大判例

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東京高等裁判所 昭和25年(う)1081号 判決

被告人

池本茂雄

外一名

主文

本件控訴は孰れも之を棄却する。

理由

弁護人大野泰重の控訴趣意第一点に付いて。

記録を閲するに原審第一回公判において原審は検察官の申請を許可し被告人両名に対するMPISジエームス・エス・クリアリー作成J・Hカウンシル承認の憲兵捜査報告書竝に被告人の検察事務官鹿田仁に対する供述調書(被告人池本茂雄第一回及び被告人迫田澄江第一、二回)に付き夫々証拠調を為し、其の後同公判期日に弁護人大野泰重の申請により被告人迫田のために証人藤井雅博を取調べることに決定し第二回公判期日において同証人を尋問した後同弁護人の申請により同被告人の為に在廷証人として佐藤裕司の尋問を為したこと竝に前記各書類には被告人等の自白の供述が記載されてあることは孰れも所論のとおりである。

然し刑事訴訟法第三百一条において証拠とすることができる被告人の供述が自白である場合には犯罪事実に関する他の証拠が取調べられた後でなければ其の取調を請求することができない旨規定している所以のものは、右請求の時期如何に拘らず当該犯罪事実に関する他の証拠を取調べる前に被告人の自白を内容とする供述調書等を取調べることによつて裁判官に真実に即せざる予断を抱かしめ以て被告人に不利益を被むらしめるが如き不当の結果に陥ることを防止せんとするに外ならない。然るに本件においては記録によれば原審第一回公判においては所論各書類の前に既に被告人池本に付き

(一)  MPISジエームス・エス・クリアリー作成の昭和二十二年十一月七日附池本茂雄の逮捕報告書、(二)同人作成の同日附差押調書、(三)丸の内警察署長関根勝作成の事件報告書の証拠調を為し又被告人迫田に付き

(一)  MPISジエームス・エス・クリアリー作成の同年十一月八日附迫田澄江逮捕報告書、(二)同人作成の同日附差押調書、(三)同人作成の同月三十日附被疑者藤井雅博の逮捕報告書の各証拠調を了し、然る後検察官から所論各書類の取調申請があつたのに対しては原審弁護人から右書類を証拠に供することに同意し其の取調に異議ない旨申立て、次に裁判官は弁護人に証拠申請の有無をたゞし之に対して弁護人大野泰重から本件証人藤井雅博の尋問を申請し、更に第二回公判の際佐藤裕司を証人として尋問申請に及びこれにより同証人等の尋問に至つたこと、尚また被告人は第一回公判において審理の初め証拠調に入るに先ち被告人等に対し本件に付き陳述することありや否やを尋ねられたに対し、事実は其のとおりに相違なく別段申述べることはない旨原裁判所に答へたことは右各公判調書によつて明らかであり、従つて原裁判所としては本件証拠調に入る前既に被告人等の自白を直接聴き知つているのであるから右証人両名の尋問前に所論の自白書類の証拠調を為すことにより被告人等に対して特に不利益を及ぼす虞あるものではない。然らば所論の如く自白書類の取調が証拠の最終順とならざる結果に帰着したとしても之により毫も刑事訴訟法第三百一条の前記法意に背反するものではなく結局其の訴訟手続に違法の点ありと為す所論は失当である。論旨は理由がない。

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