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東京高等裁判所 平成8年(行ケ)10号 判決

神奈川県厚木市長谷398番地

原告

株式会社半導体エネルギー研究所

同代表者代表取締役

山崎舜平

同訴訟代理人弁理士

加藤恭介

東京都千代田区霞が関3丁目4番3号

被告

特許庁長官 荒井寿光

同指定代理人

岩野進

森田信一

吉村宅衛

小池隆

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成4年審判第23622号事件について平成7年11月10日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、昭和61年11月5日、名称を「表示装置」(後に「携帯型情報再生装置」と補正)とする発明につき特許出願(特願昭61-264211号)したが、平成4年11月17日拒絶査定を受けたので、同年12月17日審判を請求した。特許庁は、この請求を平成4年審判第23622号事件として審理し、平成7年11月10日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をなし、その謄本は同年12月20日原告に送達された。

2  特許請求の範囲第1項記載の発明(以下「本願発明」という。)の要旨

携帯型外部記録媒体に記録された情報を再生する情報再生手段と、上記携帯型外部記録媒体に記録された情報と使用者の入力情報とを記録できるメモリ手段と、情報を表示する平面型表示手段と、前記各手段を制御するマイクロ・コンピュータとを備えた携帯型情報再生装置において、

携帯型外部記録媒体から1画面分または数画面分の情報を再生し、当該1画面分または数画面分の情報を前記メモリ手段に記録する情報再生手段と、

局部圧力、局部光等の外部入力信号を検出する機能を有すると共に、前記外部入力信号を前記マイクロ・コンピュータをへて前記携帯型外部記録媒体に保存せしめ、前記携帯型外部記録媒体の情報を加工、編集する平面型表示手段と、

を備えていることを特徴とする携帯型情報再生装置。

3  審決の理由の要点

(1)  本願発明の要旨は前項記載のとおりである。

(2)〈1〉  特開昭60-164863号公報(以下「第1引用例」という。甲第4号証)には、ファイル装置(例えばフロッピーディスク)と、上記ファイル装置に格納した情報と手書き入力情報とを格納できる文字バッファ及び座標属性バッファと、情報を表示するCRT表示装置と、前記各装置を制御する処理装置(例えばマイクロコンピュータ)とを備えたワードプロセッサにおいて、ファイル装置から情報を取り出し、当該情報を前記文字バッファ及び座標属性バッファに格納する装置と、スタイラスペンを備えた手書き入力用タブレットと、CRT表示装置とを備え、前記手書き入力タブレットの出力信号を前記処理装置をへて前記ファイル装置に格納せしめ、前記ファイル装置の情報を加工、編集するワードプロセッサが記載されている。

〈2〉  実願昭59-90482号(実開昭61-8342号)のマイクロフィルム(昭和60年1月17日付け手続補正書の補正の内容を含む)(以下「第2引用例」という。甲第5号証)には、液晶表示器を備え携帯性に適した小規模構成の情報入出力装置が記載され、その液晶表示器にはライトペンの点光源よりの光を検出すべく配置された光点位置検出センサが一体に保持されており、上記光点検出位置センサの受光面にあてられたライトペンの座標位置を検出する機能を有することが記載されている。

(3)  本願発明と第1引用例に記載されたものとを対比すると、本願発明の「携帯型外部記録媒体」、「メモリ手段」、「マイクロコンピュータ」、「情報再生装置」は、それぞれ第1引用例に記載されたものの「ファイル装置(例えばフロッピーディスク)」、「文字バッファ及び座標属性バッファ」、「処理装置(例えばマイクロコンピュータ)」、「ワードプロセッサ」に対応する。また、第1引用例に記載されたものは、ファイル装置(例えばフロッピーディスク)に格納した情報を取り出し、その情報を文字バッファ及び座標属性バッファに格納する機能を有するのであるから、本願発明の「情報再生手段」に対応する手段を備えているとともに、第1引用例に記載されたものの「スタイラスペンを備えた手書き入力用タブレット」は、本願発明の「局部圧力による外部入力信号を検出する機能を有する」ものである。

そうすると、本願発明と第1引用例に記載されたものとは、「携帯型外部記録媒体に記録された情報を再生する情報再生手段と、上記携帯型外部記録媒体に記録された情報と使用者の入力情報とを記録できるメモリ手段と、情報を表示する表示手段と、前記各手段を制御するマイクロ・コンピュータとを備えた情報再生装置において、携帯型外部記録媒体から情報を再生し、当該情報を前記メモリ手段に記録する情報再生手段と、局部圧力の外部入力信号を検出する機能を有する外部入力手段と、表示手段と、前記外部入力信号を前記マイクロ・コンピュータをへて前記携帯型外部記録媒体に保存せしめ、前記携帯型外部記録媒体の情報を加工、編集する手段と、を備えている情報再生装置。」の点で一致しており、次の点で相違している。

〈1〉 本願発明の情報再生装置は、表示手段としての局部圧力、局部光等の外部入力信号を検出する機能を有する平面型表示手段を採用した携帯型情報再生装置であるのに対し、第1引用例記載のものは、局部圧力、局部光等の外部入力信号を検出する機能を有していないCRT表示装置を採用し、局部圧力の外部入力信号を検出する機能は、CRT表示装置と別体のスタイラスペンを備えた手書き入力用タブレットが有する非携帯型情報再生装置である点。

〈2〉 本願発明は、情報再生手段が携帯型外部記録媒体から1画面分または数画面分の情報をメモリ手段に記録するのに対し、第1引用例に記載されたものは、この点が明らかでない点。

(4)  上記相違点について検討する。

〈1〉 相違点〈1〉について

(a) 第2引用例には、液晶表示器、即ち平面型表示装置を備えた携帯型の情報入出力装置、及びこの液晶表示器はライトペンによる外部入力信号を検出する機能を有するものであることがそれぞれ記載されており、この液晶表示器は本願発明における局部光の外部入力信号を検出する機能を有する平面型表示手段に対応するものである。

(b) また、情報処理装置において、CRT表示装置を採用して卓上型とするのに代えて、液晶表示器等平面型の表示手段を採用して携帯型とすることは、従来周知の技術である(実願昭59-199358号(実開昭61-115251号)のマイクロフイルム、特開昭57-147767号公報)。

(c) そして、本願発明が、第1引用例に記載されたような非携帯型の情報再生装置に従来周知の技術を適用し、その表示手段として第2引用例に記載されたものの平面型表示手段を採用し、全体を携帯型情報再生装置とした点は、当業者が容易になし得たものと認められる。

〈2〉 相違点〈2〉について

(a) 半導体メモリを用いたワードプロセッサのような情報処理装置において、外部記録媒体に記録された情報を表示装置に表示し、またその情報を加工、編集するためにメモリに記録する際、どれほどの量の情報をメモリに記録するかは、その情報処理装置が備えるメモリの記録容量、表示装置の表示容量、情報処理装置の使い勝手等を勘案して当業者が適宜決定する設計的事項である。

(b) したがって、本願発明の情報再生手段が携帯型外部記録媒体に記録された情報を再生し、メモリ手段に記録する際、その情報の量を1画面分または数画面分とする点は、本願発明の情報再生装置が携帯型であって、メモリの記録容量、表示装置の表示容量等が比較的小であることに基づいて、当業者が適宜なし得たものと認められる。

〈3〉 そして、本願発明の作用効果も第1引用例及び第2引用例に記載されたものの作用効果から予測しうる範囲内のものと認められる。

(5)  以上のとおりであるから、本願発明は第1引用例及び第2引用例に記載されたものに基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。

4  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点(1)、(2)は認める。同(3)のうち、本願発明の「携帯型外部記録媒体」、「マイクロコンピュータ」が、それぞれ第1引用例に記載されたものの「ファイル装置(例えばフロッピーディスク)」、「処理装置(マイクロコンピュータ)」に対応すること、第1引用例に記載されたものの「スタイラスペンを備えた手書き入力用タブレット」が、本願発明の「局部圧力による外部入力信号を検出する機能を有する」ものであること、及び、相違点〈1〉、〈2〉の認定については認めるが、その余は争う。同(4)〈1〉のうち、(a)は認めるが、その余は争う。同(4)〈2〉のうち、(a)は認めるが、その余は争う。同(4)〈3〉、(5)は争う。

審決は、本願発明と第1引用例記載のものとの一致点の認定及び相違点〈1〉、〈2〉についての判断をいずれも誤り、かつ、本願発明の作用効果についての判断を誤って、本願発明の進歩性を否定したものであるから、違法として取り消されるべきである。

(1)  一致点の認定の誤り(取消事由1)

審決は、本願発明の「メモリ手段」、「情報再生装置」は、それぞれ第1引用例に記載されたものの「文字バッファ及び座標属性バッフア」、「ワードプロセッサ」に対応すると認定しているが、以下述べるとおり誤りであり、この認定を前提とする一致点の認定は誤りである。

〈1〉 本願発明の「メモリ手段」は、特許請求の範囲に記載されているように、携帯型外部記録媒体から1画面分または数画面分の情報を再生した後、当該1画面分または数画面分の情報を記録するものである。これに対し、第1引用例に記載されている「文字バッファ及び座標属性バッファ」は、ファイル装置からの情報をファイル毎に記録、または転送されるものであって、本願発明のように1画面分または数画面分の情報が記録されるものではない。

〈2〉 本願発明の「情報再生装置」は、特許請求の範囲及び明細書に記載されているように、1画面分または数画面分の情報を再生する情報再生手段から構成されている。これに対して、第1引用例に記載されている「ワードプロセッサ」をはじめ、通常のワードプロセッサまたはコンピュータは、1ファイル毎に情報を再生しており、本願発明のように1画面分または数画面分ずつの情報を再生していない。

本願発明は、携帯型情報再生装置が携帯型外部記録媒体からの情報を1画面分または数画面分ずつ再生するものであって、1ファイル分の情報を全部連続して再生しないため、一度に多くの駆動電流を消費しないものであり、そのため、小型の補助電源でも実現できるようになったものである。また、例えば補助電源に太陽電池を使用した場合、1画面分または数画面分の情報を再生し、この部分を読んでいる間に、太陽電池から充電装置に新たな電力が供給され、次の画面を再生するための電力となるというものである。

本願発明の携帯型情報再生装置は、ワードプロセッサの機能、すなわち、文書の作成及び編集機能を有するものではなく、単に、1画面分または数画面分のみを順次再生するものである。これに対して、ワードプロセッサは、少なくとも、文書の作成及び編集機能を有するものである。

したがって、本願発明の「情報再生装置」は第1引用例の「ワードプロセッサ」と対応させることはできない。

(2)  相違点〈1〉の判断の誤り(取消事由2)

〈1〉 審決は、「情報処理装置において、CRT表示装置を採用して卓上型とするのに代えて、液晶表示器等平面型の表示手段を採用して携帯型とすることは、従来周知の技術である。」としているが、誤りである。

審決が引用している実願昭59-199358号(実開昭61-115251号)のマイクロフィルム(甲第9号証)及び特開昭57-147767号公報(甲第10号証)には、表示手段として小型の液晶を使用した例が記載されている。

しかし、甲第9号証に記載されている考案は、携帯型書籍用の表示手段を有しているが、外部記録媒体の情報を再生するものではない。甲第9号証記載の考案は、表示手段と記憶素子とを着脱自在にするというものであり、本願発明のように外部記録媒体の情報を1画面分または数画面分再生するというものではない。また、甲第10号証に記載されている表示手段は、本願発明の目的である携帯型の書籍となるものではない。

したがって、本願発明のような携帯型の書籍になる液晶表示装置は周知技術ではなかったのである

〈2〉 上記のとおり、書籍情報を表示することができる程度の大きさの液晶表示装置は、本願出願時の昭和61年当時周知技術ではなかった。しかして、第1引用例に記載された非携帯型の情報再生装置に、甲第9、第10号証に記載された表示手段を採用しても、本願発明のような書籍情報を読むことができる携帯型情報再生装置にはならない。

したがって、相違点〈1〉についての審決の判断は誤りである。

(3)  相違点〈2〉の判断の誤り(取消事由3)

携帯型外部記録媒体の情報を1画面分または数画面分ずつ再生するという技術思想は、メモリにおける記録容量の問題ではない。半導体メモリは、小型で容量の大きいものが開発されており、大きい容量を記憶するものでも、1画面分または数画面分の記憶するものでも、その大きさに大差はない。

本願発明は、メモリの容量ではなく、再生する際の消費電力に着目した点に新規性がある。すなわち、本願発明は、1画面分または数画面分の情報を再生しているため、情報の再生に際し、一度に多くの消費電力を使用しなくても済むというものである。特に、本願発明は、1画面分または数画面分の情報を再生して、多くの消費電力を連続して使用しないため、例えば、太陽電池のような補助電源を用いても携帯型情報再生装置として十分に実用化できる。なお、大きい容量のファイルを再生する場合と、1画面分または数画面分の情報を再生する場合とでは、消費電力に大きな差異がある。例えば、書籍のように、1ファイルの情報が大きい場合、一度に全部の情報をメモリ手段に格納しようとすると、その際の消費電力が多くなる。携帯型外部記録媒体であるフロッピーディスク等は、モータによって駆動されながら情報がメモリ手段に転送されるが、この時のモータの駆動電流は大きな消費電力となる。そして、上記消費電力に対応できる電源装置を備えた携帯型情報再生装置は大きさが大きく、かつ重量も重くなり、携帯型として不利になる。

また、表示容量は、表示装置の面積以外に、表示装置に表示する文字の大きさ、行間、文字間隔等を表示制御装置によって制御することで変えることができるため、メモリ手段の記録容量とは異なる。

したがって、相違点〈2〉についての審決の判断は誤りである。

(4)  作用効果の判断の誤り(取消事由4)

本願発明における携帯型外部記録媒体から1画面分または数画面分の情報を再生するという技術思想は、第1引用例及び第2引用例に記載ないし示唆するところはなく、審決は、1回の再生に必要な消費電力が少なくて済むという本願発明の作用効果を看過している。

したがって、「本願発明の作用効果も第1引用例及び第2引用例に記載されたものの作用効果から予測しうる範囲内のものと認められる。」とした審決の判断は誤りである。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1ないし3は認める。同4は争う。審決の認定、判断は正当であって、原告主張の誤りはない。

2  反論

(1)  取消事由1について

〈1〉 審決では、本願発明の「メモリ手段」と第1引用例に記載されたものの「文字バッファ及び座標属性バッフア」とが一致しているとしているのではなく、両者を、情報をメモリ手段に記録する機能において対比して、対応するとしているのである。

〈2〉 審決は、本願発明の「情報再生装置」と第1引用例に記載された「ワードプロセッサ」とを、携帯型外部記録媒体に記録された情報を読み出し、読み出された情報をメモリ手段に記録するとともに、表示手段に表示するという機能を達成するための構成について対比し、その結果、両者は対応するとしたものである。

第1引用例に記載された「ワードプロセッサ」は、ファイル装置(例えばフロッピーディスク)に書き込んだ情報を、文字バッファ及び座標属性バッファヘセットし、CRT表示装置へ表示することでき(甲第4号証4頁右下欄11行ないし5頁左上欄8行)、また一度作成した文書に対し編集を加えた場合、その履歴をもファイルし参照できる(同2頁右上欄11行ないし13行)というもので、携帯型外部記録媒体に記録された情報を表示手段に表示することによって、書籍などに関する情報の内容を表示し、加工、編集できるものであるから、情報再生装置の一種であるということができる。

したがって、審決が、本願発明の「メモリ手段」、「情報再生装置」は、それぞれ第1引用例に記載されたものの「文字バッファ及び座標属性バッファ」、「ワードプロセッサ」に対応するとした認定に誤りはなく、一致点の認定にも誤りはない。

(2)  取消事由2について

〈1〉 原告は、甲第9号証に記載されている考案は外部記録媒体の情報を再生するものではない旨主張する。

しかし、甲第9号証には、記憶素子に関して、「記憶素子5はプラグイン方式で表示部1に着脱自在の構造となっている。このように表示装置と記憶素子が別々になっているので、表示部1は一度購入すればよく、記憶素子のみを買いかえるだけで、別の内容の本が読める。」(6頁1行ないし6行)、「プラグインタイプの記憶素子5を表示部1に挿入結合することによって、CPU7にはインタフェイス6を介して記憶素子5が電気的に接続される。記憶素子5は1~2メガビットの記憶容量をもち、マスクROM等で構成されている。文字は、英数字、ひらがなは6ビット程度、漢字は16ビット程度でコード化し、記憶されている。したがってこの例の場合は400字詰原稿用紙にして200~400枚分の文字の記憶が可能となる。」(8頁1行ないし12行)と記載されており、ここにおける記憶素子5は、コンピュータにおける記憶装置を主記憶装置と外部(補助)記憶装置に分けた場合に外部記憶装置に属するものであるから、外部記憶媒体の情報を液晶表示面に表示しているものである。また、その液晶表示面は本願発明と同様に「本の1ページ分程度に相当する内容を、文字や図形で表示することができる液晶表示面と操作部を有し、」(4頁11行ないし13行)というのであるから、本願発明と同様に外部記憶媒体の情報を1画面分再生している。

したがって、原告の上記主張は失当である。

また原告は、甲第10号証に記載されている表示手段は本願発明の目的である携帯型の書籍となるものではない旨主張するが、甲第10号証に記載されたものは、その発明の名称「電子ブック」からも携帯型の書籍といえるもので、甲第10号証が頒布された昭和57年9月当時、情報処理装置の表示装置として液晶表示装置を採用して携帯型とすることが知られていたものである。

〈2〉 上記のとおり、情報処理装置において、CRT表示装置を採用して卓上型とするのに代えて、液晶表示器等平面型の表示手段を採用して携帯型とすることは、例えば甲第9、第10号証にも記載されているように従来周知の技術である。また、第2引用例に記載されたものの液晶表示器が書籍情報を表示することができる程度の大きさであるかどうかは、表示する文字の数ばかりでなく、表示する文字の大きさ、文字間隔、行間隔等によっても異なるから、第2引用例に記載されたものの液晶表示器が書籍情報を表示することは十分可能である。

したがって、非携帯型あるいは卓上型である第1引用例に記載されたものを携帯型にしようとすれば、上記従来周知の技術を適用し、そのCRT表示装置及び手書き入力用タブレットを第2引用例に記載されたような光点位置センサを一体に保持する液晶表示器で置き換える程度のことは、本願の出願当時においても、当業者が容易に発明をすることができたものである。

したがって、相違点〈1〉についての判断に誤りはない。

(3)  取消事由3について

〈1〉 原告は、大きい容量のファイルを再生する場合と、1画面分または数画面分の情報を再生する場合とでは、消費電力に大きな差異があり、例えば、書籍のように、1ファイルの情報が大きい場合、一度に全部の情報をメモリ手段に格納しようとすると、その際の消費電力が大きくなる旨主張する。

しかし、1画面分の情報を再生すればよい場合であるならばともかく、書籍のように多くのページ数からなり、多くの画面を再生するものであれば、本願発明のように携帯型外部記録媒体から1画面分または数画面分の情報を再生し、当該1画面分または数画面分の情報をメモリ手段に記録する情報再生手段を有するものの方がより大きな電源容量を必要とし、携帯型としで不利になるから、原告の上記主張は事実に反するものである。

また原告は、本願発明は1画面分または数画面分の情報を再生して、多くの消費電力を連続して使用しないため、太陽電池のような補助電源を用いても携帯型情報再生装置として十分に実用化できる旨主張するが、本願発明は太陽電池のような補助電源を用いることは必須の構成要件としていないから、上記主張は失当である。

〈2〉 本願発明において携帯型情報再生装置の設計に際し、その仕様として、電源を小容量の電池とすること、視覚情報は1画面分だけを表示手段に表示することが要求されれば、当業者である設計者は、まず最初にその要求された仕様を満たす最低限の機能、すなわち情報再生手段は携帯型外部記録媒体から1画面分だけの情報を再生し、当該1画面分の情報をメモリ手段に記録し、表示手段に表示するように設計することは当然である。

(4)  取消事由4について

ワードプロセッサまたはコンピュータにおいて携帯型外部記録媒体から1画面分または数画面分の情報を再生し、この情報をメモリ手段に記録することは、本願発明の情報再生装置が携帯型であって、メモリの記録容量、表示装置の表示容量が比較的小であることに基づいて当業者が適宜なし得たものであり、また従来から周知技術でもあるから、携帯型外部記録媒体から1画面分または数画面分だけの情報を再生しようとすれば、例えばCD-ROMやフロッピーディスク等の外部記録媒体を駆動するモータは1画面分または数画面分の情報を読出す分だけ駆動すればよいのは当然であって、この場合に作用効果が生じるとすれば、その作用効果は本願発明と同様のものとなるであろうことは当業者であれば十分予測し得ることである。

第4  証拠

本件記録中の書証目録記載のとおりであって、書証の成立はいずれも当事者間に争いがない。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、2(本願発明の要旨)及び3(審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。

そして、第1引用例及び第2引用例に審決摘示の各事項が記載されていること、本願発明と第1引用例記載のものとの相違点が審決認定のとおりであることについても、当事者間に争いがない。

2  取消事由1について

(1)  本願発明の「携帯型外部記録媒体」、「マイクロコンピュータ」が、第1引用例に記載されたものの「ファイル装置」、「処理装置(例えばマイクロコンピュータ)」にそれぞれ対応すること、第1引用例に記載された「スタイラスペンを備えた手書き入力用タブレット」が、本願発明の「局部圧力による外部入力信号を検出する機能を有する」ものであることは、当事者間に争いがない。

(2)〈1〉  本願明細書には、「必要に応じて外部記録情報を一時メモリ(17)に写し、(ストア)し、これより外部入力キー(3)より指示された任意の場所の情報をランダムに表示部(2)、(2′)に表示せしめる。」(甲第8号証6頁11行ないし13行)、「外部記録媒体1(11)のデータファイルよりの記録再生を複数画面分同時に表示部(2)、(2′)に対して行う。そして、一度本体(1)内のメモリ(17)に保管し、」(同号証6頁24行ないし26行)と記載されており、これらの記載によれば、本願発明における「メモリ手段」は、外部記録情報を一時的にストアするものであると認められる。

これに対し、第1引用例(甲第4号証)には、「ファイル参照を指示すると、第7図の処理S6が起動される。この処理S6の詳細は第11図に示されており、・・・ステップS62でこの入力されたファイル名がファイル装置5に登録されているかどうかを前述のテーブルを参照して判定し、・・・もし登録されていれば、ステップS63でそのファイル名に対応する編集前の文章とそこへ加えられた編集用の図形の座標及び属性をファイル処理37を介してよみ出し、それぞれバッファ33、35ヘセットする。」(4頁左下欄19行ないし右下欄15行)と記載されており、この記載によれば、第1引用例に記載の文字バッファ及び座標属性バッファは、文字コードと属性情報がファイル装置5から呼び出されて記憶されるメモリ、すなわち外部記憶装置から呼び出された情報を一時的に記憶するメモリであると認められる。

上記のとおり、本願発明の「メモリ手段」及び第1引用例の「文字バッファ及び座標属性バッファ」は、いずれも外部記憶装置から呼び出された情報を一時的に記憶するメモリとして共通しているということができるから、審決が、両者は対応しているとした認定に誤りはない。

〈2〉  原告は、本願発明の「メモリ手段」は1画面分または数画面分の情報を記録するものであるのに対し、第1引用例記載の「文字バッファ及び座標属性バッフア」はファイル毎に記録されていて、1画面分または数画面分の情報が記録されていないことを理由として、両者につき対応しているとした審決の認定の誤りを主張するが、審決は、上記の点について、「本願発明は、情報再生手段が携帯型外部記録媒体から1画面分または数画面分の情報をメモリ手段に記録するのに対し、第1引用例に記載されたものは、この点が明らかでない」と、相違点〈2〉として抽出しているから、上記主張は失当である。

(3)〈1〉  本願発明は「情報再生装置」であるが、本願の特許請求の範囲第1項に「局部圧力、局部光等の外部入力信号を検出する機能を有すると共に、前記外部入力信号を前記マイクロ・コンピュータをへて・・・保存せしめ」と記載されていることからしても、情報を入力する手段を有する情報再生装置であることは明らかであるから、審決が、入力手段を有し情報を再生する機能を有する情報処理装置である第1引用例の「ワードプロセッサ」と対応すると認定した点に誤りはない。

〈2〉  原告は、本願発明の「情報再生装置」が第1引用例の「ワードプロセッサ」に対応するとした審決の認定の誤りを指摘する理由の1つとして、本願発明の「情報再生装置」は、1画面分または数画面分の情報を再生する情報再生手段から構成されているのに対して、第1引用例の「ワードプロセッサ」は1画面分または数画面分ずつの情報を再生していない点を挙げるが、この点は、審決が認定した相違点〈2〉に含まれているものと認められる。

また原告は、本願発明は携帯型外部記録媒体からの情報を1画面分または数画面分ずつ再生するものであって、一度に多くの駆動電流を消費しないもので、例えば補助電源に太陽電池を使用した場合、1画面分または数画面分の情報を再生し、この部分を読んでいる間に、太陽電池から充電装置に新たな電力が供給され、次の画面を再生するするための電力となるものである旨主張するが、本願発明において、充電可能な「補助電源」や「太陽電池」が必須の構成として規定されているわけではなく、また、携帯型情報再生装置において、充電可能な「補助電源」や「太陽電池」は当然に備えるべきものとも認められないから、上記主張は当を得ないものというべきである。

更に原告は、本願発明の携帯型情報再生装置は、ワードプロセッサの機能、すなわち、文書の作成及び編集機能を有するものではない旨主張するが、本願発明の特許請求の範囲第1項には、「局部圧力、局部光等の外部入力信号を検出する機能を有すると共に、前記外部入力信号をマイクロ・コンピュータをへて前記携帯型外部記録媒体に保存せしめ、前記携帯型外部記録媒体の情報を加工、編集する平面型表示手段」と記載されているから、文書の編集機能を有することは明らかであり、上記主張は採用できない。

(4)  以上のとおりであって、審決の一致点の認定に誤りはなく、取消事由1は理由がない。

3  取消事由2について

(1)  第2引用例には、液晶表示器、即ち平面型表示装置を備えた携帯型の情報入出力装置、及びこの液晶表示器はライトペンによる外部入力信号を検出する機能を有するものであることが記載されていること、この液晶表示器が本願発明における局部光の外部入力信号を検出する機能を有する平面型表示手段に対応するものであることは、当事者間に争いがない。

(2)  甲第9号証(実願昭59-199358号(実開昭61-115251号)のマイクロフィルム)には、「記憶素子5はプラグイン方式で表示部1に着脱自在の構造となっている。このように表示装置と記憶素子が別々になっているので、表示部1は一度購入すればよく、記憶素子のみを買いかえるだけで、別の内容の本が読める。」(6頁1行ないし6行)、「プラグインタイプの記憶素子5を表示部1に挿入結合することによって、CPU7にはインタフェイス6を介して記憶素子5が電気的に接続される。記憶素子5は1~2メガビットの記憶容量をもち、マスクROM等で構成されている。」(8頁1行ないし6行)、「このようにして記憶素子5に記憶されている情報(本の内容)が液晶表示面2に表示される。」(9頁2行、3行)と記載されており、これらの記載によれば、甲第9号証記載のものは、液晶表示器で「本」という携帯型のものであり、記憶素子(外部記録媒体に相当する)からの情報を表示手段に再生するものであると認められる。

また、甲第10号証(特開昭57-147767号公報)記載の発明の名称は「電子ブック」であり、同号証には、「この発明は、所望の情報(略)を検索、表示することを目的とした電子ブックに関するものである。」(1頁右下欄5行ないし7行)と記載されていることが認められ、同号証記載のものが、平面型の表示手段を有する携帯型の書籍といえるものであることは明らかである。

したがって、情報処理装置において、液晶表示器等平面型の表示手段を採用して携帯型とすることは、本願出願当時において周知であったものと認められる。

しかして、第1引用例に記載された非携帯型の情報再生装置に上記従来周知の技術を適用し、その表示手段として第2引用例に記載された平面型表示手段を採用して、本願発明のような携帯型情報再生装置とすることは、当業者において容易になし得たものと認めるのが相当である。

(3)  原告は、甲第9号証に記載されている考案は携帯型書籍用の表示手段を有しているが、外部記録媒体の情報を再生するものではないこと、甲第10号証に記載されている表示手段は携帯型の書籍となるものではないことを理由として、本願発明のような携帯型の書籍になる液晶表示装置は周知技術ではなかった旨主張するが、上記(2)に認定、説示したところに照らして採用できない。

また原告は、第1引用例に記載された非携帯型の情報再生装置に、甲第9、第10号証に記載された表示手段を採用しても、本願発明のような書籍情報を読むことができる携帯型情報再生装置にはならない旨主張する。

しかし、上記(2)に認定のとおり、甲第9、第10号証には、書籍情報を表示できる携帯型のものが記載されており、情報再生装置として共通している第1引用例記載の発明に上記技術を応用することに何らの困難性はなく、上記主張は採用できない。

(4)  以上のとおりであって、審決の相違点〈1〉についての判断に誤りはなく、取消事由2は理由がない。

4  取消事由3について

(1)  半導体メモリを用いたワードプロセッサのような情報処理装置において、外部記録媒体に記録された情報を表示装置に表示し、またその情報を加工、編集するためにメモリに記録する際、どれほどの量の情報をメモリに記録するかは、その情報処理装置が備えるメモリの記録容量、表示装置の表示容量、情報処理装置の使い勝手等を勘案して当業者が適宜決定する設計的事項であることは、当事者間に争いがない。

(2)  ところで、本願発明の情報処理装置が携帯型であることから、メモリの記録容量、表示装置の表示容量等が比較的小さいことのほか、用いられる電源の容量との関係で電力の消費量が制約されるような場合に、それに見合うような設計が行われるべきであることは当然のことであり、情報再生手段が携帯型外部記録媒体に記録された情報を再生し、メモリ手段に記録する際、その情報の量を1画面分または数画面分とすることも、当業者において適宜設計し得る程度のことと認めるのが相当である。

(3)  原告は、本願発明は再生する際の消費電力に着目した点に新規性があり、1画面分または数画面分の情報を再生しているため、情報の再生に際し、一度に多くの消費電力を使用しなくても済むものであり、特に、本願発明は、1画面分または数画面分の情報を再生して、多くの消費電力を連続して使用しないため、例えば、太陽電池のような補助電源を用いても携帯型情報再生装置として十分に実用化できるのであって、審決のいうようなメモリの記録容量、表示装置の表示容量等から採択されたものではないという趣旨の主張をしている。

しかし、上記説示のとおり、消費電力の点を考慮して1画面分または数画面分の情報を再生するように設計すること自体は適宜なし得る程度のことである。そして、本願発明は、太陽電池のような補助電源を用いることを必須の構成としているわけではないから、このような構成が設けられていることを前提とする原告の上記主張は当を得ないものである。

(4)  以上のとおりであって、審決の相違点〈2〉についての判断に誤りはなく、取消事由3は理由がない。

5  取消事由4について

原告は、審決は1回の再生に必要な消費電力が少なくて済むという本願発明の作用効果を看過しているとして、本願発明の作用効果についての審決の判断の誤りを主張する。

しかし、上記4で説示したとおり、消費電力の点を考慮して1画面分または数画面分の情報を再生するように設計すること自体は適宜なし得る程度のことであり、そのように設計した場合に、1回の再生に必要な消費電力が少なくて済むということは当然予測されることであって、格別のものではない

したがって、本願発明の作用効果についての審決の判断に誤りはなく、取消事由4は理由がない。

6  以上のとおり、原告主張の取消事由はいずれも理由がない。

よって、原告の本訴請求は失当であるから棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

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