大判例

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東京高等裁判所 昭和42年(う)2079号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

理由

<前略>所論は、原判決は、その理由において「逮捕に引き続いて勾留請求がなされた場合、勾留状の発付あるいはその執行が翌日以降であつても、勾留の日数は勾留請求の日から起算するものと解すべきである」として、主文において「未決勾留日数六〇日を本刑に算入する」旨の言渡しをなしたが、刑法第二一条にいわゆる未決勾留の日数とは、勾留状によつて現実に勾留された日数であり、勾留の請求はなされたがいまだ勾留状が発付されない間の日数を含まないものと解すべきであり、そうだとすれば、本件において被告人は、原審判決の言渡日の前日まで勾留状によつて勾留された日数は五九日であるから、その限度においてこれを本刑に算入すべきであり、右のごとく未決勾留日数を六〇日としてこれを本刑に算入したのは、刑法第二一条の解釈適用を誤つたものであると主張する。

よつて、按ずるに、記録によれば、被告人の身柄拘束の状況は、論旨摘録のとおり、

昭和四二年六月三〇日 逮捕状により逮捕

同   年七月 一日 検察官に送致

同   年七月 二日 勾留請求

同   年七月 三日 勾留状発付、即日執行

同   年七月一〇日 公訴提起

同   年八月三一日 勾留のまま判決言渡

であることが認められる。そして、判決言渡の日は、刑法第二一条所定の未決勾留の日数に算入されないものと解すべきであるから、本件において原判決が本刑に算入しうる未決勾留の日数は、これを勾留状の発付、執行の日からと解すれば五九日、勾留請求の日からと解すれば六〇日となることは、計数上、所論のとおりである。

元来、未決勾留は、刑事訴訟の遂行上、人の自由を拘束して身柄を拘禁する処分であつて刑の執行とはその本質を異にするものであることはもちろんであるが、刑法第二一条、刑事訴訟法第四九五条において未決勾留日数を本刑に算入することを認めている趣旨は、未決勾留における自由の拘束、身柄の拘禁による個人の法益の侵害を少なくし、また、それが自由刑の執行とある程度相通ずるものがある等の点にかんがみ、該未決勾留の日数を本刑に算入することにより、算入された日数はすでに本刑の執行があつたものとみなして本刑の執行に替え、よつて前記法益の侵害をそれだけ軽減し、もつて刑事処分における衡平を図らんとするにあるものと解される。

ところで、刑事訴訟法第二〇七条は、逮捕に引き続いて勾留の請求を受けた裁判官は「速やかに」勾留状を発しなければならない旨規定し、即日勾留状を発すべき旨規定していないので、勾留を請求されたある被疑者は即日勾留状が発せられ、ある被疑者は翌日以降に勾留状が発せられることがありうるため、同法第二〇八条は、公訴提起前の勾留期間を規定するにさいし、これを勾留状の発付またはその執行の日から起算すべき旨規定しないで、勾留請求の日から起算すべき旨規定している。このことは、逮捕に引き続いて公訴を提起した場合(同法第二八〇条第二項)も同様であり、勾留状の発付ないしその執行が公訴提起の翌日以降にわたる場合であつても、同法第六〇条第二項所定の勾留期間の二か月は公訴の提起があつた日から起算すべきものと解される(なお、この点に関する裁判所の実務の取扱につき、昭和二四年五月六日最高裁刑二第五九四八号刑事局長通達、執行機関の実務につき昭和二五年九月一二日矯保甲第一、四〇六号矯正保護管区長あて刑政長官通達参照)。以上のごとき法律の規定は、直接には勾留が不当に長期にわたることを抑止せんとする趣旨に出たものとは解されるが、他面、勾留の処分を受ける被疑者または被告人の処遇の衡平を図らんとする趣旨の含まれることは疑いない。けだし、勾留状の発付がその請求の日の翌日以降にわたるのは天災地変等により、管轄裁判所が裁判権そのものを行使しえないような稀有の場合は別としても、検察官の勾留請求の時刻、裁判所の執務態勢等、結局は、勾留処分を受ける被疑者または被告人の責に帰すべからざる事由によるものといわざるをえない(因みに、本件勾留請求の日は日曜日、勾留状発付の日は月曜日であつたことは暦によつて明らかである。)。この理は、刑法第二一条の解釈についても参酌されて然るべきである。すなわち、勾留請求の日に勾留状が発付された者はその日もまた同条によつて本刑に算入される未決勾留の対象となり、前記のごとく自己の責に帰すべからざる事情によつて翌日以降に勾留状の発付またはその執行がなされた者(因みに、所論援用の最高裁判所判例における事案は、勾留請求の翌々日に勾留状の発付がなされ、二日の差がある。)は、ひとしく拘禁の状態に置かれながら、その間、同条によつて算入される未決勾留の対象となりえないと解するは衝平を失し、かつ、前記のごとく、刑事訴訟法上勾留期間に算入されながら、刑法第二一条の解釈にあたり、これを別異に解すべき合理的根拠を見し出がたい。所論は、刑法第二一条にいわる未決勾留は、勾留状によつて現実に勾ゆ留された日数であると主張するが、刑事訴訟法上、勾留状によらない拘禁はありえても勾留状によらない未決の勾留はありえない。大審院以来の判例が時として勾留状による勾留または勾留状による拘禁なる用語を用いるは、刑事訴訟法上の勾留と、たとえば、かつての連合国軍事占領裁判所における拘禁(最高裁判所昭和二三年(れ)第四二六号、同年一〇月三〇日)、あるいは出入国管理令第五二条による収容、刑の執行等と区別するために外ならず、前記のごとく、刑事訴訟法上勾留期間に算入される勾留請求の日から勾留状発付の前日までの日を除外する趣旨をも含むものとは解しがたい。所論援用の判例が、その理由の過程において、以上の解釈と異なる日数の計算をなしているごとくであることは所論指摘のとおりであるが、右判例は、他事件において本刑たる自由刑に算入された未決勾留と重複する未決勾留をさらに本刑たる自由刑に算入することの可否等に関するもので本件に適切ではない。

したがつて、本件のごとく、逮捕に引き続いて勾留の請求がなされた場合においては、たとえ勾留状の発付ないしその執行が翌日以降になされたとしても、刑法第二一条によつて算入の対象となる未決勾留日数は勾留請求の日から起算すべきものと解するを相当とする。しからば、右と同旨の見解に出た原判決の法令の解釈に誤りはなく、かかる見解によれば、本件において算入の対象となりうる未決勾留日数が六〇日であることは前記のごとく計数上明らかであるから、その範囲内でこれを本刑に算入した原判決には、所論の如き法令適用の誤りは存しない。論旨は理由がない。(三宅富士郎 石田一郎 金隆史)

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