大判例

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東京高等裁判所 昭和28年(行ナ)24号 判決

原告 笠井正人

被告 特許庁長官

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、特許庁が同庁昭和二十六年抗告審判第一〇五〇号事件につき昭和二十八年七月三日なした審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、

(一)  原告は、「Nihon Shokai」の文字を別表表示の通りその表示の書体を以て記して成る商標につき、第十八類理化学、測定写真用の器械、器具、眼鏡の類、並びにその各部を指定商品とし昭和二十五年四月三日特許庁に対し商標登録出願をしたところ、昭和二十六年十二月二十日拒絶査定を受けたので、同月二十四日特許庁に対し抗告審判の請求をし、同事件は同庁昭和二十六年抗告審判第一〇五〇号事件として審理された上昭和二十八年七月三日右抗告審判請求は成り立たない旨の審決がなされ、右審決書謄本は同月十四日原告に送達された。

(二)  然しながら審決には次の通り審理不尽理由不備の点があつて失当である。即ち、

(イ)  審決はその理由の中で、「本願商標は一見して容易に商号の表示であることを聯想せしめるものである。一例として東京都電話番号簿五八七頁に掲載されている商号の略称から推して、これを全国的にみればありふれた商号の『日本商会』を普通に使用する表示方法の一態様である欧文字で表わしたものに過ぎない。」とし本願商標が商標法第一条第二項所定の特別顕著性を具備していないものとしている。原告は本願商標が商号に該当することは争わないけれども、商号を普通の態様で表示した文字が商標として登録され得ることは「三越」「高島屋」「伊勢丹」「とらや」「MEIDIYA」「MARUZEN」等の著名商号の商標既登録例が存し、商標法上疑を容れる余地のないところである。而して商標とは自己の営業に係る商品であることを表わす為の標章であるから、ある一つの商号を聯想させる文字商標がありふれた商号に該当する為に商品の出所を混同誤認させるか否かはその商品を取り扱う業界に於て、当該商号がありふれているか否かによつて決定すべきものであつて、審決の説くように同一商号がたまたま東京都電話番号簿に数個列記されているが故に直ちに日本国中にありふれた商号であつて、本願商標の指定商品を取り扱う業界にありふれているとすることは不当であつて、事実右電話番号簿に掲げられた日本商会は何れも本願商標の指定商品を取り扱つておらず、又右商品を取り扱う「日本商会」なる商号の業者は他に存しない。然るに審決が前記のような根拠に基ずいて本件商標登録出願を排斥したのは審理不尽の違法を行つたものである。

(ロ) 審決はその理由の末尾に於て「抗告審判請求人は登録第四〇〇四三七号商標の既登録例を挙げて主張するところがあるけれども、これは本件の審決をなすについての基準となすことを得ないものであるから、その主張はこれを採用しない。」と説いているけれども、原告が第六十六類商品を指定商品とする右登録第四〇〇四三七号商標「日本商会」を引用したのは「日本商会」なる標章が商号を聯想させるものではあるけれども、商標としての特別顕著性を具備していることの傍証として挙げたのであり、従つて審決のように「Nihon Shokai」なる文字標章が写真用の器械器具並びにその各部を指定商品とする商標として特別顕著性を具備しないとするには、右指定商品の出所につき誤認混同を生ずる恐れある理由を具体的に説明しなければならないのに、審決が何等右に対する判断をせずして原告の主張を排斥したのは審理不尽の違法を行つたものである。尚

指定商品第三十八類登録第二五一五三六号

同   第三十九類登録第二五六八一四号

同   第四十一類登録第二五一七七七号

同   第四十二類登録第二五四二三四号

同   第四十四類登録第二五二〇五七号

同   第四十五類登録第二五五五二四号

同   第四十六類登録第二四七四九九号

同   第四十七類登録第二五二七二一号

等の「日本屋」なる商標の既登録例が存するが、「日本屋」なる商標は「日本商会」以上に平俗な商号を聯想させるものであるに拘らず、右のような登録が許されているのは夫々その指定商品を扱う業界に於て自他商品の出所を甄別するに足る標識であるからであつて、之等の既登録例の存する事実によつても本願商標により商品の出所につき誤認混同を来す恐れがないものとしなければならない。

(三)  之を要するに本願商標は商標法第一条第二項所定の特別顕著性を具備しているに拘らず、審決が右特別顕著性がないものとして本件商標登録出願を排斥したのは不当であるから、原告はその取消を求める為本訴に及んだと述べた。(立証省略)

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として原告の請求原因事実中(一)の事実を認める。

「日本商会」なる商号が東京都電話番号簿(昭和二十七年十一月日本電信電話公社刊行)に数個掲載されている点から推して同商号が全国的にありふれた商号として普通に使用されていることが認められ、又同商号を単に欧文字を以て商品の生産、製造、加工、選択、証明、取扱又はその営業に係る商品の出所表示として使用することが商取引界に於て行われていることも経験則上明白なところである。従つて本願商標は之を一見すれば商号の表示であることが直感されるものであるから、このような商標が自他商品甄別の標識としての特別顕著性の要件を具備していないものとすべきことは商標法第八条第一項の規定上明らかであり、審決が本願商標が商標法第一条第二項所定の要件を具備しないものとしてその登録出願を拒絶したのは相当であつて、原告の本訴請求は失当であると述べた。(立証省略)

理由

原告の請求原因事実中(一)の事実は被告の認めるところである。別紙表示の本願商標を見るに、右商標は「日本商会」なる日本字をいわゆるイタリツク体のヘボン式ローマ字を横書して表わしたものであることが明らかであるところ右「日本商会」が世上普通に用いられる商号としてその類例の多くあり得ることは当裁判所に顕著なところであり、又之をあらわすに用いられた前記ローマ字の書体も普通に用いられるところであり、特に之が為世人の注意を惹くものとは認め難く、従つて本願商標は自他商品甄別の標識たるべき商標法第一条第二項所定の特別顕著性を具備していないものと解せざるを得ない。

原告はある商号を聯想させる文字商標がありふれた商号に該当する為に商品の出所を混同誤認させるか否かはその商品を取扱う業界に於て当該商号がありふれているか否かによつて決定すべきであるところ、本願商標の指定商品を取り扱う「日本商会」なる商号の業者は他に存しないから右商標は前記特別顕著性を有する旨主張するけれども、本願商標が前記の通り世上普通に存する商号として使用されるものである以上、原告主張のように右商標の指定商品を扱う業界に於て右商号が使用されていないとしても之が為に右商標が商標としての前記特別顕著性を具備するに至るものと解すべき何等の根拠も見出し難いから、原告の右主張は之を認容することができない。

尚原告はその主張の裏付けとして「日本商会」及び「日本屋」なる商標の既登録例を援用しているけれども、之等の登録例があるが故に本願商標に前記特別顕著性があるとすることはできない。

然らば審決が本願商標を以て右特別顕著のないものとして本件登録出願を拒否したのは相当であつて、本訴請求は失当であるから民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決した。

(裁判官 小堀保 原増司 高井常太郎)

(別表省略)

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