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東京高等裁判所 昭和26年(行ナ)10号 判決

原告 株式会社朝日新聞社 外四名

代理人 長野潔

大田常雄

横田薫人 外二一名

代理人 菅野勘助

被告 公正取引委員会

訴訟代理人 入江一郎 外二名

主文

被告が原告らに対する昭和二十四年(判)第二〇号事件について、昭和二十六年四月七日にした審決のうち、原告株式会社朝日新聞社、同株式会社毎日新聞社、同株式会社読売新聞社、同株式会社日本経済新聞社、同社団法人東京新聞社の五名に対する部分を取り消す。

前項の原告ら五名を除くその余の原告らの請求を棄却する。

訴訟費用はこれを二分し、その一を第一項の原告ら五名を除くその余の原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

事実

第一、原告ら新聞発行本社の請求の趣旨及び請求の原因並びに被告の答弁に対する反論。

原告株式会社朝日新聞社、同株式会社毎日新聞社、同株式会社読売新聞社、同株式会社日本経済新聞社、同社団法人東京新聞社(これらの五名をこの判決において原告ら新聞発行本社という)代理人は、原告らに対する昭和二十四年(判)第二〇号事件につき被告が昭和二十六年四月七日にした審決を取り消す、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、請求の原因及び被告の答弁に対する反論として次のように陳述した。

一、原告ら新聞発行本社はいずれも日刊新聞を発行することを目的とする株式会社又は社団法人であり、その余の原告ら(これをこの判決において原告ら新聞販売店という)はいずれも新聞販売を営業とし、原告ら新聞発行本社を含む多数新聞社発行の新聞その他の刊行物の販売をしているものである。

二、被告は昭和二十四年十二月十八日原告らを被告人とし、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下独占禁止法という)違反の疑いがあるとの理由で審判開始決定をし、公正取引委員会昭和二十四年(判)第二〇号事件として審判手続をし、昭和二十六年四月七日別紙審決書写のとおり審決をした。

三、原告ら新聞発行本社はこの審決に不服であつて、それぞれ次の諸点について順次争うものである。

(一)被告のした本件審判手続は違法である。

本件の審判手続においては、公正取引委員会審判規則によりその職員である審査部長入江一郎が審判官として手続を進行させたものであるところ、同人は昭和二十五年三月一日審査部長心得となり、同年四月二十五日審査部長に任命されたものであるから、同人は同年三月一日以降審査部長の事務を取扱つていたものである。

公正取引委員会事務局審査部は審判第一、第二課、審査第一ないし第三課からなり、審査部長はこれを統括し所属の職員を指揮監督する職務権限を有する。従つて審査部長は審査課長その他の審査課員を指揮するのであつて、本件の調査に関与した職員すなわち審査官も審査部長の指揮監督を受けて本件審判開始決定後の事件の維持にあたつてきたものというべく、この範囲においては審査部長は審査官と同一の立場にあるものであることは疑いない。

公正取引委員会審判規則第二条第二項は「委員会は事件の調査に関与した職員(以下「審査官」という。)をその事件の審判官に指定してはならない。」と規定しているから、入江審査部長を審判官に指定することは明らかにこれに違反する。少くともこの規定の趣旨を没却することになる。けだし「審判官はその職務を公正迅速に且つ独立して行わなければならない(同規則第四条)」のであるから、審査部長が審判官になることは審判官の独立性を害することはもちろん、その職務の公正の担保を欠くにいたるからである。

原告らは審判手続において入江審査部長が審判官に指定されたことにつき特に異議は述べていないが、職務から除斥される原因がある場合には当事者の責問の有無に拘らず、その職務行為は違法である。けだし職務の公正及び独立の担保は当事者の処分権の範囲に属しないからである。

原告らは審決認定の基礎となつた事実については、後記のとおり重要な点においてこれを争うものであるところ、この点につき審決の採用する証拠はいずれも右に主張したような違法な手続にもとずき尋問し、又は審判廷に提出されたものであつて、それ自体形式的な証拠力を欠くのであるから、かかる証拠能力のない証拠は実質的証拠となることがない。この点において右審判手続の違法は審決そのものに影響を及ぼすこととなる。本件審決はすでにこの点において取り消されるべきものである。

(二)審決の基礎となつた事実を立証する実質的な証拠がない。

(1) 被告が審決において認定した事実のうち、審決書の「事実及び証拠」の部第一項の認定は誤りなく、第二項の認定は必ずしも間違いではないが、専売店のうちには本社と資本関係のないものが多数あり、また東京都内においても二十有余店の諸紙屋(いわゆる合売店)があつて各種の新聞を取り扱つており、審決認定のような専売制が原則的なものではなかつた。同第三項の認定は「右専売制が廃止せられ」とある部分及び「新聞販売店が排他的に新聞紙の販売をなすべき地域が定められた」とある部分を除き、そのとおりであるが、別に専売制廃止という積極的な事実があつたわけではなく、合売制度一色になつただけである。新聞の販売統制の結果は地域は一層明らかに読者に対する責任販売地域となつたのであつて、これは排他的なものではなかつた。ただ紙数の関係から地域外の読者に配達販売をする余裕がなかつただけである。これを排他的と認定することは当時の新聞紙の販売事情を無視した独断である。同第四項の認定は大体そのとおりである。同第五項の認定は論理を無視した飛躍論であり独断であり、全面的に否認する。同第六項の認定はそのとおりである。同第七項のうち新聞販売店の代表者が協議に加わつた事実はない。新聞発行本社側から二三の販売店の意見をきいたのであり、新聞販売店からいえば新聞発行本社側の諮問に答えただけである。昭和二十四年六月二十八日の関東東京東北連合販売責任者会議では契約書の見本を作つたのであつて、方式を決定したものではない。これは家屋の賃貸借契約書や委任状の形式を作ると同じようなもので、その見本に従うかどうかは各自の自由である。同第八項中「真実の契約は従来どおりの地域をもつて業務地域とすることを約していたものである」との部分は間違つている。特別に個々の地域を約した事実はない。契約書は地域その他の販売条件を画一にする事務上の必要から交換したに過ぎない。同第九項中冒頭記載の明示の協定がなかつたとの認定はそのとおりであるが、その余の認定は独断に過ぎ正確なものではない。原告ら新聞発行本社は以上において認めた以外の事実はすべて否認するものであり、被告のこの点の事実認定は実質的証拠を欠いている。

(2) 被告は審決において「終戦後の新聞統制時代に再編成された地域(新聞販売店の販売をなすべき地域)なるものは、新聞紙の戸別配達制から生ずる時間又は労力の制約による自然発生的な地域、又は新聞販売店が新聞発行本社に対し配達の責任を有するいわゆる責任配達区域というが如きものではなくして、各新聞販売店はその地域内においてのみ排他的に各種新聞紙の販売をなし得る旨の相互の明示又は黙示の協定にもとずく一の地盤割と認むべきものである」と認定しているが(審決書事実及び証拠の五)、これは論理を無視した飛躍論であり、審決事実認定の一ないし四記載の事実から右の事実を引き出すことはできない。販売地域は新聞の専売制度の下においても、新聞発行本社と各専売店との間に契約されたもので合売制になつてはじめて生じたものではない。各新聞発行本社が自社の新聞を普及させ読者の満足を得るよう努力していることは自明の事柄で、そのためには新聞発行本社及び新聞販売店としては不利益な場合でも新聞を配達する必要のあることはいうをまたない。すなわちこれは一定地域の読者から当該地域の新聞販売店に購読申込があるときはこれを拒否しないようにする手段であつて換言すれば責任配達区域に外ならない。このことは新聞の販売統制が行われた当時においては最も明白に認識されることである。販売統制が解除された後、新聞販売店と新聞発行本社との間に特に明白な契約の締結はなく、従来の地域において新聞を販売させたことは審決認定のとおりであるが、この場合の地域も従前と異なる意味をもつものではない。いわゆる専売制の下の地域は当該新聞販売店の配達能力から出たものであることは疑いのないところであるが、ただ販売統制の下で人為的に整理されたことは事実である。しかしどこまでも新聞紙の戸別配達制から生ずる時間又は労力の制約を受けていることは否定し得ない。かくして地域は決して「その地域内においてのみ排他的に各種新聞紙の販売をなし得る旨の相互の明示又は黙示の協定にもとずく一の地盤割」ではない。明示の協定がないのは勿論、黙示の協定もない。特に排他的のものではなく、地域外に販売することは少しも差支えがないのである。ただ当該新聞販売店の活動範囲がおのずから制限されていることと、普通の読者は特に当該地域外の新聞販売店を選択しないことから、結果的には地域外の読者に販売することがまれだというに止まる。本来新聞発行本社が自己の新聞販売店と地域を定めて契約すること自体は独占禁止法に違反するものではないのである。

(3) 審決は事実と証拠の部の第九項で、「被審人らは地域撤廃という新事態によつて生ずることあるべき混乱や摩擦をさける趣旨から、被審人ら新聞発行本社相互間において、各新聞販売店をして従来の地域をそのまま踏襲せしめ、右地域内においてのみ排他的に新聞紙の販売をなさしむべき旨の暗黙の協定が成立し、被審人ら新聞発行本社は右協定にもとずいて被審人ら新聞販売店に対し業務区域として右地域を指定し、また被審人ら新聞販売店相互間においても、地域撤廃によつて生ずることを予想される好ましからざる競争を防止したき意向の下に、右地域内においてのみ排他的に新聞紙の販売をなすべき旨の暗黙の協定が成立しているものと認めるのが相当である」としたけれども、この認定もまた論理を無視した飛躍論である。各新聞販売店の地域が各新聞発行本社について同一に定められた事実は、ほぼ同一の利害関係に立つ経済人の立場からいえば当然のことである。各デパートが年末売出に際しいつせいにそれぞれ福引を出したとしてもこの事実からその間に協定があると認定することが条理を無視した独断であるのと同様である。新聞発行本社と新聞販売店との契約において地域を指定することは違法ではなく、一個の新聞発行本社から見れば甲販売店と乙販売店との間に競争があることは不必要である。右手と左手との間に競争を考えることはできない。また配達地域の指定は排他的な意味はないこと前述のとおりであるから、この点でも審決のような結論にはならない。新聞販売店相互間においては配達地域は新聞発行本社と販売店とのいわゆる縦の契約から生じた必然的な結果であつて、新聞販売店相互の間に「右地域内においてのみ排他的に新聞紙の販売をなすべき旨の暗黙の協定が成立し」たものではない。審決は審判開始決定にとらわれ、本来無色なものを色眼鏡をとおして着色ありと誤認したもので、とうてい承服できない。以上のとおり審決認定の事実は実質的な証拠を欠いており、その反対に原告らの主張にそう実質的な証拠が存するのである。

(三)審決の法の適用は不当である。

(1) 審決が本件事案につき独占禁止法第四条第一項第三号を適用したのは明らかに違法である。仮りに事実が被告の認定どおりであるとしても、これに対する原告らの審決書摘示の主張を無造作に排斥することは失当である。元来独占禁止法にいう競争は経済をはなれて存在せず、採算を無視した競争は不公正な競争に近い。いかに新聞が公共性をもつていても、本来採算のとれない地域にまで配達する義務はないはずであるが、新聞の公共性から、購読を希望する者の手許に新聞を配達させることは、新聞発行本社たる原告らの責務であり、このためには配達地域の指定は絶対に必要である。

(2) 新聞発行本社があらたに専売店を設けて競争することは審決書記載のように制限されてはいない。現に名古屋市その他において専売店が発生しつつあることはこれを雄弁に物語つている。その実情はきわめて簡単に立証される。それにも拘らず専売制度が容易に復活しないのは、用紙の統制と価格の統制とにより採算がとれないからであつて、配達地域の存在するが故ではない。

(3) 読者が販売店を選択する自由は感情的のもので独占禁止法の保護の対象とならない。読者の銘柄選択の自由は地域の存在によつて失われてはいない。新聞販売店の読者に対するサービスは、新聞を適当な時期にその手許に届けること以外には存在しない。この新聞の読者に対するサービスが、地域の存在によつて何故に失われるとするのか、審決の展開する論理は机上の論で実際に即していない。

(4) 審決は原告ら主張の弊害を防止するには別途の手段方法によるべきであるというが、いかなる具体的方法であるのか、これを示さないで、本件事案が「問題とする程度に至らない場合」に該当するかどうかを判断することは不当であると信ずる。

要するに審決は独占禁止法第四条第一項第三号の規定を不当に適用した違法があり、さらに同条第二項の規定を解釈するにつき独断に過ぎ、結局同法に違反した結果を招来したものである。

(四)審決主文において命じた措置は違法である。

(1) 一般論。

独占禁止法違反の行為があるときは、公正取引委員会はその違反行為を排除するために必要な措置を命ずることができるのであるが、このいわゆる必要な措置は審決の主文自体から当然に理解することができるもので、かつ具体的に特定し妥当であることを必要とすることは、審決の性質上当然の事柄である。けだし主文自体から理解することのできない命令は、事業者をしていたずらに去就に迷わせるだけであり、抽象的な措置命令は法文と異なることがない結果となるからである。のみならず、その命令に違反したときは過料の制裁がありまた刑罰が科せられるものだからである。同法が複雑な審判手続を規定し、審判にきわめて慎重を期しているゆえんは、措置命令が以上のような要請にもとずいているからに外ならない。しかるに本件審決は一面においてきわめてあいまいであり、他面において余りに抽象に過ぎ、それ自体違法な審決として取消を免れない。

(2) 主文第一項について。

審決主文第一項は協定の破棄を命ずるものであるが、いわゆる本件協定とは何を指すのか、主文においては全然明確にされていない。「新聞紙の販売地域に関する本件協定」という表現では本件協定は特定しない。いかなる内容の協定が誰と誰との間に存在したのであるか、この点事実の認定中においてはやや具体的にされているが、この事実の認定を援助することは主文の性質上不適当であるのみでなく、事実の認定においても、いわゆる協定が原告ら新聞発行本社と原告ら新聞販売店との間にのみ存在したというのであるか、又は他の全国の新聞販売店との間にも存在したというのであるかは、具体的に表明されていない。もし審判において被審人とならなかつた新聞販売業者をも含めているのであれば、審判に参加もさせず、従つて防禦方法を講じさせることなく、これに影響を与えるような措置命令をすることは違法である。要するに主文第一項は破棄を命じた協定が特定されていない点において違法である。

(3) 主文第二項について。

審決主文第二項は、原告ら新聞発行本社に遅滞なく協定を破棄した旨及び本審決の趣旨を各自の新聞紙に掲載してこれを一般に周知せしめる措置を命じている。一般に周知せしめることは、独占禁止法第七条の規定する必要な措置であるかも知れないが、各自の新聞紙に協定を破棄した旨及び審決の趣旨を掲載させることは、違法であり、少くとも必要な措置ではない。憲法第二十一条は集会結社及び言論出版その他一切の表現の自由を保障している。検閲もしてはならないのである。このことは、言論機関である新聞発行本社に最も重要にしてかつ適切な事柄であることは言をまたない。新聞は報道評論の完全な自由を有する。「自由な新聞の持つ責任とその意味を日本の新聞に教え込む」ことを目的とする連合軍最高司令官発表昭和二十年九月十九日のプレス・コード(新聞準則)も、宣伝の排除に重点をおいている。すなわちその第七項は、編集者が記事を取り上げる場合の注意事項として、いかなる場合にもある宣伝方針に合致させるために記事を着色してはならないと規定しているのであるから、編集者の意思に反してある宣伝方針(本件においては審決の周知徹底)に合致させるために記事の掲載を命ずることは、同条項にも反することとなるのである。新聞編集は憲法に保障された全く自由な行為である。なんびとも新聞に特定事項の掲載を命ずることはできず、なんびとも新聞編集に干渉することはできない。すなわち記事としても、広告としても、各自の新聞紙に掲載を命ずることは、自由な編集権に対する干渉である。もつとも他紙に広告させる措置は、他紙がこれを引受けるかどうかは別として、特にこれを違法と主張するものではない。しかるに被告が審決をもつて各自の新聞に掲載方を命じ、その審決の普及宣伝を企図することは、新聞の自由を不当に拘束するもので、プレス・コードの趣旨に反し、憲法第二十一条に違反する。殊に本件のいわゆる協定は仮りに存在するものとしても営業面の問題であり、新聞の編集とは無関係である。もちろん編集も営業も一法人の中の職域の差異ではあるが、実質的には別個の存在である。たまたま原告らが新聞発行本社であることをこれ幸いと、新聞編集の自由をじゆうりんし、本件のような命令を発することは、形式的にはとにかく、実質的には権限の濫用である。被告はいかにいわゆる経済憲法の実施機関であつても全能であるはずはない。主文第二項は言論機関の本質を無視した憲法違反の命令で、とうてい承服できない。

(4) 主文第三項について。

審決主文第三項は、東京都以外の地区においても本件と同一若しくは類似の協定をなし、又はこれを維持遂行してはならないといつている。東京都以外の地域における協定は、仮りにあつたとしても本件審判の対象となつたものではない。これは本件の審判開始決定書の記載によつて明白である。審判の対象となつていない事項をとらえて、これに対する措置を命ずることはそれ自体違法である。独占禁止法第五十二条は当該事件について事業者の防禦方法を規定したもので、当該事件とは審判開始決定書に記載した事実に限定されるものと解しなければならない。もしそうでないと、被審人が意見弁解を述べ、証拠調を求めることが、甚しく的外れとなり、被審人の権利は保護されないからである。しかるに被告が主文第三項のような審決をしたのは、審判の対象とならない事項に対して審決したものであつて違法である。また新聞発行本社に協定の維持を禁止する命令は、被審人とならない新聞販売店との契約を解消させるものであつて、かように、当事者以外の者の権利を適法な審判を開くことなく侵害する命令は違法である。殊に新聞販売店の権利は一の財産権であることは、被告が自ら承認したところであり、この財産権を侵害することは憲法第二十九条に違反する。

(5) 主文第四項について。

審決主文第四項中「将来、いかなる地区においても、本件類似の協定、申合をなす」ことを禁止することは、「本件」の内容が明確でないこと前述のとおりである以上、やはり不当であるといわなければならない。「その他何らの名義をもつてするを問わず、相互に事業活動を拘束することによつて、新聞販売の取引分野における競争を実質的に制限するような行為をしてはならない」という部分は、これをもつて独占禁止法第七条の措置と認めることはできない。これは抽象的な一の規範を掲げたに過ぎないからである。かような措置は行政処分の範囲を逸脱し、違法であると信ずる。「事業者が、契約、協定その他何らの名義をもつてするかを問わず、他の事業者と共同して相互にその事業活動を拘束し、又は遂行することにより、公共の利益に反して、一定の取引分野における競争を実質的に制限すること」は、独占禁止法における「不当な取引制限」の定義であり、事業者が不当な取引制限をしてはならないことも、同法第三条の規定するところである。これらの規定と主文第四項後段とは、字句に幾分の差異はあるが、同様に抽象的な命令であつて、その間になんら差別はない。主文第四項後段は法文をそのまま掲げただけであつて、決して具体的な措置命令ではない。本件のいわゆる協定と異なる不当な取引制限をした場合には、公正取引委員会はあらためて審判を開始するのが、独占禁止法の一貫した要請である。しかるに主文第四項後段のような命令が、同法第七条の措置命令であるとすれば、審判を開始することなく、直ちに審判違反として刑罰を科することになるのであり(同法第九十条第四号)、これは甚しく事業者の人権を無視するもので、とうてい承服しがたい。そればかりではなく本件のいわゆる協定と異なるあらたな違反がある場合に、これを審査し審判することこそ公正取引委員会本来の専属的権限であつて、委員会が自ら審判することなく、もつぱら刑事裁判に任かすが如きは、委員会の自殺行為に外ならない。また本件審決においては独占禁止法第四条第一項第三号の規定が適用されて、「共同して販路又は顧客を制限すること」のみが違反とされているのであるから、将来の禁止を命ずるならば右第四条のみが問題とされなければならないのであつて、同法第三条の不当な取引制限を禁止することは失当である。さらにまた、主文第四項後段に該当する行為でも、公共の利益に反しない限り、適法に行うことができるのであるのに、被告が無制限にこれを禁止するが如きは、甚しい行過ぎであつて、この点でも違法であるといわなければならない。

(五)審決の基礎となつた事実が変更したから審決は取り消されるべきである。

原告ら新聞発行本社のうち原告株式会社朝日新聞社、同株式会社毎日新聞社及び同株式会社読売新聞社は本件審決の後である昭和二十七年十二月一日新聞の販売についていわゆる専売制を実施した。その結果原告ら新聞販売店のある者は原告株式会社朝日新聞社の、ある者は同株式会社毎日新聞社の、ある者は同株式会社読売新聞社のそれぞれの専売店となり、かくして事実上存在した本件地域協定は全く消滅した。もつとも官庁街である東京都丸の内近辺だけは、販売購読双方の便宜上なお共販制度をとつているが、これは従来の共販制の存続でなく、あらたに生れた別の性格をもつものである。また原告社団法人東京新聞社も右専売制にそうような措置をとつている。従つて今日においては本件審決を維持することは不当であつて公共の利益に反することとなつたから、この点からも審決は取り消されるべきものである。

四、被告の主張に対する反論。

(一)公正取引委員会審判規則第二条第二項を被告主張のように解することはできない。入江審査部長が本件審判開始にいたるまでの調査に関与しなかつたという事実は、そのとおりであると信ずるが、原告らにおいて主張するところは、審判開始決定を維持する審査官を監督する者は、調査に関与したものに外ならないというにある。同規定は審判の公正を担保する規定であることは間違いなく、一方において審判開始決定を維持させながら、他方において自ら審判を担当することは、制度の趣旨を没却するものである。同規則第四条をもつて審判官の態度ないしは心構えを規定したとする被告の主張は、審判規則が法律の委任によつて審判の公正を期する手続を規定したものであることを無視している。被告の主張のとおりであるならば内規ないしは個々の訓誡で足り、一般に対する公布手続をとる必要がない。審判規則は公布によつて、当事者に公正の担保を与えることになり、本来の性質が内規的のものであつても、当事者には最も利害関係の大きな存在となるのであつて、これを審判官の態度ないし心構えを定めたものに過ぎないとするが如きは、公正取引委員会そのものを軽んずることに帰着する。入江審判官の審判手続遂行の態度は、被告主張のとおりであつて、原告らはいささかもこれを非難し又は問題とするのではない。原告らは同審判官が公正に事実を処理したことを疑わないが、それにしても、同審判官が審判に関与することは、法律上どこまでも違法であると主張するのである。

(二)言論の自由が国民の無制約な恣意のままに許されるものでなく、常に公共の福祉によつて調整されなければならないものであることは争わない。独占禁止法の性格、公正取引委員会のあり方、権限がいずれも被告主張のようなものであることもそのとおりである。さりとて公正取引委員会が審決によつて命ずる措置は、それが当該違反を排除するために必要である限り、常に公共の福祉に合致するものであるとする被告の論理は、とうていなりたたない。それは公正取引委員会の独善であり、本末転倒である。もともと、公正取引委員会は公共の福祉に合致する範囲内においてのみ、当該違反行為を排除するために必要な措置をとることを許されているだけである。委員会の行為はすべて公共の福祉に合するという考え方は、委員会を批判の外におくもので、委員会の全能を意味する。かくの如き行政機関の存在は、日本国憲法の下においては許さるべきものではない。現に審決に対する不服の訴が法律上認められているのは何故であるか。委員会の見解が憲法違反であることがあり得るからであり、委員会の認定が実質的な証拠を欠く場合があり得るからであつて、いいかえれば委員会が全能でないからである。本件事案が被告認定のように独占禁止法違反であるとして、排除措置の周知徹底に関する措置を命ずるならば、その方法さえ合法である限りこれを被告主張のように「必要な措置」であるということは別に争わない。ただ各自の新聞に掲載させることが違法であるといつているのであつて、審決の命じた措置が周知徹底の方法として最も効果があるか、又は原告らにとつて最も有利であるかを問題としているのではない。審決が新聞に掲載する方法についてなんらの限定をも加えていないことは、被告のいうとおりであるが、原告らは広告として掲載を命ずることも、編集権の侵害であると主張するのである。紙面、活字の大きさ、掲載の時期にも明示的な制限はないが、これは被審人の恣意を許す趣旨ではあるまい。もし恣意を許す趣旨ならば、そのこと自体すでに違法である。主文の趣旨とするところは、おそらく社会通念により被審人の良識によつて掲載すべきものであるというにあると思われる。被告の主張はとうていこれを容認することができない。

第二、原告ら新聞販売店の請求の趣旨及び請求の原因。

原告ら新聞販売店代理人は、原告らに対する昭和二十四年(判)第二〇号事件につき被告が昭和二十六年四月七日にした審決を取り消す、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、請求原因として次のように陳述した。

一、審決の基礎となつた事実を立証する実質的な証拠がない。

(1)審決は、原告らが相互に協定して各新聞販売店の販売をなすべき地域を定めているとの事実を認定し、新聞販売店相互間においても、地域撤廃によつて生ずることを予想される好ましからざる競争を防止したき意向の下に、右地域内においてのみ排他的に新聞紙の販売をなすべき旨の暗黙の協定が成立していたものと認めるのが相当であるとしたが、新聞発行本社に対する関係部分はしばらくおき、原告ら新聞販売店に関しては暗黙の協定を相互にしたとの事実は被告の想像又は推定に過ぎず、これを立証する実質的証拠は全くないのである。この点について審決の掲げる証第一ないし第四号(引用乙第一ないし第四号証)では、原告ら販売店が暗黙の協定をしたとの証明にはならず、鈴木勝男の口供書(証第七号引用乙第五号証)は主として発行本社というよりは関東東北部長会の懇談会の模様について述べられているもので、しかもその内容は幾多の疑点があり、他の参考人の供述によつて事実を否定されており、その信憑力を疑わねばならない証拠であつて、他の参考人の各供述に徴しても、原告ら新聞販売店が相互に暗黙の協定をしたとの直接証拠はない。

(2)各新聞販売店の新聞販売をすべき地域は、決して審決の認定したような販売店相互間の協定によつてできたものではない。地域は新聞の戸別配達制及び合売制から自然に生ずるものであり、しかもこれは各新聞発行本社と新聞販売店との間の別個独立の販売契約によつて定まるものであつて、販売店相互間にはなんらの協定も意思の連絡もないのである。

(イ)地域は新聞の戸別配達制から自然に生ずる。

今日原告ら新聞販売店の行う新聞の販売は、いわゆる戸別配達の方法によるものである。新聞は本来ニュースを迅速正確に供給する目的をもつもので、これは単に編集又は営業の政策以上に、新聞のもつ公器としての使命である。従つてその販売方法も迅速に行う必要があるとともに、新聞が商品であつて読者から購読料を徴する以上、新聞を迅速に読者に配達することは販売者の業務でもある。従つてここに配達に要する時間の制限が生れることは当然である。また新聞の戸別配達も営利事業である以上、採算がとれることを必要とし、この立場から稼働能力範囲の地域的制限を受けるようになるのはやむを得ない。さらに新聞配達の労務はその就労時刻が異例でかつその時間が少いため、この配達を専門に任務とする者はまれである。新聞を迅速に配達するには就労者一人の稼働範囲をできるだけ小さくし、これに反比例して人員を多くする必要があり、この関係からもおのずから地域が制限されるに至るのはさけ難いのである。

(ロ)地域は合売制からも自然に生れる。

現在新聞販売店による新聞の販売はいわゆる合売制度である。この制度は多数新聞発行本社の新聞を一店において販売するもので、読者の自由選択による新聞の公正な販売を行うことを目的として存在するのであるが、これは被告公正取引委員会においても認容している制度であり、この運営上からも地域の制限が当然生れるのである。すなわち、新聞の読者は合売制の下では自由な立場においてその欲する新聞を購読できる。もしこの地位が妨げられるとすれば、それは強制販売であり、秩序のない押売販売であり、乱売である。一人の読者を数種の新聞が競争によつて獲得しようとするのみならず、同一新聞の異なつた二以上の販売店がこれをするに至るのであるから、読者の自由は不公正な競争でじゆうりんされる。このような事態を回避するたてまえから合売制を維持することは、なんびともこれを望むのであり、その合理的運営のためには、新聞発行本社も販売店も地域の混乱をさけなければならないことはいうまでもない。一新聞発行本社は自社の新聞を販売する販売店に、自社の他の販売店を競争によつて侵害させることを好まない。甲乙両販売店が地域的に交錯重複することは、無益のみならず有害である、なんとなれば、これは同一新聞の数人の販売業者が同一人を読者として獲得するために競争すると同じ結果になるからである。かくして新聞発行本社は自己の新聞を販売させるにあたつて、地域の重複をさけるのを当然とし、販売店に対してその方針で臨み、一の新聞発行本社は一販売店に対しては一定の地域内で販売することを要求し、他の発行本社についても同様である。そこで一販売店の地域は、他の多数の発行本社のそれと重複したものとなるのである。仮りに一の発行本社が他の社と異なる地域を定めようとしても、その販売店は一種一新聞のためにのみ他地域に進出することは戸別配達制を採る以上不可能である。現実的には販売店に不能を強いることになる。販売店としてもまた他の同業者の配達区域に立ち入つて販売することは、事実上労多くして利益がないのみならず、本社との契約に違反することになる。かくして現在の地域が生じた。しかのみならず、この合売制そのものも新聞発行本社相互間及び新聞販売業者間の申合せ又は契約によるものではない。販売契約はなんら合売を内容としたものではない。一発行本社と一販売店との間の契約は単一のものであり、ただ一販売店が多数発行本社と契約することにより合売形態を生じたものに過ぎないものである。

(ハ)地域は新聞販売店と新聞発行本社との間の個別の契約から生れる。

各新聞販売店はそれぞれ自己が扱う新聞についてその発行本社と販売契約をするに過ぎない。あらかじめ一定地域内において販売することをそれぞれの発行本社と各別に契約したものであるから、他の販売店との間に地域を協定する必要はない。従つて協定により他の事業者の活動を拘束した事実もなく、そのような意思で明示はもちろん黙示の協定をもしたことはないのである。新聞販売店としては隣接の販売店がどの地域を発行本社との契約で約定したかは知るところではない。販売店が互いに他の販売店の地域に配達しないのは、相互の意思にもとずくものではなくて、発行本社との間に約した地域内でのみ売ることの結果に過ぎない。

(3)本件における地域はかようなものであつて、これを販売店相互間の協定の結果と認定するのは失当である。

二、審決の法の適用は不当である。

仮りに原告らに審決認定のような販売地域協定の事実があるとしても、原告らの行為はなんら公共の利益に反するものではなく、本件は一定の取引分野における競争に対する当該共同行為の影響が問題とする程度に至らない場合に該当するものである。審決はこの点に関する原告らの主張を排斥したが、共同行為が一定の取引分野にどの程度の影響があるか、その度合によつてそれが公共の利益に反する程度かどうかの限界が解釈上の問題となるのである。もとより商品の数量、価格、当事者の数によつてこれを定めるのでなく、もつぱら受益者たる一般消費者の立場から判断しなければならない。この場合受益者たる消費者が、事業者の当該共同行為によつて受ける不利益については、その数が影響する。すなわち少数者の不利益となる共同行為も、逆に多数者の利益となる場合には、問題とならないのは当然である。審決のいうように、新聞の販売において地域を制定した結果、読者が一定の販売店からのみ購読させられる立場におかれ、読者が自由に販売店を選択することができなくなることがあるとしても、このようなことはきわめて少数の者に対する、きわめてまれな事例としてのみ現実の問題となつたに過ぎない。

影響が問題とする程度に至るものかどうかは、事実問題でなく法律解釈上の問題であるとしても、その影響が一般消費者に対してきわめて稀薄であり、他の多数の消費者の利益をもたらしていることが事実である場合には、この事実は解釈上重要な資料とすべきである。現に名古屋地方においては地域を撤廃し、合売制を無視して専売制を断行した結果、不公正な競争方法をひき起し、混乱におちいり、占領軍係官の声明により鎮圧されたことは業界に顕著な事実であつて、公正取引委員会はこれについて審判請求をしているのである。このような事態の発生を防止するためにも地域は必要であつて、その撤廃は公益を害すること明らかである。

三、審決が主文において命じた排除措置は違法である。

(1)審決は原告らに本件協定の破棄を命ずるとともに、右破棄したときは遅滞なくその旨並びに本審決の趣旨を各自の新聞紙に掲載してこれを一般に周知せしめる措置をとることを原告ら新聞発行本社に命じているが、かくの如きは新聞社の新聞編集権を侵害するものである。新聞は他人に命ぜられて記事を掲載すべき義務を負わされることはない。編集と販売とはおのずから異なるのであるから、たとえ新聞社がその販売の方法について違法があつたにせよ、そのために編集権を侵害され自らこれを自己の紙上に発表しなければならないような措置を命ずる審決は苛酷独断に過ぎ、不当違法のものである。

(2)審決はその主文第三項において「被審人たる新聞発行本社は、東京都以外の地区においても本件と同一又は類似の協定をなし又はこれを維持遂行してはならない」としたが、およそ審判の対象は事業者(主体)と独占禁止法違反の事実(客体)とが一定されなければならないし、審判の範囲もこれに制限されなければならない。本件審判の対象となつたのは、被審人たる新聞発行本社五社と新聞販売店二二名で、これらの者が相互に東京都内において事業拘束をして自由競争を妨げているとの事実に限られている。東京都内及び都外の他の同業者が本審決によつて拘束されてはならないし、審決の既判力が及ぶはずはない。もし他地域の同業者に審決の効力を及ぼそうとするならば、利害関係人として審判に参加させて、審判手続を経なければならない。そうしない限り、当事者以外の者に対し効果を及ぼすような審決はできないと信ずる。この点においても審決には法令の違反がある。

四、審決の基礎となつた事実が変更したから審決は取り消されるべきである。

この点については原告ら新聞発行本社の主張(第一の三の(五))と同一であるからこれを引用する。

第三、被告の答弁。

被告代理人は原告らの請求はいずれもこれを棄却する。訴訟費用は原告らの連帯負担とするとの判決を求め答弁として次のとおり述べた。

一、原告ら新聞発行本社の主張に対する答弁。

(一)被告の審判手続が違法であるとの点について。

(1) 本件審判手続については公正取引委員会職員である審査部長入江一郎が審判官として手続を進行させた事実、同人が昭和二十五年三月一日審査部長心得となり、同年四月二十五日審査部長に任命された事実、公正取引委員会事務局審査部が原告ら主張の五課からなり、審査部長がこれを統括し所属の職員を指揮監督する職務権限を有する事実はいずれもこれを認める。また公正取引委員会審判規則第二条第二項は「委員会は事件の調査に関与した職員(以下「審査官」という。)をその事件の審判官に指定してはならない。」と規定し、同第四条は「審判官はその職務を公正迅速にかつ独立して行わなければならない。」と規定していることは原告ら主張のとおりである。

(2) しかし右規則第二条第二項の趣旨は、審判官の指定を受けるものは、その指定の時期を基準として、過去において当該事件の調査に関与した者であつてはならないというに過ぎない。このことは右規定の文言から見て明白である。入江審査部長は審判官の指定を受ける前に、本件の調査に関与した事実は全然ない。従つて同人を審判官に指定したことは、右第二条第二項に違反するものではない。次に右規則第四条は、審判官がその職務を執行するについての態度ないしは心構えを規定したものであつて、審判官はあくまで自己の信念と法律とに従つて審判手続を遂行すべきであり、みだりに他からの支配干渉を受けてはならないとの趣旨をあらわしたものである。入江審査部長は審査部長就任後も、右の精神に則り、事実上なんら他からの支配ないし干渉を受けることなく、自己の所信に従つて、本件審判手続を遂行したのであるから、右規則第四条に違反するものではない。

(二)審決の基礎となつた事実を立証する実質的な証拠がないとの点について。

事実に関する原告らの主張中、審決書記載の事実に反する点はすべてこれを否認する。特に本件地域が暗黙の協定にもとずく排他的な地域ではなく、配達能力から出た責任配達区域に過ぎないとの原告らの主張はこれを否認する。本件審決の事実認定はすべて実質的な証拠にもとずくものである。

審決認定の本件地域協定は昭和二十三年四月頃成立したものであり、その後における熱海の会合、契約書の方式の決定等は、右協定の実行方法として行われたものである。なお審決において原告らが制限したという「顧客」は、新聞発行本社及び新聞販売店に共通する読者を指すものであり、本件においては新聞販売店をはなれた新聞発行本社のみの販路又は顧客の制限は問題としてはいない。従つて新聞発行本社からある地域の特定の新聞販売店以外の他の販売店に新聞を販売しないという趣旨の、顧客の制限は、本件の対象としていないのである。新聞販売店各自が新聞発行本社間の協定を知つていることは、新聞販売店の本件違反行為成立の要件とはならない。

(三)審決の法の適用が不当であるとの点について。

(1) 原告らは新聞発行本社があらたに専売店を設けて競争することは審決書記載のように制限されていないと主張するが、この点は否認する。本件地域に関する協定は、審決書記載のとおり排他的な性質をもつており、しかも地域は財産的価値を有するものであるから、かかる協定の存する限り、新聞発行本社があらたに専売店を設けて競争することは、財産権を侵害することともなるので、当然制限されることとなる。現に名古屋市において専売店が発生しつつあることは争わないが、これは地域に関する協定がその限りで破棄されるに至つたものか、又は協定違反の行為が事実上行われているかのいずれかであろう。

(2) 本件地域協定の存在によつて読者の新聞銘柄選択の自由は必ずしも絶対に失われないとしても、販売店間の競争が消滅する結果、販売店の読者に対するサービスが低下することは必然である。しかのみならず、合売制の下においても各販売店にはいわゆる系統色なるものが存する以上、地域の存在によつて読者の新聞の銘柄選択の自由も必ずしも完全なものとはいい得ないであろう。

(3) 原告らは本件地域撤廃にともなう弊害防止の具体的方法を示さずして、本件事案が問題とする程度に至らない場合に該当するか否かを論断することは不当であると主張するが、理解し難いところである。

要するに被告が本件に対し独占禁止法第四条第一項第三号を適用し、同条第二項の場合にあたるものでないとしたのは正当であり、審決の示した法律上の見解に誤りはない。

(四)審決主文において命じた措置が違法であるとの点について。

(1)独占禁止法第七条にいわゆる「違反する行為を排除するために必要な措置」とは、必ずしも原告ら主張の如く具体的に特定した措置のみに限るべき理由はない。一般に理解しうるものであれば、多少抽象的なものでも差支えないものと信ずる。殊に将来に対する予防的な措置をも含むものと解する以上(被告はかかる見解をとる)、ある程度抽象的な内容を含むこともやむを得ない。

(2) 原告らは審決主文第一項の「本件協定」の内容が不明確であると主張するが、右協定の内容は本件審決書を通読すればおのずから理解しうるところである。すなわち「本件協定」とは審決書事実及び証拠第九項第六行目以下に記載されたような内容の協定をさすのであつて、それは被審人たる新聞発行本社相互間、被審人たる新聞発行本社と被審人たる新聞販売店との間、及び被審人たる新聞販売店相互間に存するものを指すのである。

(3) 原告らは審決主文第二項の趣旨は新聞編集の自由をじゆうりんし憲法第二十一条に違反する旨主張するが、右は憲法の同条に違反するものではない。

憲法第二十一条によつて保障された言論の自由は立法によつてもみだりに制限されないものであることはいうまでもないが、これを憲法第十二条との関連において理解するときは、新憲法の下における言論の自由といえども国民の無制約な恣意のままに許されるものではなく、常に公共の福祉によつて調整されなければならないものであることは明らかである(昭和二三年(れ)第一三〇八号昭和二四年五月一八日言渡最高裁判所大法廷判決参照)。

独占禁止法はわが国における経済民主化政策の一環として、公正にして自由な競争を基盤とする経済体制を確立し、もつて「国民経済の民主的で健全な発達を促進する」ことを目的とする法律であり(同法第一条)、その運用機関たる公正取引委員会の活動は常にそれが公共の利益に合致するか否かという観点に立つて行われるものである(同法第四十九条第一項)。この目的を達成するため、同法は公正取引委員会に広汎な権限を与え、同委員会が同法違反と認定した行為については、当該違反を排除するために必要な一切の措置を、審決の形式において命じうる旨を規定したのである(同法第七条、第八条、第十七条の二)。

以上の見地に立つて考察すれば、公正取引委員会が審決によつて命ずる措置は、それが当該違反を排除するために必要である限り、常に公共の福祉に合致すべきものであり、これによつて違反者の言論がある程度制限されることになつても、それは前述の理由によりなんら憲法違反となるものではない。

そこで本審決主文第二項において命じた措置が、本件違反を排除するために果して必要な措置であるか否かについて考察するに、独占禁止法違反の行為者に対し右違反を排除すべきことを命ずるとともに、違反排除の趣旨を一般に周知せしめることが同法にいわゆる「必要な措置」であることは明白である。特に本件の場合の如く、破棄すべき協定の内容が新聞紙の販売区域に関するものであり、しかも協定破棄の事実を具体的に把握することが困難な場合には、協定破棄の事実を一般読者に周知徹底させることは、審決をして実効あらしめるための必要不可欠な措置たることはいうまでもない。しかして本件の如く、新聞発行本社自身が被審人となつている場合には被審人たる新聞発行本社をして各自自己の新聞に協定破棄の事実を掲載せしめることが、読者に対する周知徹底の方法として最も効果ある措置たるのみでなく、被審人たる新聞発行本社にとつても他の方法に比してむしろ簡便にして有利な措置であるということができる。かかる措置こそまさに独占禁止法にいわゆる必要な措置に該当するものというべきである。

しかのみならず、本審決主文第二項は被審人たる新聞発行本社に対し、単に各自の新聞紙上に特定事項を掲載すべきことを命じているに過ぎず、その掲載の方法についてはなんらの限定をも加えていない。従つて原告らは右事項を必ずしも記事として掲載する必要はなく、広告として掲載することもなんら差支えない。また掲載すべき文言、紙面、活字の大きさ、掲載の時期等においても厳格な制限はなく、原告らは自由な形式を選択して掲載することができるのであつて、原告らの言論の自由を甚しく制限しているものとはとうてい考えられない。なお原告らは広告として掲載を命ずることも編集権の侵害であると主張するが、被告が審決において命じた如く、協定を破棄した旨並びに審決の趣旨を広告として掲載することが、なんら原告らの編集権を侵害するものでないことは、原告らの日々発刊する新聞紙上において、相当のスペースが広告のためにさかれている事実に徴して明白である。本審決が憲法第二十一条に違反するとの主張は理由がない。

(4) 審決主文第三項及び第四項は、それぞれ地域的に又は時間的に本件違反と同一の事態の反覆されることを予防する趣旨の措置である。「違反を排除するために必要な措置」は、単に審決によつて認定された違反行為のみを排除する措置に限定すべき理由はなく、地域的に又は時間的に反覆せられる危険性がある場合に、これを予防するために必要な措置をも含むものと解すべきである。本件においてはたまたま東京都内における違反行為のみが採り上げられたのであるが、原告ら新聞発行本社の活動は日本全国にわたつて行われているものであるから、かかる違反の行われる危険性は決して東京都内のみに限らず日本全国に及ぶべきことは明白である。また本件協定が破棄されたとしても、将来再びかかる違反の繰り返される危険性のあることは、本件事業の全体に照し十分にこれを認定し得るのである。しかりとすれば本件違反を排除するためには、ただ審決によつて認定された協定を破棄するのみでは足らず、さらに審決主文第三項第四項の如き地域的又は時間的予防措置を必要とするのである。原告らは排除措置をあたかも純然たる司法処分と同視し、厳格な制限に服せしむべきことを主張するが、排除措置は本来一つの行政処分であることを考えれば、原告らの右主張は失当というべきである。

二、原告ら新聞販売店の主張に対する答弁。

(一)審決の基礎となつた事実を立証する実質的な証拠がないとの点について。

審決の事実認定はすべて実質的な証拠にもとずくものであつて、原告ら主張のような想像又は推定ではない。審決は戸別配達制から生ずる自然発生的な地域までも違法としてこれを否定しているのではなく、暗黙の協定によつて排他的に地域を定めている点が違法であると指摘しているのである。従つてこの審決の趣旨に反する原告らの主張は全体としてこれを否認する。

(二)審決の法の適用が不当であるとの点について。

本件原告らの共同行為は決して独占禁止法第四条第二項に該当するものではなく、その理由は審決書記載のとおりである。

原告らはあたかも販売地域の撤廃により名古屋地区において新聞販売の混乱が起り専売制に移行し不公正な競争方法を誘致し、これに対し占領軍係官の声明が発せられて混乱が鎮圧され、公正取引委員会が審判開始決定をするに至つたかの如く主張し、原告らの行為はなんら公共の利益に反するものでなく、消費者一般に対する影響はきわめて稀薄であり、かえつて他の多数の消費者に利益をもたらすものであるとしているけれども、名古屋における事態は地域の撤廃とはなんら関係のないものであつて、原告ら主張の占領軍係官の声明なるものは、昭和二十五年一月下旬より愛知、三重、岐阜の三県下を中心とし、中部日本新聞社、朝日新聞社、毎日新聞社等の間における夕刊販売競争が激化した際、東海北陸民事本部民間報道部長ウオード氏が次の内容の声明を発表したものである。すなわち「市民は自分が読みたい新聞はどの新聞でも読む権利をもつている。いずれの新聞社又は新聞販売所といえども市民が読みたくない新聞を購読するよう強制し、あるいはどの新聞を読めと勧告する権利はもつていない。然るに最近得た報告によればある新聞社と新聞販売所が『押込み』により名古屋地方の市民に対しその意思に反してある種の新聞を購読させようとしている。彼等は売込みたいある新聞の購読を拒絶するものまたは受取つてその代金を支払わないものには、すべての新聞を配達せぬとおびやかす手段に出た。これは民主主義の基本的な本質に背くばかりではなく、ある場合には独占禁止法にも違反するものである。しかしこの押込みはもし新聞購読者が挙つて注文せぬ新聞の受取を拒みその欲しなかつた新聞を返却することによつて排除することができるのである。もしすべての新聞購読者がこぞつてこのことを実行し自分の欲する新聞だけを買えば、新聞社と販売所は押込みによる発行部数の増加を企図することを直ちに控えるようになるであろう。なお押込みがあつた場合は直ちに読者はぜひ名古屋市東区東片端町東海北陸民事本部民間報道部へ報告していただきたい」というのであり、これを各自の新聞紙上に掲載せしめたのである。また原告ら主張の審判事件は、その審判開始決定によれば「新聞の販売に関しては昭和二十三年四月共販連盟の解体以来、各販売所はすべて合売店として各新聞発行本社の新聞紙の合売制を実施するに至つたが、合売制の本来の使命は読者の自由選択に応じた新聞紙の公正な販売取扱であるにも拘らず、用紙事情の緩和にともない新聞紙の供給に余裕が出るとともに、各新聞発行本社が自社の新聞紙の販路の拡張伸展をはかる手段として、各販売所に対し押紙を断行し、販売所をして不当に自社系の新聞紙の強制販売を行わせ、合売制にもとずく新聞紙の公正なる販売を阻害し、読者の自由な選択を妨げんとする傾向にあるところ、本年(昭和二十五年)一月以降中部地区において被審人中部日本新聞社を中心として次の如き新聞販売が行われた事実を指摘することができる。被審人中部日本新聞社は名古屋市に本社を有し現在中部地区における新聞販売部数中その約五〇%に相当する販売部数を有しかつ名古屋市内における一二一の販売所の中一〇一店を中日会を通じて事実上その傘下に収めているものであるが、本年一月下旬被審人中部日本新聞社は名古屋市新聞販売同業組合員被審人元宮新聞販売所こと上野源三外二一名の者、愛知県新聞販売同業組合員被審人半田地区新聞販売所こと竹内弥一郎外一七名の者及び岐阜県新聞販売同業組合員被審人岐阜地区新聞販売所こと中野金重外七名の者に対し『朝刊と同数の中日夕刊を発送するから万端の準備をもつて売捌き方願う』との通達を発して同社の夕刊紙を販売すべきことを強要し、右販売所はこれが通達にもとずき或いはこの通達を利用して読者に対し『中日夕刊をとらなければ中日朝刊を配達しない』旨の警告を発し、或いは同様の手段に訴えることにより、他社夕刊紙を購読し又はせんとする中日朝刊の読者の意思に反して、中日夕刊の強制押売を行い、もつて他の夕刊紙を排除して中日夕刊に切換えんとしたものである。なお前記のとおり被審人中部日本新聞社と被審人元宮新聞販売所こと上野源三外四七名の者とが共同して右の事業活動を行つた結果、中部地区における新聞販売の取引分野において他社の新聞紙の販売部数が昭和二十四年十二月に比し、昭和二十五年四月末現在においては顕著な減少を示している事実を認めることができる。前記の各事実によれば被審人中部日本新聞社は被審人元宮新聞販売所こと上野源三外四七名の者を通じ不当に利益又は不利益をもつて競争者の顧客を自己と取引するように勧誘し又は強制したものであつて、私的独占禁止法第二条第六項第四号に該当し、同法第十九条に違反するものであり、又同時に被審人中部日本新聞社は被審人元宮新聞販売所こと上野源三外四七名の者と共同してその事業活動を遂行することにより公共の利益に反して中部地区の新聞販売分野における競争を実質的に制限するものであつて、私的独占禁止法第三条後段の規定に違反するものである」というにあつて、これまた地域の撤廃とはなんらの関係もないのであるから、原告らの右主張はなんらかの誤解にもとずくものと見る外はない。

(三)審決主文が違法であるとの点について。

この点についてすべては原告ら新聞発行本社の主張に対する答弁として述べたところと同一であるからこれを引用する。

第四、証拠関係。

一、引用証拠。

(一)原告ら新聞発行本社代理人は審判手続における参考人鈴木勝雄、同斎藤栄一、同津田辰造、同清水末雄、同野口義造、同大宮伍三郎、同窪川雪夫、被審人田島正義、同野村安太郎の各陳述を引用し、

(二)原告ら新聞販売店代理人は右原告ら新聞発行本社の引用する証拠を引用する外、審判手続における参考人津田辰造、被審人野村安太郎の各陳述を引用し、

(三)被告代理人は引用乙第一ないし第五号証(審判手続における証第一ないし第四号同証第七号)、審判手続における参考人鈴木勝雄、同笠置保、同斎藤栄一、同津田辰造、同清水末雄、同野口義造、同窪川雪夫、被審人田島正義の各陳述を引用した。

二、あたらしい証拠の申出。

原告ら新聞販売店代理人はあたらしい証拠として、原告ら新聞販売店の肩書住所についてそれぞれ地域の現状及び営業状態の検証並びに右各現場における原告ら新聞販売店各本人尋問の申出をし、その申出の理由として、新聞の実際の販売方法においては必らず一定地域を中心として営業活動の範囲が生れる。殊に合売制による戸別配達販売において境界を交錯するように地域を設定することはあらゆる点で不合理を生ずる、多数の読者に対して公正迅速に配達する最善の方法は、地域を一定しかつ合売制をとるにあることは原告らのかねてから主張して来た点である。原告らは審判手続において昭和二十五年六月二十一日の第二回審判期日に右証拠の申出をしたのであるが、被告は正当の理由なくこれを採用しなかつたものである、と述べ、

被告はあたらしい証拠の取調はその必要がないと述べた。

理由

第一、原告ら新聞発行本社の主張に対する判断。

一、本件審判手続は違法であるとの主張について。

被告公正取引委員会が昭和二十四年十二月十八日原告らを被審人として独占禁止法違反の疑があるとの理由で審判開始決定をし、審判手続を経て昭和二十六年四月七日別紙審決書写のとおりの審決をしたところ、右審判手続については公正取引委員会職員審査部長入江一郎が審判官として手続を進行したこと、同人は昭和二十五年三月一日審査部長心得となり同年四月二十五日審査部長に任命されたこと、公正取引委員会事務局審査部が当時審判第一、第二課、審査第一ないし第三課の五課からなり、審査部長はこれを統括し所属の職員を指揮監督する職務権限を有したことはすべて当事者間に争がない。原告らは審査部長を審判官に指定することは公正取引委員会審判規則(昭和二十五年六月五日公正取引委員会規則第二号)第二条第二項に違反する、少くともその趣旨に反すると主張する。昭和二十七年七月三十一日法律第二五七号による改正前において本件審決当時効力を有した独占禁止法は、同法違反の事件につき審判手続を行うのは公正取引委員会がその名においてするものであることを本旨としているのであるが(同法第四十九条第五十二条第五十三条の三)、公正取引委員会は審判開始決定をした後、審決を除くその余の審判手続の一部は、命令をもつて定める公正取引委員会の職員をして公正取引委員会規則の定めるところによつて行わしめることができるとしているのであつて(右改正前の同法第五十一条の二)、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律第五十一条の二の職員に関する政令(昭和二十五年五月十一日政令第一三三号)によれば、右にいう公正取引委員会の職員とは、同委員会の職員である一級又は二級の総理府事務官のうち審判手続を行うについて必要な法律及び経済に関する知識経験を有し且つ公正な判断をし得ると認められる者について公正取引委員会が定めるものとされており、右公正取引委員会審判規則第二条第一項によれば、公正取引委員会がかかる職員に審判手続の一部を行わせようとするときは、右職員の中から事件毎に当該職員(以下「審判官」という)を指定することとされているのである。そして右第二条第二項が「委員会は事件の調査に関与した職員(以下「審査官」という)をその事件の審判官に指定してはならない」と規定しているのは、同条第一項を受けて事件毎に指定する場合に関するものであることは明らかである。従つてここにいう事件の調査とは、当該審判官が審判手続を行おうとするその事件についての調査の意味である。これ、審判官はその職務を公正独立に行うべきところ(同規則第四条)、当該事件の調査に関与した職員がさらに審判官として事件の審判に当るときは、とかく予断を抱きもしくはとらわれた立場に立ち、公正な判断を期待し難いおそれがあるからに外ならない。本件において審判官として関与した入江審査部長が本件の事件の調査に関与したものでないことは、原告らの明らかに争わないところであるから、同人を本件の審判官に指定することは、なんら右第二条第二項に違反するものではない。もつとも公正取引委員会審査部長は自ら審査課員を指揮監督する職務権限を有し、審査課員は審判開始決定のあつた事件について審判に立合い必要な行為をし得る(同規則第五条)のであるから、審査部長たる審判官は審判官として独立して公正な判断をするべく義務づけられながら、一面においては事件の維持についても指揮命令し得るというむじゆんした立場にあることはいちおうこれを肯定しなければならない。しかしながらひるがえつて考えるに、公正取引委員会は事業者が独占禁止法の一定の規定に違反する行為をしていると認める場合等、同法第四十八条第一項の場合において事件を審判手続に付することが公共の利益に適合すると認めるときは、当該事件について審判開始決定をし(同法第四十九条)審判開始後審判手続を経て一定の違反等があると認める場合には、事業者に対し一定の措置を命ずる審決をしなければならない(同法第五十四条)。審判手続は審判開始決定によらなければ開かれない。すなわちいちおう右違反行為等があると認めて審判開始決定をした委員会は、また確定的に違反行為があると認めるべきか否かの審決をするものである。いいかえれば、委員会は自ら審判するとともに、審判を開始するかどうかをも自ら決する機関であり、いわば審判官であると同時に公の原告(審判請求者)たる性格をもち、防禦者は事業者であるが、攻撃者と審判者は委員会であるという形式、すなわち糺問訴訟的形体がこの審判手続の基本構造である。これは裁判所における訴訟手続が弾劾訴訟、すなわち裁判所が原告と被告との争の上に立つて審判する構造の訴訟とは基本的に異なるのである。法は公正取引委員会に対し各般の事務を処理する権限を与えているが、これらの事務はその性質上すべて国の機関の行政事務の範疇に属することは疑いのないところであつて、独占禁止法の違反者に対して一定の措置を命ずる事務といえどもその例外ではない。ただ委員会の職務もそれが公正に行われてはじめて所期の成果を期待し得ることはいうまでもないのであるから、その目的のため、法は一方において委員会の独立を保障するとともに、他方違反者に措置を命ずる手続には審判の形式をとることを規定したのであり、この点において多分に裁判所における訴訟手続に類似したものとなつている。けれどもその事務の内容にして国の行政機関による行政事務である以上、裁判所におけるもののように徹底することは望めない。委員会は所詮は自ら調査し、自ら審判開始決定をしたものを自ら審判すべきものなのである。前記のような委員会規則による配慮も、結局内部的な権限の分配であつて、この全体の基本構造の外に出るものではない。従つて審判官がたまたま審査官を指揮し得る地位にあつたからといつて、前記規定の趣旨にも反すると解することはできない(前記昭和二十七年七月三十一日法律第二五七号改正法律においては、審判官は審査部の仕事に関与しないように措置せられ、この点は立法的に改善された)。原告らのこの点の主張は理由がない。

二、審決の基礎となつた事実を立証する実質的な証拠がないとの主張について。

被告の認定した本件審決の基礎たる事実の要旨は、原告ら新聞発行本社五名はいずれも東京都内に本店を有し新聞紙等の発行並びに販売の事業を営むもの、その余の原告ら新聞販売店合計二十二名はいずれも東京都内において新聞紙販売の事業を営むものであるところ、新聞の販売機構は太平洋戦争以前は主としていわゆる専売制であつたが、その後新聞の発行及び販売の統制にともない各新聞販売店がすべての新聞発行本社の発行する新聞紙をあわせて販売するいわゆる合売制となり、各新聞販売店は新聞発行本社及び統制団体たる社団法人日本新聞配給会(後に社団法人日本新聞公社となる)との間に新聞の販売に関する契約を締結し、右契約中において新聞販売店が排他的に新聞紙の販売をなすべき地域が定められ、右地域は紙数又は店数の増減により多少の変更があつたが遂には地域そのものに一の財産的価値を生ずるにいたり、終戦後東京都内の新聞販売店を約四百三十としこれにつき地域の再編成をしたものであるが、かくしてできた地域は各新聞販売店がその地域内においてのみ排他的に各種新聞紙を販売し得る旨の相互の明示又は黙示の協定にもとずく一の地盤割と認めるべきものである。その後新聞の統制が廃止され社団法人日本新聞公社は解散し、次で新聞紙の販売の面は発行業者の自主的統制団体である社団法人日本新聞連盟の時代を経て昭和二十一年十一月頃社団法人新聞共販連盟がこれを引継いだが、右共販連盟も昭和二十三年四月頃遂に解体するにいたつたところ、その頃原告ら新聞発行本社相互間においては各新聞販売店をして従来の地域をそのまま踏襲させ右地域内においてのみ排他的に新聞紙の販売をなさしむべき旨の暗黙の協定が成立し、原告ら新聞発行本社は右協定にもとずき原告らを含む各新聞販売店に対し業務地域として右地域を指定し、また原告ら新聞販売店相互間においても地域撤廃によつて生ずることを予想される好ましからざる競争を防止したき意向の下に右地域内においてのみ排他的に新聞紙の販売をなすべき旨の暗黙の協定をし、もつて原告ら相互に協定して各新聞販売店の販売をなすべき地域を定めたというにある。

右事実のうち戦時中に定められ終戦後の新聞統制時代に再編成された地域が、各新聞販売店がその地域内においてのみ排他的に各種新聞紙の販売をなし得る一の地盤割であり、昭和二十三年四月頃からあとも原告らの間に右のような地域協定が形成されたことについては原告ら新聞発行本社において実質的な証拠を欠くと主張するところである。この点につき審決のあげた証拠中被告の引用する引用乙第二号証、同第四号証、同第五号証に、審判手続における参考人鈴木勝雄、同笠置保、同斎藤栄一、同津田辰造、同清水末雄、同野口義造、同窪川雪夫、被審人田島正義の各陳述に原告ら新聞発行本社の争わない事実をあわせ考えると、戦時中各新聞販売店の新聞販売をするべき地として成立した地域は、大体各新聞販売店間の相談によつて分けられ、これに各新聞発行本社が立合うという形ではじまり、これが各新聞販売店と各新聞発行本社及び統制団体との新聞販売に関する個々の契約によつて業務地域として定められ、各新聞販売店が一定地域内において事業活動を行うという形態が形成されたこと、その後この地域は多少の変更を経て終戦後に至り、東京都内は約四百三十の新聞販売店に再編成され、その間統制団体の変更、販売統制の撤廃等の時期を経て昭和二十三年四月社団法人新聞共販連盟の解散までこの事業形態は存続してきたこと、右共販連盟の解散及び統制の撤廃によつて従前の契約関係が失効した後もこの事業形態は関係者の間にそのまま存続され、ただ中間の共販機関を廃して各新聞発行本社と各新聞販売店との間の直接の契約関係となつて同一の効果を得ていたこと、この当初の各新聞発行本社及び統制団体と各新聞販売店との間の契約関係並びに共販連盟解散後の各新聞発行本社と各新聞販売店との直接の契約関係においては、いずれもその契約の表面にあらわれたところでは、必ずしも各販売店に地域内において排他的に新聞販売をするべき地位を与えるという特段の定めは見えず、また各販売店が特に地域外において事業活動をすることを禁ずる旨の定めもなく、殊に共販連盟解散後各発行本社と各販売店間の契約を成文化した契約書の上においては、この業務地域は現実に細分された地域を表示することなく、例えば新宿区一円というような比較的漠然たる指定がなされ、しかも発行本社側では販売店の地域がこの中のどの部分であるかは必ずしも精密には意識せず、ただこれとは別にこの範囲内にさらに細分された地域の存することを諒解していたに止まるものではあるが、事実は一地域には一販売店のみが販売をするべき者とされ、同一地域に二以上の販売店はなく、各販売店は自己の地域外に進出することは、必然他の販売店に自己の地域への進出を許すこととなり、結局自己の地域をも保全し得ないこととなることを十分認識していたため、地域はその地域内においてのみ新聞の販売をし得べき区域であつて、他の地域においては事業活動をなすべからざるものとして諒解し、実際にも地域外において新聞の販売をすることは原則としてなかつたこと、また各新聞発行本社も合売制の下で自己の新聞の販売についてのみ他と異なる地域を定めることは、販売店が一新聞のみ他の地域へ配達することを経済的に不利とするため、自然これを避けて販売店との間に他の新聞と同一の地域を指定することとなつたことを認定するに十分である。このような事実関係の下においては、各新聞販売店は自己が新聞発行本社(及び統制時代には統制団体)と契約により地域を定めるにあたつては、自己がその地域内においてのみ販売し得ると同様に、他の販売店が契約によつて定める地域においては他の販売店はそこにおいてのみ事業活動を行うものであることを予期し、それによつてのみ自己の地位も保証されるものであることを相互に認識していることはみやすいところである。かくして締結される各個の契約が相集つて新聞販売の取引分野を細分された地域に分割し、各地域に一販売店をおき、各販売店は互いに自己の地域内において排他的な地位を得るとともに他の地域においては事業活動を行わないとの制限を課している一の事業形態をもたらし、ここに地域は一の地盤割となるのである。各新聞発行本社及び各新聞販売店がこの事業形態の内容を知悉しつつ一致した行動をもつてこのやり方に従つていることは前記各証拠上明らかであるから、少くとも昭和二十三年四月頃以来東京都内において原告らの間に暗黙に新聞販売店の新聞販売についての地域協定が形成されているものと認めるのを妨げない。原告ら新聞発行本社の引用する審判手続における参考人鈴木勝雄、同斎藤栄一、同津田辰造、同清水末雄、同野口義造、同大宮伍三郎、同窪川雪夫、被審人田島正義、同野村安太郎の陳述部分によつても右認定は左右されない。

原告らは新聞販売店の販売をなすべき地域は、新聞販売店の責任配達区域であり、また戸別配達制から生ずる時間及び労力の制約から当然に生ずるものであると主張するけれども、新聞販売店に対し一定地域内に新聞を配達する義務を課することは、当然には他の地域への配達を制限することとはならず、一定地域においてこれに新聞を配達する義務を負う販売店と、他の地域についてその義務を有しつつ右の地域においても新聞の販売をし得る販売店とが競合することはあり得ることであり、地域が責任配達区の意味を有することと本件のような地域制限とは区別しなければならないものであり、また地域の広狭は後述のとおりむしろこの種事業に投ずる資本の多少と経営規模の大小によるものというべく、新聞の戸別配達制が当然に地域の制限を生みだすとの所論には賛成することができない。

しからば審決の認定した前記事実に関する限りこれを立証する実質的な証拠があるものということができる。原告ら新聞発行本社のこの点の所論は失当である。

三、審決の法の適用が不当であるとの主張について。

審決は前段に示した事実に対し、原告らが相互に協定して各新聞販売店の販売をなすべき地域を定めているものとし、独占禁止法第四条第一項第三号にいわゆる「共同して販路又は顧客を制限する」ことに該当するものとしている。

しかしながらここに形成される地域協定は、各新聞販売店間における新聞販売の地域すなわちその販路及び顧客の制限を内容とするものであることは明らかであり、審決認定の趣旨もここにある。この協定は各新聞販売店が各新聞発行本社との間に結ぶ個々の契約関係を楔機として形成されるものであることは前記のところからおのずから明らかであるが、ここに形成される共同行為の本質はあくまで新聞販売店相互の事業活動の制限であつて、それ以外の何物でもない。この点について各新聞発行本社が地域協定に関与した事実を認め得るけれども、それは協定形式の楔機たるの意味を有するに止まり、それ自体各新聞発行本社相互間の地域協定と認めるべきものはない。なんとなれば、各新聞発行本社は各地域については一新聞販売店に新聞を販売するけれども、この各地域は東京都内はもとより全国すべての地域に亘つてまんべんなく定められているのであるから、これを全体として見れば、各新聞発行本社の販売の面において何の地域の制限をも内容とするものではないからである。

独占禁止法第四条にいわゆる共同行為は、事業者が共同して同条第一項各号の行為をすることをいうのであるが、同法は私的独占、不当な取引制限及び不公正な競争方法を禁止し、事業活動の不当な拘束を排除することにより、公正自由な競争を促進することを目的としているのであつて、不当な取引制限は『事業者が他の事業者と共同して相互にその事業活動を拘束し又は遂行することにより公共の利益に反して一定の取引分野における競争を実質的に制限する』ことを内容とするものであるところ、右の共同行為はそれ自体かかる不当な取引制限に進むおそれのある行為として、すでにその段階においてこれを禁止するものである。共同行為と不当な取引制限とはその程度段階において差異はあるけれどもその行為の本質は同一に帰着すべきものである。この点から考えてここにいう事業者とは法律の規定の文言の上ではなんらの限定はないけれども、相互に競争関係にある独立の事業者と解するのを相当とする。共同行為はかかる事業者が共同して相互に一定の制限を課し、その自由な事業活動を拘束するところに成立するものであつて、その各当事者に一定の事業活動の制限を共通に設定することを本質とするものである。従つて当事者の一方だけにその制限を課するような行為は、その事情によつて私的独占又は不公正な競争方法にあたる場合があるとしても、ここにいう共同行為にはあてはまらない。また一群の事業者が相集つて契約協定等の方法によつて事業活動に一定の制限を設定する場合であつて、その中に異種又は取引段階を異にする事業者を含む場合においても、これらの者のうち自己の事業活動の制限を共通に受ける者の間にのみ共同行為が成立するものといわなければならない。

競争関係にある数個の独立の事業者が相互に自己の事業活動に共通の制限を設定してこの共同行為を成立させるについては、往々にしてこの共同行為者たる事業者以外の者が指導、介入、助成等の方法によつてこれに加功することがあり得る。しかしこれらの競争関係にも立たず或いは共通に事業活動の制限をも受けない単なる加功者は、それが何等かの事業をなす者であると否と、個人であると否と、またそれを自己の名においてあるいは自己の計算においてすると否とを問わず、すべてここにいう共同行為者あるいは事業者にあてはまらないものと解すべきである。論者あるいは、共同行為は公正取引委員会により排除措置の対象となる外それ自体犯罪でもあるのであるが、犯罪としての共同行為については、刑法上いわゆる共同正犯のみに限らず、教唆、幇助等の方法によつて、競争事業者以外の者がこれに加功した場合も、身分なき者の加功としてなおその刑事責任を免るべきものでないのであるから、排除措置の対象としての共同行為についても、同様に考えるべきものであるというかも知れない。しかしながら排除措置の対象となるべき共同行為と犯罪たるべき共同行為とは、その内容範囲において一致すべきものであるから、犯罪としての共同行為には加功者としての地位をもち、排除措置の対象としての共同行為には自ら当事者たる地位をもつとすることはむじゆんというべきであり、違反行為の当事者以外の加功者に対してまで当然排除措置を命じ得るとする明文はないのである。共同行為を排除するためには、かかる加功者をもまた共同行為の当事者に数え、又は少くとも加功者として排除措置を命じ得ると解することは、たんにそうすることが便宜であるというに止まり、法律上の根拠を見出すことはできない。しかのみならず、排除措置を命ずる必要の点から見ても、かかる加功者の行為はそれ自体刑法及び独占禁止法上の犯罪たるべきものであり、強行法規違反の行為として私法上もその効力を否定せらるべきものであるから、共同行為の当事者は、これら加功者との間の関係には法律上なんら拘束せられることなく、排除のために命ぜられた措置をとり得るものであり、かつそれをもつて足りるものというべきである。従つて当事者以外の加功者をもその対象とするのでなければ排除措置の実効を期待し得ないものともいい得ないのである。

本件において各新聞発行本社は前記のとおり新聞の発行及び販売を業とする者ではあるが、読者の求めによつて例外的にこれに郵送して販売する場合の外は自ら直接には販売せず、単に新聞販売店にこれを販売し、各新聞販売店はこの買受けた新聞を自ら読者に配達して販売するものであつて、この点においては両者の事業活動はその面を異にするのであるから両者が互いに競争関係にあるものとは解し難い(右郵送による場合はその範囲で両者間に現実の競争関係を生じ、また新聞発行本社はなんどきでもいわゆる直売をもし得るとするならば両者は潜在的競争関係にあるものといい得るのであるが、これらの関係は本件では問題ではなく、販売店の地域の協定という事柄自体に即して競争関係の有無を判定すべきものであることは当然である)。この意味においては原告ら新聞販売店を含む東京都内約四百三十の各新聞販売店が、それぞれ近接の販売店相互間に本来競争を生ずべきものであり、これによつて連鎖的に競争関係に立つ同種の事業者であることは言をまたないところである。従つてここに認定される地域協定の当事者は各新聞販売店であるといわなければならない。各新聞発行本社はこの地域協定を是認し、指導し、自らこの事業形態にそつて行動しているのではあるけれども、これは共同行為に加功しているというに止まり、その当事者であるとすることはできない。このことは各新聞販売店があらかじめ各自の販路顧客の制限を内容として新聞販売をするべき地域を協定し、これに則つて各新聞発行本社とそれぞれ個々の契約をする場合のことを考えればおのずから明瞭であつて、これと本件とは単に各新聞発行本社の右協定に関与する程度及び態様を異にするに止まり、その本質はなんら変るところはないのである。

もつともこういつたからといつて、本件における原告ら新聞発行本社の行為は、共同行為に対する身分なきものの加功としての意味を有するに止まり、それ以外にはなんら独占禁止法の禁止に違反しないというのではない。もし原告ら新聞発行本社が共同して一地域に一販売店の外他の販売店を認めないこととするならば、この点において販売店という顧客を制限することになり、いわゆる販売カルテルにおける指定販売人制の一種に転化するおそれもないことはなく、また各新聞発行本社が相手方たる新聞販売店とその競争者たる他の販売店間の競争をさけるため、販売店相互間に地域協定を結ぶことを条件として新聞販売の取引をするものであれば、それは不公正な競争方法たることを免れない(同法第二条第六項第六号)けれども、これらの点はすべて本件において審判開始決定以来なんら審判の対象とされていないのであつて、かような事実を確定し排除措置を命ずるには別の手続を要することはいうまでもない。

然らば原告ら新聞発行本社をも本件共同行為の当事者とし、この点に関する事柄の意味を区別せず、ひとーく独占禁止法第四条第一項第三号を適用し、原告ら新聞発行本社に対して審判手続を行い、これにその行為の排除措置を命じた審決は、原告らの主張の他の点について判断するまでもなく失当といわなければならない。すなわち被告のした審決は原告ら新聞発行本社に関する限り取消を免れない。

第二、原告ら新聞販売Xの主張に対する判断。

一、審決の基礎となつた事実を立証する実質的な証拠がないとの主張について。

(1)原告ら新聞販売店は本件地域協定を暗黙に協定したことはなく、この点については実質的な証拠がないと主張するけれども、すでに原告ら新聞発行本社の主張に対する判断において示したとおりであつて、原告ら新聞販売店を含む東京都内の新聞販売店相互間に新聞販売の販路及び顧客の制限を内容とする本件地域協定が暗黙に形成されたことはこれを認めるに足り、原告ら新聞販売店引用の審判手続における各参考人被審人の陳述部分をもつてしても右認定を左右するに足りず、結局この点については被告の認定は実質的な証拠があるものというべきである。

(2)原告らは新聞販売店の販売をするべき地域は新聞の戸別配達制及び合売制によつて必然的に生じかつ各販売店と新聞発行本社との契約により定まるのであつて、決して販売店相互間の人為的協定の結果ではないと主張する。現在わが国において新聞販売店の営む新聞の販売形態が原則としていわゆる戸別配達の方法によるものであることは公知の事実であり、原告ら新聞販売店もその例外ではなく、ニュースの供給を本質とする新聞の配達が自然正確迅速を要請されることも当然であり、また新聞販売業が営業としてなされる以上採算を無視することを得ないことも明らかであるが、一販売店の事業範囲としての地域の広狭は主として、この種事業に投ずる資本の多少と経営規模の大小によるものであつて、新聞の戸別配達制が当然に地域の制限を生み出すものとはいうことができない。また新聞の合売制の利点は、読者が一の販売店からその好む数種の新聞の購読を自由に受け得られる点にあるのであるが、この合売制が当然地域の制限を来すものと解することも正当ではない。合売制の下においても地域の制限を必ずしも必要としないことは、同一地域の需要者を対象として同種商品を販売する事業者が多数存在することがなんら異とするに足りない事例からも明らかであつて、新聞の販売のみこの例外であるとするのは原告らの故なき独断である。同一地域の読者を対象として数個の販売店がこれを自己の顧客に獲得するために競争することは競争の本来の姿であつて、かくしてこそ新聞販売の面における自由な競争が維持されることになるのであり、独占禁止法も正にこれを目的としているのである。かかる競争が必然的に不公正な競争方法に導くとは断定し難いところであり、もし勢の赴くところ不公正な競争方法をとる者があるならば、それはそれとしてこの法律によつて禁ぜらるべきものであり、そのことの故に競争そのものをも否定すべき理由はないのである。各新聞発行本社が合売制の故にかかる販売店相互間の競争について関心をもたず、かえつてかかる競争のないことを望むとしても、これはたまたまそうしているというに止まり、制度の本質に由来するのではない。各新聞発行本社にとつては紙数の許す限り多数の読者を獲得することこそその本来の利益となるのであつて、もし販売店間の自由競争の結果読者に対するサービスが改善されひいて自己の新聞に対する需要が増大すれば、このことに利益を感ずべきことはみやすい道理である。またもし新聞発行本社が相手方たる販売店とその競争者たる他の販売店との間の競争廃止を望んで、この間に地域協定を結ぶことを条件とするならば、それ自体不公正な競争方法として禁止さるべきものであることは前述したところである。しかして各販売店の地域が直接には販売店と発行本社との個別の契約によつて定まるものであることは原告ら主張のとおりであるけれども、これを契機として各販売店間に暗黙に地域に関する協定が形成されるものと認めるべきことはさきに評論したとおりである。この点に関する原告らの主張は理由がない。

二、審決の法の適用は不当であるとの点について。

審決は原告ら新聞発行本社及び原告らを含む新聞販売店のすべてをもつて地域協定という共同行為の当事者とし、この全員につき独占禁止法第四条第一項第三号に該当するとしたものであるがこのうち新聞発行本社を当事者とすることは誤りであること前述のとおりであるけれども、その余の原告ら新聞販売店に対する関係においてはなんらその法の適用は不当ではないのである。原告らは、本件はなんら公共の利益に反するものではないから、同条第二項にいうところの一定の取引分野における競争に対する当該共同行為の影響が問題とする程度に至らないものとして本来不問に付せられるべきものであると主張する。しかしながら新聞販売店の地域協定の結果東京都内の新聞販売の取引分野における販売店相互間には全く競争が存しないこととなるのであつて、決して当該共同行為の影響が問題とする程度に至らない場合ではないことは自明であり、原告ら新聞販売店の行為が公共の利益に反しないとの理由をもつて、本社が同条第二項の場合に該当すると主張するのは失当である。しかのみならず本件地域協定の結果、この地域の新聞読者は好むと好まざるとに拘らず、当該地域の一定の販売店から新聞を購読するの外はなく、読者の販売店選択の自由は全く失われ、これによつて販売店の読者に対するサービスの改善の望み難いことはおのずから明らかであるから、原告らの行為が公共の利益に反しないとすることはできない。戸別配達の制度の下におけるサービスは必ずしも多いとはいえない。それは毎日適時に確実に新聞を配達するということに尽きるといつても差支えはなかろう。しかもこの程度の内容のサービスであつてもそれが完全に行われることはなかなかむづかしいことはむしろ公知の事実である。原告らは現在この地域協定の下における新聞販売は一般消費者たる読者に対して多大の利便を与えているものであつて、右の如き読者の販売店選択の自由を奪うことは、この一般の利便の前に問題とするに足らないと主張するけれども、原告ら主張の利便が決して地域協定そのものの与える利便ではないことは少しく事態を分析すれば直ちに判明することである。なお原告らは審判手続において地域を撤廃するときは新聞販売に関する無軌道な競争が行われ、その結果配達費、拡張費、宣伝費等の増大により販売店の経営は破綻に瀕するのみでなく、読者の争奪戦は激化して遂には押売等の不公正競争方法に発展する危険性があり、かつ遠隔の地には配達の放棄が行われる等種々の弊害を生ずるおそれがあると主張しているが、これは必ずしも地域協定撤廃の結果とは解し難いのみでなく、自由競争のあるところ優勝劣敗の分れることは免れ難い数であり、販売店の経営が存立するか否かはもつぱら市場の法則に委すべきものである。かかる事態をさけんがために人為的な競争制限を行うことは本来独占禁止法の許さないところなのである。原告らの援用する名古屋地区における事態については、被告は著しくその意味を異にするものとして争うところであつて、直ちにもつて原告らの主張を正当とする資料となし得ない。審決がこの点に関する原告らの主張を排斥したのは相当であつて、原告らのこの点の攻撃は理由がない。

三、審決が主文において命じた排除措置は違法であるとの主張について。

この点の原告ら新聞販売店の主張するところはいずれも原告ら新聞発行本社のみに関することであつて、原告ら新聞販売店に関することではない。従つて原告ら新聞販売店においてこの違法を主張することはなんら法律上の利益がないのであるからその主張自体許されないものといわなければならない。しかのみならず、審決中原告ら新聞発行本社に対する部分は取消すべきものであること前示のとおりであるから、この点からもこの主張について判断する必要を認めない。

なおこの点に関連して附言するに、原告ら新聞販売店の地域協定が独占禁止法に違反し、原告ら新聞発行本社がこの地域協定に関与することは共同行為の加功として刑罰法規上違法たることを免れ得ないことは前示のとおりである。従つて現在のような契約関係は法律上有効にその効力を主張し得ないものというべく、原告ら新聞発行本社がこの判決のため審決を免れたとしても、各販売店としては自ら審決の命ずるところに従い協定破棄の措置を講ずべきものであり、その必要な限り各発行本社との契約に従う義務はなく、また審判手続において被審人とされなかつた東京都内の他の新聞販売店との関係においてもその地域の制限に従う義務のないことは当然であつて、その意味においては本件審決は決して不可分のものということはできず、原告ら新聞販売店のみでは本件協定を排除することができないものと解すべき理由はない。

四、審決の基礎となつた事実が変更したから審決は取り消されるべきであるとの主張について。

原告ら新聞販売店は、本件審決後昭和二十七年十二月一日から原告ら新聞発行本社のうち原告株式会社朝日新聞社、同株式会社毎日新聞社、同株式会社読売新聞社により新聞の販売につきいわゆる専売制が実施され、その結果として審決の基礎となつた事実が変更し、今日においては審決を維持することは不当で、公共の利益に反することとなつたから、審決は取り消されるべきものであると主張する。思うに独占禁止法は、同法に違反する事業者に対し、審決をもつてその違反事実を認定し、違反行為の排除措置を命ずる任務は、その事柄の複雑特殊な性格にかんがみ、これを当該部門の知識経験に富んだ専門家によつて構成される公正取引委員会にまかせている。委員会の認定する事実は審決の時までに生じた事実であることは事の性質上当然であつて、委員会はこの事実に法を適用し、必要な排除措置を命ずるのである。この審決に対する不服の訴においては、右委員会のした審決の当否が訴訟の対象となるのであり、裁判所は審決の基礎となつた事実を立証する実質的な証拠がないと認める場合もしくは審決が憲法その他の法令に違反すると認める場合に、審決を取り消すことができ、また審決の内容が憲法その他の法令の適用について独断に過ぎ又は不当であると認めるとき、これを変更することができるに過ぎない。従つてこれらの審査はすべて審決当時を基準としてなされ、審決後に生じた事実をもつて審決の当否を判断する資料とすることは、法の予想しないところである。すなわちいわゆる事後審的構造がこの訴訟の特徴である。なんとなれば、もし裁判所がこの審決後の事実にもとずき判断することを得るとするならば、先ずもつて自らその事実の認定をすべきものであり、そのためには原則として証拠の取調をしなければならないことになるのであるが、この訴訟において裁判所が自ら証拠調をすることについて法はなんらの規定をも設けないのであるから、裁判所としてはあたらしい事実を認定しようがないものといわなければならないからである。あたらしい証拠の申出に関する同法第八十一条も審決認定の事実に対する関係証拠についての規定であることはその文理上自明である。殊に審決の基礎となつた事実はこれを立証する実質的な証拠があるときは裁判所を拘束するのであつて、このことは裁判所が自ら反対の事実を認定し得ないことを示すのみでなく、審決後に反対の事実の生じたことを認定することをも禁じたものと解するのでなければ無意味である。従つて裁判所が審決後の事実の変更にもとずいて審決を取り消し又は変更することはできないものと解すべきである。もし審決の基礎となつた事実が消滅し又は変更した場合には、公正取引委員会が当該審決を維持することが不当であつて、公共の利益に反すると認めて、さらに審判手続を経た上、審決をもつてこれを取り消し又は変更すればよいのである(同法第六十六条第二項)。原告ら新聞販売店のこの点の主張も理由がない。

五、あたらしい証拠の申出について。

原告らはあたらしい証拠として原告ら新聞販売店の地域及び営業状態の検証並びに原告ら各本人尋問の申出をしているところ、被告がこのような証拠を採用しなかつたことについて正当の理由がないことは明らかでないのみならず、原告ら新聞販売店の地域協定存否の認定に欠くべからざるものとも解せられないから、取調の必要はないものとしてその申出を却下すべきものである。

第三、結論

しからば被告のした審決中原告ら新聞発行本社に関する部分は違法であるから独占禁止法第八十二条第一項第二号に則りこれを取り消すべく、その余の原告ら新聞販売店については本訴請求はその理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十二条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 垂水克己 裁判官 藤江忠二郎 裁判官 浜田潔夫 裁判官 猪俣幸一 裁判官 浅沼武)

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