大判例

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東京高等裁判所 昭和39年(ネ)2990号 判決

主文

一、控訴人和光商事株式会社、同小杉栄次、同小杉正作の本件控訴を棄却する。

二、原判決第三項および第四項を次のとおり変更する。

(1)  控訴人晃和興業株式会社は、被控訴人に対し、被控訴人が原判決第一項に掲げる所有権移転の本登記を経たときは、原判決別紙目録(一)記載の建物中本項(2)表示の部分を除く建物部分を明渡せ。

(2)  控訴人小杉武免代は、被控訴人に対し、被控訴人が原判決第一項に掲げる所有権移転の本登記を経たときは、原判決別紙目録(一)記載の建物中一階約一坪および中二階約一坪五合の各売店部分を明渡せ。

(3)  被控訴人の控訴人晃和興業株式会社および同小杉武免代に対する建物明渡請求中その余の請求を棄却する。

(4)  控訴人晃和興業株式会社は被控訴人に対し昭和三六年六月九日から本項の(1)の明渡ずみに至るまで一ケ月金四〇万円の割合による金員を支払え。

三、訴訟費用は被控訴人と控訴人らとの間に生じた費用は、第一、二審を通じて控訴人らの負担とする。

四、本判決第二項の(4)については仮に執行することができる。但し、控訴人晃和興業株式会社が金一、五〇〇万円の担保を供するときは右仮執行を免れることができる。

事実

控訴人ら代理人は、「原判決中控訴人ら敗訴の部分を取り消す。被控訴人の請求はいずれもこれを棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は、本件各控訴を棄却するとの判決および原判決につき仮執行の宣言を求めた。

当事者双方の事実上の陳述、証拠の関係は、控訴人ら代理人において、被控訴人主張の代物弁済契約が暴利行為として公序良俗に反するから無効であるとの主張および控訴人晃和興業株式会社が留置権を有するとの主張はこれを撤回すると述べ、証拠として左に付加するほか原判決事実摘示のとおりであるからこれ(但し、第三の二の抗弁の(1)、(2)および(4)ならびに第四原告答弁一、二、四を除く。)を引用する。なお、右事実摘示第三の二抗弁の(3)五行目に二月一日とあるのは一一月一日の誤記と認める。

証拠(省略)

理由

一、被控訴人が昭和三五年一二月六日控訴人和光商事株式会社(当時の商号晃和実業株式会社)に対し、金三、五〇〇万円を弁済期は昭和三六年一月五日、利息は一ケ月四分の割合(但し、表面上は利息日歩四銭一厘、遅延損害金日歩八銭二厘)の約定で貸付け、一ケ月分の利息として金一四〇万円を天引して現金三、三六〇万円をこれに交し、控訴人小杉栄次は被控訴人に対し右被控訴人会社の右の返還債務を保証したものであるところ、右の貸金は利息制限法第一条第一項および同法第二条により制限利率を超える天引金額は元本の支払に充てたものとみなされる結果、被控訴人は右控訴人会社に対し金三、四〇二万円の貸金元本債権を有するものと認められること原判決理由の示すとおりであるから、これ(同理由一)を引用する。

しかして、被控訴人は右の貸付に当り、控訴人和光商事株式会社所有の原判決別紙目録(一)記載の建物(以下本件建物という。)および控訴人小杉栄次所有の同目録別紙(二)記載の土地(以下本件土地という。)につき、右控訴人両名との間で控訴人和光商事株式会社が右の弁済期に右の債務を弁済しないときは、被控訴人の予約完結の意思表示により同土地、建物の所有権は右の弁済にかえて被控訴人に移転する旨の代物弁済の一方の予約をそれぞれ締結し、右代物弁済予約を原因として、本件建物につき東京法務局文京出張所昭和三五年一二月七日受付第一八、四五七号をもつて、本件土地につき同出張所同日受付第一八、四五九号をもつて、それぞれ所有権移転請求権保全の仮登記がなされたこと、被控訴人は、右控訴人両名に対し昭和三六年六月八日到達の書面で、本件土地建物につき右の代物弁済予約の完結の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。

右の事実によれば、被控訴人は右の代物弁済の予約の完結により、本件土地、建物の所有権を取得したものというべきであり、被控訴人に対し、控訴人和光商事株式会社は本件建物につき、控訴人小杉栄次は本件土地につき、それぞれ前記所有権移転請求権保全の仮登記に基づき、昭和三六年六月八日代物弁済を原因とする所有権移転登記手続をする義務があるというべきであり、右控訴人両名に対し本件土地、建物の所有権に基づき右の本登記手続を求める被控訴人の請求は理由がある。

二、控訴人晃和興業株式会社、同小杉正作が本件建物につき控訴人主張の所有権移転請求権保全の仮登記、根抵当権設定および賃借権設定登記を有していることは当事者間に争いがない。しかして、右の各登記は被控訴人が本件建物につき有する前記仮登記よりおくれたものであることは明らかであるから、仮登記権利者である被控訴人が前認定のとおり所有権を取得し、本登記をするに必要な要件を具備するに至つたときは、右控訴人らはその登記にかかる権利をもつて被控訴人に対抗することができない地位にあり、被控訴人が右本登記手続をなすことを承諾する義務を有するものというべきである。よつて、右控訴人らに対し、右の承諾を求める被控訴人の請求は理由がある。

三、被控訴人の控訴人晃和興業株式会社および控訴人小杉武免代に対する本件建物の所有権に基づく明渡請求に対し、右控訴人らは、控訴人晃和興業株式会社は、同建物を控訴人和光商事株式式会社から賃借して被控訴人の前記仮登記前に引渡を受け、控訴人小杉武免代は控訴人晃和興業株式会社から本件建物中被控訴人主張部分を転借して同様引渡を受けているから、被控訴人に右賃借権をもつて対抗しうると主張するので、この点につき判断する。

控訴人晃和興業株式会社が本件建物を、控訴人小杉武免代が同建物中被控訴人主張の売店部分をそれぞれ占有していることおよび被控訴人の前記仮登記が昭和三五年一二月七日になされたことは当事者間に争いがない。次に、右の仮登記当時の本件建物の占有状態についてみると、原審証人吉羽喜三郎、当審証人丸山清、同池田米光、吉岡長造の各証言ならびに原審における控訴人小杉栄次、原審および当審における控訴人晃和興業株式会社代表者高橋三郎の各尋問の結果中には、当時既に本件建物の一階および中二階部分はほぼ完成に近く、右控訴人会社は本件建物の引渡を、控訴人小杉武免代は同建物売店部分の引渡をそれぞれ受けて、これを占有、使用していた旨の供述があるが、右は、成立に争いのない甲第七号証、成立に争いのない甲第二一号証および右小杉栄次の尋問の結果により晃和興業株式会社の代表取締役であつた小杉栄次が作成したものと認められる甲第八号証ならびに後記の証拠に照すと信用しがたい。右の各証言および各本人尋問の結果によれば、前記仮登記がなされる以前から控訴人晃和興業株式会社の社員らが本件建物における同会社の映画館開業の準備のため同建物に出入したことがうがかわれるが、原審証人高橋信義、同池野秋嘉、原審および当審証人清水忠次の各証言ならびに原審および当審における被控訴人会社代表者山根三雄の尋問の結果を総合すると、昭和三五年一二月初旬当時は本件建物は建築工事中で、外装、内装とも未了であり、コンクリート打込のままの部分が多く、扉、ガラス窓はなく、工事用を除き電灯も未だとりつけられていない状態であつたことが認められるのであつて、映画館用の設備は同控訴人会社がすることになつていたとしても、建築主たる和光商事株式会社が、控訴人晃和興業株式会社に本件建物を引渡すべき段階に立ち到つていたとは認め難く、前記の事実も本件建物が引渡されたことを認める資料とはなしがたい。また、当審における前記高橋三郎の尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第三号証には、控訴人晃和興業株式会社は昭和三五年九月分から本件家屋の賃料を支払つた旨の記載があり、高橋の右の供述中にもこれに符合する部分があるが、右は前記証人吉葉の証言ならびに原審における控訴人小杉栄次および右高橋三郎の尋問の結果に照し信用しがたく、他に前記仮登記当時すでに右控訴人会社および控訴人小杉武免代が本件建物の引渡を受けて占有していたことを認めるに足る証拠はない。してみれば、仮に同控訴人会社および控訴人小杉武免代が本件建物につき賃借権を有していたとしても、被控訴人の所有権移転請求権保全の仮登記がなされる前にその引渡を受けていた事実が認められず、他に賃借権の対抗力につき格別の主張も証拠もない以上、被控訴人が所有権を取得し、本登記を経た場合には、これに対抗しえないものといわざるをえない。ところで、被控訴人が本件建物の所有権を取得したことは前認定のとおりであるが、その本登記を経ていないことは被控訴人の自認するところであるから、被控訴人は前記仮登記の本登記を経ないかぎり、自己の所有権取得を対抗しえないものである。よつて、被控訴人が同控訴人らに対し本件建物の所有権に基づき明渡を請求することができるのは、被控訴人が所有権取得の本登記を経たうえでなければならないというべききである。したがつて、被控訴人の本件建物の明渡の請求は、同人が同建物につき本登記を経ることを条件にこれを認めるのが相当であり、右の限度において被控訴人の右の請求は理由がある。

四、右のとおり、控訴人晃和興業株式会社は被控訴人に対抗しうるなんらの権限なく本件建物のほとんど全部を占有しているから、同控訴人は被控訴人が現実に本件建物の所有権を取得した日の翌日である昭和三六年六月九日から明渡まで本件建物の賃料相当の損害金を被控訴人に支払う義務があるものというべく、原審および当審における同控訴人会社代表者高橋三郎の尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第二号証、同第四ないし第六号証によれば右の賃料相当額は金四〇万円であることが認められる。よつて、被控訴人の右控訴人に対する損害金の請求は、一ケ月金四〇万円の限度において理由があるというべきである。

五、以上のとおりであるから、原判決は、控訴人晃和興業株式会社および同小杉武免代に対し本件建物の明渡を命ずる部分(第三、四項)を除き相当であり、控訴人和光商事株式会社、同小杉栄次、小杉正作の本件控訴は理由がないから、これを棄却するものとし、右の明渡を命じた部分は、右控訴人らに無条件にこれを命じた点において失当であるから、これを変更するものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第九二条、第九三条一項本文を適用し、仮執行の宣言については、控訴人晃和興業株式会社に対し金銭の支払を命ずる部分についてのみこれを付するのを相当と認め同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

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