大判例

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東京高等裁判所 昭和25年(く)41号 判決

被告人

生井宇吉

主文

本件抗告はこれを棄却する。

理由

前略。抗告は裁判所の管轄又は、訴訟手続につき判決前にした決定に対しては、即時抗告の出来る場合を除いては抗告は出来ない(刑訴四二〇ノ一)と解されている、この規定は旧刑訴法にもあつた規定である。(旧刑訴四五七)そこで、二の規定のこれまでの立法解釈によれば、斯様な決定は、もと判決を目標とする手続の一部を為すものであるから、判決に対して上訴を許すことによつて、十分であるからであると云うのである。しかし、この解釈は、旧刑訴の如く控訴が覆審制ならば、斯る解釈は妥当であるが、新刑訴の如く、控訴審は事後審理制であるから、すなはち、第一審判決に対する正否の批判審級であるから、第一審でかかる、申立(精神鑑定)をする以外には出来ないのである。すなはち、精神の鑑定は、裁判の有効無効及び、刑事責任の軽減免責に関する実体法上の要件であるから、単なる刑事手続に関するものではない、従つて新刑訴四二〇条の訴訟手続の語の中に包含さるべきものではない。これ旧刑訴と新刑訴との上訴制度の根本的相違から必然的に制約限定を受け、かく解釈すべきは理の当然である。(論理解釈)旧刑訴時代と同じ解釈を墨守するのは、文言にとらはれた不当なる解釈である。法の解釈は目的論的でなければならない、夫れ刑事訴訟は、同法第一条に規定する如く、「この法律は、刑事事件につき、公共の福祉の維持と個人の基本的人権の保障を全うしつゝ事案の真相を明らかにし、刑罰法令を適正且つ迅速に適用実現することを目的とする」この目的論的使命を果さなければならない、狂人を常人として取扱う裁判には承服できない、原審の決定は、明かに法の解釈を誤つた不当なる決定である。因つて、本抗告において、昭和二十五年六月二十三日原裁判所が為したる被告人に対する精神鑑定の申立却下の決定はこれを取消す。そして右精神鑑定を為すべしとの御決定を求めるというのであるが。

本件抗告は、原裁判所の被告人生井宇吉に対する殺人未遂事件について、その判決前に為された弁護人の被告人に対する精神鑑定申請却下の決定に対する抗告であることは、その主張自体に徴し明白であるから、明らかに、刑事訴訟法第四百十九条第四百二十条の規定に違反する不適法のものといわざるを得ない。而して、この点に関する所論は、全く独自の見解であつて、到底採用することはできないから、論旨は結局理由がない。

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