大判例

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東京高等裁判所 昭和32年(ネ)2523号 判決

控訴人 山梨謙蔵

被控訴人 岡村ゆき 外一名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決中被控訴人等に関する部分を取り消す。被控訴人岡村は控訴人に対し、原判決添付目録記載第一の(一)及び(三)の各土地のうち、同添付図面表示(ハ)の部分三十坪五合一勺を、その地上に存する右添付目録記載第二の建物を収去して明け渡し、且つ昭和三十二年二月九日より明渡済に至るまで一ケ月金四百八十八円十六銭の割合による金員を支払うべし。被控訴人山梨は控訴人に対し、右建物より退去して右土地の部分の明渡をせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の供述並に証拠の関係は、当審においてそれぞれ次の点を附加陳述し、なお控訴代理人において甲第三号証を提出し、乙第二十五号証の成立を認めると述べ、被控訴人が右の乙号証を提出し、甲第三号証の成立を認めた外、原判決事実に記載するとおりであるから、これを引用する(但し原判決に挙示した証拠のうち、原審共同被告小川喜作のみに関するものを除く)。

控訴代理人の主張

本件土地は、昭和二十一年十月四日戦災復興院告示第一九一号によつて、清水市復興都市計画土地区画整理施行地区に属することとなり、同年八月十五日より清水市に施行せられていた同年勅令第三八九号戦災都市における建築物の制限に関する件の規定及び都市計画法第十一条ノ二に基き、本件土地に建築物を築造するについては、地方長官の許可を要することとなつたのであるが、被控訴人岡村の亡夫政治はその賃借申出後三週間を過ぎても遂に右建築許可を得なかつたのであるから、同人は罹災都市借地借家臨時処理法第二条所定の賃借申出の要件を具備していなかつた。右政治が賃借申出当時既に本件地上に築造された建物を所有していたからといつて、建物建築の許可を得ていないことに変りはないので、右臨時処理法第二条に基く賃借権設定の効果を生ずるに由なきものである。

被控訴代理人の主張

本件土地が昭和二十一年十月四日戦災復興院告示第一九一号による清水市復興都市計画土地区画整理施行地区に属することとなり、その地上に建物を築造するには戦災都市における建築物の制限に関する勅令の規定に基き、地方長官の許可を要することとなつたことは、控訴人主張のとおりであるが、同勅令が現実に適用されるに至つたのは勿論前記告示の日以後のことで、岡村政治が賃借申出をした昭和二十一年九月末当時にあつては、何等かかる建築上の制限はなかつたのである。都市計画法及び昭和二十一年勅令第三八九号は、いずれも都市計画として内閣の認可を受けた土地区劃整理施行区域にのみ適用されるのであり、清水市において内閣の認可を受けて土地区画整理が施行されるに至つたのは、昭和二十一年十月四日前記戦災復興院の告示により、清水市の辻、江尻の全部(本件土地は右江尻区内にある)その他の区域に亘り、清水市復興都市計画街路及び土地区画整理が決定公示された時以後のことである。しかるに岡村政治はこれより先昭和二十年十二月二十五日本件建物の建築を完成し、これを所有していたのであるから、重ねて建築許可の申請をする何等の必要がなく、従つて罹災都市借地借家臨時処理法第二条但書にいわゆる「建物を築造するについて許可を必要とする場合にその許可がないとき」とある場合に該当せず、岡村政治のなした賃借申出により適法に賃借権が設定されたのである。また被控訴人山梨真人は、昭和三十年九月以来被控訴人岡村より本件地上に存する同人所有の建物を賃料一ケ月金一万一千円を以て借受け、引続きこれを使用し、その敷地を正当に占有しているものである。

理由

当裁判所は、次の説明を付加する外、原判決と同一の理由により控訴人の本訴請求を失当として排斥すべきものと判定したので、ここに原判決理由を引用する。

(一)  罹災都市借地借家臨時処理法第二条第一項但書は、一定の地域における建物の建築が一般的に制限され、ただ許可あるときに限つて建築が可能となる場合に、その許可がないときは同条項所定の者と雖も賃借申出をなし得ない旨定めたのであつて、その趣旨はこれに賃借権を取得せしめても建築許可がない以上、建物の築造に取りかかることができず、従つて罹災者の住居の安定と併せて戦災都市の復興促進を企図する同法本来の目的を達成するに由ないからである。それ故賃借申出当時建物の築造に関し法令上の制限がなく、その後土地所有者の側において申出拒絶の意思表示をなすべき三週間の期間内に建築の制限が実施されるに至つても、既に罹災地上に建物の建築が完成しているような場合には、建築許可の如きはそもそも初より問題となり得ない筋合である。ところで本件において被控訴人岡村ゆきの被相続人たる亡夫政治が控訴人に対し本件土地の賃借申出をしたのは、原審認定の如く昭和二十一年九月末頃であると認むべきところ、その当時清水市においては法令による建築の制限は実施されておらず、その実施を見るに至つたのは、同年十月四日戦災復興院の告示第一九一号により、本件土地を含む地域が内閣の認可を受けて清水市復興都市計画土地区劃整理施行地区に編入された時以後のことに属し、これによりその区域内において都市計画法第十一条ノ二及び昭和二十一年勅令第三八九号戦災都市における建築物の制限に関する件の規定に基き建築が制限されることになつたものであること並に岡村政治はその前年である昭和二十年十二月二十五日係属地上に本件建物の建築を完成し、別段公益上の理由によりこれが除却を命ぜられるようなことなくして引続きこれを所有していたものであることは、成立に争のない乙第二十五号証(清水市長証明書)及び同第二十四号証(家屋台帳)の各記載と弁論の全趣旨とに照らしこれを窺うに充分である。故に右政治が本件土地につき控訴人に対してなした賃借権設定の申出は、事前又は事後に建築の許可がなくとも適法であつて、控訴人が正当の事由に基き右申出を拒絶したことが認められない以上、法定期間の経過と共に賃借権設定の効果発生したものというべきである。

(二)  被控訴人山梨は被控訴人岡村所有の本件建物を賃借してこれに居住するものであることは、当事者間に争がないので、被控訴人山梨も岡村の賃借権に依拠して本件土地を占有するものであり、その占有は正当の権原に基くこと明らかである。

よつて同一趣旨の下に控訴人の請求を棄却した原判決はもとより相当であつて、本件控訴は理由なき故これを棄却すべく、民事訴訟法第八十九条第九十五条に則り、主文のとおり判決する。

(裁判官 二宮節二郎 奥野利一 大沢博)

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