大判例

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東京高等裁判所 昭和41年(行ケ)60号 判決

原告

株式会社島津製作所

所代理人弁理士

北村学

武石靖彦

被告

株式会社柳本製作所

代理人弁理士

新実芳太郎

新実健郎

主文

特許庁が、昭和四一年二月二二日、同庁昭和三七年審判第二四二四号事件についてした審決は、取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

事実《省略》

理由

(争いのない事実)

一〈略〉

(本件審決の違法性の有無)

二本件審決は、本件特許発明の要旨の認定を誤り、ひいて、引用例との対比において判断を誤つた違法があるから取り消されるべきものである。すなわち、

前記争いのない事実、〈書証〉によれば、本件審決は、本件特許発明の要旨を訂正前の特許請求の範囲に記載されたとおりの「夫々が分離塔及びデテクターを含む一対の流路を具えており、デテクターの夫々の信号が互に比較されるようにされていることを特徴とするガスクロマトグラフ」にあると認定したうえ、引用例中に本件発明の構成要件がことごとく記載されているから、本件特許発明が新規な発明とは認められないとしているが、その後、訂正審決が確定し、本件特許の明細書の特許請求の範囲は、「夫々が流量調節器、試料室、分離塔及びデテクターを含む一対の流路を具えており、デテクターの夫々の信号が互に比較されるようにされていることを特徴とするガスクロマトグラフ」と訂正され、これに関連する発明の詳細なる説明の項の記載も訂正され、図面中の第二図も削除された結果、本件特許発明の要旨は、本件特許出願の当初から、右の訂正された特許請求の範囲に記載されたとおりのものであつたとみなされることになつたところ、引用例中に記載のガスクロマトグラフ(ペーパー・フェイス・クロマトグラフイ)には、少なくとも、右要旨を構成する要件のうち、一対の流路にそれぞれ流量調節器を具えるという点については何ら記載されていないことが認められ、右に反する証拠はない。したがつて、引用例が本件特許発明の要旨とする構成要件をことごとく具えているとした本件審決には、結局、事実の認定および判断に誤りがあるに至つたことは明らかである。

ところで、被告は、訂正された本件特許発明の要旨とする構成要件のうち、「一対の流路にそれぞれ流量調節器を具えた」点を除くその他の構成要件はことごとく引用例中に記載されているところ、ガスクロマトグラフにおいて、試料側と参照側の各流路にそれぞれ流量調節器を具えることは、当該技術分野に属する者において周知の技術であるから、引用例のものに右の周知技術を適用して本件特許発明の実施をすることは、当業者が容易にできる程度のことであるとの事実を前提として、訂正された本件特許発明も依然として引用例に容易に実施できる程度に記載されていることに帰するから、本件審決に違法はない旨主張するので、以下この点について判断する。

前記争いのない事実に〈書証〉ならびに弁論の全趣旨をあわせ考えれば、

一対の流路のそれぞれに流量調節器およびデテクターを具え、試料側および参照側の双方の流量を独立に調節できるようにしてあるが分離塔は試料側にのみ具えたガスクロマトグラフは、本件特許の出願前から公知であり、引用例には、二つの流路の分流点より前に流量調節器を設けたうえ、分岐した両流路に(試料室についてはしばらくおき。)それぞれ分離塔およびデテクターを具え、二つの二路コックにより、一方の流路を試料側とするときは他方を参照側として使用し、右コックの切り替えにより、試料側と参照側を反対にして使用することができるガスクロマトグラフが記載されているが、本件特許発明は、前認定の訂正された特許請求の範囲にみられる構成をとることにより、一方の流路を試料側とし他方を参照側として使用する等のほかに、双方の流路を試料側として、わずかに組成の異なる試料をそれぞれの流路に導入することにより両試料の組成の差を検出するといういわゆる示差クロマトグラフイを行なうこともその目的としているものであるところ、ガスクロマトグラフにおいては、試料側の流量は、参照側の流量に比し、その誤差が格段に小さいものであることが要求されるもので、本件特許発明のガスクロマトグラフにおいては、流量調節器を双方の流路に具えることが、右の示差クロマトグラフイとの関連上重大な意義を有するものであるが、一方、双方の流路にそれぞれ流量調節器を具えた前記公知のクロマトグラフにおいては、参照側の流路には分離塔もなく、もつぱら参照側として使用されるものであるから、参照側の流路にも流量調節器を具えたことは、本件特許発明におけるほどの意義を有するものとはいえず、また、引用例の場合は、一方が試料側であるときは他方は参照側として使用するもので、双方を同時に試料側として使用することは意図されておらず、流量調節器は、二つの二路コックにより、つねに試料側流路の流量を基準として双方の流路の流量を同時に制御するようになつているものであることを認めうべく、右認定を左右するに足りる証拠はない。

そして、右認定の事実によれば、かりに、被告の主張するように、ガスクロマトグラフにおいて試料側と参照側の両流路にそれぞれ流量調節器を具えた前認定の公知のガスクロマトグラフのようなものが本件特許の出願前から当該技術分野に周知の技術であつたとしても、これによる流量調節の意義は、示差クロマトグラフイをも目的とする本件特許発明におけるものとは明らかに相違するものというべきであり、また、一方を試料側流路とするときにはつねに他方は参照側流路として使用することのみを目的とし、試料側流量を基準として双方の流路の流量を同時に制御するための一個の流量調節器のみを具えた引用例のものに、右の周知技術を適用することは、必ずしも当業者にとつて容易に実施できる程度のものと断定することはできない。したがつて、被告の前記主張は、その前提を欠くものとして、失当といわざるをえない。(むすび)

三以上のとおりであるから、その主張の点に違法があるとして本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、その他の点について判断するまでもなく、その理由があるものということができる。よつて、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(三宅正雄 楠賢二 杉山克彦)

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