大判例

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東京高等裁判所 昭和36年(う)2628号 判決

被告人 竹内和夫

主文

本件控訴を棄却する。

理由

一、弁護人主張の、原審訴訟手続が訴因の追加に関する法令に違反するとの主張について。

本件起訴状及び原判決によれば、本件重過失致死傷罪の訴因の一部である、注意義務の摘示として、起訴状には、「前記日時場所(昭和三六年一月一日午前一時四十分頃、千葉市幕張町五丁目二二八番地先道路)において前記貨物自動車を運転し時速六〇粁位の速度で、船橋市方面から千葉市方面に向けて進行中、前方を進行している乗用自動車を認め、その右側からこれを追越そうとしたのであるが、かかる場合貨物自動車を運転している者としては、その進路、速度並びに道路の状況等を十分考慮し、安全を確認してから追越すべき注意義務があるのに拘らず、これを怠り、高速度のまゝ把手を右に切り前車を追越そうとした重大な過失により把手を取られ、車は安定を失つて左に滑走して、該路左側歩道上に乗り上げ、偶々同所を歩行していた徳武博(中略)に接触させ云々」

としてあるにかかわらず、原判決には、

「このような場合には、自己の運転する車及び追越される車の各速度、進路の左右、及び前方特に追越される車の前方附近の状況等に十分注意して追越をなし且追越した直後における把手の操作に細心の注意を払い、以て事故の発生を未然に防止すべき義務があるのに、これを怠り、漫然高速度のまゝ把手を右に切つて前車を追越した後急遽把手を左に切りすぎた重大な過失により、自己の運転する車の安定を失つて、車を道路左側歩道上に乗上げ、たまたま同所を歩行していた徳武博(中略)の三名に右車体を接触させ」

と判示してあることは、所論のとおりである。すなわち、両者の注意義務違反の内容は、同一とは云えず、起訴状は追越前に注意義務違反があつたとするに反し原判決は更にそれに加えて追越後にも注意義務違反があつたとしているのである。

おもうに、起訴状も原判決も、被告人が判示追越をするに当つては、安全を確認し、事故の発生を未然に防止すべき注意義務あるにかかわらず、これを怠つたとする過失を原因として判示死傷の結果を惹起せしめた旨の事実を摘示していることが明らかである。ところで、その過失の内容を示すにつき、両者は措辞の上において前叙のごとく相異るのであるが、その趣旨においては何等異る所があるわけではない。それ故に、この点を捉えて、原判決は起訴状に記載されない訴因を追加した違法を敢てしたものと論難する所論は、原判決を正解せざる立場からする主張であつて、もとより採用すべき限りではない。従つて、論旨は理由ないものというの外はない。

(裁判官 尾後貫荘太郎 鈴木良一 飯守重任)

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