大判例

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東京高等裁判所 昭和25年(う)1338号 判決

被告人

広瀬武雄

外一名

主文

原判決中被告人両名に関する部分を破棄する。

被告人広瀬武雄を懲役三月に処する。

但し、本裁判確定の日から一年間右刑の執行を猶予する。

被告人静岡水産荷受有限会社を罰金三十万円に処する。

被告人広瀬武雄が日本冷蔵株式会社焼津工場の工場長として同会社の業務に関し、法定の除外事由なくして昭和二十三年一月二十七日頃から同年二月三日頃迄の間に亘り、静岡縣志太郡焼津町城之腰七十二番地の一焼津漁業会の事務所において同漁業会及び東盆津村漁業会から鮮魚めかじき計千五百五十四貫五百匁(原判決別表一記載)を統制額より金十六万千六百六十八円を超過する合計金三十四万千九百九十円で買受けたという公訴事実について同被告人は無罪。

被告人広瀬武雄が被告人静岡水産荷受有限会社設立準備中設立委員として将来の右会社のため法定の除外事由がないのに昭和二十三年十月九日から同月二十五日迄の間五回に亘り、名古屋市熱田区西町所在愛水荷受株式会社及び同所在中京冷蔵株式会社事務所において右両会社から他の市町村において生産された冷凍いわし合計一万四千八十四貫(原判決別表四記載)を統制額を合計四十八万四千五百四十円超過する合計金百八十二万二千五百廿円で買受けたとの公訴事実につき被告人静岡水産荷受有限会社は無罪。

理由

弁護人遊田多聞の控訴趣意第二点について。

(イ)  所論に鑑み記録によつて被告人広瀬武雄が、原判示第一の(一)記載の如く日本冷蔵株式会社の業務に関し鮮魚めかじき千五百五十四貫五百匁を公定価格を超過して買入れた当時の事情を検討すると、当時政府は敗戦日本国の復興のため民間輸出貿易の再開振興を国策の第一義として、殊に主要食糧輸入のためには、之の見返として焦眉の急を要する問題であつた。時あたかも米国から日本政府に対し、冷凍めかじきの註文があり、政府は日本冷蔵株式会社を含む十四の業者を集め、これに第一次の約三百瓩の責任数量を割当指定し、且つ第一回の輸出であるため、製品の優良なること期限を厳守すべきことを指示した。しかしながら当時めかじきの市場相場は、公定価格の倍以上で貫当り二百円乃至二百二、三十円しており、強制供出制度のない以上右の如き需用急増見越の際では、公定価格でこれを買入れるということは、何人にも期待することができない状態であつたが、さればというて買入中止即ち輸出断念ということも右国策上到底許されない状態であつたから、業者は市場相場でこれを入手するの外なき立場であつたと認めざるを得ない。されば業者もつとにこのことに想到し物価庁では公に買入価格を改定することは他に影響することを慮り(売主を均霑することになるが、売る方には差当り緊急な事情は認められない)これを避けたが輸出価格承認の基礎である原価計算の部において歩留り、操作によつて暗黙に市場価格で買入れるの止むなきことを承認している。このことは業者に公定価格を遵守することを期待することのできない一証左であると共に猶更業者にこれを期待することのできない重要なる事情と認むべきものである。故に売人はともかく買人である被告人広瀬武雄については、期待可能性なしとしてこの点については無罪を言渡すべきものである。論旨は理由があり原判決は破棄を免れない(中略)

同第三点の(2)について。

(ロ)  刑事責任は犯罪行為と同時に定まり、その後の事情によつて移動すべきものでない。会社設立準備中に発起人が将来の会社のためになした違反行為についての刑事責任は、その行為者及び他の発起人等が負担することがあつても当時成立していなかつた、いわば法人の卵がその後登記によつて設立し、法人格を取得した故を以てこれを負担するようになることはない。この点民事責任とは大いに異なる。若し後に会社が設立せられた故を以て刑事責任を帰せしめるとすれば、右刑事責任の理論に反し、又物価統制令第四〇條両罰規定中の法人とあるのを拡張解釈をして法人の胎児ともいうべきものを含ませねばならないこととなり、文理上も無理である。論旨は理由があり原判決中、被告人広瀬武雄が会社設立準備中になした行為について会社にも責任ありとした部分は破棄すべきものである。

同第三点の(3)について。

(ハ)  物価庁告示第六四七号(註 昭和二十三年八月十一日)の指定価格は各業者に附帯した価格であつて、取引の客観的性格(卸売か小売かというような)に附随したものではない。即ち生産者はそれが集荷機関に売る場合も消費者に小売する場合も同じ価格で統制せられ、集荷機関も亦同様に生産者価格に一定の利益を加えた価格によつて一率に統制せられているのであり、荷受機関も同様である。若し取引の客観的性格によつて価格を定めるとすると生産者集荷機関又は荷受機関が消費者に小売する場合に不当な利益を得させることになり、又自然の勢として物が中間の機関を飛越えて手近な消費者に行く傾向を助長する反面生産者から入手するのに不便な消費者は品が買えないということになり、集荷機関、荷受機関等を設置して出荷を円満にしようという趣旨が没却せられる。原審が認定したところは荷受機関である被告会社が直接消費者に小売したというのであるが、右の理由によつてその統制価格は小売業者の販売価格によるべきものではない。論旨は理由がない。

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