大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

東京高等裁判所 昭和29年(う)2927号 判決

控訴人 原審検察官 原審弁護人 三名

被告人 斎藤栄治 外五名

弁護人 笈川義雄 外一名

検察官 小西太郎

主文

原判決を破棄する。

被告人斎藤栄治を懲役四月及び罰金八万円に

被告人吉田定吉を懲役三月及び罰金三万円に

被告人島村泰雄を罰金八万円に

被告人相関半左衛門を罰金八万円に

被告人福地藤一を罰金八万円に

被告人渡辺豊四郎を罰金三万円に

各処する。

右被告人等において右各罰金を完納することができないときは金二百円を一日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。

被告人斎藤栄治、同吉田定吉に対しては本裁判確定の日から三年間それぞれ右懲役刑の執行を猶予する。

原審における訴訟費用は被告人等と原審相被告人森下繁次郎、同斎藤清吉、同斎藤ハツの連帯負担とする。

被告人斎藤栄治、同吉田定吉、同島村泰雄、同相関半左衛門、同渡辺豊四郎の本件控訴はいづれもこれを棄却する。

理由

本件控訴の趣意は末尾に添附した、宇都宮地方検察庁足利支部検事吉積春雄名義の控訴趣意書謄本、被告人斎藤栄治、同吉田定吉、同相関半左衛門、同渡辺豊四郎の弁護人笈川義雄並に被告人吉田定吉、同島村泰雄の弁護人岩村隆弘の各控訴趣意書記載の通りである。これに対し当裁判所は次の通り判断する。

被告人斎藤栄治、同吉田定吉、同相関半左衛門、同渡辺豊四郎の弁護人笈川義雄の控訴趣意第一、の一、二点、及び被告人吉田定吉、同島村泰雄の控訴趣意第一点について。

食糧管理法は国民食糧の確保及び国民経済の安定を図るため食糧を管理しその需給及び価格の調整並に配給の統制を行うことを目的とするものであり(同法第一条)、同法第二条が本法において主要食糧とは米穀、大麦、裸麦、小麦その他政令を以て定むる食糧を謂うと規定し、同法施行令第一条は一、米穀粉、二、小麦、三、小麦粉を主たる原料として製造したパン類、四、米穀粉又は小麦粉を主たる原料として製造しためん類、五、もち、六、米飯(かゆその他これに類するものを含む。以下同じ)、七、米穀又は米穀粉を主たる原料として製造した加工品であつて農林大臣の指定するもの(昭和二六年六月三〇日農林省告示第二四四号、昭和二七年五月三一日農林省告示第二三八号により、白玉粉、アルフア化米粉、みじん粉が指定されている)、八、輸入された澱粉類を同法第二条の規定による主要食糧と規定し、同法並にその附属法令が米穀、その穀粉、及び穀粉を原料とする加工品に至るまで主要食糧として規制しようとしていることから考えると、同法第二条にいわゆる米穀とは、その形状並に品質において一般通念上米穀と称し得られ、米穀である実質を有するものは、品質の良否を問わずこれにあたるものであり、これにあたる限り同法の規定が適用され、只屑又は砕の米穀について同法第二九条第二項に依り特例が規定されているものと解するを相当とするのである。従つて被告人等の売渡し、又は買受けた本件粳外米が所論のように昭和二八年七月五日東京港に入港した山彦丸によつてビルマから輸入された外米のうち、その荷揚に際し船内その他にこぼれ落ちたものを集めた俗に荷粉米と称するものであるとしても、原判決の引用する証拠によると、本件粳外米は一般消費者に対する配給用に充てらるべき正米である粳外米に比すればその品質は粗悪であつたが、荷粉米としては上の部類に属し、その形状品質共に米穀と称し得られ、米穀である実質を有し、砂通し、水洗等の処理をした後、粉化して煎餅に加工販売されたことを認めることができるし、又原判決の引用する原審証人松元威雄、同初見宗一、同設楽一夫、同石沢徹男、同芹沢実、同森山祝典の各尋問調書によると右の荷粉米と称するものは、正米である粳外米と品質を異にするためこれと同一方法により配給又は価格決定がされるものではないが、食糧管理法並にその附属法令に基き主として指名競争入札の方法により特定の用途に使用する実需者に政府から売渡されているものであることを認められるのであるから、本件粳外米は荷粉米であることにかかわりなく食糧管理法第二条にいわゆる米穀にあたるものというべきものであり、これについて同法第二九条第二項に依る特例の適用の認められない本件において同法の規定が適用されるべきことは当然である。しこうして原審第五回公判調書によると被告人等の原審弁護人は同公判期日において被告人等の売渡し、又は買受けた本件粳外米は荷粉米と称するものであるから食糧管理法第二条にいわゆる主要食糧に該当せず、被告人等の所為が同法違反罪を構成しない旨を主張したことを認めることができるのであるが、かかる主張は犯罪事実の否認に外ならないものであり、刑事訴訟法第三三五条第二項に依り判決中に判断を示すことを要する事実上の主張に該当しないものであるのみならず、原判決は原審弁護人等の右の主張に対し判断を示していることは判文上明らかであるから、原判決には所論のような理由の不備はない。しからば原判決が被告人等の本件粳外米の売渡し、又は買受けの所為に対し食糧管理法の規定を適用処断していることは相当であり、原判決には所論のような法令適用の誤、事実誤認、又は理由不備の違法はないから、論旨はいづれも理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 近薬隆蔵 判事 吉田作穂 判事 下関忠義)

弁護人笈川義雄の控訴趣意

第一、一点、本件第一審に於て食糧管理法の対象となるものは食糧管理法一条の精神に則り、実質知に観察して「主要食糧」の観念に入れるかどうかを決すべきであつて、所謂荷粉米は既に荷粉米である限りに於いて主要食糧としての構成要件を欠くに至つているものである事を述べた。即ち証人、松元、初見、設楽、吉沢の証言及び一審弁論要旨に挙示の松元、設楽検事調書に明かな通りである。この点に付いて事実の誤認があり為に主要食糧としての実質を備へた屑、砕米と同視し事実認定をしたのであつて、判決に影響を及ぼす事明かなのである。更に一審弁論に於いて構成要件を欠く旨を力説したのに拘らず刑事訴訟法三三五条二項に則り示すべき理由を示さない事は刑事訴訟法三七八条四号に当る事となるのである。

二点、判示は「食糧管理法二九条二項の場合には同法の適用を除外する」というが、果して然らば記録三二五丁、東京食糧事務所より足利区検に「荷粉米の処理について」の書面中「処理方法としては、一般競争指名入札又は随意契約の何れに依るかも決定し、売却物件の公表通知を行い、入札又は随意契約に依り処理する」とある。然らば之が法律上許されないのであるならば実に国家が食糧管理法違反の行為をなしている事になるのではないか。(弁護側提出の証拠参照)即ち国家は荷粉米について価格及びルートについて放任するという処置乃至指定を政策上執つている為、会計法に則り通常の他の国家所有物資を処理すると同様に扱つているのである。斯くて荷粉米については、統制の型態であるトール並びに価格についての規制がないのであつて遂に食糧管理法及び施行規則等のその適用がないのである。(第一審弁論要旨記載の第一、第二を援用する)即ち原審判決荷粉米についての法令の適用に誤りがあつてその誤りは勿論判決に影響を及ぼす事が明かである。

被告人吉田定吉、島村泰雄の控訴趣意

第一点、原判決はその理由において、法定の除外事由がないのに拘らず被告人吉田定吉、同島村泰雄は共謀の上、(1) 昭和二十八年七月下旬頃前記被告人吉田定吉方に於て相関半左エ門に対し前同外米五四九〇瓩を代金三十一万二千九百三十円にて売渡し、(2) 同年八月下旬頃東京都江東区深川佐賀町一丁目三〇番地渡辺豊四郎方店舗に於て同人に対し同外米二〇二五瓩を代金十一万九千四百七十五円にて売渡し、と事実を認定し右被告人等両名に食糧管理法違反の行為ありと為してをる。即ち原判決は、本件において取引された外米が食糧管理法に該当するところの米穀であるとの判断に基き、被告人等の行為を有罪として処断しておるのである。

二、其処で本件において取引された外米なるものの実体について考察するに、右外米は、昭和二十八年七月五日東京港に入港した山彦丸によつて、ビルマから輸入された東西交易株式会社扱の外米のうち、その荷揚にあたり船内その他にこぼれ落ちたものを集めたものであつて、為に石炭がらや石、砂等の混入した食用として供し得ない所謂荷粉米と称するものであるとは原審記録に照らして明白である。

三、さて食糧管理法第一条によると同法は、「国民食糧の確保及国民経済の安定を図る為食糧を管理し具の需給及価格の調整竝に配給の統制を行うこと」を目的としてをり、又同法第二条によると「本法に於て主要食糧とは米穀、大麦、[禾果]麦、小麦其の他政令を以て定むる食糧謂ふ」と規定されてをる。そうすると食糧管理法は国民の食糧として供しうる主要食糧の管理即ちその需給及び価格の統制を企図し、主要食糧の確保、配給並びにその際の価格の統制を附随法規と共に詳細に規定してをることが明らかである。従つて、大別するならば食糧管理法は主要食糧のルート即ち需給の調整と価格の規正を目的としてをるのであるから、主要食糧として規定されるものに該当しても万一食糧管理法及びその附随法規によつて規定されるルート以外において処理され、且つ同法によつて価格が規定されないものがあるとすれば、そのものは即ち食糧管理法に該当しないものと言わざるを得ないわけである。再言すれば、食糧管理法並びに同法に基く附随法規は、主要食糧例へば米穀について言へば米穀の買上げ、その配給及び買上価格、配給価格について詳細な視定を設け、万一米穀の買上及び配給を阻害したり或いはその規定する価格に違反する如き行為があれば、之れを処罰して同法の目的達成を企図してをるのであるから、所謂食糧管理法違反の行為とはルートの違反と価格の違反との二つ以外には無いこととなるのである。よつて米穀と名付けられるものであつても前述の如く食糧管理方の規定するルートの適用を受けず且つ同法によつて価格が規定されないものがあるならば之れは当然食糧管理法の適用を受けないものであり従つてまたかかるものを譲渡又は売渡す等しても当然食糧管理法違反として目さるべきものないこ明白である。

四、本件取引の対象となつた米穀が石炭石砂等の狭雑した食用に供し得ない所謂荷粉米であることは前述したとおり明らかである。右荷粉米なるものは輸入外米の荷揚げに際してこぼれたものを寄せ集め、可能な限りその良いものを食用に供すべき正米に廻わし、どうしても食用に供しないものと認められたものを言うのであり、それがどの様にして処置されるかは原審証人松元威雄等の証言によつて明らかなとおりである。即ち厳重な検査を受けて荷粉米と認定されたものは各食糧事務所において一定の業者に入札によつて払下げられる。その入札の方法も指名競争入札の場合もあり或いは随意契約によつて払下げられることもあるわけである。従つて価格もその時々によつて異り一定してをらないわけである。他方食糧管理法及び同法に基く附随法規を詳細に検討するも、第一荷粉米なるものに就いての規定はなく又石の如き払下方法についての規定もない。即ち所謂荷粉米なるものについては食糧管理法等に於いてその価格の規定もルートの規定も何等存在しないのである。換言すれば、荷粉米はその一粒ずつは確かに米穀ではあるが、その価格もそのルートも何等食糧管理法に於いて規定されてをらず従つて食糧管理法が予想していない米穀であるから同法の適用外のものであるといわざるを得ないこと明白である。では右払下行為は何に因るものかというに結局国有財産の一処分として会計法第二十九条によつて処置されてをるものであることが明白である。

五、以上要するに本件の外米は食用としてそれ自体供し得ない所謂荷粉米であり、その価格は勿論その処置方法において全く食糧管理法の適用なく従つて同法の対象とならぬものである。然るに原審が之れを看過して食糧管理法の適用あるものとして被告人等の売渡行為を食糧管理法違反と認定したのは所詮食糧管理法の解釈を誤り適用すべからざる法令を適用したものと言うべく、原判決は破棄され、被告人等に無罪の判決あつて然るべきものと信ずる。

(その他の控訴趣意は省略する。)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com