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東京高等裁判所 昭和31年(ネ)1175号 判決

控訴人(附帯被控訴人) 祖浜キン

被控訴人(附帯控訴人) 王子信用金庫

主文

原判決中被控訴人敗訴の部分を除きその余を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

本件附帯控訴はこれを棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴(附帯被控訴)代理人は控訴につき主文第一、第二、第四項同旨の判決を求め、附帯控訴につき附帯控訴棄却の判決を求め、被控訴(附帯控訴)代理人は控訴につき控訴棄却の判決を求め、附帯控訴につき原判決を次のとおり変更する、東京地方裁判所昭和二十九年(ヌ)第二三四号建物強制競売事件の配当残金九二、〇七五円はこれを附帯控訴人と附帯被控訴人に附帯控訴人の債権を二六三、二八二円、附帯被控訴人の債権を二五〇、〇〇〇円として平等の割合をもつてその債権額に応じて配当する、附帯控訴費用は附帯被控訴人の負担とするとの判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の提出、援用、認否は、被控訴(附帯控訴)代理人において甲第四号証の一ないし四を提出し、控訴(附帯被控訴)代理人において右甲号証の成立を認めると述べたほか原判決事実らんの記載と同一であるからここにこれを引用する。

理由

控訴人(附帯被控訴人、以下たんに控訴人という)が訴外勝目寛所有の建物(東京都北区志茂町一丁目九六二番地所在家屋番号同町一五五三番七木造モルタル塗瓦葺二階建居宅一棟建坪二十一坪二合五勺二階六坪七合五勺)に対して仮差押をし、次いでその仮差押債権と同一の債権についての東京地方裁判所昭和二十八年(ワ)第二五二二号貸金請求事件の和解調書正本にもとずき東京地方裁判所に右建物の強制競売を申立て、同裁判所昭和二十九年(ヌ)第二三四号不動産競売事件として手続が進行し、昭和三十年十一月一日の配当期日において同裁判所は売得金五十六万円のうち競売手続費用及び先順位抵当権者の債権等に配当した残額九万二千七十五円を全額控訴人に配当する旨の配当表を作成したこと、これより先被控訴人(附帯控訴人、以下たんに被控訴人という)は右勝目寛に対する債権担保のため右建物に順位第二番の抵当権の設定をうけたが、その登記は控訴人のために前記仮差押の登記がなされた後になされたものであること、控訴人の競売申立は被控訴人の右抵当権設定登記の後になされたものであることはいずれも当事者間に争がない。

差押債権者の債権に優先する抵当権付債権は法律上当然に競売代金のうちから優先的に弁済されるべきものであるから、かかる債権者は競売手続における利害関係人として配当要求をするまでもなく当然に配当に加えられるべきものである。しかし、本件において被控訴人はその抵当権をもつて差押債権者たる控訴人に対抗できないものであるから、いわゆる一般債権者として民事訴訟法第六四六条の規定に従い競落期日の終に至るまでに配当要求をしなければ配当に加わることができないわけである。ところが、被控訴人が右配当要求をしなかつたことは被控訴人の自認するところであるから、執行裁判所が被控訴人を配当から除斥し、配当残金全額を控訴人に配当する旨の配当表を作成したことは正当であつて、なんら違法の点はない。

本件において被控訴人はその競売手続の当初から執行裁判所により登記簿に記入ある不動産上権利者たる利害関係人として取り扱われ、裁判所から売得金の配当をするから昭和三十年十月二十七日までに債権元本、利息及び損害金の計算書を提出するようにとの通知を受けて、同日付の計算書を提出し、第二順位の抵当権者として優先配当を受けたい旨の申出をしたことは当事者間に争ないところであり、裁判所が被控訴人を利害関係人として取り扱つたことは、被控訴人に対して本件の配当に加入するには、べつに、配当要求をする必要はなく、当然に配当に加える取扱をすることを表示したものとも見得るものであり、被控訴人も裁判所のこの取扱に信頼して競落期日の終までに一般債権者としての配当要求の手続をとらなかつたものと推認することもできるであろう。差押債権者に対抗できない抵当権者を競売手続上利害関係人といい得るかどうかは問題であるが、少くとも配当要求を要せずして当然に配当に加えられるべきものでないことは明らかであるから、執行裁判所の前記取扱はあやまりであるというほかはない。

なるほど本件競売申立にかかる債権と仮差押債権とが同一債権で、本件競売手続が右仮差押から本執行に移行したものであることは、本件の登記簿上及び執行記録上これをうかがうべきかくべつの資料があるわけではない。しかし仮差押は本来強制執行を保全するためになされるものであるから、いやしくも仮差押債権者が同一の目的物に対して強制執行をする場合はとくだんの事情のない限り、同一の債権にもとずき仮差押により保全された強制執行をするものと解するのが相当であり、またそれが通常の事態にそうものであると考えられる。従つて執行裁判所としてはこのことは当然これを知り得たはずであり、現に成立に争ない甲第三号証の二によれば執行記録の冒頭にある利害関係人表にも「仮差押後抵当権者」として被控訴人を表示しているのである。それにも拘らず、執行裁判所が被控訴人に対し前記のような取扱をしたのはなんらかの手違いか法の誤解によるものというほかはない。被控訴人がその配当要求を所定の時期までにしなかつたのは執行裁判所のこのあやまれる取扱に信頼したものと推認し得ること前記のとおりであるが、被控訴人は本来金融機関であつて、この種の事項についてはかなり専門的知識を有するものと解して差しつかえなく、その抵当権設定登記のさいには当然先順位の抵当権のほか本件控訴人による仮差押登記の存することは分つていたはずであり、本件競売手続はその仮差押債権者により同一物件に対してなされるものであるから、通常その強制執行は仮差押によつて保全されたそれと解すべきものであり、従つて自己の抵当権は競売申立人である控訴人に対抗し得ず、優先弁済の効力のないものであることはこれを知り得べかりしものというべく、さらに被控訴人は執行裁判所からあやまつて利害関係人として扱われ手続の進行についてはこれを了知(執行記録によれば執行裁判所は被控訴人に競売期日の通知をしていることがうかがわれる)していたものというべきであるから、自ら進んで所定の時期までに配当要求をし得たものというべきである。これを要するに被控訴人としてもその懈怠については責められるべき点なしとしないのである。一方控訴人は本件競売手続上被控訴人の抵当権が自己に対抗し得ず、従つて被控訴人が利害関係人として執行裁判所から扱われることに対して異議を主張し得たのにこれを主張しなかつたとの非難があるであろう。しかし本来利害関係人でないが利害関係人として扱われているというだけでは、そのことはなんら控訴人の利害に直接の影響あるものでなく、それが配当要求をなさずして当然に配当に与るというにいたつてその利害は直接のものとなるのに、執行裁判所はこの最後の段階においては従来の取扱のあやまりを認め、被控訴人を配当から除斥したのであるから、その間控訴人がとくに異議を主張しなかつたことを難ずるのは当らない。いわんや被控訴人の配当要求の懈怠に対して異議権を失つたと解すべき理由はない。かように見れば被控訴人が本件において所定の時期までに適法な配当要求をしなかつたのは執行裁判所のあやまれる取扱に被控訴人が信類したとの事情はあるにせよ、被控訴人自身にも責むべき点なしとしないのであり、これに反して控訴人の側にはかくべつ非難に値するものはないのである。執行裁判所のなす配当において本来配当すべきでない者に配当すれば、必然他の正当に配当に与るものの権利を害することとなるのであり、執行裁判所のあやまれる取扱に信頼した者を保護するために、本来何の責むべき事由のない他の債権者の利益をぎせいに供することこそかえつて不公平である。被控訴人は本来配当要求をし得べかりし者であり、配当要求をすれば少くとも控訴人と同順位において配当に与り得たはずであるから、そのように配当表を更正することは、控訴人にとつて実質的には同じことではないかとの論もあるであろう。しかし配当要求をすると否とはその債権者の自由であり、所定の時期までにその要求をしなければ除斥されることが法の定めである以上、これにより控訴人が本来受けるべかりし以上に配当を受けたものと解する理由はない。被控訴人が配当要求をしなかつたことがもつぱら執行裁判所の過失によるものとすれば、それは国家賠償等別個の救済を考うべきであり、そのことの故に控訴人の正当に受くべき配当を減じて被控訴人に配当をなすべきものではないのである。

しからば被控訴人が本件配当に与り得ることを前提とする被控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきであり、これと異なりその請求の一部を認容した原判決はその限度で失当であるからこれを右のように変更することとし、被控訴人の附帯控訴の理由のないことも明らかであるからこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十六条第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 藤江忠二郎 原宸 浅沼武)

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