy」及び「ドラム(4)の回転」を同期させてもよいということである。

したがって、上記のように同期させることは、「同期の乱れがないようにする」という所期の目的を達成するためのものであることは明らかである。

以上のとおりであるから、引用例は、「同期パルスPu」、「映像信号Sy」及び「ドラム(4)の回転」を同期させれば、「同期の乱れがないようにする」という所期の目的を達成することができる旨を示唆しているとした審決の判断に誤りはない。

〈2〉 確かに、引用例は、「同期パルスPu」、「映像信号Sy」及び「ドラム(4)の回転」の同期のさせ方を、本願発明のような具体的構成で行うことまでも示唆するものではない。

引用例の示唆するところの同期のさせ方の1例は、「同期パルスPu」を外部の基準信号から形成し、それに「映像信号Sy」及び「ドラム(4)の回転」を同期させるというものである。

これに対し、本願発明は、引用例の「ドラム(4)の回転」に関連する信号に対応するものであるところの「速度指示信号を発生する第2の手段の出力」と、引用例の「映像信号Sy」に対応するものであるところの「ビデオ出力信号を発生する第1の手段の出力」とを、「各別の入力」によって受信し、「速度指示信号の周波数」と「ビデオ出力信号中の垂直タイミング成分の位相」とに応答させて、「垂直タイミング成分」と同期がとれており、かつ、引用例の「同期パルスPu」に対応するものであるところの「垂直基準信号」を発生させる構成を採用している。

すなわち、引用例の示唆するところのものと本願発明の違いを端的にいえば、引用例の示唆するところのものは、まず「同期パルスPu」を外部の基準信号から形成し、何らかの回路によってその「同期パルスPu」に「映像信号Sy」及び「ドラム(4)の回転」を同期させるというものであるのに対し、本願発明は、「同期パルスPu」に対応するものを外部の基準信号から形成することはせずに、「ドラム(4)の回転」に関連する信号に対応するものと「映像信号Sy」に対応するものとを2入力として同期化手段に入力し、双方に同期した「同期パルスPu」に対応するものを形成するものであるという違いということができる。

しかしながら、「同期パルスPu」、「映像信号Sy」及び「ドラム(4)の回転」という3者の同期をとるための方策として、まず「同期パルスPu」を外部の基準信号から形成し、それに残りの2者を同期させる(引用例の示唆する方策)か、あるいは「映像信号Sy」(本願発明では、「ビデオ出力信号を発生する第1の手段の出力」に対応)及び「ドラム(4)の回転」(本願発明では、「速度指示信号を発生する第2の手段の出力」に対応)の2者を同期化手段に入力させ、結果としてそれらに同期した「同期パルスPu」(本願発明では、「垂直基準信号」に対応)を発生させるようにするかは、同期のさせ方として、それぞれ当業者が適宜になしうることにすぎない。なぜならば、要は最終的に「映像信号Sy」及び「ドラム(4)の回転」に同期した「同期パルスPu」が得られさえすればよいのであるから、そのための方策は、当業者ならば、種々採りうるからである。

したがって、相違点についての審決の判断に誤りはない。

(2)  取消事由2について

引用例の具体的実施例では、確かに、原告の主張するような条件を満足させねばならない。

しかしながら、原告の主張する条件は、引用例の具体的実施例において当然考慮すべき機械的条件にすぎず、機械的構造として格別に難しい条件ではない。

しかも、引用例の5頁左上欄13行ないし16行の前記記載が示唆するように、引用例の具体的実施例が唯一引用例の技術思想を実現するための方策ではなく、それに変わる方策があるのであるから、単に、引用例の具体的実施例の満足せねばならない機械的条件を本願発明は満足しなくてもよいことをもって、本願発明の効果が格別のものであるとの主張は失当である。

さらに、原告のいう「何物かに対する記録媒体の特定の位置付けや方向付け等の煩雑な制限条件に煩わされずに、したがってこのような条件を満足させる手段を講ずる必要なしに、容易確実に表示画像の垂直ロールを解消することができる。」という効果は、何も「2重モード方式」だけが持つ特有の効果ではなく、引用例の上記記載が示唆するような電気的に同期をとる方策を採用しても、やはり、上記のような機械的条件を満足させる必要はないのである。

したがって、本願発明に効果に関する審決の判断に誤りはない。

第5  証拠

本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

理由

1  当事者間に争いのない請求の原因1の事実及び本件記録によれば、本願発明は訴外アールシーエー コーポレーションの特許出願に係るものであるところ、本件審決は審判請求人である同訴外会社を名宛人としてなされたものであるが、本件審決に対して、同訴外会社、同訴外会社を吸収合併した訴外ゼネラル エレクトリックカ ンパニーはいずれも出訴期間内に取消の訴えを提起せず、原告が、訴外ゼネラル エレクトリック カンパニーから本願発明につき特許を受ける権利を譲り受けたものとして、出訴期間内に本件訴えを提起したものであること、原告は、訴外ゼネラル エレクトリック カンパニーから本願発明につき特許を受ける権利を譲り受けたことを、出訴期間内に特許庁長官に対して届け出ず、その届出をしたのは出訴期間経過後であること、原告の上記特許を受ける権利の承継は一般承継によるものではない軽ことが認められる。

ところで、特許法34条4項によれば、特許出願後における特許を受ける権利の承継は、相続その他一般承継の場合を除き、特許庁長官に届け出なければ、その効力を生じないものと規定されているから、出訴期間内に上記届出をしなかった原告の提起した本件審決取消の訴えは、審決の名宛人となっている者から特許を受ける権利の譲渡を受けたことを主張し得ない者、すなわち本件審決の取消の訴えの原告となり得ない者の提起した不適法なものというべきであり、その欠缺は、原告が出訴期間経過後に特許庁長官に上記届出をしたことによって補正されることはないものと解すべきである。

上記のとおり、原告の本件訴えは不適法であるから、これを却下することとし、訴訟費用の負担及び上告のための附加期間の付与につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条、158条2項を適用して、主文のとおり判決する。

2  原告は、被告が本件訴えの却下を求めるのは信義則に反するものである旨主張するが、被告側に何ら非難すべき点はなく、上記主張は採用できない。

なお、当裁判所に対して、訴外ゼネラル エレクトリック カンパニーの代理人弁理士田中浩、同荘司正明、同木村正俊及び弁理士田中浩の復代理人弁護士飯沼信明作成に係る平成9年4月8日付け上申書が提出されており、同上申書には、本件訴えの原告は、アールシーエー トムソン ライセンシング コーポレイションとアールシーエー コーポレーションである旨記載されているが、本件訴状及び平成7年10月19日付け訴状補正書の各記載によれば、本件訴えの原告は、アールシーエー トムソン ライセンシング コーポレイションのみであって、アールシーエー コーポレーションは本件訴えの原告でないことは明らかである。

また、訴外ゼネラル エレクトリック カンパニーは、本件訴状において、原告名を「アールシーエー コーポレーション」と表示したのは、「ゼネラル エレクトリック カンパニー」とすべきところを誤って表示したものであるから、訴状の原告の表示を、「アールシーエー コーポレーション」から「ゼネラル エレクトリック カンパニー」に訂正の申立てをする旨記載された平成9年4月17日付け訴状訂正申立書を提出しているが、アールシーエー コーポレーションが本件訴えの原告でないことは上記のとおりであるから、この申立ては許容できない。

さらに、アールシーエー トムソン ライセンシング コーポレイションは、本件訴えの原告が、アールシーエー コーポレーションないしゼネラル エレクトリック カンパニーであることを前提として、平成9年4月17日付けで、民事訴訟法73条、71条により本件訴訟に参加する旨の申立てをしているが、上記前提自体失当であり、本件訴えの原告であるアールシーエー トムソン ライセンシング コーポレイションに参加を許すべきでないことは明らかであるから、上記参加申立てを却下する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

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