大判例

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東京高等裁判所 昭和37年(ネ)2851号 判決

控訴人 細井正太

被控訴人 小沢恒彦

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し、別紙第二目録〈省略〉記載の建物を収去して別紙第一目録〈省略〉記載の土地を明渡せ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用、認否は、当審において、次のとおりつけ加えたほか原判決事実欄に記載するとおりであるから、これを引用する。

(控訴人の主張する事実)

一、被控訴人は昭和三六年春ころ、近隣の借地人を使嗾して控訴人に対する地代の支払を停止させるなどの暴挙に出、賃借人として信義を欠く行為をしたので、従前の信義則違反の事実を加えこれらを事由として昭和三八年五月二九日の口頭弁論期日において本件賃貸借契約を解除する。

二、控訴人と被控訴人との間に、昭和二七年、被控訴人は賃貸人たる控訴人の承諾なくして賃借地上に建物を建築しないこと、被控訴人が右約束に違反した場合控訴人は催告を要せず解除することができる旨の特約がなされた。しかるに、被控訴人は控訴人の承諾をえないで別紙第二目録記載(二)の建物の建築を始めたから、昭和三八年七月一〇日の口頭弁論期日において本件賃貸借契約を解除する。なお右事実を立証するため、証人石渡ヒロ、同中里クニ、および控訴本人の尋問を求める。

(被控訴人の主張する事実)

一、控訴人主張の一の解除事由は存在しない。

二1、控訴人の二の主張は時機に遅くれた攻撃防禦方法であるから、却下さるべきである。

2、なお控訴人主張の特約は否認する。

(証拠関係)〈省略〉

理由

一、(控訴人、被控訴人間の賃貸借契約)

1  被控訴人が大正五年一月一日以降別紙第一目録記載の本件土地を被控訴人から建物の種類、構造を定めず、建物所有の目的で賃借し、右地上に別紙第二目録(一)の建物を所有していたことは当事者間に争がない。

2  土地賃貸借契約において建物の種類、構造を定めなかつたときは、堅固の建物以外の建物の所有を目的としたものとされることは、借地法第三条によつて明らかである。

3  右契約中に、借地人は借地又は隣地の価格を損するような、もしくは地主の負担を増すような使用をせず、かつ、賃貸人の承諾をえないで借地の原形を変形しない旨の約定があつたことは成立に争のない甲第四号証によつて明らかである。

二、(昭和三六年九月二一日の契約解除)

1  被控訴人に対し、控訴人がその主張の事由により、昭和三六年九月二一日到達の書面で賃貸借契約解除の意思表示をしたことは当事者間に争がない。

2  原審における検証の結果および同鑑定人神代和臣の鑑定結果によれば、別紙第二目録記載(二)の建物の土台となる部分には、巾一四、五センチのコンクリート基礎(その基底の巾四五センチ、厚さ一八センチコンクリートの高さ基底から四五センチ)が築造され、これに径九ミリのアンカーボルトが取つけられ、また右の東北隅三坪七五(六尺×一三、五尺)の部分につき、厚さ一〇センチのコンクリートブロツクが高さ二メートル六〇センチの高さに積み重ねられブロツク補強用の鉄筋が僅かに用いられていることが認められるが、それが控訴人主張のような鉄筋コンクリートブロツク造三階建建物建坪一六坪の建築を目的としたものであると認めるべき証拠はなく、一部右主張に副う原審証人直江嘉一の証言は採用しない。かえつて、前掲鑑定の結果および当審における証人小沢敏彦の証言によれば、前記程度のコンクリート基礎、アンカーボルトをもつてしては控訴人主張のような鉄筋コンクリートブロツク造三階建建物を建築するにたえないものであつて、その築造は不可能であり、また前記築造のため積み重ねられたコンクリートブロツクは最も厚みの少くない軽量ブロツクであつて、ブロツク建築の完全な壁体として使用することができず、便所、浴室の湿気防止のための壁または間仕切程度に用いることができるにすぎないものであつて、前記認定の築造工事はけつきよく被控訴人主張のような一部コンクリートブロツクを用いた木造建物の建築を目的としたものと考えられる。

したがつて、控訴人のした前記契約解除はその事由を欠き、効力を生じないといわねばならない。

三、(昭和三七年五月九日の契約解除)

1  昭和三七年五月九日の原審口頭弁論期日において、控訴人主張のような信義に反することを理由に賃貸借契約解除の意思表示がなされたことは記録上明らかである。

2  被控訴人が別紙第二目録記載(二)の建物の敷地部分に控訴人主張のコンクリート壁を築いたことは当事者間に争がなく、なお前掲検証の結果によればその中に土を盛つたことも認められる。

3  そこで、右が前記一の3記載の契約条項に違反し、賃借人として著しく信義に反し、直ちに契約を解除するに足るものかどうかについて検討すると、前掲証人小沢敏彦の証言、当審における証人布川トシ同佐々木雅子(後記信用しない部分を除く)の各証言および前記二の2において認定した事実を併せて考ると、本件土地は西北隣地より幾分低いため、隣地から、雨水や、浄化槽からの洩れが流れてくることがあるので、新たに建物を建築するに当り湿気を防ぐため、一部建物の基礎を兼ねてやむをえず造られたものであり、その範囲は本件土地の五分の一弱であることが認められ、右認定に牴触する証人佐々木雅子の証言の一部は採用しない。

そして、右の事実から考えると、右の程度のコンクリート壁を築くことは右のような状態にある本件土地の賃借人が建物を建築する場合必要な方法として許されるものと認められ、これをもつて、直に前記一の3の約定に違反し、借地、隣地の価格を損ね、地主の負担を増し、借地の原形を変じたと断じ、賃貸借契約を継続しがたい著しく信義に反するものとすることはできない。

4  また右工事に当つて、高いコンクリートブロツク塀を建て、建築工事部分を囲んだことは前掲検証の結果によつて明らかであるが、その他の控訴人の主張する事由はこれを認めるに足りる証拠がなく、単にコンクリート塀を築き、その結果外部から工事の模様が見られなかつたとしても、そのこと自体が直ちに著しく信義に反する行為であるとはとうていいわれない。

したがつて、右契約解除はその効力を生じない。

四、(昭和三八年五月二九日の契約解除)

1  昭和三八年五月二九日当審第三回口頭弁論期日において控訴人主張の事由により、契約解除の意思表示がなされたことは明らかである。

2  しかしながら、控訴人主張の事由はこれを認めるべき証拠がないから、右契約解除の意思表示は効力がない。

五、(昭和三八年七月一〇日の契約解除)

1  控訴人が昭和三八年七月一〇日当審における第四回口頭弁論期日において、昭和二七年に締結された特約違反を理由に契約を解除したとの主張を提出したことは明らかであるが、右の主張を提出すること自体はこれがために訴訟の完結が遅延しない限り時機に遅くれた攻撃防禦方法とすることはできない。

控訴人は右の主張を立証するため証人石渡ヒロ、同中里クニ、控訴本人につき右事実に関し尋問を申出たのであるが、右申出は先に右証人の申出をした当審第二回以后の口頭弁論期日においても前記主張とともにその立証のため前掲人証の尋問を求めることができたものであつて、これをせず前記期日にいたつてこれをしたことは少くとも重大な過失があると認むべきである。しかも右申出を採用するためには更に期日を指定し証拠調をする必要があり、その結果の如何によつては被控訴人から反証のため人証の申出をすることもありうべく、訴訟の完結が遅延することを予期しなければならないから右証拠の申出は時機に遅くれた攻撃防禦方法として却下すべきである。

2  昭和二七年被控訴人と控訴人間に同人主張の約束がなされたことはこれを認めるべき証拠がないばかりでなく、右の約定がなされたとしても、建物所有を目的とする土地賃借人の土地使用につき強い制約を加えるものであつて、土地賃借人をしてその土地を十分に使用させようとする借地法の精神に反し、賃借人に不利な約定であるから、同法第一一条により無効なものといわねばならない。

したがつて、右解除は効力を生じないといわねばならない。

六、(むすび)

以上のとおりであるから、控訴人の本訴請求は失当であつてこれを棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九五条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 牧野威夫 満田文彦 渡辺卓哉)

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