大判例

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東京高等裁判所 昭和24年(新を)3742号 判決

控訴人 被告人 太洋水産株式会社

弁護人 塚本重頼

検察官 渡辺要関与

主文

本件控訴はこれを棄却する。

理由

本件控訴趣意は末尾添附の書面記載の通りでこれに対する当裁判所の判断は次のようである。

論旨第一点について

裁判所法第二十四条第一号第三十三条第一項第二号の規定によると罰金以下の刑にあたる罪に係る訴訟は簡易裁判所の専属管轄に属することが窺われるのであるが、いわゆる罰金以下の刑にあたる訴訟事件とは訴訟の客体たる犯罪が罰金以下の刑にあたる訴訟事件をいうので罰金の外懲役にもあたる罪の訴訟事件はその被告人に対しては単に罰金刑に処すべき場合でも簡易裁判所の専属管轄に属しないで地方裁判所にも管轄権があると解するのが相当である。蓋し罰金以下の刑にあたる罪に係る訴訟事件は一般に軽微な事件でその審判も比較的簡単にできるからこれを簡易裁判所の専属管轄としたのである。これに反し罰金若しくは懲役にあたる罪の事件は複雑難渋なものもあるから法律は斯様な事件は地方裁判所の管轄にも属せしめたのであると解すべきである。今本件についてみると判示精米を不法輸送した罪につき被告会社は食糧管理法第三十七条により単に罰金に処せられるに止まるがその行為者は罰金刑の外懲役刑にも処せられ得るのであるから本件は東京地方裁判所の管轄にも属するのである。従つて原判決が本件につき管轄違の言渡をしないで本案の裁判をしたのは正当であつて所論のような違法はない。論旨は理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 吉田常次郎 判事 保持道信 判事 鈴木勇)

控訴趣意書

第一点原審判決は管轄権を有しない事件に対し不法に管轄を認めて審判を為した違法がある。即ち地方裁判所は裁判所法第二十四条第一号に依り「罰金以下の刑にあたる罪に係る訴訟以外の訴訟の第一審」管轄権を有するのであり「罰金以下の刑にあたる罪に係る訴訟」の第一審管轄権は同法第三十三条第二号に依つて簡易裁判所の管轄に属するものである。そして茲に「罰金以下の刑にあたる罪に係る訴訟」とは言渡刑処断刑ではなく法定刑を標準とすべきことも勿論である。そこで本件は記録編綴の起訴状に依り明かな通り法人たる大洋水産株式会社のみを被告人として起訴せられたものでその公訴事実に対する罰条は食糧管理法第三十七条であつて法定刑としては「罰金」以下の刑は規定されていないのである(而して右法条は所謂代替責任に関する規定であつて法人たるが故にその性質上「自由刑」を科し得ないと云うのではなく法人以外の「人」に付ても同様「罰金刑」を科するに止めて居ることは謂う迄もない所である)。従つて本件は本来簡易裁判所の管轄に属すべきものであつて原審たる地方裁判所の管轄に属するものではない。然るに原審判決は「罰金以下の刑にあたる罪にかかる訴訟」とは訴訟の客体たる犯罪が罰金以下の刑に該当するものであることを要する趣旨と解すべきである。本件についてこれを見れば訴訟の客体たる犯罪は行為者たる酒井森三郎、湯原功の行つた犯罪であり右犯罪については「本条」たる食糧管理法第三一条は罰金刑の外懲役刑を科し得る旨を規定しているから本件は畢竟「罰金以下の刑にあたる罪に係る訴訟」以外の訴訟であり管轄権は地方裁判所にも存するといわねばならないと判示して居るのであるが訴訟の客体たる犯罪が罰金以下の刑に該当することを要する趣旨であることは原判示の如くとするも抑々本件における訴訟の客体たる犯罪は前述の如く法人たる被告人会社の起訴状記載の如き犯罪であつて右酒井、湯原の行為が起訴されているのではないから仮に右酒井、湯原が起訴されたならば罰金刑に止らず懲役刑をも科し得るものとしても本件は此の自然人の行為は審判の対象従つて訴訟の客体となつて居るものではない。本件訴訟の客体は法人たる被告人会社の行為に尽きるのである。更に原判決は「罰金以下の刑にあたる事件」と「罰金以下の刑にあたる罪に係る訴訟」とは意義を異にすると前提し食糧管理法第三十七条は「法人又は人」が犯罪を行つたものではないと前提し判断を進めて行為者たる酒井等の違反行為を「罰金以下の刑にあたる罪」たらしめるものではないと判示しているが本弁護人は右自然人の行為が「罰金以下の刑にあたる罪」であるとは毛頭主張するものではなく又右の前提から判示の如き結論が引出されることも輙く了解し得ない所である。

従つて旧刑事訴訟法第三五六条本文の如き「地方裁判所はその管内にある簡易裁判所の管轄に属する事件につき管轄違の言渡を為すことを得ず」との規定を置かない新刑事訴訟法の下に於ては当然管轄違の判決をなすべきであつたに拘らず原審裁判所が管轄違の判決をしないで有罪の判決をしたのは不法に管轄を認めた違法があると云わねばならない。従つて原審判決はこの点に違法があると云わねばならない。従つて原審判決はこの点に於て破棄を免れず本件は管轄東京簡易裁判所に移送せらるべきものである。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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