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東京高等裁判所 昭和33年(ラ)710号 決定

抗告人 静清信用金庫

相手方 上毛合成樹脂合資会社 外四名

主文

原決定を取り消す。

本件競落を許さない。

理由

抗告の趣旨及び理由は別紙添付のとおりであるから、以下これにつき判断する。

一、抵当の目的たる数個の不動産につき競売の申立があつた場合、これを個別に競売するか、一括して競売に付するかは、一般的に云えば時宜に応じ競売裁判所が自由なる裁量によつて定むべきであるけれども、その各不動産が位置、形状構造、機能の諸点より客観的経済的に観察して有機的に結合された一体をなすものと見られ、若しこれを分離して個々に競売するときは、一括して競売する場合に比し、甚しき価額の低落を来し、抵当権者並に債務者所有者等の利害関係人に著大な損害を及ぼす結果となることが明白に予測される場合には、競売制度が本来抵当債権満足のための手段であり、裁判所の関与によつて公正にしてなるべく高価にこれを売却することを目的とするものであることに鑑み、競売裁判所としては、他の抵当権者に対する売得金の配当に支障を来すとか、その他何等か一括競売を不当若しくは不便とする事由があるのでない限り、強いて個別に競売することなく、一括競売の方法によるべきであつて、この点に関しては当裁判所の見解も抗告人の主張にほぼ近いのである。しかし、本件において競売の目的とされた別紙物件目録(二)記載の宅地及び各建物が、右に述べた意味での結合的一体をなすものであり、これを個別に売却することにより甚しき不当な結果を生ずべきものであることは、現地の状況に詳かでない抗告裁判所として、記録に顕われただけの資料によつて見れば、今直ちにこれを肯定するに躊躇せざるを得ない。却つて、若しもかくの如き実情にありとすれば、競売を申立てた抗告人においてそもそもその申立の際に、各物件を一括して競売に付せられたき旨競売裁判所に申出でるのが当然と思われるに拘らず、抗告人が敢てその申出をしなかつたことに徴すれば、抗告人においても頭初は一括競売によらなくとも必ずしも不都合はないとしたもののようにも考えられる。

それ故個別競売の方法を採つた原審の競売手続を非難する抗告論旨は、にわかに採用し難い。抗告人としては残された今後の競売手続に当り、一層詳密な資料を具して、一括競売を必要とする事情を充分に競売裁判所に対し説明すべき必要があると思われる。

二、次に記録によれば、原裁判所は本件競落にかかる別紙目録(一)記載の物件(事務所一棟)につき鑑定人長島要作に命じた評価鑑定の結果に基き、最低競売価額を金十万円と定めて、これを競売期日の公告に掲げ、競落期日に相手方除正国以下四名に対し金十万円を以て競落を許したものであることが認められる。ところで、競売の目的となつた物件は、本件の事務所一棟を含む別紙物件目録(二)記載の宅地及び各建物であつて、その建物と敷地の所有者は同一であるから、これを個別に競売するとすれば当然法定地上権の問題を生ずべく、従つて宅地は地上権の負担あるものとし、建物については地上権を伴うものとして適正に評価すべき筋合のところ、右鑑定人の評価書及び陳述書と原審で更に鑑定を命じた鈴木信平の評価書とを比較対照し、仔細にその内容を検討すれば、長島鑑定人は鑑定に当つて法定地上権の問題を全然考慮することなく、宅地は地上権の負担なき更地として、また建物は地上権を伴わないそれ自体の価額のみを評定し、従つて結果において宅地は不当に高価に、建物はそれにつれ不当に安価に評価したのであつて、若しも地上権が付着するとすれば本件事務所一棟の価格は金十二万一千八百円を以て相当とすべきことを窺い知ることができる。尤も右長島鑑定人の陳述書には、土地は更地としたものの建物は借地権付のものとして評価した旨の記載があるけれども、これはそれ自体観念上矛盾するものであり、しかも法定地上権の存在を前提してなした鈴木鑑定人の評価とも相当の懸隔があるところから見て、到底措信することができない。結局長島鑑定人の評価はその鑑定の基礎たる事項について重大な過誤があり、最低競売価額決定の資料となすべからざるものであるから、原裁判所がかかる評価に基き最低競売価額を定めて公告したのは、違法であつて、ひつ竟正当な手続により適法な最低競売価額を定めなかつたのと実質において同一に帰着し、法律上の売却条件に違反するものといわざるを得ない。この点に関する抗告論旨は理由がある。

されば本件競落は右の点において違法であり、これを許すべきでないから、他の抗告論旨に対する判断を省略し、原決定を取消すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 二宮節二郎 奥野利一 大沢博)

抗告理由書

抗告の趣旨

原決定を取消し更に相当の御裁判を求める。

抗告の理由

一、本件競売は各物件を一括して競売すべきであつたのにも拘らず原裁判所が分割したのは違法である。

本件の競売目的物件は、別紙物件目録(二)記載(このうち事務所一棟は目録(一)の物件)の如く、土地一筆建物三棟である。かくの如く競売すべき物件が数個ある場合にその各物件を各別に分割競売するか一括して競売するかは裁判所が自由な判断によつて決すべきことがらであるが裁判所は全く無制限に自由に決しうるものではない。

分割競売と一括競売とはその性質上各々一長一短あり、そのいずれを執るのが適当であるかは各事案毎に利害得失を比較衡量の結果自づと判断されるのであるが、その判断の基準はいかにすればその物件全体として高価に売却できるかということである。そしていかなる場合に分割競売していかなる場合に一括競売すべきかは一概に決し得ないが類形的な場合は左の如くである。

(1)  各不動産を一括して競売すればその最低競売価額が甚だ多額に達し金融等の関係上、競買申出人の少数なることが予想できる(従つて競争の度合少なく高価に競買する者が少ない)とき、又は各不動産が各地に散在し同一人の管理利用に不便であると思われるとき等には適当に分割(必ずしも一件ごとに分割する要はない)して競売するのがよい。

(2)  土地とその上に存する建物が共に競売されるとき、接続一体となつている数個物件が競売されるとき隣接する数筆の土地の中、公道に接するものはその中の一筆に過ぎないとき等には、必ず一括競売すべきである。

土地とその上に存する建物が共に競売されるときにもしも分割競売されるとき建物のみが競落されれば競落人は敷地使用につき法定地上権を取得するので、土地は法定地上権の負担を受け、価値は激減し、土地のみを競落する者は殆んどない。かくて土地の競売は事実上不可能となり土地及び建物を全体としてなるべく高価に売却せんとした競売の意図は阻害される。

隣接する土地数筆の競売の場合も同様であつて仮りに分割競売し公道に面する土地のみが競落されれば公道に面しない土地の価額は公道からの通路が無いため激減し競落する者は殆んどない。

又建物が数棟あり各建物が接続し綜合一体としてのみ真に利用価値がある場合そのうちの一部のみが競落されれば他の部分は利用価値が激減し価値も激減する。

従つて右の如く多数物件のうち一部が競落されることにより他は価値が激減し、殆んど競落人もなくなる如きことが予想できる場合は全体としてなるべく高価に売却せんとする競売制度の本質上当然に一括競売すべきである。

そして分割競売と一括競売とのいずれを選択するかは裁判所の裁量に属し、法定の売却条件でなく、又債権者からの一括競売の申請の有無に左右されない、一括競売の申請は単に裁判所の職権の発動を促がすに過ぎない。

そして裁判所の右裁量は決して裁判所の恣意を許すものでなくいわば、いわゆる覊束裁量、法規裁量であり、いわゆる自由裁量でなく、事案の性質上、自づと帰結される結論に従うべく一括競売すべき場合に一括競売しないことは裁量を誤るものであつて単に不当であるに止らず、違法である。

本件において、競売物件は土地とその上に存する建物であり建物は三棟が綜合一体として利用されてこそ価値があるのであり結局本件物件全体として綜合されてこそ価値がある(本件記録中評価人鈴木信市作成評価書参照)のである。しかも土地の最低競売価額は金二百万円であるのに建物のそれは金四十七万円であり、建物のみが競落されることにより金二百万円もする土地も価値が激減して了うのであり、本件競売において競買申出人もなかつた現状である。土地をも正当な価額で競売するためには当然に一括競売すべきである。

然るに裁判所は右の法理を誤つて裁量を誤り一括競売することなく、分割競売したのであるから違法である。

そして分割競売か一括競売かは法定の売却条件に準ずべき競売の条件にしてこの裁量につき右の如く違法のある本件は競売手続を続行すべきでなく、裁判所は競落を許可すべきでない。

従つて結局民事訴訟法第六百七十二条第一号に該当するというべきである。

二、原裁判所が本件競買申出のあつた建物三棟中、別紙物件目録(一)記載の一棟のみにつき競落許可したのは違法である。

本件競売物件は全体として綜合されてこそ利用価値があること前述の如くであるが、特に建物は工場倉庫、事務所であり、三棟が綜合的に使用されてこそ意義があるのであり、特に事務所は工場と隣接一体となつているのである。

本件原決定の如く事務所一棟のみを競落許可すれば他の建物は価値が激減し、本件競落人徐正国他三名以外の者が適正価格で競落することは殆んど期待し得ないことは明白である。

然るに原決定はあえて本件事務所一棟のみの競売を許可したか、右の如く物件全体としてはじめて利用価値がある本件の特質を無視したものであり、物件全体をなるべく高価に売却せんとする競売制度の本質と著るしく矛盾するものであつて違法と言うべく、民事訴訟法第六百七十二条第一号に該当すると云うべきである。

三、本件物件の最低競売価額は評価人の評価以下であり法定売却条件に牴触して違法である。

本件競売物件の評価は評価人長島要作の評価によれば、土地が二百万円、工場が金二十五万円、倉庫が金十二万円、事務所が金十万円であるが、右価額はいづれも法定地上権の問題を全く考慮しなかつたものである。(本件記録中、同評価人作成評価書及び昭和三十三年十月七日附同評価人に対する審問調書参照)そして評価人鈴木信市の評価によれば、土地は更地として金百八十九万円、地上権附として金百四十万四千円、建物は地上権又は借地権附として工場が金六十一万三千七百円倉庫が金三十七万六千円、事務所が金十二万千八百円である(同評価書参照)。

本件各物件は全体としてこそ真に価値があるので一括競売すべきこと前述の如くであるが、仮りになんらかの理由により本件の如く分割競売するならば最低競売価額の決定については土地建物とも当然に法定地上権の問題を考慮算入すべきである。けだし土地建物が分割競売されれば土地建物が各別に競落されることもありうるのであり、競落により法定地上権が発生するからである。してみれば法定地上権の問題を考慮しなかつた評価人長島要作の評価は採用に値しないというべきである。尤も同人は土地については地上権なし建物については借地権地上権ありとして各評価したというがこれは矛盾する。土地に地上権の負担がなければ建物については地上権がない筈である。又同人は審問で土地は坪八千円として評価したが借地権地上権があると坪六千五百円である。建物は借地権地上があるとして評価したが、借地権がなければ工場は二十万円、倉庫は十万円、事務所は八万円であると述べているが建物に地上権を認めれば当然に土地は地上権の負担を認めなければならず坪六千五百円とすれば土地は計金百五十九万五千円となり建物の価額計四十七万円との合計は金二百六万五千円となる。他方借地権地上権がなければ土地は二百万円、建物は計三十八万円であり合計円二百三十八万円となる。然しながら地上権の有無にかかわらず、土地建物全体としての価値は同一であるべきであり右評価は矛盾不合理である。

然るに原審は右長島要作の評価を無批判に採用し本件事務所一棟の最低競売価額を金十万円と定めたのみならず評価人鈴木信市の評価を全く無視した。同人の評価は極めて合理的なものであるがそれによれば本件物件は全体が一団地とし一括利用されるべきであるがあえて評価すれば事務所一棟の価額は地上権がある場合金十二万千八百円であるとなつている。

よつて本件事務所一棟の最低競売価額を金十万円と定めた原審の決定はその根拠がなく適法な最低競売価額がなかつたことに帰し法定売却条件に牴触して競買を許したものと言わざるを得ず民事訴訟法第六百七十二条第三号前段に該当する。

四、本件競落人徐正国他三名は従来静岡地方裁判所に於ける競売事件にしばしば競落人となり競落後直ちに転売して不当の暴利を得ることを常とするいわゆる事件屋であることは静岡地方裁判所に顕著な事実である。本件においても暴利を得る目的で建物のみを競落したのであり十月三日頃(競買申出から僅かに三日後)には競買申出の保証金四万七千円を納めた段階で、建物を金七十万円に売るべく債務者の保証人朝比奈茂登治に策動しているのである。

競落人の行為は前示違法不当な分割競売の虚に乗じたものであるがそれより建物の四倍以上もの価値があると原審が認定した土地の価値を激減せしめ、土地の競売を事実上不可能ならしめ債権者及びその保証人の利益を著るしく害したのである。斯様な競落人の行為は公正な公開の競争により、物件全体をなるべく高価に売却せんとする競売制度の趣旨を全く無視し、競売制度を根底から阻害するものであるから競落を許すべきでなく、民事訴訟法第六百七十二条第一号に該当するものと言うべきである。

五、以上の各理由により本件競落は許すべきでないところ、本件原決定により土地及び工場倉庫建物の価値は激減し、適正な価格による競売は事実上極めて困難となつた。

債権者が債務者に対する債権は昭和三十三年十月六日現在において元金百九十七万九千六十六円及びその損害金四十五万七千百四十九円、元金十三万九百七十六円及びその損害金三万四千七百九十三円合計金二百六十万千九百八十四円であり、本件原決定により他の物件の競売が事実上困難となることにより、債権の回収は著しく困難となり著しい損害を蒙つたのである。

よつて競売法第三十二条民事訴訟法第六百八十条により原決定を取消し本件競落不許の御裁判を得るため、本申立に及んだのである。

物件目録(一)

静岡市曲金五五一番の二

家屋番号 同所四番の五

木造ストレート葺平屋建事務所 一棟

建坪 十坪五合

物件目録(二)

静岡曲金五五〇番の四

宅地 二百七十坪

静岡市曲金五五一番、五五〇番、五五二番の一

家屋番号 同所四番の四

木造亜鉛メツキ鋼板葺平屋建工場 一棟

建坪 六十一坪三合七勺

附属

木造亜鉛メツキ鋼板葺平屋建倉庫 一棟

建坪 四十坪

静岡市曲金五五一番の二

家屋番号 同所四番の五

木造スレート葺平屋建事務所 一棟

建坪 十坪五合

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