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東京高等裁判所 昭和40年(ネ)2261号 判決

主文

本件控訴をいずれも棄却する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴人山田鉱一代理人は本訴につき「原判決中同控訴人敗訴の部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を、反訴につき「原判決を取消す。被控訴人は同控訴人に対し、同控訴人から金三八万二五〇〇円及びこれに対する昭和三四年一〇月一〇日から支払済に至るまで年一割五分の割合による金員並びに金九三万二五〇〇円に対する昭和三〇年四月二四日から同三四年一〇月一〇日まで年一割五分の割合による金員の支払を受けるのと引換に東京都新宿区西落合一丁目一五八番地家屋番号同町二四三番木造瓦葺二階建居宅一棟建坪五九坪九合七勺(一九八、二四七九平方メートル)、二階二三坪一勺(七六、三六三五平方メートル)についてなされた東京法務局新宿出張昭和三三年六月六日受付第一三、三六一号抵当権設定登記及び同出張所同日受付第一三、三六二号所有権移転請求権保全仮登記の抹消登記手続をせよ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を、控訴人山口堅造、同前田昌宏代理人は本訴につき「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴代理人は本訴及び反訴につき控訴棄却の判決を求めた。

証拠(省略)

理由

第一  本訴についての判断

一  訴外春名幸夫と控訴人山田鉱一及び同控訴人の妻山田ちた間の東京高等裁判所昭和三二年(ネ)第二〇〇九号事件につき昭和三三年三月二九日同裁判所において右当事者間に

(1)  控訴人山田鉱一及び山田ちたは連帯して春名幸夫に対し金九三万二五〇〇円及びこれに対する昭和三三年四月二四日から支払ずみまで年一割五分の割合による遅延損害金債務を負担する。

(2)  控訴人山田鉱一及び山田ちたは前項債務のうち金五〇万円を昭和三三年七月一〇日、金五万円を同年一二月二九日までに春名幸夫代理人弁護士木戸口久治方に持参して支払うこと。

(3)  控訴人山田鉱一及び山田ちたが前項各期日までに前項各金員を遅滞なく支払つたときは、春名幸夫は(1)項の債務の残存額の支払を免除すること。

(4)  控訴人山田鉱一は(1)項債務の支払を担保するため、その所有にかかる別紙第一目録(一)記載の建物(以下本件建物という)及び同第二目録記載の宅地(以下本件土地といい、両物件を総括して本件不動産という)に対し順位二番の低当権を設定すること。

(5)  控訴人山田鉱一及び山田ちたが(2)項記載の金員を同項記載の期日までに完済しないときは、春名幸夫は(1)項記載の債務の支払にかえて本件不動産の所有権を取得するものとする。

春名幸夫は、その場合(1)項の金員のうち支払ずみのものは控訴人山田鉱一及び山田ちたに返還すること。

控訴人山田鉱一は本件不動産につき春名幸夫のために代物弁済予約による所有権移転請求権保全の仮登記をなすこと。

の条項による和解(以下本件和解という)が成立したこと及び春名幸夫が右和解に基づき昭和三三年六月六日本件建物につき東京法務局新宿出張所同日受付第一三、三六二号をもつて、代物弁済予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記を了したこと、控訴人山田が本件和解条項(2)項所定の金員を同項所定の期日までに支払わなかつたこと及び控訴人山田が同年八月三〇日春名幸夫に金三〇万円を提供し、春名がこれを受領したこと、(金員授受の趣旨は暫く措く)はいずれも当事者間に争いがない。

被控訴人は、春名が昭和三四年九月中旬頃被控訴人と、控訴人山田に対する本件代物弁済予約完結の意思表示に先立ち本件建物を被控訴人に売渡す旨の契約をしたと主張するけれども、右事実を認めるべき証拠はない。それ故、春名と被控訴人との間に本件建物の売買契約が締結されたことを前提とする被控訴人の主張は他の争点についての判断を俟つまでもなく排斥を免れない。

二  成立に争いのない乙第三号証、原審証人木戸口久治(第一、二回)、原審及び当審証人春名幸夫の各証言並びに原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果を綜合すると、春名は被控訴人と昭和三四年九月中旬頃本件和解によつて確認され又は認められた同人の控訴人山田に対する貸金及び遅延損害金債権(以下、本件貸金債権という)及び本件建物に対する代物弁済予約上の権利を被控訴人に譲渡する旨の契約を締結した事実が認められ、右認定を妨げる証拠はないところ、同月二二日到達の書面をもつて春名から控訴人山田に対して右譲渡の通知がなされ、次いで本件建物につき昭和三九年一〇月一〇日被控訴人のために東京法務局新宿出張所受付第二二、八〇二号をもつてさきになされた所有権移転請求権保全の仮登記(昭和三三年六月六日受付第一三三六二号)の付記登記がなされた事実は当事者間に争いがなく、また、被控訴人が控訴人山田に対して原審における昭和三九年一二月一二日の口頭弁論期日において代物弁済予約完結の意思表示をした事実は記録上明らかである。

三  そこで、控訴人らの本件代物弁済の予約ないし完結の意思表示が無効であるとの各抗弁について順次判断する。

(一)  春名と被控訴人との間に締結された本件貸金債権及び代物弁済予約上の権利の譲渡に関する契約はその間にいわゆる事件屋が介在し、控訴人山田の窮状に乗じ、同控訴人から暴利を得ようと意図してなされたものであるから公序良俗に反する事項を目的とする無効の法律行為であるとの主張について検討するに、原審証人木戸口久治(第一、二回)、原審及び当審証人春名幸夫の各証言並びに原審及び当審における被控訴人本人尋問の結果を綜合すれば右譲渡契約締結に際し春名の代理人たる木戸口弁護士と被控訴人との間に数名の不動産仲介業者が介在した事実が認められるけれども木戸口弁護士において控訴人から暴利を得ようと意図して譲渡契約をした事実も、被控訴人において控訴人山田の窮迫に乗じて暴利を得ようと意図して、契約した事実もともに肯認すべき証拠がないので控訴人らの右抗弁は排斥を免れない。

(二)  次に控訴人らの本件代物弁済の予約自体が無効であるとの主張について検討する。

(1) まず、本件代物弁済の予約は、本件不動産の時価が本件貸金債権の額に比して著しく高額であることから予約完結権者に利息制限法の制限を超過する金員を取得せしめるのと同一の結果を招来するので、同法第一条、第三条に違反し無効であるとの点について考えるに、本件不動産の右予約当時の価額が控訴人ら主張のとおりであるとしても、その価額から本件貸金債権額を控除した残額が同法にいわゆる利息又は賠償金にあたるものでないことは論を俟たないところ、同法は消費貸借上の利息又は賠償金にあたらない金銭の授受まで規制するものではないから、本件代物弁済の予約が暴利行為として民法第九〇条により無効となるかどうかは別として利息制限法に違反するものとして無効になるいわれはない。

(2) 進んで、本件代物弁済の予約が公序良俗に反する事項を目的とするもの(暴利行為)であるかどうかについて検討するに、右予約締結時の本件不動産の価額が控訴人ら主張のとおりであるとしても、成立に争いのない甲第一号証、乙第一号証、同第一〇号証、同第一三、一四号証、本件口頭弁論の全趣旨により真正の成立を認める乙第八号証、原審証人木戸口久治(第一、二回)、同山田ちた、原審及び当審証人春名幸夫の各証言、原審及び当審における控訴人山田鉱一本人尋問の結果(後記採用しない部分を除く)並びに本件口頭弁論の全趣旨を綜合すると、本件和解は春名を原告、控訴人山田及び山田ちたを被告とする貸金請求事件が第一審で敗訴した控訴人山田らの不服申立に因り控訴審に係属中に成立したものであるが、右訴訟においては、本件貸金債権は、そもそも春名が控訴人山田の代理人と称する同人に対する建築請負代金債権者たる訴外田中正文に元本一〇〇万円を交付したものであるため、田中の代理権を廻つてその存否が争われたものであるところ、春名には、右貸金を他からの借入金をもつてこれに充てた関係上、借入先から返済方を強く催促されていた事情があり、他方春名は、右貸金について作成された公正証書につき、控訴人山田から請求異議の訴を提起せられ応訴した関係もあつて、同控訴人との紛争の早期解決を図るため、同控訴人の昭和三三年六月末日頃までに訴外常盤相互銀行から同銀行に対する定期積金を担保として六〇万円の融通を受け必らず弁済すべき旨をもつてする和解申入れに応ずることとし、当時の残元本をも下廻る金額五五万円で前記和解を成立させたものであること、右和解当時本件建物及びその敷地である東京都淀橋区西落合一丁目一五八番地の五宅地二一〇坪三合四勺には昭和二七年一〇月九日国税の滞納に基き大蔵省のため差押登記がなされていたほか昭和二四年一〇月二四日日本無尽株式会社(後の日本相互銀行)のための債権元本限度額一五〇万円の根抵当権設定登記と昭和二九年二月一二日株式会社大洋相互銀行(後の静岡相互銀行)のための債権元本極度額一八万円の根抵当権設定登記及び代物弁済の予約による所有権移転請求権保全の仮登記がなされていたので、春名及同人の代理人木戸口は、控訴人山田の従来のやり方からして同人の右各抵当債務は大半支払ずみなる旨の言明にも多く信を措かず、本件建物と前記敷地の価格は控訴人山田の前記租税債務と抵当債務を控除すれば、本件和解に基いて同控訴人が春名に支払うべき債務額と大同小異であると考え、右建物と敷地を代物弁済に因り取得することには重点を置かず、只管控訴人山田が昭和三三年六月末日前示常盤相互銀行よりの借入金をもつてする支払に期待し、弁済期も特に同年七月一〇日と定めて本件和解を成立させたもので右和解における代物弁済の予約に関する約定も一般の慣例に従つたものであり、従つて右和解によつて右建物と敷地について自ら設定を受けるべき第二順位の抵当権設定登記及び代物弁済の予約に因る所有権移転請求権保全仮登記も経由しないまま放置し、右敷地が前示国税滞納に基く公売により同年六月二日訴外森田一男に落札されたことを知るに及んで急拠同年六月六日仮登記仮処分命令により右抵当権及び代物弁済の予約の仮登記を経たことが認められる。

しからば右和解は裁判所の関与の下に行われたことと相俟つて、春名らが控訴人山田の軽卒に乗じ、暴利を得る目的で本件代物弁済の予約をさせたものとは到底認めることができないからこの点に関する控訴人らの主張はこれを排斥する。

(三)  さらに本件代物弁済の予約に関する本来の給付である貸金債権が弁済及び供託によつて消滅したので予約完結権も消滅したとの主張について検討する。春名が昭和三三年八月末頃控訴人山田と、当時東京国税局長及び森田一男との間の本件敷地に関する後記訴訟が解消するまで本件和解条項所定の金五五万円の支払を猶予したとの点は、当審証人山田ちたの証言並びに原審及び当審における控訴人山田鉱一本人尋問の結果中にこれに符合する供述部分があるけれども、右供述部分は、原審証人木戸口久治(第一、二回)、原審及び当審証人春名幸夫の各証言に対比しさらに、春名は控訴人山田との抗争を好まず、紛争の早期解決を希望していた前記認定事実、成立に争のない乙第一一、一二号証によつて認められるように後記控訴人山田と東京国税局長間の訴訟事件は昭和三四年一一月末頃同控訴人敗訴の判決が確定し、森田一男間の訴訟事件は昭和三五年一月二七日裁判上の和解により終了した事実よりすれば、にわかに採用できず、他にこれを認めるに足る証拠はなく、却つて、右各証言と成立に争いのない乙第二号証の一、二、前顕乙一〇ないし第一二号証、口頭弁論の全趣旨により真正の成立を認める乙第九号証原審証人浅海清一、同成田喜栄三、同吉田重信の各証言並びに原審及び当審における控訴人山田鉱一本人尋問の結果(前記借信しない部分を除く)を綜合するとこれと矛盾する次の事実、すなわち、控訴人山田は東京国税局長より国税滞納処分として昭和二七年九月二六日付をもつて、本件不動産を差押えられ(同年一〇月九日差押登記)ていたが本件和解後本件土地が公売処分に付され前記のとおり昭和三三年六月二日の期日に公売され訴外森田一男の落札するところとなつた。控訴人山田はその頃東京国税局長を被告として本件土地公売処分の取消等の訴(東京地方裁判所昭和三三年(行)第七一号)を提起し、他方同年八月森田から本件建物の収去とその敷地の明渡を求める訴(同庁同年(ワ)第六五二八号)を提起されるといつた事情にあつて常盤相互銀行からの借入に、成功しなかつたので本件和解条項所定の五五万円中の五〇万円を約定の同年七月一〇日までに春名に支払うことができず、その後春名の代理人木戸口に電話し、和解で定められた履行場所たる同人の事務所に五〇万円を持参したい旨を伝えたが、同人より違約を理由に債権全額九三万二五〇〇円と遅延損害金の支払を要求せられたので同年八月三〇日妻山田ちたを使として三〇万円を春名宅に持参して右五〇万円の内入弁済として提供させたが、春名は、本件和解の事後処理を木戸口弁護士に委任していたので右三〇万円の処置につき同弁護士に電話をもつて指示を求めたところ、同弁護士から、既に履行遅滞にある上に一部弁済でもあるからその受領を拒むべく、強いて置いてゆくというならば一応預つて置いても差支はないとのことであつたので控訴人山田に右指示内容を伝えた上で一応これを預り、近日中に残金を持参するよう申向けたが同控訴人は残金を持参しなかつた。以上の事実が認められる。

右認定の事実によれば、控訴人山田は春名に対し、本件和解で定められた金員支払の最終日の翌日である昭和三三年一二月三〇日当時少くとも金六三万二五〇〇円及びこれに対する昭和三三年四月二四日から支払済に至るまで年一割五分の割合による約定遅延損害金を直ちに支払うべき債務を負担していたものといわなければならない。しかして、控訴人山田が昭和三四年一〇月一〇日金二五万円を弁済供託した事実は当事者間に争いがないけれども、右供託はその金額が債権額の一部に過ぎないのみならず貸金債権及びその遅延損害金債権が被控訴人に譲渡され、既に春名から譲渡の通知がなされた後のことに属するので効力を生ずる由もない。それ故、右供託によつて本件代物弁済の予約に関する本来の給付である貸金債権が消滅し、従つて、予約完結権も消滅したとの控訴人らの主張も排斥を免れない。

(四)  なお、控訴人らは、本件代物弁済の予約は本件貸金債権の残存額を確定し、目的物件の価額を見積つた上で債務の弁済に充当する物件の価額を決定した後に完結権を行使すべかりしものであると主張するけれどもそのような趣旨の約定であることを認めるに足る資料はなく、右のような趣旨のものでないことは本件和解条項の文言から明瞭である。また、控訴人らは、代物弁済は有償契約であるから、既に受領した三〇万円を一旦控訴人山田に返還し本件建物の価額を決定した上でなければ予約完結権を行使できないと主張するけれども、代物弁済が有償契約であるということから当然に本件代物弁済の予約をそのような趣旨に解さなければならないとする理はなく、本件和解条項特にその(5)項の文言も必ずしも予約完結の意思表示前に受領した金員を返還すべきことを定めた趣旨と解さなければならないものではない。それ故、この点に関する控訴人らの主張も排斥を免れない。

四  以上の次第で、控訴人らの抗弁はいずれも排斥を免れないので、被控訴人は昭和三九年一二月一二日代物弁済予約完結の意思表示により本件建物の所有権を取得したものというべきである。

五  しかるところ、控訴人山田が本件建物を昭和三九年一二月一三日以前から占有し、また、同山口が本件建物中別紙第一目録(二)の部分、同前田が本件建物中同目録(三)の部分を占有している事実及び本件建物の昭和三九年一二月一三日以降の賃料相当額が一ケ月金一万六八〇七円であることはいずれも当事者間に争いがないので、被控訴人に対し、控訴人山田は本件建物につき前記所有権移転請求権保全の仮登記及び請求権移転の付記に基く本登記手続をし、本件建物を明渡し、かつ、昭和三九年一二月一三日より右明渡済に至るまで一ケ月金一万六八〇七円の割合による賃料相当損害金を支払うべき義務があり、また、控訴人山口、同前田は本件建物中右各占有部分を明渡すべき義務がある。

第二  反訴についての判断

反訴請求の原因たる事実中、春名が本件和解に基ついて控訴人山田に対し同控訴人主張の貸金債権及び本件建物に対する抵当権並びに本件代物弁済予約上の権利を有していた事実、被控訴人が春名から右権利一切を譲受けた事実及び本件建物に控訴人山田主張の各登記がなされている事実はいずれも当事者間に争いがない。しかし、被控訴人が昭和三九年一二月一二日本件代物弁済予約完結の意思表示をしたことによつて控訴人山田が本件建物の所有権を失つたことは前認定のとおりであるから控訴人山田が本件建物の所有権を有することを前提とする同控訴人の反訴請求は失当であるといわなければならない。

第三  結論

以上の次第であるから被控訴人の本訴請求を認容し、控訴人山田の反訴請求を棄却した原判決(原判決主文第一項五行目の「昭和三九年一〇一〇日」とあるのは「昭和三九年一〇月一〇日」の誤記と認める)は相当で本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

別紙

不動産目録(一審判決と同一につき省略)

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