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東京高等裁判所 昭和43年(ネ)1033号 判決

当事者参加人(昭和四三年(ネ)第一〇三三号事件当事者参加人、以下参加人という) 金石泰治

右訴訟代理人弁護士 渡辺重視

同 山口邦明

同 二瓶広志

被控訴人(昭和四一年(ネ)第三五四号事件被控訴人、第一〇三三号事件被参加人) 株式会社常磐相互銀行

右訴訟代理人弁護士 石田寅雄

同 白鳥勉

同 矢田部三郎

右訴訟復代理人弁護士 水川武司

藤井誠一

脱退控訴人(昭和四一年(ネ)第三五四号事件控訴人第一〇三三号事件被参加人) 東京繊維株式会社

主文

被控訴人は参加人に対し金三二三万円及びこれに対する昭和三七年一二月九日から支払ずみまで年五分の金員を支払うべし。

参加人その余の請求を棄却する。

参加費用はこれを二分し、その一を参加人の、その余を被控訴人の各負担とする。

事実

第一申立

参加代理人は被控訴人は参加人に対し金六七五万九五六円及び内金三七五万円に対する昭和三七年一二月九日から、残金三〇〇万九五六円に対する昭和四〇年一月一九日から支払ずみまで年五分の金員を支払うべし、参加費用は被控訴人の負担とするとの判決及び仮執行の宣言を求め、被控訴人訴訟代理人は参加人の請求を棄却するとの判決を求めた。

第二事実関係

一、参加代理人は請求の原因及び被控訴人の抗弁に対する答弁として次のとおり述べた。

(一)訴外株式会社加瀬商店(以下加瀬という)は被控訴人に対し昭和三六年一月三一日現在別紙第一目録(預金目録)記載のとおり合計金六七五万〇、九五六円の預金等債権(以下本件預金債権という)を有していた。

(二)加瀬は昭和三六年二月二日本件預金債権を自己の債権者達の代表としての脱退控訴人(東京繊維株式会社)に対して譲渡し、同月九日内容証明郵便でその旨被控訴人に通知し、右郵便は同日被控訴人に到達した。

(三)これより先き被控訴人は加瀬との間で手形割引、手形貸付による手形取引契約を締結し、かつ本件預金債権については被控訴人が加瀬に対して有する債権担保のため質権が設定され、これについては昭和三六年二月一日付の確定日付のある契約証書が作成されていたところ、被控訴人は当時加瀬に対し別紙第二目録(貸金目録)記載の貸金債権(以下本件貸金債権という)を有しており、加瀬は同年二月三日手形不渡による銀行取引停止処分を受けたのであらかじめ加瀬との間でなされた前記手形取引契約上の約定により加瀬は期限の利益を失ったものとして、被控訴人はすでに本件預金債権について脱退控訴人に対する債権譲渡の通知到達の後である同年二月一五日右質権実行による取立の方法でか、あるいは相殺の方法によるものか、いずれにしてもこれを右本件貸金債権のうちに対当額で充当決済し、その結果本件預金債権は消滅した。

(四)当時被控訴人は加瀬より別紙第三目録(手形目録)記載の約束手形一五通金額合計七二一万八、一九〇円(以下本件手形という)を前記貸金債権の担保として預っていたところ、本件貸金債権は本件預金債権の充当及びそれによる金額四七万四、三二六円を加瀬から支払を受けたことによって満足したとして、本件手形を加瀬に返還交付してしまった。しかし脱退控訴人は質権の目的たる本件預金債権の譲受人であるから担保物の第三取得者として民法第五〇〇条にいわゆる弁済をなすにつき正当の利益を有する者というべく、その自己の譲受けた本件預金を出損することによって加瀬の被控訴人に対する本件貸金債務中同額を消滅せしめたものであるから、弁済の場合に準じて当然債権者たる被控訴人に代位しうるものであり、加瀬に対する求償権(すなわち本件預金債権と同額)の範囲内において被控訴人が右債権の効力及び担保として有した一切の権利を行使しうべき地位にある。従って被控訴人が有した本件手形は脱退控訴人に交付すべかりしものである。にもかかわらず、被控訴人は前記のとおりこれを加瀬に返還交付して脱退控訴人への交付を不能ならしめた。これは被控訴人の故意又は少くとも過失にもとづくものであり、その結果脱退控訴人は本件手形を取得行使して加瀬に対する求償権の満足を受けることができず、結局本件預金債権と同額の損害をこうむった。よって脱退控訴人は被控訴人に対し損害賠償として右金六七五万〇、九五六円及び内金三七五万円に対する脱退控訴人の原審における訴状送達の日の翌日である昭和三七年一二月九日から、残額三〇〇万〇、九五六円に対する同様請求の趣旨拡張の申立書が被控訴人に到達した日の翌日である昭和四〇年一月一九日から、各支払ずみまで年五分の遅延損害金の支払を求める債権を有する。

(五)脱退控訴人は昭和四三年三月八日右債権を参加人に譲渡するとともに、同年同月九日その旨被控訴人に対して債権譲渡の通知をした。よって参加人はここに被控訴人に対し前段掲記の金員の支払を求める。

(六)加瀬から脱退控訴人への債権譲渡通知が加瀬の印章を冒用してなされたとの事実は否認する。原審口頭弁論期日に被控訴人主張の相殺の意思表示があったことは認めるが、本件預金債権の譲渡通知の後になされた本件手形の加瀬への返還により脱退控訴人の権利を害することには変りはない。

(七)被控訴人の消滅時効の主張は争う。脱退控訴人は本件請求を拡張した当時にいたってはじめて本件が不法行為であり、それによる損害及び加害者を知ったものであるから、また消滅時効は完成していない。

二、被控訴代理人は答弁及び抗弁として次のとおり述べた。

(一)  参加人主張の(一)の事実は認める。

(二)  同(二)の事実中参加人主張の日時その主張の内容証明郵便の到達したことは認めるが、その余の事実は否認する。右内容証明郵便による債権譲渡の通知は脱退控訴人が加瀬の印章を冒用して作成したものであり、その主張の債権譲渡は存在しない。

(三)  同(三)の事実中被控訴人がかねて加瀬との間で手形割引、手形貸付による手形取引契約を締結し、別紙第二目録(貸金目録)記載の本件貸金債権を有したこと、本件預金債権については右貸金債権の担保として参加人主張のように被控訴人において質権設定を受けその旨確定日付ある証書が存すること、加瀬が参加人主張の日時手形不渡による銀行取引停止処分を受けたため、加瀬は被控訴人との間になされた右手形取引契約上の約定により本件貸金債務につき期限の利益を失ったこと、そこで被控訴人は本件貸金債権の弁済を得るための日時の点を除き本件預金債権に対する右質権実行によりこれを取り立てて本件貸金債権の弁済にあて、残額は加瀬が現実に弁済したこと、その結果、本件預金債権は消滅したことは認めるが、その余の事実は否認する。右質権の実行をしたのは昭和三六年二月四日である。仮りに質権の実行でないとしても同日本件貸金債権を自働債権とし、本件預金債権を受働債権として対当額で相殺したものである。

(四)  同(四)の事実中当時被控訴人が加瀬から本件手形を預っていたこと、参加人主張のころこれを被控訴人が加瀬に返還交付したことは認めるが、その余の事実は争う。

(五)  同(五)の事実中参加人主張の日時その主張の債権譲渡の通知のあったことは認めるが、債権譲渡の事実は知らない。

(六)  仮りに加瀬が脱退控訴人に本件預金債権を譲渡したとしても、被控訴人が本件預金債権に対し質権実行による取立をしたのは、右債権譲渡の通知の到達する以前であるから、脱退控訴人は虚無の債権を譲受けたことになるものに過ぎず、被控訴人が本件手形を加瀬に返還したのは当然であって、なんら脱退控訴人の権利を害するものではない。またこれが質権実行でなく相殺であっても、それが債権譲渡の通知の到達以前であるから、その理は同じである。

(七)  仮りに前記日時における右質権実行又は相殺が有効に認められないとしても、被控訴人は原審における昭和四〇年一〇月二七日の口頭弁論期日において本件預金債権の譲受人である脱退控訴人に対し相殺の意思表示をしたから、これによって本件預金債権はその相殺適状のはじめである昭和三六年二月四日当時にさかのぼって消滅したものであり、被控訴人が本件手形を加瀬に返還したとしてもなんら脱退控訴人の権利を害するものではないことは前同様である。

(八)  仮りに被控訴人が本件預金債権につき質権実行による取立又は相殺をしたのが本件債権譲渡の後であり、従って本件手形を加瀬に返還したことが脱退控訴人の権利を害するとしても、被控訴人がそうしたのは加瀬から脱退控訴人への本件預金債権の譲渡は無効であると信じたが故であり、それは当時加瀬から前記債権譲渡の通知は加瀬の印章の冒用によるもので、同人の関知しないものであるとの通知があったからであって、しかく信ずるのは相当であり、しかも本件貸金債権の残額四七万四、三二六円は加瀬がみずから弁済したものであるから、ひっきよう本件手形を加瀬に返還するについては被控訴人にはなんらの故意過失がなかったものであって、損害賠償義務を負担するものではない。

(九)  仮りに損害賠償義務を負うものとても、少なくとも脱退控訴人がその請求を拡張した昭和四〇年一月ごろはすでに本件行為の時から三年以上を経過しており、脱退控訴人は当初からその損害及び加害者を知っていたものであるから、右拡張にかかる部分は時効によって消滅したものである。

三、脱退控訴人ははじめ昭和四一年(ネ)第三五四号事件控訴人として本件訴訟を追行してきたが、当審において参加人が参加するにおよんで参加人及び被控訴人の同意を得て本件訴訟から脱退した。

第三証拠関係〈省略〉

理由

一、訴外株式会社加瀬商店(加瀬)が被控訴入に対し昭和三六年一月三一日現在別紙第一目録(預金目録)記載の預金等債権(本件預金債権)を有していたこと、加瀬は被控訴人との間に手形割引・手形貸付による手形取引契約を締結していたこと、そのころ被控訴人は加瀬に対し別紙第二目録(貸金目録)記載の貸金債権(本件貸金債権)を有していたこと、本件預金債権については本件貸金債権の担保として被控訴人において質権設定を受けその旨昭和三六年二月一日付の確定日付ある証書の存すること、加瀬は同年二月三日手形不渡による銀行取引停止処分を受けたので、右手形取引契約における約定により本件貸金債権につき期限の利益を失ったこと、日時の点はしばらくおき被控訴人が加瀬に対し本件預金債権につき質権実行によりこれを取り立て本件貸金債権のうちに弁済充当し、その差額四七万四、三二六円は加瀬において現実に支払ったこと、その結果、本件預金債権も本件貸金債権もともに消滅したこと、当時被控訴人は加瀬から別紙第三目録(手形目録)記載の約束手形一五通金額合計七二一万八、一九〇円(本件手形)を預り所持していたところ、本件貸金債権が右質権実行及び弁済により満足したとして被控訴人はこれを加瀬に返還交付したことは当事者間に争ない。その充当関係については特段の指定のなされたことを認めるべきものがないから民法法定充当により弁済期の先ず到るものから順次充当されたものと認めるのが相当である。

二、参加人は、加瀬は昭和三六年二月二日自己の債権者達の代表としての脱退控訴人に対し本件預金債権を譲渡し、同月九日内容証明郵便でその旨被控訴人に通知し、右郵便は同日被控訴人に到達したと主張し、右日時に債権譲渡の通知のあったことは当事者間に争いがなく、この事実と当審における脱退前の控訴人代表者尋問の結果及びこれにより成立を認めるべき甲第一、第二号証の各記載に本件口頭弁論の全趣旨をあわせれば右加瀬の倒産当時脱退控訴人ら多数の債権者らは本件預金債権額以上の売掛代金債権を有していたところから、これを回収するため本件預金債権その他を右売掛代金債権の一部の代物弁済として取得することとし、脱退控訴人において右債権者らから信託されて自己の名においてこれが譲渡を受けたことを認めることができ、右認定に反する原審証人加瀬勇治の証言は採用せず、その他に右認定をくつがえすべき的確な証拠はない。

三、そこで被控訴人のした右質権実行による本件預金債権の取立による本件貸金債権への充当が、被控訴人主張のように右債権譲渡の通知の前であるか、あるいは参加人主張のように後であるかについて検討する。本件預金債権はいずれも被控訴人がみずから債務者であり、かつその大部分はいずれも当時まだ弁済期の到来していなかったことは明らかであるが、右質権実行による取立当時被控訴人としては本件預金債権についてはその債務者として期間の利益を放棄したものであることは弁論の全趣旨により明らかである。被控訴人は右取立の日時を昭和三六年二月四日と主張する。しかしこの点の主張にそう当審証人堀本豊の証言は後記の証拠及び事情にてらして直ちに採用しがたく、その他にこれを認めるべき的確な証拠はない。かえって〈証拠〉によれば、被控訴人は加瀬が昭和三六年二月二日手形の不渡を出し、次いで翌三日銀行取引停止処分を受けたことを知ったので、即時同人を招致して本件貸金債権(これは当事者間に争いないが、別紙第二目録と第三目録とを対照すれば両者は金額及び弁済期ないし満期においておおむね一致し、その基本約定は前記手形取引契約であるから、結局本件貸金債権なるものに本件手形の割引によるものであることが推認されるが、それだからといって本件においてその貸金債権であることを否定するには当らない)その他の債権の処理について善後策を相談したが、これらの債権についてはすでに本件預金債権について確定日付ある証書によって質権設定がなされ(本件預金債権の債務者は質権者たる被控訴人自身であるから、右設定契約自体によって当然これについて通知もしくは承諾があったものとして有効であることはいうまでもなく)、また割引のため引渡を受けていた本件手形以外の他の手形(本件手形は満期の最も早いものが昭和三六年二月二五日で、それ以前のものはない)で近く満期にいわゆる落ち込むものもあるはずであったので、本件預金債権についての質権実行ないし相殺は急がず、しばらく様子を見ていたところ、その間若干右手形の落込み等もあったが同年二月九日前記のとおり本件預金債権譲渡の通知が来、ついで四月一四日には加瀬から右債権譲渡を否定する旨の通知が来たので、被控訴人は四月一四日現在において右質権の実行としてみずから本件預金債権を取り立て、これを同日現在の本件貸金債権に弁済充当し、残額金四七万四、三二六円は加瀬から現金で支払を受け即日本件手形を加瀬に返還交付し、同日付をもって帳簿上の整理をし、かつその旨加瀬に同日付で通知したものであることを認めるに十分である。しからは本件預金債権が、脱退控訴人がその債権譲渡を被控訴人に対する通知によって対抗し得る以前に消滅したことを前提とする被控訴人の主張は失当である。

四、よって進んで脱退控訴人が損害賠償債権を取得したかどうかについて審究する。右認定の事実によれば、脱退控訴人はすでに有効に質権の設定ある本件預金債権を取得した者であるから、右質権の被担保債権たる本件貸金債権について民法第五〇〇条にいわゆる弁済をするにつき正当の利益を有する者というべきである。しかるに脱退控訴人は本件預金債権の質権実行を受けることによりこれを犠牲に供して本件貸金債権の対当権を満足せしめて消滅させたものであり、これひっきような自己の出捐によって被控訴人の債権を満足せしめたものというべく、結局右法条にいう弁済をした者と同視するのが相当である。従って脱退控訴人は当然これによって債権者たる被控訴人に代位するものというべきである。このことは本件預金債権がもともと脱退控訴人の取得を被控訴人に対抗し得る以前に質権の目的となっていたからといってその理を否定せらるべきものではないこと、物上保証人、担保不動産の第三者取得者等がその担保権の実行により代位権を否定せらるべきでないことと同様である。はたしてしからば、脱退控訴人はその代位の効果として自己が加瀬に対して求償し得べき範囲内すなわち喪失した本件預金債権額の範囲内で、債権者たる被控訴人がその債権の効力及び担保として有した一切の権利を行使し得る地位にあるものというべきである。本件手形は被控訴人において割引のため取得していたものであり、本件貸金債権は右割引によって生じたものであり、本来これら手形債務者が満期に支払をすることにより決済せられるべきものとして取得していたものというべきであるから、本件手形は本件貸金債権に対して一種の担保たるものというべきである。従って被控訴人としては本件手形は脱退控訴人に交付すべきものであったというべきである。しかるに被控訴人は加瀬から引渡を受けていた本件手形を脱退控訴人に引き渡さず、たやすく加瀬に返還交付したことは前記のとおりであり、そのあやまりであることは明らかである。このことに手形が受戻証券であること、あるいは割引依頼人が加瀬であったこととは関係ない。これらの手形のうち株式会社丸真商店振出の一通を除くその余はすべて満期に支払があったことは、当審証人加瀬勇治の証言によって明らかであるから、これらの手形が脱退控訴人に交付されていたとすれば脱退控訴人はこれによって右求償権の満足を得ていたはずであり、その交付を得なかったために同額の損害を受けたものというべきであることは明らかである。右丸真振出の手形なるものは本件手形中に三通あり、不渡になった一通がそのいずれであるかは明らかでないが、特段の事情の認めがたい本件においては、右不渡の一通は満期の遅いもので、しかも被控訴人の有利に帰すべき別紙第三目録6の一通金額五二万円であったと認めるのが相当であり、これについては反対の事情の見るべきもののない本件においては右金額について被控訴人の手形交付先をあやまったことによる損害あるものとはいいがたい。右の一通を除くその余については、加瀬がすでに倒産し、その後資力を回復した等特段の事情のみるべきもののない本件においては、前記求償権の満足を得られなかったのは、結局被控訴人の行為によるものとしてその間に相当因果関係あるものというべきである。

五、参加人は被控訴人が本件手形を加瀬に交付し、脱退控訴人に交付しなかったことについては故意過失があったと主張するに対し、被控訴人は無過失であると主張する。前記乙第二号証によれば加瀬名義で脱退控訴人への債権譲渡の通知のあったあと、加瀬から右譲渡通知は同人の真意でない旨の通知があったことは明らかであるが、すでに加瀬は倒産しており、債権譲渡については相互に利害が対立するのであるからかような場合右一片の通知のみを信じて譲受人たる脱退控訴人についてそれを確かめることをしなかったのは軽卒というのほかなく、また差額を加瀬本人が現金で払ったからといって、過失なしとすることはできない。すでに本件預金債権については譲渡の通知を受けているのであるから、被控訴人としては金融機関としてかような場合いずれに手形を交付すべきかを慎重に判断すべき注意義務があり、これを怠って軽々に加瀬に交付すれば他に求償権確保の対象となるべきもののない本件では脱退控訴人の求償権の行使を害するにいたるべきことは被控訴人として当然予見し得たものというべく、ひっきよう被控訴人はこれについて少くとも過失の責を免れないものというべきである。

六、脱退控訴人が原審において本件預金債権額のうち金三七五万円相当額の損害を受けたとして本訴を提起し、その訴状が被控訴人に送達された日の翌日が昭和三七年一二月九日であることは記録上明らかであるところ、右金三七五万円は本件手形のいずれの返還を受けなかったためであるかは脱退控訴人の指定しないところであるが、民法法定充当の規定を類推適用してまず弁済額の到るものから順次右金額にみつるまでを数えれば、別紙第三目録中1ないし4、7ないし11及び5、6、12のうち金五六万一、八一〇円(但し右6の一通は結局除外すべきこと前記のとおり)であるものと認めるのが相当である。しかして脱退控訴人が被控訴人に対する一切の債権を昭和四三年三月八日参加人に譲渡したとし、翌九日その旨被控訴人に対し債権譲渡の通知をしたことは当事者間に争いないから、右債権譲渡の事実はこれを推認すべきである。

七、最後に被控訴人の消滅時効の抗弁について検討する。脱退控訴人がその請求を拡張してさらに金三〇〇万九五六円及びこれに対する遅延損害金の支払を請求するにいたったのは昭和四〇年四月二一日であることは記録上明らかである。参加人は脱退控訴人としてはこのころはじめて本件が不法行為であり、損害及び加害者を知ったものと主張するが、本件弁論の全趣旨からすれば脱退控訴人は当初から被控訴人の行為により損害を受けたことを知っていたものでただこれを不法行為として法律的に構成するにいたったのが右請求拡張のころ少くとも訴の予備的変更をしたころというに過ぎないものと推認すべきである。従って時効期間はその当初から進行していたものというべく、右請求拡張当時はすでに三年の消滅時効期間が満了していたものと認めるのが相当である。従って右拡張部分の請求は失当である。

八、よって参加人の本訴請求中被控訴人に対し金三七五万円から前記四項の金五二万円を控除した残額金三二三万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であること記録上、明白な昭和三七年一二月九日から支払ずみまで年五分の遅延損害金の支払を求める部分を正当として認容し、その余は理由のないものとして棄却すべく訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九四条第八九条第九二条を適用し、仮執行の宣言はその必要がないものと認めてこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 浅沼武 判事 岡本元夫 田畑常彦)

〈以下省略〉

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