大判例

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東京高等裁判所 昭和29年(ラ)120号 決定

抗告人 株式会社日清百貨店 代表取締役 大森勇

訴訟代理人 小原一雄

主文

本告抗告を棄却する。

理由

本件抗告の理由は、別紙記載のとおりで、当裁判所は、これについて次のように判断する。

一、本件記録によれば、抗告会社は昭和二十六年十一月二十四日、同年十一月十八日石渡清作、渡貫幾治が取締役に、山口敏夫が監査役に、また石渡清作が代表取締役にそれぞれ就任した旨の登記をなしたところ、訴外杉本哲哉は抗告会社を相手方として、右石渡清作等が選任せられたとする昭和二十六年十一月十八日の臨時株主総会は全然仮空のものであつて、招集、開催は勿論、右のような決議も行われたことはないと主張して、「被告会社の昭和二十六年十一月十八日開催の株主総会における取締役中島三芳、同杉本哲哉、同磯野正男の辞任を承認し、新取締役として石渡清作、渡貫成治、新監査役として山口敏夫を選任する旨の各決議は存在しないことを確認する。」との判決を求める訴を提起し、右申立と同一内容の判決を受け、これが確定したことを認めることができる。しかしながら、確定判決は、その当事者間においてのみ効力を有し、第三者に対してその効力の及ばないのを原則とするところ、前述の株主総会における取締役選任等の決議の存在しないことを確認する訴については、商法上会社合併無効の訴、設立無効の訴、設立取消の訴、総会の決議取消の訴、決議変更の訴及び決議の内容が法令又は定款に違反することを理由とする決議無効確認の訴等のように、判決が第三者に対してもその効力を有することを特に定めた規定が存在しないばかりでなく、右本件確認の訴がその性質上、判決の効力を、前述の訴訟法上の原則に反し、当然に第三者にまで及ぼさなければならないものとは解されない。

二、原決定全文を通読すれば、原裁判所は、前述のように、右判決の効力が当然第三者である平和相互銀行に及ばないことを判示した上、更に右確定判決正本が一つの文書として、抗告人主張のような取締役選任決議不存在の事実を疏明するに足る、いわゆる実質的証拠力を有するかどうかを説明するために、所論のように判示したものであることは明白である。

口頭弁論期日に当事者の一方が出頭せず、かつ相手方の主張した事実を明らかに争わなかつたため、裁判所が、相手方の主張した事実を右の当事者において自白したものとみなし、この事実に基いて判決をした場合、この判決の既判力、執行力がいわゆる対席判決と何等異なるものでないことはいうをまたないが右判決正本が、その事実の存在を証明する文書としては、極めて薄弱な証拠力を有するに過ぎないことは、顕著な事実であるから、原決定が所論のように判示したのは相当であつて、抗告理由二も採用することができない。

(裁判長判事 小堀保 判事 原増司 判事 高井常太郎)

抗告理由

一、抗告人の事実上ならびに法律上の主張は、原決定理由中の摘示ならびに昭和二十九年二月一日附抗告人提出の準備書面記載の通りである。

原審は抗告人の異議申立却下の理由として、「申立人の援用する確定判決は疎明(判決正本写)によれば、原告杉本哲哉、被告申立人間の訴訟事件の判決で、第三者である平和相互銀行に対し、既判力を及ぼさないものであるから、かような判決が確定したからとしても平和相互銀行に対し判決主文と異なる主張を許さないものとすることはできない。云々……。」と云う。勿論判決の既判力は原則として当事者のみに及ぶことは、既判力が訴訟上の効力であることにより明らかであるが、併し特別の事情と法規の存在するときは、既判力は或は凡ての第三者に及び又は前訴訟の当事者と特殊の関係にある第三者に対して及ぶことは人事訴訟法の各種の判決破産法第二五〇条の債権確定に関する訴訟の判決商法第一〇九条の合併を無効とする判決、同第一三六条の設立無効の判決、同第一四〇条の設立取消の判決、同第二四七条の決議取消の判決、民事訴訟法第二〇一条の既判力の範囲の規定に依りて明らかである。

而して、抗告人の援用する確定判決は、「被告会社の昭和二十六年十一月十八日開催の株主総会に於ける新取締役として石渡清作、渡貫成治、新監査役として山口敏夫を選任する旨の各決議は存在しないことを確認する。」とあり、若し前記原審決定の如く右判決の既判力が当事者以外の第三者に及ばぬとすれば、数千、数万の株主があるとき各株主は各々同一の訴訟を提起する必要に迫られその不可能なる事実を俟たざるのみならず若しその間矛盾せる裁判あるときは其混乱は到底収捨すべからざるものがある。即ち法はかかる混乱を避くるため前記破産法ならびに商法の各規定の如く関係者全部に対して判決の効力を及ぼす場合を規定したものであつて、抗告人の援用する前記総会決議不存在確認の判決も右規定の場合に準じ関係者全部にその効力あるものと解すべきものである。従つて原審が抗告人援用の前記判決が第三者である平和相互銀行に対し既判力を及ぼさないとする解釈は全然誤つている。さりとて原決定の趣旨が、「第三者である平和相互銀行に対抗することが出来ない。」というのであれば、更に抗告人提出の昭和二十九年二月一日附準備書面第二項記載の通りその理由なきこと又明白である。

二、次に原審は、「該判決の内容を検討するとそれはいわゆる欠席判決で被告である申立人の擬制自白にもとづきなされた判決であるから、取締役選任決議不存在の事実を疎明する資料としてもその疎明力が極めて薄弱なものであることが明らかである。」という。然し乍ら吾人は未だ曾つて確定判決以上に疎明力ある何物をも知らない。そもそも判決は欠席判決たると対席判決たるとを問わず。裁判官の絶対の権威と信念を以て言い渡されて居るものと信ずる。而して当該判決に敗訴した当事者も上訴を以て充分覆審を尽さしむる事を得るにかかわらず、事茲に出ず判決確定したりとせば毫もその責を他に帰することは出来ない。勿論裁判官が後日に至り、たとえそれが欠席判決であつたからとて徒らに対席判決と区別し、欠席当事者に同情し、当該確定判決の形式的確定力、既判力、証明力、疎明力を左右することは断じて許されない(本件判決の場合は被告株式会社日清百貨店代表取締役石渡清作が該判決に対し控訴を申立て東京高等裁判所にて審理中右会社の株主総会に於て右石渡清作は取締役解任となり新取締役大森勇に於て右控訴を取下げ第一審判決が確定したものである。)而して原決定は、「抗告人援用の前記判決が所謂欠席判決であるから其疎明力が極めて薄弱なり。」と断じ、抗告人の異議申立を排斥した。然し判決の疎明力に関する上記判断は裁判の権威と尊厳の為、又国民の判決に対する絶対の信頼を維持する為に余りにも乱暴千万であり、自己抹殺であると共に、超法律的不当不法の解釈である。

依つて抗告の趣旨記載の通りの御判決を求める為め右抗告に及んだ次第である。

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