大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

東京高等裁判所 昭和40年(行ケ)17号 判決

原告

(デンマーク国)

アクチエゼルスガペット・アトラス

代理人

戸田善一郎

被告

特許庁長官

井上武久

指定代理人

佐々木俊哲

外一名

主文

特許庁が、昭和四十年二月三日、同庁昭和三九年審判第二〇六九号事件についてした審決は、取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

原告訴訟代理人は、主文同旨の判決を求め、被告指定代理人は、「原告の請求は、棄却する。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求めた。

第二  請求の原因

原告訴訟代理人は、本訴請求の原因として、次のとおり述べた。

一  特許庁における手続の経緯

原告は、特許第二四八、四〇二号「原料水から清水を得る方法」(昭和三十年十二月三十日特許出願、ただし、同年十一月十一日ノルウエー国においてした特許出願に基づく優先権主張、昭和三十四年一月十七日登録)の特許権者であるところ、昭和三十年九四月二十八日、右特許の明細書の特許請求の範囲の項中「……真空状態下に於て原料水を蒸発させる……」とあるを「……原料水の比較的小部分(約四分の一)を蒸発させるような速度で原料水を真空状態の蒸発区域を通過させることにより原料水中の塩分または他の固形成分が蒸発の際に濃縮するのを制限した……」(ただし、右「(約四分の一)」の部分は、昭和三十九年十一月十一日付手続補正)書により追加補正と改め、附記を削除することを内容とする訂正審判を請求し、昭和三九年審判第二、〇六九号事件として審理されたが、昭和四十年二月三日、「本件審判請求は成り立たない」旨の審決があり、その謄本は、同年二月二十五日原告に送達された。

二  本件審決理由の要点

請求人(原告)が昭和三十九年十一月十一日付手続補正書により、特許請求の範囲中「原料水の比較的小部分」の次に加えようとする「約四分の一)」という量的限定は、昭和三十一年十二月十日付訂正書により補充された一実施例が根拠となつているものと認められるが、出願当初の明細書には蒸発割合を原料水の約四分の一とすることが必要であると認めるに足る記載はなく、要旨変更であるかどうかは出願当初の明細書を基準として判断すべきものであるから、右の「(約四分の一)」を挿入することは要旨を変更するものであり、したがつて、昭和三十九年十一月十一日付手続補正書は採用することができないものであるところ、内燃機関を冷却するために密閉系内を循環する冷却水に含まれる熱により、真空状態下において海水を蒸発させ、これを凝縮して清水を得る方法が米国特許第二、六四三、九七四号明細書(昭和二十八年十月二十七日資料館受入)に記載されて本出願前公知であるから、この公知方法と請求人の請求するように訂正した本件特許の方法とを対比すると、後者において、真空状態の蒸発区域を通過する原料水の速度を上記のように訂正しても、前者と明確に区別できるほど相違するとは認めがたく、したがつて本件訂正によつて構成される発明は、前記公知の方法と区別でき、特許出願の際独立して特許を受けることができるものと認められないから、本件訂正は、特許法第百二十六条第三項の規定に違反するものであり、その訂正は許可することができない。

三  本件審決を取り消すべき事由

本件審決は、その結論に影響を及ぼすべき重要な事項につき判断を遺脱したものであり、違法として取り消されるべきである。これを詳説するに、原告は、昭和三十九年四月二十八日、本件特許につき明細書の特許請求の範囲の項中「真空状態下に於て原料水を蒸発させる」とあるを「原料水の比較的小部分を蒸発させるような速度で原料水を真空状態の蒸発区域を通過させることにより原料水中の塩分または他の固形部分が蒸発の際濃縮するのを制限した」に改める等の審判を請求したが、さらに、同年十一月十一日手続補正書により、右の「原料水の比較的小部分」の次に「(約四分の一)」を挿入した。これは、「原料水の比較的小部分」というのみでは、本件審決引用の公知例(蒸発割合は三分の一程度)の場合と相違がないものと誤解され易いので、訂正審判請求前の特許明細書の説明及び実施例に基づき、「原料水の比較的小部分」というのは「約四分の一」の蒸発割合のことを指称するものであることを明確にするため、カッコして挿入したものである。この「(約四分の一)」という字句を挿入しようとした補正は、特許法第百三十一条第二項にいう審判請求書の補正に他ならないのであるが、本件審決は、これを忘却していたもののようであり、これをもつて同法第四十条ないし第四十二条、第五十三条、第五十四条及び第六十四条等の補正の場合と混同し、前掲本件審決理由の要点記載のとおり、右手続補正書による補正は採用できないとして、これを排斥し、この文言を挿入しない訂正につき、同法第百二十六条第三項の規定に違反するとした。しかしながら、右審判請求書の補正は本件特許発明の本質を変更するものではなく、その内容を明確化したものにすぎないから、同法第百三十一条第二項にいわゆるその要旨を変更するものではない。本件審決がこれを誤解し、右補正を採用しえないものとして、公知技術との関係において訂正が許されるべきかの実質的判断をしなかつたのは、結論に影響を及ぼすべき重要な事項につき判断を遺脱したものに他ならない。

第三  被告の答弁

被告指定代理人は、請求原因に対する答弁として、次のとおり述べた。

原告主張の事実中本件に関する特許庁における手続の経緯及び本件審決理由の要点がいずれも原告主張のとおりであることは認めるが、本件審決に原告主張のような違法のあることは争う。本件審決は、原告主張の補正をもつて、特許法第百三十一条第二項に違反するものとしてこれに対する実質的判断をしなかつたものである。

第四  証拠関係〈略〉

理由

(争いのない事実)

一本件に関する特許庁における手続の経緯及び本件審決理由の要点が、いずれも原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。(本件審決を取り消すべき事由について)

二本件審決が、訂正審判の請求にかかる本件特許の特許請求の範囲の項中「原料水の比較的小部分」の次に「(約四分の一)」を挿入する部分につき、引用にかかる公知例との比較において何らの判断をしなかつたことは、当事者間に争いのない本件審決理由の要点に徴し明らかなところである。しかして、右部分は、昭和三十一年十二月十日付訂正書により補充された一実施例に根拠を置くものであることは本件審決の認定するところであるから、右部分の補正をもつて、さきに本件特許につきした訂正審判請求書の要旨を変更するものとすることができないことはいうまでもない(本件審決が出願当初の明細書を基準として、右部分の補正は要旨を変更するものであるから、採用できない、としたことは、その結論及び理由において、全く不当である。)。しかも、右部分は訂正不許可理由通知に示された公知例における蒸発割合が三分の一程度であることに鑑み、これと区別するため挿入しようとしたものであることは……明らかなところであるから、右部分は、本件審決の判断に影響を及ぼすことがありうる事項とみるを相当とする。したがつて、本件審決としては、右部分を含む訂正部分全体につき、公知例と区別しうべきものであるかどうかを判断すべきであつたにかかわらず、事ここにいでず、前記カッコ書部分を挿入する手続補正書を採用しえないとして排斥し右部分を実質的比較考量の外に置いたことは、結論に影響を及ぼしうべき事項につき、審判としての判断を遺脱した違法があるものといわざるをえない。(むすび)

三叙上のとおりであるから、その主張のような違法があることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由があるものということができる。よつて、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条及び民事訴訟法第八十九条を適用して、主文のとおり判決する。

(三宅正雄 土肥原光圀 武居二郎)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com