大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

東京高等裁判所 昭和29年(う)3549号 判決

控訴人 被告人及び原審弁護人

被告人 長谷川武一郎 外一名

弁護人 岸達也 外二名

検察官 田辺緑朗

主文

原判決中被告人等に対する有罪部分を破棄する。

被告人両名を各懲役壱年及び罰金弍拾万円に処する。

但しこの裁判確定の日からいずれも参年間右懲役刑の執行を猶予する。

右罰金を完納することができないときは金千円を壱日に換算した期間当該被告人を労役場に留置する。原審における訴訟費用中証人亀井由造、同本多勇、同飯島賢隆、同斎藤七次郎、同高橋彦秀、同長谷川要次郎、同玉木清一、同近藤義雄に対し支給した分を除きその余は被告人両名及び原審相被告人田口隆治の連帯負担とし、当審における訴訟費用は被告人両名の連帯負担とする。

理由

本件控訴の趣意は被告人両名の弁護人岸達也、元田弥三郎、松島政義連名提出の控訴趣意書並びに弁護人松島政義提出の追加控訴趣意書に記載されたとおりであるから、いずれもここにこれを引用しこれに対し次のように判断する。

弁護人岸達也外二名連名の控訴趣意第四点について

本件起訴状と原判決の判示第二の(二)の番号(8) (9) の被害者の氏名が相違していることは所論のとおりであるが、右起訴状によれば被告人等は判示各金員を宮村乙松名義で宮村長松より騙取したとあるのに対し、原判決は宮村長松が前に明月倶楽部に預け金をし元利金の支払を受け被告人長谷川等を信頼しておるのに乗じ、情を知らない猪和祐をして右宮村長松に対し、前同様元利金を支払うように装わせ同人を散罔して同人の所持にかかる同人の兄宮村乙松所有の判示各金員を預り金名下に騙取したと云う事実を認定したものであつて、原判決挙示の証拠(但し証人宮村乙松とあるのは宮村長松の誤記と認める)によれば判決事実は優にこれを認めることができる。これによつて見れば被告人等の散罔行為により散罔された相手方は宮村長松であるが、これにより金員を騙取され財産上の損害をうけたのは宮村乙松であることが認められ、本件起訴は被欺罔者を詐欺罪の被害者としたのに対し原判決は金員の所有者を被害者としたものに外ならず被告人等が前記金員を騙取した具体的事実関係は両者全然同一であることが認められる。従つて右のように起訴状記載の被害者と被害者の氏名の認定を異にしたからと云つて公訴事実の同一性を害するものではないから、これを以て審判の請求を受けた事件につき判決をせず又は審判の請求をうけない事実につき判決をした違法があるとは云えない。又原審が右のように被害者の名を変更して認定するについて訴因の変更の手続を経なかつたとしてもこれを以て判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反にあたるものとも解せられない。

次に本件記録に徴するに「宮村乙松」の証人尋問調書は存在せず宮村乙松と宮村長松は別個の実在人であることは所論のとおりであるから、原判決が判示事実の証拠として宮村乙松の各証人尋問調書と表示したのは粗漏の譏を免れないが、判示事実と本件記録とを対照すれば右宮村乙松とあるのは宮村長松の誤記と認めるのが相当であつて、これを以て直ちに虚無の証拠を罪証に供した違法があるとは解せられない。故に論旨はすべて理由がない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 谷中董 判事 坂間孝司 判事 荒川省三)

弁護人岸達也外二名の控訴趣意

第四点原判決は審判の請求を受けた事件につき判決せず又審判の請求を受けない事件につき判決した違法がある。

原判示に依れば判示第二の(二)事実につき末尾に一覧表を添付して被害者を表示してあるその二の番号(8) 及(9) では新発田市宮村乙松から昭和廿六年一月十五日金五万円、同年三月一日頃金五万円を預り之を騙取したと認定し証拠として証人宮村乙松の尋問調書を引用して証明してある。然れども起訴状では被告人等は宮村乙松から金五万円宛二回騙取した事実を掲げてないから原判決は審判の請求を受けない事件につき判決したことになる。

飜つて起訴状(廿七年五月廿日付)を精査するに一覧表番号16、17に宮村長松から金五万円宛二回預り入れたる事実を起訴してあるが之に対しては判決なきが故に原判決は審判の請求を受けた事件を判決せぬ不法がある。或は乙松とあるは長松の誤記なりとして論旨を排斥せんとする嫌なきと雖宮村長松は水原町大字下条六七六番地に居住し本件につき検察官から証人として取調申請あつたこと証拠申請書にも其記載あり新発田裁判所に証人として出頭したのも長松で現存の人である。而して宮村乙松は長松の兄で新発田市に居住せる現存の人で乙松と同一人でないから誤記といふは当らぬ。而して記録中宮村長松の証人尋問調書存在すれども宮村乙松の証人尋問調書存在せぬから原判決は虚無の証拠を引用したことになる。尚本件詐欺罪は併合罪として起訴され原判決も亦併合罪と認めたから右は犯罪の一部として葬り去ること出来ぬことも明かであり故に原判決は破棄すべきものと思料す。

(その他の控訴趣意は省略する。)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com