大判例

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東京高等裁判所 昭和28年(う)62号 判決

控訴人 被告人 岸田吉蔵

弁護人 高橋由太郎

検察官 曾我部正実

主文

本件控訴を棄却する。

理由

弁護人高橋由太郎の控訴趣意は同人作成名義の控訴趣意書と題する書面記載のとおりであるからこれをここに引用しこれに対し次の如く判断する。

第一点論旨は要するに本件訴訟条件たる品川税務署長紬山常男の告発書には被告人並びに告発事実の特定がないのに本件公訴を受理し漫然裁判したのは違法であるから原判決は破棄を免かれないというにある。よつて記録を調査するに、品川税務署長紬山常男作成名義の告発書と題する書面によると「左記の者酒税法犯則事件につき国税犯則取締法第十四条第二項により告発します」と記載されておるのみで所謂左記の者の氏名並びにその犯則事件の内容を記載した書面が編綴されておらないから完備した告発書でないことは所論のとおりである。尤も該書面は何等の異議もなく証拠調を終了しておることは記録に徴し明白であるが、告発書としては完備したものでない書面を宛もこれを完備した告発書の如く受理して証拠調を了しこれにより訴訟条件を具備するものとして審理判決した原審の訴訟手続は失当なるを免がれない。しかし当審において検事が提出し適法に取調をした告発状と題する書面の記載に徴すると本件に関してはその起訴前に品川税務署長紬山常男から適法な告発のあつたことを明認しうるのである。而してこの種訴訟条件たる告発は適法な告発手続さえあれば、告発書自体が記録中に編綴されていないからといつて、該告発に基いてなされた起訴並びに審理判決の効力を左右するものではない。従つて原審の訴訟手続に所論のような違法の廉なく、論旨は理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 坂間孝司 判事 鈴木勇 判事 堀義次)

控訴趣意

第一点原審大森簡易裁判所は不法に本件公訴を受理したものである。

1、本件酒税法違反事件は密造酒の譲渡行為を所罰したものであるが

2、大田区検察庁は昭和二十七年一月品川税務署長紬山常男が左記の者酒税法犯則事件につき告発したもので、左の者とは、告発訴外山岸博、細田実、山野正九郎、及本件岸田吉蔵と記したるものならむも前三名は犯則処分として各五万円の罰金に処せられ、罰金を納入済のもの、然るに本件岸田吉蔵は正式裁判を求めたるを以て大森簡易裁判所に係属したるもの。

3、本件告発書は単に左記の者として、犯人を特定して居ない。岸田吉蔵に対する告発であろうことは想像されるが適法の告発と云うことは出来ない。

4、然しながら大森簡易裁判所は本件告発書を法廷に顕出することなくして恰も被告が同意したる如く記録を作成して居る。即ち、該告発書が被告人を特定せざる以上本件訴訟条件は具備して居ない。その公訴を受理して漫然裁判することは違法である。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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