大判例

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東京高等裁判所 昭和33年(ネ)888号 判決

控訴人 堀江千代松

被控訴人 川上修

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の控訴人に対する東京法務局所属公証人保持道信作成昭和三十年第六三三号金銭消費貸借公正証書の執行力ある正本に基く強制執行はこれを許さない。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文と同趣旨の判決を求め、被控訴代理人は「控訴人の控訴を棄却する。」との判決を求めた。

控訴代理人は

請求の原因として、本件公正証書によると、控訴人は昭和三十年七月四日被控訴人から金二十万円を弁済期同年九月五日、期限後の遅延損害金日歩九銭八厘の約定で借り受け、公証人保持道信に対し同公正証書の作成を嘱託したことになつているが、控訴人は被控訴人から右のような金借をしたこともなければ、保持公証人に対し公正証書作成を嘱託したこともないのであつて、本件公正証書は事実無根のことを記載した無効のものであるから、その執行力の排除を求めるため本訴に及んだ次第である。と述べ、なお、控訴人は原審で昭和三十年七月四日被控訴人から金十六万円(但し、これは金二十万円から月一割の割合による二カ月分の利息四万円を天引した金額)を借り受けたと主張したが、それは事実に反するものであり、また、本件公正証書の作成を嘱託したのは訴外渡部寛六である。と陳述し

証拠として、甲第一号証を提出し、原審における証人星昭、星テイ、石沢美佐子の各証言を援用し、乙第三号証の成立は認めるが、その他の乙号各証の成立は知らない、と述べた。

被控訴代理人は

答弁として、本件公正証書に控訴人主張のような記載のあること及び本件公正証書の作成を嘱託したのが控訴人でなくて渡部寛六であつたことは認めるが、被控訴人の主張は次の理由により失当である。すなわち、(一)被控訴人は控訴人に対し本件公正証書記載どおりの金員の貸付をしたのであつて、そのことは控訴人が原審で昭和三十年七月四日被控訴人から金十六万円(但し、これは二十万円から月一割の割合による二カ月分の利息四万円を天引した金額)を借用したことを進んで主張したことからしても明瞭であるから、本件公正証書のこの点に関する記載には間然するところはない。(二)本件公正証書の作成嘱託者に関する記載が事実に反することは前叙のとおりであるが、渡部寛六は控訴人の代理人であつて、同人の本件公正証書作成の嘱託はその権限内の行為であるから、右記載の事実との不一致は本件公正証書の公正の効力を妨げるものではない。と述べ

証拠として、乙第一ないし第三号証、第四号証の一、二を提出し、当審竝びに原審における証人佐藤六郎の各証言、原審における証人芳沢竹子の証言及び被控訴人本人尋問の結果を援用し、甲第一号証の成立は認める、述べた。

理由

本件公正証書に控訴人主張のような各記載のあることは当事者間に争がない。

よつて進んで本件公正証書の効力の有無について判断する。

(一)  控訴人が昭和三十年七月四日被控訴人から金二十万円を弁済期同年九月五日、期限後の遅延損害金日歩九銭八厘の約定で借り受けたことは、控訴人が原審で控訴人は前同日被控訴人から金十六万円(但し、これは金二十万円から月一割の割合による二カ月分の利息四万円を天引した金額)を借り受けたものであると主張した事実によつて明瞭である。けだし、右金十六万円が金二十万円から月一割の割合による二カ月分の利息四万円を天引した金額である以上、元本を金二十万円とする消費貸借契約がなされたものとすべきことは理の当然であるが、新利息制限法の下では、金銭の消費貸借について同法の制限をこえる利息支払の約定に基き、その利息を天引した場合には、旧法下におけると異なり消費貸借は約定元本全額について成立し、天引利息中制限をこえる部分は元本の支払に充てたものとみなされる(同法第二条参照)からである。しかして、原審における証人星昭、星テイの各証言中には、控訴人は被控訴人から金借したことはない旨の供述があるけれども、その供述はたやすく信用し難く、他に右認定を動かすに足りる証拠はないから、本件公正証書中の消費貸借自体に関する記載が事実に反する旨の控訴人の主張は採用の限りでない。

(二)  本件公正証書の作成を嘱託した者が控訴人でなくて渡部寛六であることは当事者間に争がない。しかして、被控訴人は、渡部は控訴人の代理人であり、代理人は本人として公正証書の作成を嘱託することを妨げないものであると主張するけれども公正証書が公正の効力を有するがためには法律の定める要件を具備することを要するものである(公証人法第二条)ところ、代理人による公正証書作成の嘱託については同法第三十二条に詳細な規定があるのであつて、代理人が本人としてその嘱託をすることはこの規定の適用を僣越するものであるから、かような嘱託は違法であり、これに基いて作成された公正証書は公正の効力を有しないものといわなければならない。されば、本件公正証書は渡部において控訴人からその作成の嘱託をすることを委任されていたと否とに拘らず無効とする外はない。

よつて、本件公正証書の執行力の排除を求める控訴人の本訴請求は正当として認容すべく、これに反する原判決は不当であつて本件控訴は理由があるから、民事訴訟法第三百八十六条、第九十六条、第八十九条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 岡咲恕一 田中盈 土井王明)

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