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東京高等裁判所 昭和31年(ネ)2343号 判決

控訴人 東京昼夜信用組合

被控訴人 東洋火災海上保険株式会社

主文

本件控訴を棄却する。

原判決中主文第一項を次のとおり変更する。

控訴人は被控訴人に対し金一三五万一、二四七円及びこれに対する昭和三二年一月一〇日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、控訴棄却の判決を求め、なお、原判決主文第一項掲記の請求を本判決主文第三項のように減縮すると述べた。

当事者双方の事実上の陳述は、次に掲げる事項の外、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一、控訴代理人は次のように述べた。

(一)  中小企業等協同組合法第九条の八第一項によれば、組合の預金者は、同条第二項の場合を除き組合員に限る。従つて組合に預金をなした者は、仮に出資その他の加入手続を完了していないとしても、遅滞なく組合員となることの予定の下になされたものとみるべきであつて、預金契約の有効性を認める限り、単に加入手続の懈怠の故のみを以つて、この預金者を組合員に非ずとして、組合員以上の権利を行使せしめる道理はない。

もし、加入手続の欠缺の理由を以て、この預金者を組合員に非ずとするならば、右の者の預金は法律の禁ずるところであつて、組合の事業の範囲外の行為であるから、これを以て組合の行為と認めることはできない。すなわち。本件預金は、被控訴人が控訴組合の組合員としてなしたものでないとするならば、右預金は控訴組合の行為としては無効で、右行為に参画した組合役員個人の責任というの外はない。

(二)  本件預金は、被控訴人から控訴組合へ預金したという形式にはなつているけれども、その実質は、控訴組合を仲媒とする被控訴人より訴外東邦無線株式会社への不正融資である。すなわち、昭和二九年三月頃右訴外会社社長福島武は、被控訴会社の経理担当重役と懇意であるところから、被控訴会社より金一二〇万円の融資を受けることとなつたが、監督官庁に対する関係上一応金一五〇万円を被控訴人より控訴組合に預金をした形式をとり、この内約定の金一二〇万円を控訴組合より右訴外会社に貸出をする方法によつてその目的を達することとした。従つて、右訴外会社が金一二〇万円を控訴組合に返還するときは、控訴組合はその保管中の金三〇万円(控訴組合はこの三〇万円を利用するという代償を得て、右不正融資を幇助したものである。)をこれに附加して計金一五〇万円を被控訴人に返すこととなるけれども、訴外会社から、返還がない限り、控訴組合は被控訴人に対し、右預金の返還をなすことはできない筋合である。

(三)  しかも、本件預金契約は、前述するところによつて明らかなように、監督官庁を欺くために、当事者相通じてなした虚偽の意思表示であるから無効である。

(四)  かりに、本件預金契約が有効であるとしても、右契約は前記のとおり、不正融資の手段に供せられたものであるから、その当事者たる被控訴会社がその組合員たるの資格なきに藉口して、控訴組合に対し、正当の組合員以上の権利を行使せんとするが如きは、著しく信義則に反するものであつて、本訴請求は棄却せらるべきである。

(五)  仮にそうでないとしても、本件預金は違法の預金であり、しかも被控訴人は単なる預金の目的以外に資金の不正利用を目的としてなしたものであるから、いわゆる不法原因に基く給付であり、従つて控訴人はこれが返還の義務を負わない。

(六)  かりに被控訴人主張の債務があるとしても、控訴人は本件債務支払のため、昭和三二年一月一二日頃被控訴人に金三五万円を弁済した。右金三五万円が被控訴人主張のように弁済充当されたことはこれを認める。

二、被控訴代理人は次のように述べた。

(1)  控訴人主張の右(一)ないし(五)記載の事実を否認する。

(2)  控訴人主張の金三五万円の弁済のあつたことは認める。右は被控訴人が控訴人に対し、第一審判決の仮執行宣言に基いて強制執行をなした結果得た金員であつて、これより執行費用金一、六五六円を差し引いた残額金三四万八、三四四円を、被控訴人は左のとおり弁済充当した。

(イ)  金一万四、〇四〇円を元金一五〇万円に対する昭和二九年三月二六日以降同年七月二〇日までの日歩金八厘の割合の利息として充当

(ロ)  金一八万五、五五一円を元金一五〇円に対する昭和二九年七月二一日以降同三二年一月九日までの年五分の割合の損害金として充当

(ハ)  金一四万八、七五三円を元金一五〇万円の内入弁済として充当

従つて控訴人の被控訴人に対する末払債務額は元金一三五万一、二四七円及びこれに対する昭和三二年一月一〇日以降完済に至るまでの年五分の割合による損害金である。

当事者双方の証拠の提出、援用、認否は、控訴代理人において当審証人酒井勝美、福島武の各証言を援用した外、原判決の記載と同一であるから、これを引用する。

理由

一、被控訴人が損害保険を業とする株式会社であり、控訴人が中小企業等協同組合法に基き設立せられた法人たる信用組合であつて、最初宏和信用組合と称し、昭和二八年一一月六日より宏和信用組合と改称し、更に同三〇年一月一五日東京昼夜信用組合と変更したものであるが、昭和二九年三月二六日被控訴人は控訴組合に対し金一五〇万円を通知預金として、利息は預金当日から払戻の前日まで日歩八厘の定めで、また二日前に予め通知するときは何時でも元利金の払戻をする約束で預け入れ、被控訴人は昭和二九年四月末頃より屡々右預金の払戻を請求したが控訴人は手許資金不足を理由に支払わないこと、被控訴人は昭和二十九年七月一五日控訴人に対し、同年七月二〇日までにこれが支払をするよう書面をもつて催告し、同書面は翌一六日控訴人に到達したが、控訴人はこれに応じなかつたことは当事者間に争がない。

二、よつて、以下控訴人の抗弁について順次判断する。

(一)  まず、控訴人は、控訴組合に預金できるのは、組合員に限り、被控訴人は控訴組合に預金したので、控訴組合の組合員である。従つて控訴組合の一定期間預金支払を猶予する等の総代会決議の拘束を受け、被控訴人は現在本件預金の払戻を請求することはできないのであると主張する。

中小企業等協同組合法第七六条(現行法第九条の八)によれば、信用協同組合は、国、地方公共団体その他営利を目的としない法人及び組合員と生計を一にする配偶者その他の親族を除いては、組合員以外の者の預金を扱うことはできないことになつており、被控訴人が右法定の除外例に当らないこと明らかではあるが、被控訴人が控訴組合に本件預金をしたことから、被控訴人が当然控訴組合の組合員たる地位を取得すべき根拠はない。而して信用組合の組合になるには、中小企業等協同組合法第一〇条により出資をするか、または同法第一五条、第一六条所定の加入手続をしなければならないのに、被控訴人が控訴組合に出資または加入したことのないことは、原審証人新木英治の証言によつて推認されるところである。その他被控訴人が控訴組合の組合員であることを認める証拠は一つもない。従つて控訴組合員であることを前提として、被控訴人が控訴組合の総代会決議に拘束される義務ありとする前記抗弁は理由はない。

控訴人は、また、かりに被控訴人が控訴組合に出資その他の加入手続を完了しておらず、従つて控訴組合員でないとしても、被控訴人は控訴組合の組合員となることの予定の下に本件預金をなしたものであるから、かかる預金者をして組合員以上の権利を行使せしむべき道理はない、と主張するけれども、被控訴人が組合員となることの予定の下に本件預金をしたことを認めるに足りる証拠はないし、組合員でない被控訴人が総代会の決議に拘束されず、本件預金の払戻を請求することが、組合員以上の権利を行使するもので許されないとする右主張は到底採用することができない。

(二)  次に、控訴人は、もし被控訴人が控訴組合の組合員でないとするならば、かかる者の控訴組合に対する預金は法律の禁ずるところであり、控訴組合の事業の範囲外の行為であるから、本件預金契約は組合の行為としては無効であり、右預金については組合役員個人の責任というべきであると主張する。信用協同組合は法定の除外例を除き組合員以外の者の預金の受入をなすことはできないことは、前述のとおりであつて、中小企業等協同組合法第一一二条によれば、組合の役員が右に違反し組合員以外の者の預金の受入をなしたときは、三年以下の懲役または二〇万円以下の罰金に処せられることになつているけれども、これがため組合員でない者が信用協同組合になした預金をもつて、組合がこれを受入れたものと認めるべきでなく、これに関与した組合員個人の行為と認めねばならないとする理由はないし、組合員でない者と組合との間に成立した預金契約が実体法上無効ではないと解するを相当とする。

けだし、信用協同組合が広く組合員でない者からの預金を受入れることは、昭和二六年六月一五日法律第二三八号信用金庫法が制定されるまでは、中小企業等協同組合法第七六条で認められていたのを、右信用金庫法の制定により一般大衆の預金業務を信用金庫において取扱うこととなつた結果、信用金庫法施行法(昭和二六年法律第二三九号)第一条において、中小企業等協同組合法の一部を改正し、信用協同組合は原則として組合員のみを取引の対象として、組合員でない者の預金を取扱わないことに定めたのであつて、従つて元来信用協同組合が組合員でない者の預金を受入れること自体は何ら公序良俗に違反するものではないのであるが、信用金庫法の制定により預金者の分野をかれこれ区別制限する政策的意味から、前記の如く改正されたものであり、たゞこれが行政監督上の措置から非組合員の預金受入行為を処罰することとしたにとどまり、その違反行為を実体法上無効とする趣旨とは考えられない。

(三)  控訴人は、また、本件預金は、形式は被控訴人から控訴組合に対する預金ではあるが、その実質は控訴組合を仲媒とする被控訴人より訴外東邦無線株式会社に対する不正融資であると主張し、当審証人福島武、酒井勝美は、右主張に添うような証言をしているけれども、右各証言はたやすく信用することができないし、控訴組合から金員を借受けた右訴外会社が、これを控訴組合に返済しない限り、控訴組合が被控訴人に対し、本件預金の返還をしなくてもよいという根拠はない。また、控訴人は、本件預金契約は当事者相通じてなした虚偽の意思表示であると主張するけれども、これを認めるべきなんの証拠もない。

(四)  次に、控訴人は、本件預金はいわゆる不法原因に基く給付であるから、控訴人はこれが返還の義務はないと主張し、本件預金は中小企業等協同組合法に違反する行為であること前述のとおりであるけれども、またそれが公序良俗に反するものでないことは、さきに説明したとおりであるから、本件預金をもつて民法第七〇八条のいわゆる不法原因給付となすことは当を得ないものといわなければならない。従つて右主張はこれを採用することができない。

(五)  なお、控訴人は、本件預金契約は、不正融資の手段に供せられたものであり、その当事者たる被控訴人がその組合員たるの資格なきに藉口して控訴組合に対し正当の組合員以上の権利を行使せんとするが如きは著しく信義則に反するものであると主張するけれども、本件預金契約が不正融資の手段に供せられたことを認めるに足りる証拠がないことは、さきに述べたとおりであり、組合員でない被控訴人が組合の総代会の決議に従う義務のないことも前認定のとおりであるから、控訴組合に対し本件預金の返還請求をすることが組合員以上の権利を行使する結果となることも当然のことであつて、毫も信義則に反するものではないといわなければならない。

三、してみると、控訴組合は被控訴人に対し、本件預金を返還すべき義務あること勿論であるところ、被控訴人が第一審判決の仮執行宣言に基いて控訴人に対し強制執行をなした結果、被控訴人主張の売得金を得、これを被控訴人主張の如く弁済充当したことは、当事者間に争のないところであるから、結局控訴人は被控訴人に対し、本件預金の残元金一三五万一、二四七円及びこれに対する昭和三二年一月一〇日以降完済に至るまで民法所定年五分の割合による損害金を支払うべき義務がある。

よつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却し、当審において請求の減縮があつた部分については、原判決主文を変更すべきものとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 角村克己 菊池庚子三 吉田豊)

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