大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

東京高等裁判所 昭和40年(行ケ)124号 判決

原告

株式会社アンドリユウス商会

代理人

松田喬

被告

特許庁長官

井上武久

指定代理人

古川亮

外一名

主文

特許庁が、昭和四十年九月二十七日、同庁昭和三七年抗告審判第四二三号事件についてした審決は、取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判〈略〉

第二  請求の原因

原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。

一  特許庁における手続の経緯

〈略〉

二  本願発明の要旨

容体と支持台との間を傾斜した落し樋で連結して容体中に収容したピン等の被試験品を支持台上に自動的に順次落下させ、支持台上に落下した被試験品を機械的に運動する往復杆に依り順次送出し、押印子の下に置いて、カムとの連動に依り錘を附設した押印子を昇降させて押印を行い、押印子の昇降の度合を電気回路に挿入した指針に伝達して電気回路を開閉することを特徴とする全自動式硬度試験機。〈別紙一の図面―略〉

三  本件審決理由の要点

〈前略〉(1)昭和三十三年七月十四日付訂正書と補充全図面との記載内容は、当初の明細書の記載によれば、図面は第一図から第五図を予定していたと推測されるのに、訂正書をみると補充図面の第一図から第十図と対応した記載内容を示しており、また、当初明細書によれば、第一図は全体の斜面図であるのに、補充図面の第一図は正面図であり、訂正書の記載もこれと一致させている点、補充図面の第三、第五、第六、第八、第九、第十図の記載内容は、当初明細書のどこにも記載されていなかつた構成を図示したものであるとともに、補充図面第一、第二、第四、第七図の各記載についても、これらの各図が当初の明細書中の記載に基づいて明確に図示したものとは認められないものである点において、(2)前記全文訂正明細書は、その特許請求の範囲の項に本願発明の構成要件の一つとして記載している「カムとの連動により錘を附設した押印子を昇降させて押印を行なう」の構成及び訂正明細書第一頁第四行から第十二行の記載事項、同第四頁第四行から第九行の記載事項並びに同第五頁第二行から第五行の記載事項などの、そのいずれもが当初の明細書中には何ら記載のなかつたものである点において、前記訂正全図面は、当初の明細書の記載内容を図示説明したものではない点において、いずれも本願発明の要旨を変更したものと認められるから、これらはいずれも採用することができないものである。〈以下略〉

理由

(争いのない事実)

一本願は、当初の明細書のみを願書に添附して、昭和三十年十二月三十日特許出願されたが、のち、審査官の訂正指令等により、(1)昭和三十三年七月十四日付訂正書及び補充図面、(2)同年九月十三日付訂正書、(3)昭和三十四年三月十一日付答申書、(4)同年八月二十二日付上申書及び(5)同年十月七日付訂正明細書及び同図面が提出されたのち、昭和三十五年六月七日出願公告されるに至つたものであることは、当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二本件審決が前項掲記の訂正書等のうち、(2)の訂正書以外のものは採用することはできないとして排斥したうえ、これと当初の明細書の記載のみをもつてしては本願発明の具体的内容を明確にすることはできないとして、本願は旧法第一条の特許要件を具備するものとはいえない、としたことは、本件当事者間に争いのないところであるが、前項掲記の各訂正書等、とくに(5)の訂正明細書及び同図面によれば、本願発明の要旨は、原告主張のとおり(請求の原因二記載のとおり)のものであること、したがつて、これが他の特許要件を具備するものといえるかどうかは別として、少なくとも、その技術内容において明確なものといいうることは、容易に理解しうるところであるから(このことは、本件に関する出願公告がこの内容において行なわれた事実に徴しても明らかである。)、本件審決の判断が誤つたものであるかどうかは、本件審決がこれらの訂正書等(ただし、(2)の訂正書を除く。以下同じ。)を採用しがたいものとしたことが正当であつたかどうかに帰着することは、明白なところである。したがつて、本件における事実上の争点は、本件審決がこれらの訂正書等を採用しがたいとして挙げた(1)ないし(3)の理由(前掲「本件審決理由の要点」参照)がなお維持するに足るものであるかどうかに帰することは、また明らかなところである。しかして、本件に現われた証拠資料によれば、本件審決の挙げた前掲(1)ないし(3)の理由は、いずれもこれを支持するに値しないものであること以下に説示するとおりであるから、本件審決には、この点に関する判断を誤り、ひいて、その結論を誤つた違法があるものといわざるをえない。すなわち、

(1)  の理由について

本件審決は、まず、前記(1)の訂正書及び補充図面、とくに図面の記載が当初の明細書の記載と数及び内容において相違する旨指摘する。しかして、〈書証〉を比較考量すると、当初の明細書においては、添附図面は第一図(全体の斜面図)から第五図までを予定していたが、右の補充図面は、第一図(正面図)から第十図までとされ、しかも、そのうち第一、第二図、第四図から第十図には、当初の明細書の記載と符合しない部分の記載のあることを認めることができるが、両者の記載を実質的に検討すれば、右各補充図面の記載が必ずしも当初の明細書に記載がないものといえないのみならず、これに照応して訂正書により「図面の略解」の項の記載を訂正したのであるから、その間に非難すべきものはない。しかも、旧特許法施行規則第十一条第二項の規定は、書類等の要旨の変更にわたる訂正、換言すれば、訂正をすることによつて、書類等の要旨を変更することとなるような訂正、すなわち、訂正の前後により別発明となるような訂正を禁ずるもの(逆にいえば、要旨の変更とならない限度において不備を補正させようとするもの)であるから、本願発明の理解の便宜のため記載する図の数が多くなつたとか、詳細になつたとかいうようなことを捕えて、当初の明細書の要旨、したがつて、その記載によつて開示された発明の要旨を変更するものであるとするようなことは、およそ法の趣旨を没却する形式論というべく、もとより当を得たものということはできない。

(2)の理由について

本件審決は、(5)の訂正明細書の特許請求の範囲中の「カムとの運動により錘を附設した押印子を昇降させて押印を行なう」という構成は、当初の明細書には記載されていなかつたものである、という。しかして、〈書証〉を比較対照すると、本件審決の指摘する右部分が当初の明細書中の特許請求の範囲の項の記載と完全に一致するものといいえないことは、本件審決のいうとおりであるが、両者における前後の構成部分、すなわち、(5)の訂正明細書及び同図面に示された全自動式硬度試験機において、(イ)「容体と支持台との間を傾斜した落し樋で連結して容体中に収容したピン等の被試験品を支持台上に自動的に順次落下させ、支持台上に落下した被試験品を機械的に運動する往復杆により順次送り出す)構造及び(ロ)「押印子の昇降の度合を電気回路に挿入した指針に伝達して電気回路を開閉する」構造において技術的に全く一致するものであることは前掲各証拠を対比することによつて明らかなところであるから、本件審決が指摘した前掲部分において当初の明細書の記載との間に多少の変更があつたとしても、この程度の変更をもつて旧特許法施行規則第十一条第二項にいう要旨を変更するものとみることは相当ではない。前掲(2)の理由において本件審決が挙げた他の記載部分についても同様である。本件審決は、すべての変更をもつて前記法条にいう要旨の変更とみるものであり、当裁判所の到底賛同しがたいところである。

(3)の理由について

本件審決は、前項記載の(5)の訂正図面は当初の明細書の記載内容を図示説明したものではない、という。しかしながら、右図面は(5)の訂正明細書記載の発明を図示説明したものであることはいうまでもないところであるから、右(5)の訂正明細書が当初の明細書の要旨を変更するとみるべきではないこと前説示のとおりであるから、この訂正図面は、結局、当初の明細書記載の発明の内容を図示説明したものというべく、本件審決の判断は、この点においても、きわめて形式的であり、到底これを肯認することはできない。

(むすび)

三以上詳説したとおり、本件審決が本願発明の内容を解釈認定するに当たり、前掲各訂正書等をその資料とすることができないとして排斥し、当初の明細書及び前掲(2)の訂正書から、本願発明の内容は明確でないとしたことは誤りであつたといわざるをえないから、これを前提とする本件審決に判断を誤つた違法があるとして、その取消を求める原告の本訴請求は、理由があるものといわなければならない(なお、原告は、前掲各訂正書等を要旨変更と認めることは、本願が出願公告されたものである以上許されるべきでない旨主張するが、書類の訂正がその要旨を変更するものであるかどうかという認定は、その出願につき出願公告があつたかどうかとは全くかかわりないことであることは、多くの説明を要しないところである。)。よつて、原告の本訴請求は、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第九十五条及び第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

(三宅正雄 土肥原光圀 武居二郎)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com