大判例

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東京高等裁判所 昭和36年(う)83号 判決

控訴人 被告人 有限会社東宝製パン部 外一名

弁護人 蓬田武

検察官 大島功

主文

本件各控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人蓬田武の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する。

一、控訴趣意第一点、第二点および第三点について、

所論は、まづ、被告人の本件関税法違反の犯意の点について、原判決は事実を誤認し、法令の解釈適用を誤り、また、その判示理由にくいちがいがあると主張するのである。すなわち、原判決が本件関税法違反の罪について被告人にその犯意ありと認定したのは事実の誤認であり、また、原判決が関税法違反罪の犯意としては、本件乾燥脱脂ミルクが関税定率法附則第八項所定の物品であることの認識があれば足り、必ずしもそれが免税品で学校給食以外の用途に供するため譲渡することが禁止されていることの認識を必要としないと解釈しているのは法令の誤りである。更に関税定率法附則第八項所定の物品ということは、とりもなおさず学童給食用の乾燥脱脂ミルクで、昭和三十四年三月三十一日までに輸入され、法令によつて関税を免除された物品である。然るに原判決は右附則第八項所定の物品であることを認識すれば足るといいながら、必ずしも法令によつて関税を免除された物品であることの認識を必要としないと補足説明しているのは理由にくいちがいがある、というのである。

よつて記録を精査し、原判決およびその挙示する証拠を仔細に検討し、更に当裁判所においても重ねて事実の取調べをして右所論指摘の点について考察するのに、まづ、事実誤認の点については、原判決が被告人に本件関税法違反の罪についてその犯意ありと認定していることは所論のとおりであるが、本件学童用脱脂ミルクが免税品であることを被告人が認識していたという事実を認定し、これを前提として関税法違反罪の犯意ありとしているわけではない。むしろ、原判決は、仮に被告人が免税品であることの認識がなかつたとしても犯意を阻却しないと判示して、被告人が免税品であることを認識していたか否かの事実は、犯意の認定に必ずしも重要でないことを示唆しているのである。所論が原判決に事実誤認ありと主張するところは畢竟被告人は免税品であることを知らなかつたという事実を主張し、この点において原判決は事実を誤認しているとするものであるが、原判決は右の事実を前提として被告人の関税法違反罪の犯意を認定しているものではないこと前段に説明したとおりであるから、右事実誤認を主張する論旨は採るを得ない。

次に関税法違反罪の犯意ありとするには、どの程度の事実認識を必要とするかについて考察する。関税定率法附則第八項および第九項の趣旨は、学童給食の用に供するために昭和三十四年三月末までに輸入される乾燥脱脂ミルクは、政令で定めるところによつてその関税を免除するが、その関税を免除するのは、学童給食というその用途の特殊的公共性に由来するのだから、何人もこれを右用途以外に供するため譲渡したり、譲受けてはならない。ただ変質等やむを得ない理由がある場合には、政令の定めるところによつて税関長の承認を受ければ右禁制が解かれるというもので、これを要約すると学童給食用の輸入乾燥脱脂ミルクは関税を免除するが、これを学童給食用以外の用途に供するため譲渡譲受するには、どのような事情があつても税関長の承認を要するということである。このような法律の規定の趣旨内容は、何人も常にこれを知悉しているとは限らないので、その容器に右法規の趣旨を要約して、この品物は免税品であるから学童給食用以外に横流ししてはならないという意味の禁制事項が書かれているのである。ただ被告人が扱つた輸入脱脂ミルクの容器には、その全部にわたつて漏れなく右注意事項が書いてなかつたようであり、被告人は仮にそれが書いてあつたとしても見たことがなく、そのため右注意事項を知らなかつたというのであるが仮にそれを知らなかつたとしても免税品だから横流しをしてはならぬということは法律の規定であつて、被告人がこれを知らなかつたことは法律の不知である。更に再言すれば、学童給食用輸入脱脂ミルクは、関税を免除されたものであるから、税関長の承認を得ない限り、何人も、如何なる事情があつても、これを学童給食用以外の用途に供するため譲渡したり譲受けてはならぬということは、すべて法律上の知識であつて、これを知らないのは法律の不知である。したがつて、学童給食用の輸入脱脂ミルクであることを知つて、これを学童給食用以外に横流しをすればそれだけで関税法違反罪の犯意が成立するのであつて、それが免税品であるから税関長の承認を受けないで横流ししてはならぬという法律の規定を知らなかつたとしてもそれは法律の不知であつて犯意を阻却しないのである。原判決の法律見解も右と同一であつて、この点所論の如き法令の解釈に誤りはない。

右の説明でほぼ明らかなように、関税定率法附則第八項所定の物品というのは、学童給食用の輸入脱脂ミルクを指すのである。原判決が右法条所定の物品であることの認識あれば足り、それが関税を免除された物品であることの認識を必要としないと判示説明しているのは、決して矛盾ではなく、所論の如き理由にくいちがいのあるものでもない。

(その余の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 兼平慶之助 判事 斎藤孝次 判事 関谷六郎)

弁護人蓬田武の控訴趣意第一点の三

犯意の解釈適用について

原判決中理由第三、補足説明(一)関税法違反の犯意について

「本件犯行当時被告人は本件乾燥脱脂ミルクが免税品であることを知らなかつたのであつて、関税法違反についてはその犯意がなかつた旨主張するが、本件関税法違反罪の犯意としては、本件乾燥脱脂ミルクが関税定率法附則第八項(昭和二九年三月-略)所定の物品であることの認識があれば足り、必ずしもそれが法令により免税品とされていること、及びそれを学校給食以外の用途に供するために譲渡することが禁ぜられていることまでの認識、即ち、違法の認識を要しないと解するのが相当である。そして前掲各証拠によれば、被告人が本件物品が外国から輸入された学校給食用の乾燥脱脂ミルクであることを認識していたことは明らかであるから、仮に被告人に前記のような違法の認識がなかつたとしても、本件関税法違反についての犯意を阻却するものではない。」

と判示したが、関税法違反の犯意は、八項記載の「学童給食用の粉乳にして、且つ関税を免除されたものであること」の認識を要するは明らかである、単に輸入品であるとの認識をもつて、直ちに免税品であるとの認識ありと解することは論理の飛躍である、むしろ輸入品は関税が課税せられておると解するのが常道で、免税品との認識は異例と云わなければならない。然るに原判決は免税品の認識を欠くことは法令により免税品にされていること-違法の認識を欠くものと解して、その認識は刑法第三八条第三項に該当するものとして犯意を阻却せずと解し、関税法違反に問擬したのは、法令の適用を誤つたものである。

(その余の控訴理由は省略する。)

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