大判例

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東京高等裁判所 昭和24年(新を)3283号 判決

被告人

金子精三

主文

本件控訴はこれを棄却する。

理由

前略。

論旨二点について。

記録によれば、原判決の判示第一の(二)(三)の各事実につき、検察官の起訴状には、公訴事実として、いずれも、統制額を超過する価格を以て、本件分密白糖を販売した旨が記載されており、その後、検察官より、この点につき、訴因変更の申立がないのに、原判決においては、該事実を、いずれも、代物弁済として有罪の認定をした上、これを併合罪の一部に加えて処断したことは、所謂指摘のとおりであつて、所論は、この点を捉えて、原判決には、訴因に関する法理の適用を誤まつた違法があり、判決に影響を及ぼす旨主張するにより、この点について審究するに、先ず刑事訴訟法第二百五十六条第三項には、起訴状の記載要件中公訴事実につき、「公訴事実は訴因を明示してこれを記載しなければならない。訴因を明示するにはできる限り日時場所、及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない。」と規定しているので本件物価統制令第三条第一項違反の公訴事実における訴因としては、如何なる事項を如何なる程度に明示すべきかを考えてみるに、物価統制令にはその第一条に「本令ハ終戦後ノ事態ニ対処シ物価ノ安定ヲ確保シ以テ社会経済秩序ヲ維持シ国民生活ノ安定ヲ図ルヲ目的トス」第二条に「本令ニ於テ価格等トハ価格、運送賃、保管料、保険料、賃貸料、加工賃、修繕料其ノ他給付ノ対価タル財産的給付ヲ謂フ」第三条第一項本文に「価格等ニツキ第四条及第七条ニ規定スル統制額アルトキハ価格等ハ其ノ統制額ヲ超エテ之ヲ契約シ、支払ヒ又ハ受領スルコトヲ得ズ」と各規定して居るが或る給付の対価として財産的給付を受ける契約は、民法上のいわゆる有償契約にあたるから、右物価統制令第三条第一項の規定は、前示同令第一条所定の目的を達するために、同令第四条及び第七条所定の統制額を超える有償契約の締結、又は、その履行行為を禁止する趣旨の規定と解すべく、従つてこの立法趣旨と、前掲刑事訴訟法第二百五十六条第三項の規定とを対照して考察するときは、本件被告人金子に対する物価統制令第三条違反の公訴事実として、起訴状に明示すべき訴因とは、同被告人が本件分蜜白糖を、いつ、どこで、誰に対し、どれだけの分量を、統制額をいくらだけ超えた反対給付を受けて、引き渡すことを契約し、又は、その反対給付を受領したかを示すことを要すると同時に、ただ、それだけを示せば足るものであつて所論のように、その有償契約の内容が、売買であるか、代物弁済であるかは、必ずしも、これを問わないものと解されるのである。何となれば、所論の契約を、売買と見るも、代物弁済と見るも、等しく民法上のいわゆる有償契約であつて、前示物価統制令第三条の適用を受くべきものであり、結局、同一罰条を以て処断すべきものであるから、右のように解したからとて、訴因制度の目的たる被告人の防禦権の行使等に、所論のような支障があるとは考えられないからである。そこで、記録を調査するに、原判決挙示の証拠によれば、被告人金子が、安田清吉及び、上平幸次郎両名に対し、判示分蜜白糖を給付する契約をしたことが、いずれも、民法上のいわゆる代物弁済契約と認められることは、原判決の認定したとおりであつて、起訴状記載のように、これを売買と認めることは妥当でないから、起訴状にこれを販売と記載したことは誤りであるが、しかし、両被告人の右契約がいずれも、民法上の有償契約であつて、統制額を超える反対給付を受けて、本件分蜜白糖を相手方に給付することには変りはなく、従つて、前示物価統制令第三条第一項の適用を受くべき契約に該当することも亦疑ないものと言わなければならない。なお、その上、原審第三回公判調査の記載に徴するときは、被告人金子は、原審公判廷において、同被告人の右公訴事実について、自ら代物弁済なることを主張していた事実が認められるから、原審が、同被告人の主張どおり、これを代物弁済と認定したことによつて、事実上においても、亦、同被告人の防禦権の行使に支障を与えなかつたことが明かであるから、前述のように、起訴状には、販売した旨が記載してありその後、検察官より、特に、訴因変更の申立がなかつたからと言つて原審が、これを代物弁済と認めることができないものとは言い得ない訳である。してみれば、原判決には、所論のような訴因に関する訴訟手続の法令違反があつたものとは認められない。

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