大判例

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東京高等裁判所 昭和38年(ネ)2391号 判決

控訴人

戸張周治

右訴訟代理人弁護士

山田靖彦

右補佐人弁理士

鈴江武彦

三木武雄

被控訴人

大洋興業株式会社

右訴訟代理人弁護士

水野東太郎

荒井秀夫

平岡高志

右補佐人弁理士

井上清子

隅田秇二郎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、(一)原判決を取り消す、(二)控訴人は別紙(一)記載の温床用覆布(商品名ビニネツト)を製造し、使用し、譲渡し、貸渡しのために展示してはならない、(三)被控訴人はその占有する前項記載の温床用覆布を廃棄せよ、(四)訴訟費用は、第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決と(三)項につき仮執行の宣言を求め、被控訴人代理人は主文第一項同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および立証関係は左記のほか原判決事実摘示と同一であるから、これをここに引用する。

控訴代理人の陳述

一、原判決は被控訴人の製造販売する本件温床用覆布の構造的特徴として、二つのビニール膜と一つのネツトより成ること、そしてネツトがビニール膜の間に介在し、覆布全体の中央に位置していることを強調し、それより来る控訴人の有する本件実用新案との作用効果上の相違をあげているが、本件実用新案は温床用覆布において、これを皮膜体と網自体とより構成し、それらの横巾を一定割合に限定して連着した構造に関する考案であつて、ビニール膜(皮膜体)が一つより成るか二つよりなるかは要旨外の問題に過ぎないし、仮りにそうでないとしても、本件温床用覆布は、それを構成するビニール膜の各々がネツトの横巾以上の巾をもつているのであるから、本件実用新案と同一構造のものに更に皮膜体をネツトの外側に附加したものというべく、しかもそれについて特段の新たな効果が生じるわけではない。本件実用新案でも網目体の他端部に何らかの物体を附加することは予想されている。すなわち、その公報中の「実用新案の説明」の項の末尾には、「網目体の連着部ではない他方(の端部)に鉛等の重錘を付し、土中に埋めることも可能」なる記載があり、本件実用新案が、皮膜体一枚と網目体一枚との連着以外には、何物の附加も拒絶しなければならないような考案ではないことを示している。そしてこの部分の記載を照合して考えれば本件温床用覆布における皮膜体のうちの一枚は右の重錘に相応するもので単なる附加物に過ぎない。ネツトが覆布全体の中央に位置しているか否かは、かかる附加物の結果的現象であつて、これが本件実用新案と牴触している事実に何ら消長を来たすものではない。しかも本件実用新案は温床覆布それ自体について考案であつて、それが組み上つた温床とかビニールハウスの構成に関する考案でない以上、そして、覆布を温床に組み上げる方法には幾通りも方法があつて、これを一様に劃することは不可能である以上、覆布自体において中央にネツトがあるということは、直ちに覆布を現実温床に組み上げて使用した場合、ネツトが右温床の中央部に来るということを意味しない。例えば一方のビニール膜を全部土中に埋める等の場合、網目体を南側に向けることができる。したがつて、原判決が本件温床用覆布について、ネツトが中央にあることを理由として特に掲げる作用効果は、いずれもその予想される一使用例におけるものに過ぎず、覆布の構成自体より考えられる作用効果としては、本件温床用覆布も本件実用新案のそれと同一であるといわなければならない。してみれば、本件温床用覆布は本件実用新案の考案要旨構成上の必須要件をことごとく具備していることとなり、これが本件実用新案と牴触することは明らかである。

二、本件実用新案権の技術的範囲の解釈に当つては、本件実用新案の考案性、社会性―それが従来のものと比べてどの点に新規性、有用性があるのか、それが社会的に如何なる価値をもつているのか―が当然考慮され、基礎とされるべきものといわなければならない。ところで本件実用新案権の考案意図および考案の趣旨は、その公報に記載されているとおり、従来の温床用覆布は全面皮膜体又は網目体のみより成るもので、これを特定の骨格に張設し温床として用いる場合、(1)皮膜体のみのものとは、風通しが悪く、日中温床内に手も入れられない程高温となり、植物の発育上不合理なことが生じ、したがつて、通風、射光その他のため、適宜覆布を外す必要があり、時間的労力的に繁雑かつ不利益であつたこと、(2)網目体のみのものは夜間はもとより日中でも温度が冷下し、温床としての役割を果さず、したがつて、コモその他のものを温床上にかぶせたり、温床内暖房をする必要があり、時間的労力的に繁雑かつ不利益であつたこと、本件実用新案は右の如き皮膜体は網目体のみよりなる覆布の欠点を取り除き、併せて、両者のもつ長所はこれを生かし、従来のものに比してより有用な覆布を提供しようとしたところにその考案の意図がある。かつ、それは、温床技術に新生面を開き、わが国農業の改善、発展に多大の寄与をなすものであつた。したがつて、これが技術的範囲を確定するについては、右の事情が十分斟酌されるべく、本件温床用覆布の権利侵害の事実の有無も、この点にそつて判断されるべきである。

三、仮りに本件実用新案が構造的に皮膜体一枚と網目体一枚の二部材よりなるものであるとしても、実用新案権侵害の有無の問題は考案としての価値の同一性の問題であるから、たとえ本件温床用覆布が三部材より成つていても、その実質において本件実用新案の要旨構成上の作用効果をすべて期待させ、構造的にも後者のそれを含むものである以上、本件温床用覆布は本件実用新案権に牴触し、それを侵害するというべきである。<以下省略>

理由

一、控訴人が昭和三三年一一月二四日出願、同三五年三月三一日公告、同年八月一一日登録にかかる登録番号第五一七、三一〇号、「温床用覆布」なる実用新案権を有すること、本件実用新案登録出願の願書に添付した説明書の登録請求の範囲が「図面(別紙図面二)に示すように、横巾の二分の一以上の巾を持つた塩化ビニール樹脂、ポリエチレン樹脂等の皮膜体1を横巾の二分の一以下の巾を持つた化学繊維又は天然繊維よりなる網目体2に連着してなる温床用覆布の構造にあること、および被控訴人が現在本件温床用皮膜を業として製造、販売していることは当事者間に争いがない。

二、当裁判所は本件温床用覆布は本件登録実用新案の技術的範囲に属しないものと判断するが、その理由は、当審における控訴人の主張に対する判断として次の点を附加するほか、原判決に記載してあると同一であるから、右原判決の理由を引用する。

(一)  成立に争いのない甲第六号証(本件実用新案公報)に原審における鑑定人(省略)の鑑定の結果、原審証人<省略>の証言を参酌すると、被温床用覆布における横巾というのは、温床用骨格を覆する全体の巾を指称し、本件実用新案の場合ビニール膜とネツトについて、横巾の二分の一以上または二分の一以下というのは温床用覆布の横巾に対していうのであつてビニール膜がネツトの横巾以上の巾をもつていることを意味するものではない。本件温床用覆布の場合についてこれをいえば約一八三糎の巾がこれに相当するものであつて、二枚のビニール膜のうちの一方を取り除いた残りの巾をいうものではない。したがつて全体として本件実用新案と本件温床覆布とを対比した場合、前者においてはネツトが端部に位置しているのに対し、後者においては中央部にネツトが介在しているという構成上の差異があるものというべきであり、後者が前者と同じものに更にもう一枚のビニール膜を連着したものと考えることはできない。なお、前記甲第六号証によると、本件実用新案公報説明の項の末尾に、「網目体2の連着部3でない他方に鉛等の重錘を付し、士中に埋めることも可能であり」との記載があるが、鉛等の重錘を付する場合と更に皮膜体一枚を付加する場合とを同一に論じ得ないことはいうまでもないから、右も記載により実用新案が更に皮膜体一枚を附加することを予想しているものということはできない。そして本件実用新案はその構造から、網目体が必然的に覆布全体の端部に位置することによつて、該説明書が本件実用新案の作用効果としている温床の用いられる冬期間中日光が南側端部の網目体を通して直接温床内に差しこんで植物に当るようにすることができ、また網目体であるため南側の風通しがよくなり、しかも北側は皮膜体によつて二分の一以上覆われているため、北風および斜上からの回り風をほぼ完全に防ぐことができ、苗を合理的に発育させることができるのに対し、本件温床用覆布はその構成が異る結果本件考案の前記作用効果を期待することができないことは原判決説示のとおりである。なるほど本件実用新案は温床用覆布それ自体についての考案であつて、これによつて組み上げられた温床とかビニールハウス等の構成に関する考案でないこと、覆布を温床に張設するにつき種々の方法が考えられることは控訴人主張のとおりであるが、本件実用新案は網目体は南側に向けて使用することにより前記の作用効果がある以上、これを本件実用新案作用効果というになんら妨げがなく、前記証人(省略)の証言によると、温床用覆布はそれ自体によつて温床全体を被覆すべきものであり、温床の骨組の構造の如何にかかわらず、本件温床覆布には本件実用新案と同一の作用効果を期待することができないことが認められる。

(二)  前記甲第六号証によると、本件実用新案は従来の全面皮膜体又は網目体のみよりなる温床用皮膜の欠点を取り除き、併せて両者のもつ長所を生かし、従来のものに比し、より有用な覆布を提供しようとしたところにその考案の意図があることは認められるが、本件実用新案と本件温床覆布とはその構成および作用効果を異にする以上、単にその意図において共通点があるからといつて、価値が同一であり、後者は前者の権利を侵害するものと即断することはできない。

三、よつて、本件温床用覆布が本件登録実用新案の技術的範囲に属することを前提とする控訴人の本訴請求は、他の点について判断するまでもなく理由がないものとして棄却した原判決は相当で、本件控訴は理由がないから、民事訴訟法第三八九条によりこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき同法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。(裁判長判事原増司 判事福島逸雄 荒木秀一)

別 紙 (一)

被控訴人の製造販売にかかる温床用覆布(商品ビニネツト)

第一図は温床用覆布の平面図、第二図は第一図のA―A線断面図、第三図は使用説明図を示す。

竹、木材その他を組み立ててなる骨格を被覆して用いる温床用覆布で、幅約八十五糎の2と互いに等しい幅を持つビニール膜1と、幅八十五糎の1と互いに等しい幅をもつビニール膜2の間に、幅十五糎の繊維製寒冷紗からなるネツト3を挾み、該ネツトの両側辺を上記ビニール膜1とビニール膜2にそれぞれ溶着または縫着して、上記ビニール膜1とビニール膜2の間にネツト3を介在連結し、温床用覆布全体の横幅を約百八十三糎にしたものである。

別 紙 (二)

控訴人の有する登録実用新案説明書記載の図面

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