大判例

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東京高等裁判所 昭和37年(ネ)580号 判決

控訴人(原告) 湯沢栄作

被控訴人(被告) 東京大学学長

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人が昭和三五年東京大学工乙受第十一号事件につき、昭和三六年三月三十日、控訴人に対してなした学位を授与しない旨の決定を取消す。訴訟費用は第一、第二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴指定代理人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、次に記載するほかは、原判決の事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。

一、控訴人は次のとおり述べた。

控訴人の本訴の目的は、原審以来東京大学大学院数物系研究委員会においてなした内部的な議決の取消を求めているものではなく、右議決を基として被控訴人が控訴人に対して学位を授与しない旨の決定をなしたので、その決定の取消を求めるものである。

控訴人の見解に従えば、右学位を授与しない旨の決定にはその理由を明らかにすべきであるに拘らず、本件決定にはその理由を掲げていないから、本件決定は不法不当のものである。

なお控訴人は、本訴では学位を授与しない旨の決定に対し、控訴人の論文は学位授与に値するものであると主張するものではない。学位不授与の理由が明らかにされた場合、その理由に不服ならまた別に争うものである。

二、被控訴指定代理人は、右主張に対し次のとおり述べた。

学位不授与の決定にはその理由を付すべきである旨の控訴人の主張事実はこれを争う。

理由

控訴人が、昭和三五年八月二六日被控訴人に対し、「自励振動の理論」その他一編の学位請求論文を提出し、工学博士の学位の授与を申請したところ、右論文につき(昭和三五年東京大学工乙受第十一号事件)、昭和三六年三月一七日東京大学大学院数物系研究科委員会において、学位を授与しないことに議決し、その結果が被控訴人に報告されたので、被控訴人は右報告に基づいて、昭和三六年三月三〇日、控訴人に対し学位を授与しない旨の決定をなし、同日控訴人にその旨の通知がなされたことは、当事者間に争いがない。

控訴人は、右学位を授与しない旨の被控訴人の決定は、これにその理由を付すべきであるにかかわらず、理由を付さない違法があるから、これが取消を求めると主張するので考えるに、被控訴人に対し博士の学位授与の申請があつた場合には、被控訴人は一定の手続(東京大学学位規則の定めるところにより、研究科委員会に論文の審査を付託し、同委員会は審査委員会の審査報告に基いて審議し、学位の授与不授与を議決し、その結果を被控訴人に報告したときは、これに基いて被控訴人は学位の授与不授与を決定することになつている。)を経て決定すべきものであることは、当事者間に争いのないところであり、このようにしてその授与不授与を確定する被控訴人の行為である本件決定は、いわゆる公法上の一種の確認行為というべく、右決定が違法な手続によつてなされた等の場合には、これが無効確認もしくは取消を求めうべきものと解するを相当とするところ、被控訴人のなす右決定に、学位を授与しない理由を付さなければならないという法令上の規定は存しないから、理由を付していないからといつて、本件決定を直ちに違法ということはできないし、他に違法の点のあることについてはなんらの主張も立証もない。

しからば、控訴人の本訴請求はその理由がないから、これを棄却すべく、同趣旨の原判決は相当で本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 鈴木忠一 菊池庚子三 宮崎富哉)

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