大判例

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東京高等裁判所 昭和25年(う)2543号 判決

被告人

高松忠次

主文

本件控訴を棄却する。

当審に於ける未決勾留日数中六〇日を右本刑に算入する。

当審の訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

弁護人松島政義の控訴趣意第一点について。

よつて先づ本件起訴状の犯罪日時をみると、「第一、昭和二十五年二月二十八日川崎市鹿島田川鉄寮第一三号室に於ける豊岡正邦所有の現金と衣類四点窃取の事実」「第二、同年同月十九日同市塚越の松原綠山方に於ける現金腕時計衣類等強取の事実」「第三、同年同月三十日前記川鉄寮第二三号室に於ける桐生清所有の背広外一点窃取の事実」「第四、同年同月三十一日右同所に於ける小野寺福蔵所有の現金一、三〇〇円窃取の事実」を記載してあつて、第三、第四事実は二月三十 三十一日という暦に存しない日時となつていることは、所論の通りである。しかし刑事訴訟法第二五六条第三項には起訴状に記載すべき公訴事実は「訴因を明示して記載しなければならない。訴因を明示するにはできる限り日附、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない」と規定されており、犯罪の日時や場所は罪となるべき事実を特定するために記載せられるものであるからその他の記載によつて罪となるべき事実を特定し、訴因を明示していると認められるなら、たとえ日時の点に於て錯誤があり、たまたま二月三十日、三十一日というような暦にあり得ない日時を記載してあつても、公訴事実を記載しなかつたものとはならないから、起訴状の記載要件を一応具備したものと認むべきであつて、日時の点の不備のみから、右公訴提起の手続がその規定に違反し、無効となるものと解すべきではない。本件の起訴状の公訴事実は前記のように日時の点を除けば犯罪の場所、被害者の氏名、被害物件の金額、数量を明記してあつて、これによつて十分罪となるべき事実を特定し得るのであり、且つ二月三十日、同月三十一日というのは錯誤に基いた記載であることは何人にも明白であるから、右公訴事実の記載は適法である。従つてこれを無効と解し、刑事訴訟法第三三八条第四号を適用し、公訴棄却の判決を為すべきであるとする論旨は理由がないし、この誤記を釋明訂正させることは望ましいにしても、これを看過したとの一事を捉えて、審理不尽とはいえない。

次に原判決中にも「第一、昭和二十五年二月二十八日……」「第二、同年同月十九日……」「第三、同年同月三十一日……」と記載されていて、この点前記起訴状中の記載と同一の誤を冒していることは所論の通りである。而して所論は右第三の同月三十一日が暦法則に反する認定であることを理由として、原判決を攻撃するが、原判決認定の右事実とその引用の証拠と対照すると、原判決の第二、第三の事実はいづれも昭和二十五年三月中の事実であることがわかるから、第二の事実の判示中同年同月十九日とある部分を同年三月十九日と訂正すれば、第三の同月三十一日は三月三十一日となつて暦法則に反することのない正当な判示となり得るのである。

してみれば所論は結局原判決が昭和二十五年三月と記載すべきところを同年同月とした関係上、二月に判読せられるに至つた誤記を論程するに帰着するのであり、しかも原判決は右日時の点を除いて犯罪の場所、被害者の氏名、被害金品の数額を判示しているので罪となるべき事実を特定するに十分であると認められるから、原判示の理由不備を主張する論旨も結局当らないといわねばならない。

同第二点について。

原判決は判示第三事実の証拠として所論の「被告人の当公廷に於ける判示同趣旨の供述」を引用しているからその供述を原審公判調書について調べてみると、検察官の起訴状朗読の後被告人は、刑訴第二九一条、同規則第一九七条の事項を告げられ、被告事件につき、「第三の事実は昭和二十五年二月三十日午後八時三十分頃というのは同年二月三十日午前八時三十分頃で現金七、四〇〇円の点は自分が取つたことはない。その他の事実はその通り相違ない」旨述べているのである。この供述が日時の点に於て不合理なものであることはこゝにくり返すまでもない。しかしこの不合理な供述は検察官の朗読した起訴状中に既に前記第一点について説明したように、日時の点が誤記されていたため、誘発されたものと認められないでもないが、今暫くこの点を論外に置いて考察しても日時の点に不合理な部分を含む前記のような供述と雖も所論のようにその供述の全部に亙つて証明力を喪失するとはいえないのであるから、これを証拠として引用することは一向差支がない。たゞ原判決の第二、第三の事実はいづれも昭和二十五年三月中の事件であつて、これを同年同月(昭和二十五年二月)と判示した誤記があり被告人のこの点の供述が昭和二十五年二月であるとしているのを原審が何等釋明もせず、判示同趣旨の供述として証拠に採用していることは些か正鵠を失するとはいえ、元来犯罪日時の如きは罪となるべき事実に包含されない事項であるから、この点に関する原審判決の右のような瑕疵を理由不備乃至理由のくいちがいと呼ぶに値しないところである。(後略)

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