大判例

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東京高等裁判所 昭和43年(く)14号 決定

少年 N・Z(昭二五・三・二七生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告理由の要旨は、原決定が窃盗、公務執行妨害、傷害、銃砲刀剣類所持等取締法違反の各事実を認め、少年を中等少年院に送致する決定をしたが、(一)窃盗の事実については、友人から自動車に乗せてやると言われ、盗んだものとは知らずに乗つたまでで、自分が右自動車を窃取したことがないのはもとより、自動車窃取について自分が関係した事実がない。(二)盗品を入質したことに関し、自分の身分証明書を貸したのみで、これも自分とは関係がない。(三)公務執行妨害、傷害の事実については、自分がしたことに相違ないが、刑事がきて手錠をかけようとしたから、驚いて近くにあつたナイフを振り廻したものであり、本心からそうした行動に出る意思ではなかつた。(四)以上自分としては責任を感じ、処罰を覚悟しているが、中等少年院に送致されたことは、その処分が著るしく重きに過ぎて不当であるから、今一度審判を求めるため本件抗告に及ぶというのである。

よつて按ずるに

(一)  原決定によれば、少年は、昭和四二年九月○○日ごろより同年一一月○日ごろまでの間前後四回にわたり、AまたはBと共謀の上、路上または駐車場内にあつた自動車四台を窃取したというもので、所論は、この四件の各窃盗事実はいずれもAまたはBの単独犯行であると主張する。しかし一件記録によれば、右犯行はいずれも深夜の事件であつて、少年は右各犯行前より右AまたはBと行動を共にしていたものであり、しかも同人らから「自動車をかつぱらおう」とか「自動車でドライブしよう」との話をもちかけられ、これに賛同し、AまたはBと自動車の置いてあつた場所に接近して行き、自動車をその駐車地点から移動させることは、右A或いはBがしたことではあるが、その後被告人もその自動車をAまたはBと共に乗り廻していたことが認められ、盗んだ自動車であることを知らなかつたとはいえないのみならず、少年は右四件の自動車窃取につき、いずれも共謀共同正犯としての責任を免れるものでないこと明らかである。従つて各窃盗事実につき原決定の事実誤認を主張する論旨は理由がない。

(二)  次に所論は、盗品入質の件に関して事実の誤認を主張し、記録に徴すれば右はテープレコーダーおよび電気洗濯器を入質したことについて窃盗の共犯ではないと主張せんとするものと認められるところ、原決定は前記自動車四台を窃取したという以外にテープレコーダーなど窃取した事実を認定してはいない。所論は、原決定に添わないものというべきで、理由がない。

(三)  次に所論は、公務執行妨害、傷害の事実につき、刑事に逮捕されようとして、驚いてナイフを振り廻したもので、本心から出た行動ではないと主張し、要するに犯意の成立を阻却する事由を主張するにあると解せられる。一件記録によれば、少年は昭和四二年一二月○日午後一時五〇分ごろ、鎌倉市○○×丁目○○番○号喫茶店「○○○」こと○原○夫方店舗において大船警察署勤務巡査矢口欽三が少年に対し、窃盗被疑事実で逮捕状が発せられている旨を告げ、逮捕しようとしたところ、少年は電話をかけるもののように装いながら同巡査に受話器を投げつけ、体当りをし、更に同店調理場にあつた刃体の長さ一〇・七センチメートルの果物ナイフを振り上げ「デカでもぶつた切るぞ。殺されたくなかつたら、そこどけ」といいながら同巡査に立ち向つたものであつて、突嗟の間のできごととはいえ、警察官が職務の執行として少年を逮捕しようとするものであることを知つていて、その逮捕を免れんがため前記の暴行、脅迫の所為にでたものと認められる。そうとすれば少年が、右暴行によつて巡査矢口欽三に与えた傷害の結果につき、当然その責を負うべきで、原決定には以上の事実について誤認があるとは認められない。されば論旨は理由がない。(なお原決定は、少年が前記日時、場所において刃体の長さ一〇・七センチメートルの果物ナイフを携帯して所持したものとし、銃砲刀剣類所持等取締法第二二条、第三二条第二号を適用しているところ、右果物ナイフは「○○○」の経営者○原○夫が適法に所持することができる物であつて、少年がこれを取り上げ矢口巡査に立ち向つたといつても、果物ナイフがあつた同店調理台周辺における数秒の所為に過ぎないものであるから同法第二二条の携帯というには該当しないものと認めるのが相当である。してみればこれを同法第二二条の携帯に当るものと認め、同法第三二条第二号を適用した原決定には、法律の適用を誤つた違法があるといわなければならない。しかし少年が右果物ナイフを取り上げた事実は、矢口巡査に対する前記公務執行妨害、傷害の事実中にも掲げられているところであつて、右事実とは別に果物ナイフを携帯した事実が銃砲刀剣類所持等取締法に触れるものとした法律適用の誤りが、原決定に影響を及ぼすものといえないことは後段説示のとおりである。)

(四)  よつて進んで少年に対する処分の当否について審究するに、少年は、昭和四二年一月一一日横浜家庭裁判所において窃盗、同未遂罪により保護観察処分に付され、その直後は運転助手として勤務し、生活が安定するかに見えたが、同年夏貸ボート屋で働くようになつてからは、交友関係が悪化し、家にも余り帰らない状態が続き、担当保護司との接触も絶えてしまい、その間少年の犯した非行は原決定記載(但し原決定(四)の果物ナイフ不法携帯の事実を除く)以外になお一〇件位あり、非行の常習化の傾向が認められ、他方少年の家庭にあつては父N・Hは数年前交通事故で死亡し、母N・M江の監督だけでは手に負えなくなつていることが明らかであるから、この際規律ある集団生活を通して少年の社会性を養い、勤労意欲を身につけさせる必要があるというべきである。原決定が少年を中等少年院に送致する旨決定したことは相当である。原決定には、法律適用の誤があることは前段説示のとおりであるが、右誤りが存することによつて原決定がなした処分が著しく不当なものになるとは認められない。されば右処分の著しい不当を主張する論旨は理由がない。

そうとすれば本件抗告は理由がないから、少年法第三三条第一項、少年審判親則第五〇条によりこれを棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判長判事 松本勝夫 判事 山岸薫一 判事 石渡吉夫)

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