大判例

20世紀の現憲法下の判例を掲載しています

東京高等裁判所 昭和43年(ネ)2191号 判決

控訴人

堀次清治

代理人

橘喬

外六名

被控訴人

全日本海員組合

右代表者

村上行示

代理人

大野義夫

外三名

主文

原判決を取消す。

被控訴人が昭和四二年六月一五日付で控訴人に対してした一年間の全権利停止処分の無効であることを確認する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

原判決事実および理由欄第二の一、二、三の各事実ならびに被控訴人の規約に原判決添付の規約抜すい記載の規定があることは当事者間に争いがない。

よつて、まず控訴人が中央執行委員会の勧告および裁定に従わなかつた旨の被控訴人の主張について判断する。

役員リコール制は代表民主制に対する直接民主制による修正の要請から考案されたものであり、全国的規模をもつ労働組合である関係からその役員の選挙は組合員により選出された代議員(全国委員)の投票により行われる(規約第三六条、第四三、四四条)。被控訴人の組合機構においては、被控訴人の主権者である一般組合員が直接役員に対する批判を表明しうる唯一の機会を保障するものであるから、リコール制が設けられている以上、リコール請求は、それが公正なものである限り、できるだけ広く認めて、組合員の役員に対する自由な批判を許すべきである。換言すれば、リコール制は多数者を代表する役員に対する少数者の批判たる性質を持ち組合内部における対立抗争の契機を包蔵するものであるから、リコール請求が頻発するのは好ましいことではなく、これを行うに当つては少数者の慎重かつ自制的な考慮を経ることが望ましいが、このような自制を逆に組合機関、役員の側から組合員に要求することはこの制度の趣旨性質と相容れず、組合統制に目を奪われてリコール請求を抑圧、拒否することは、この制度を実質的に空虚なものとするおそれがある。

ところで、規約第一一七条A項は、役員のリコールを行うには、すべて、その役員が決められた任務を行わず、役員として不適格であることについて明らかな根拠が示されなければならない旨を規定しているけれども、リコール請求は、直ちにリコールを成立させるのではなく、リコールの可否を組合員の一般投票にかける効果を発生させるだけであり、リコールの成否は被控訴人の主権者である組合員の一般投票により決せられること、役員リコール請求は体制側に対する批判であるから、リコール請求がその要件をみたしているか否かを体制側の判断にかからせることは極力避けなければ、その実効は期せられないこと等から考えれば、右規定はリコール請求の実質的要件を定めたものではなく、その形式的要件を定めたものであり、リコール対象者の弁明の対象を明らかにするとともに、一般投票に際しての組合員の判断によりどころを与えるため、換言すれば、組合員の判断の対象たるべき請求者の主張を明らかにするために設けられたものに過ぎないものと解すべきであるから、不信任理由書に、リコール対象者が決められた任務を行わなかつたり、その他役員として不適格である理由として請求者が主張している事由が明らかにされていれば、右要件はみたされたものとみるべく、それが真実であるか否かは問うところではないと解すべきである(このことは右明らかな根拠が示されていない場合の処置について何の規定もないことからも明らかであり、リコール請求である以上、右明らかな根拠が示されないことは予想していなかつたものと認められる)。

以上のように解すれば、本件リコール請求は、リコール対象者二名が役員として指導的役割を果した事項が著しく不当であつたというのであるから、両名が役員としての任務を行わなかつたことの明らかな根拠、すなわち将来組合員の判断対象となるべき請求者の主張を示したものと認めるに足るというべきである(リコール手続に関する限り、機関決定を経たものであつても、これに参与し、指導的な役割を果した者は、該決定が著しく不当であり、役員として決められた任務を行わなかつたものと組合員から評価、判断されることを免れ得るものではないしこの判断にあたつては組合員に慎重かつ自制的な考慮を必要とすることはさきに述べたとおりであるにしても前記リコール請求の要件をみたしていることは明らかであるから、本件リコール請求がその要件を欠くものと認め、その中止を勧告した裁定勧告は不合理で容認し難いものであり、無効というべく、控訴人がこれに従わなかつたとしても統制処分の理由たり得ないものと解すべきであるから、被控訴人のこの処分事由に関する主張は失当であり、採用することができない(なお、統制委員会が不適格事由の表明が不十分であると判断した場合には、直ちにこれを却下または不受理の処分をすることなく、請求者をして不明確な点を釈明補完させることが当然の事理というべきである)。

次に、控訴人が昭和四一年八月一三日中地熊造組合長との間に成立した約定を守らなかつた旨の被控訴人の主張について判断する。

〈証拠〉によれば、次の事実を認めることができ、〈証拠判断省略〉。

控訴人から組合長との交渉を委任されていた篠原国雄、大竹広らは昭和四一年八月一三日組合長と会談し、リコール署名運動を確定的にやめ、その旨の声明をすること(署名簿を提出するか否かは署名した組合員の意向にかかることであり、大竹らが、自分らの分以外の署名簿を提出しないことを約束する権限のないことは明らかであり、また同日の会談において控訴人や大竹らの手許にある署名簿の処置につき、組合長は公的資格において預かることを、大竹らは私的立場の組合長に預けることを共に拒否し、遂に意見の合致を見なかつたことからみても、同人らが請求の撤回または署名簿の不提出を約束したとは到底考えられない)、リコール運動の責任者の氏名を文書で明らかにすることを約したが、控訴人や大竹らは署名運動を中止したまま同日以降これを再開していない。

なお、これよりさき同年七月二一日行われた、大竹らと組合長との第二回会談の際、組合長は同人らに対し、リコール署名に表わされた組合に対する不信の存在を認め、組合員の意思を尊重し、今後の組合活動に生かして行くことを表明した。

ところが、控訴人は同年八月二〇日組合長に対し書面で前記のような回答をしてリコール運動の責任者の氏名を明らかにし、かつ、組合員に対し前記のような声明を発表してリコール署名運動を中止する旨を明らかにしたのであるから、右組合長との約束は果されたものというべく、右認定の事実によれば右声明書に書かれた組合長の表明は虚構の事実ではなく、事実であつたことが認められるから、被控訴人のこの処分事由に関する主張も理由がない。

なお、控訴人が昭和四一年九月一〇日統制委員会に署名簿を提出した事実は当事者間に争いがないけれども、これが組合長との約束に含まれたものではないことは右認定に徴し明らかであり、かつリコール運動の本質は、選挙運動が候補者に投票するように選挙人に働きかけることであるのと同様に、リコール賛成の署名を集め、リコールを成立させるように一般組合員に働きかけることにあり、これがまた組合内部の対立抗争を激化させる虞を生じさせる場合もあるのであるが、署名簿の提出は、選挙における立候補の届出のようなものであつて、それだけで右のような虞を生じさせるものではなく、ことに本件においては、すでに中央執行委員会の見解が出されており、署名簿が受理されないことは明白であつたのであるから、単にリコール運動を収束する形式に過ぎず、到底規約第一二〇条A項一号、四号に該当するような重大な統制違反行為と解することはできない。

次に、役員中傷の処分事由に関する被控訴人の主張に対する当裁判所の判断は原判決のそれ(事実および理由欄第五の(一)の1の(3))と同一であるから、これを引用する。

なお、被控訴人は、控訴人がリコール請求に仮託して組合ないし役員を侮辱する文書を配布し混乱を起そうと企てたものと主張するが、かかる事実を認めるに足る何らの証拠もない。

以上述べてきたところによれば、その余の点について判断するまでもなく、本件処分は処分事由のないのになされたものであり、無効と解すべきであるが、〈証拠〉によれば、組合員としての権利停止の処分を受けた者については、被控訴人から長年組合員であつた者に対して支給される功労給付の受給資格について権利停止処分以前の組合員経歴期間は算入されないことが認められるから、本件処分の存在は控訴人の権利に影響を及ぼすものというべく、控訴人がその無効確認を求める法律上の利益を有することは明らかであるから、控訴人の請求は正当であり、認容すべきである。

よつて、民事訴訟法第三八六条により原判決を取消し、控訴人の請求を認容することとし、訴訟費用の負担について同法第九六条、第八九条を適用し、主文のように判決する。(近藤完爾 田嶋重徳 吉江清景)

「大判例」は20世紀で日本国憲法下の裁判例のうち,公刊物に掲載されたものをまとめたインターネット判例集です。原則として公刊されたものをそのまま載せています。

憲法により判決は公開とされており,法曹および法律研究者に利用されているものです。その公共性と平等主義の観点から,送信防止措置または改変には一切応じませんのでご了承ください。

©daihanrei.com