大判例

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東京高等裁判所 昭和27年(う)3236号 判決

控訴人 被告人 浅見初雄

弁護人 沢荘一

検察官 原長栄

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役壱年六月に処する。

但し本裁判確定の日より四年間右刑の執行を猶予する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は弁護人沢荘一作成の控訴趣意書記載の通りであるからこれを引用し、これに対し当裁判所は次のように判断する。

論旨第一点の第二について。

昭和二十七年六月二十六日に開かれた原審第一回公判期日における被告人の召喚及び弁護人に対する公判期日の通知が何時如何なる方法によつてなされたか記録上明らかでないことは所論の通りであるが、原審第一回公判調書によると同公判期日に被告人及び弁護人が出頭して公判が開かれ何等異議なく公判手続がなされたことが明らかであるから、被告人及び弁護人は書面又は口頭のいずれかによつて召喚又は通知を受け右公判期日を了知して出頭したものと認むべきである。惟うに刑事訴訟法第二百七十三条において「公判期日には、被告人を召喚しなければならない。公判期日は、これを検察官、弁護人及び補佐人に通知しなければならない。」と規定した趣旨は公判期日に出頭すべき裁判所の命令を被告人その他の訴訟関係人に了知せしめるためであつて、これらの手続の確実を期するため、送達吏員は書面を作り送達に関する事項を記載してこれを裁判所に提出することを要し(民事訴訟法第百十七条)また訴訟関係人その他の者に対し通知をした場合には、これを記録上明らかにしておかなければならない(刑事訴訟規則第二百九十八条第三項)のである。然るに本件記録を精査するも前記公判期日における被告人の召喚及び弁護人に対する公判期日の通知が、何時如何なる方法によつてなされたかを知る資料が全く存在しないから原審の右措置は刑事訴訟規則第二百九十八条第三項に違反するものというべきである。しかし冒頭説述の如く被告人及び弁護人は如何なる方法によつたかは別として右公判期日に出頭すべき裁判所の命令を予め了知しその公判期日に出頭して何等異議なく公判手続がなされておるのであるから右訴訟手続の違背は結局判決に影響を及ぼさなかつたものと認むべきである。次に本件追起訴状(昭和二十七年六月二十五日附)の謄本が原審第一回公判期日の前日たる昭和二十七年六月二十五日に被告人の在監する代用拘置所秩父地区警察署長に送達せられたことは記録に徴し明らかである。而して刑事訴訟法第二百七十五条刑事訴訟規則第百七十九条によれば第一回の公判期日の召喚は起訴状の謄本を被告人に送達すると同時又はその以後になすことを要し、又第一回の公判期日と被告人に対する召喚状の送達との間には地方裁判所においては少くとも五日の猶予期間を置かなければならないから、起訴状謄本の送達と第一回公判期日との間にもまた少くとも五日の猶予期間を置かなければならないこと勿論である。しかし原審第一回公判調書によると被告人及び弁護人は右公判期日に出頭し右猶予期間の不存置につき何等異議を述べた形跡が認められないからこの点に関する瑕疵は被告人の責問権の抛棄により治癒せられたものと解すべきである。

論旨はいずれも理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 小中公毅 判事 渡辺辰吉 判事 河原徳治)

控訴趣意

第一点原判決は其の訴訟手続に法令の違反があり、其の違反は判決に影響を及ぼすこと明かである。

第二、原審第一回公判は昭和二十七年六月二十六日開かれているが、この公判期日に対する被告人の召喚手続も、弁護人に対する通知もなされた形跡がない。尤も昭和二十七年六月二十日附秩父地区警察署長名義の請書(記録五丁)と題する書面には、一、起訴状謄本一通、同月二十五日附同名義の請書(別添記録)には一、追起訴状謄本一通と記されて居るけれども、期日に対する召喚状を請けた旨の記載はない。又同年六月二十三日附弁護人名義の請書と題する書面にも(記録八丁)一、国選弁護人選任命令謄本とあるけれども、期日通知を請けたか否かは記録上全く不明である。特に弁護人が口頭による期日通知を請けた場合は期日請書を差出すのが慣例であるから、この様な書面がない以上、口頭による通知を受けなかつたものというべく、況や書面による期日がなされた証拠は記録上全く存しない。これ明かに刑事訴訟法第二七三条に違反する。被告人弁護人共に第一回公判期日に出頭したことになつているが、いかにして之を知り出頭したのか記録上全く不明である。従つて何らかの方法で通知がなされたと仮定しても、刑事訴訟規則第二九八条第三項に違反していること明らかである。

而して刑事訴訟法第二七五条及び同規則第一七九条によれば、第一回公判期日の召喚状は起訴状謄本を被告人に送達すると同時か、又はそれ以後になすことを要すること及び第一回公判期日と被告人に対する召喚状の送達との間には少なくとも五日の猶予期間を置かなければならぬことになつて居り、従つて起訴状謄本の送達は第一回公判期日召喚状の送達より以前に又は之と同時になすことを要するから、起訴状謄本の送達と第一回公判期日との間にも亦五日の猶予期間を置かねばならぬことは勿論である。然るに本件追起訴状の送達は昭和二十七年六月二十五日になされて居り、原審第一回公判期日はすぐ其の翌日の六月二十六日に開かれているのであるから、第一回公判審理が少くとも追起訴の事実(判示第一ノ三乃至九、及び第二事実全部)については、刑事訴訟法の前示法条に違背してなされたことは明かである。

右の点に関する幾多の判例は右期間不存置の違法は公判廷で被告人が異議を述べた形跡がないから責問権の抛棄として右違法は治癒されるとなすか(代表的なもの、東京高裁十二刑、二五、一一、三〇判決特報十三号三三頁以下、旧刑訴の事案につき、最高判二三、四、二三集二巻四号四二二頁、最高判二三、一二、九集二巻十三号一、七二一頁、新刑訴の事案につき、最高判、二五、七、二〇集四巻八号一五〇〇頁)或は又後に権利防護の何らかの機会を与えて右手続上の欠陥を補正し得れば、結局、判決に影響を及ぼす違法とはなしがたい(東京高裁一刑、二五、七、三判決、新判例体系刑事法編2一二五頁)とするのであるが、前示各法条が、右諸判例の指摘する様に、猶予期間により被告人に準備期間を与え其の権利保護に遺憾なからしめる趣旨に外ならない以上、之を厳格に解すべきこと論を俟たぬ。法(規則を含む)は少くとも猶予期間として五日を必要と考えたればこそ、かく規定したるに拘らずこれを寛かに解し、被告人側が異議を述べた形跡が記録上存しないから、異議がなかつたものと推定し、責問権の抛棄として違法は治癒されたとなすは法の趣旨を没却するものというべきであつて、敢て違法な措置をとつたからにはそれにつき被告人側に異議がなかつたことを記録上明かにしておくべきであろう。然らざれば異議の有無は明かにされない。刑事訴訟規則第一七九条第三項がわざわざ設けられているのはこの趣旨と解すべきであつて、責問権の抛棄の趣旨にすぎないのならば、敢て明文を以て規定する要はない、解釈によつて補えると思われるからである。されば右判例に反対する次第である。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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