大判例

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東京高等裁判所 昭和31年(ネ)942号 判決

三菱信託銀行

事実

控訴人(一審原告、敗訴)は昭和二十九年四月十五日破産の宣告を受けた訴外藤田興業株式会社の破産管財人であるが破産会社は昭和二十八年六月二十日被控訴人三菱信託銀行株式会社から金三百万円の貸付融資を受け、同日被控訴銀行宛に金額三百万円の約束手形一通を振り出し、新たなる手形債務の負担行為をなした。

なおそれと同時に破産会社は被控訴銀行に対して有していた定期預金債権を前記三百万円の貸付金の担保として差し入れ、それに質権を設定して新たな担保提供行為をなした。

ところで破産会社の右手形債務の負担行為及び担保提供行為は、何れも破産会社が支払不能となつてからなしたもので、破産債権者を害することを知りながらなした行為であり、受益者である被控訴銀行は破産会社の最も主要な取引銀行として又有力な金融機関として破産会社の前記事情を熟知していたものであるから、控訴人は右手形債務負担行為及び担保供与行為について本訴により否認権を行使し、定期預金の預金額三百万円の支払を求めると述べた。

被控訴人三菱信託銀行株式会社は、控訴人主張のように金三百万円の手形貸付があり、控訴人主帳の手形が振り出されたことは認めるが、控訴人主張の新たなる質権設定契約をなしたことは否認する。金額三百万円、預入日昭和二十八年一月二十八日、満期日同年七月二十八日の定期預金は、昭和二十六年七月二十八日被控訴銀行に預け入れたものを順次書き替えたもので、昭和二十七年五月十六日担保差入書を徴し、破産会社が負担する将来の一切の債務の担保として定期預金証書の提供を受け、それに質権を設定していたもので、右預金は満期日毎に継続書替をなして来た関係上現在のものは前述のように預入日昭和二十八年一月二十八日となつているが、それは昭和二十六年預入の定期預金の継続書替に外ならない。

右のように継続定期預金は同一債権として同一性を保持していたもので、他面担保権の関係についても昭和二十七年五月十六日附担保差入証によつて担保に提供し、引き続き書替定期預金が担保の目的物となつており、昭和二十八年六月二十日新たな担保差入証を提出させたのは単に被控訴銀行の事務上の便宜のためにすぎない。現に昭和二十七年五月十六日の差入証を破産会社に返却することなく、被控訴銀行は保持しているのである。

また昭和二十八年六月二十日破産会社の負担した三百万円の手形債務は前記約旨により昭和二十七年五月十六日の担保設定行為によつて担保されているもので、控訴人主張のように昭和二十八年六月二十日に新たな担保の提供がなされたものではない、と述べた。

理由

控訴人は、「破産会社は昭和二十八年六月二十日被控訴人三菱信託銀行株式会社から手形割引の方法によつて金三百万円の債務を負担し同時に被控訴銀行に対する金額三百万円、預入日同年一月二十八日、満期同年七月二十八日なる割増金附定期預金につき質権を設定し、以つて新たな担保の供与をなした」と主張するが、証拠を綜合すれば、破産会社は昭和二十六年八月、被控訴銀行に対する金三百万円の定期預金債権について、破産会社が現在負担し、または将来負担することあるべき債務を担保するため被控訴人のため、に質権を設定し、その頃から引きつづき被控訴人から金融を受けて常に債務を負つてきたこと、最初に質権を設定した定期預金は昭和二十六年七月二十八日預入、昭和二十七年一月二十七日満期、金額三百万円なる割増金附定期預金であるが、右はその満期に書き換え継続され、その後その満期に再び書き換え継続されて前示昭和二十八年一月預入の定期預金となつたもので、引きつづき破産会社の債務の担保に供されていたものであることを認めることができる。かくの如く書き換え継続された定期預金は、たとえ満期ごとに新規契約の形式をとつて書き換えられたとしても、その担保の目的としての同一性を失わないものと解するのを相当とする。而してこのことはその定期預金が割増金附たると否とによつてその性質を異にすべきいわれはない。従つて、控訴人主張の定期預金はすでに昭和二十六年八月以来被控訴銀行のために担保に供与されていたものと認めざるを得ない。仮に控訴人主張の昭和二十八年一月二十八日預入の定期預金が、それ以前の定期預金と同一性を欠くとしても、証拠によれば、右定期預金は預入と同時に、すなわち昭和二十八年一月二十八日当時すでに破産会社が現に負担しまたは将来負担することあるべき債務の担保に供されていたことが明らかであるところ、右担保供与の日時には破産会社は未だ支払停止または破産申立を受けておらないことが控訴人の主張自体から明らかなのであるから、右担保供与行為を以つて破産法第七十二条第二号の条件を備えた担保供与とはいい難く、また、右行為がその当時破産債権者を害する行為であつたと認むべき証拠はないので、これを同条第一号に該当する行為ともなし難い。次に破産会社が昭和二十八年六月二十日被控訴人に宛てて金額三百万円の約束手形を振り出し、手形割引の方法によつて金三百万円の金員借入をなした行為は、それ自体としては破産財団を構成すべき破産会社の資産を減少せしめるものではないから、破産法第七十二条の各号に該当する行為とはなりえないし、また右手形振出によつて破産会社が負担するに至つた債務の弁済として、前示定期預金を、その満期になつた時期において弁済に充当しても、右預金は、さきに認定したとおり、元来破産会社の被控訴銀行に対して負担することあるべき債務の担保として(特別担保)供されてあつたものであるから、毫も一般破産債権者の共同担保を侵害したことにはならない。而も、破産会社と被控訴銀行との間に行なわれたこの一連の行為を実質的に考察すれば、昭和二十八年六月二十日当時破産会社が被控訴銀行に預け入れておいた金三百万円の定期預金が、同日破産会社に払い戻されたと同一の結果を生じたものであつて(その払戻の時期は定期預金の満期より約一カ月前であるが、その間の利息は手形割引料を以つて控除されたものと考えられる)、単にそれだけでは破産財団を構成すべき破産会社の資産の減少を来すとは考えられない。本件においては、右定期預金は前示認定の経緯によつて消滅し、これに代つて手形割引による現金が破産会社の手に受け入れられたのであるが、その後において破産会社が右金員を訴外藤田組からの借入金の支払に充てたことがうかがわれるのであつて、若しそうだとすれば、右破産会社から藤田組へ支払われた弁済行為こそが破産債権者の一般担保の減少を来たした原因たる行為であるかも知れないのであるが、これは被控訴人の行為とは関係のないことといわなければならない。

以上何れの点から考察しても、破産会社と被控訴銀行との間における控訴人主張の各法律行為は破産法第七十二条第一号または第二号の規定により否認しうべき行為とはいいえない。よつて本件控訴は理由がないとしてこれを棄却した。

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