大判例

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東京高等裁判所 昭和43年(ネ)774号 判決

控訴人 株式會社讀賣新聞社

右代表者代表取締役 務台光雄

右訴訟代理人弁護士 大山菊雄

同同 表久雄

被控訴人 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 山本嘉盛

同同 樋渡洋三

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠関係は次に附加するほか原判決事実摘示(原審被告静野幸のみに関する部分を除く)のとおりであるからこれをここに引用する。

≪証拠関係省略≫

理由

一、控訴人が日刊「讀賣新聞」を発行する新聞社であり、昭和四一年六月三日付讀賣新聞都内版社会面に「ビル建設でサギ」「元刑事ら二人書類送検」という見出しで原判決別紙記載のとおりの記事(以下本件記事という)を掲載報道したこと、本件記事は控訴会社の被用者らが取材し編集した上、右新聞を発行したものであることは争がない。

二、≪証拠省略≫および前記争のない事実によれば、本件記事は二段抜き三倍活字で「ビル建設でサギ」と、次行に二倍活字で「元刑事ら二人書類送検」と表示した見出しのもとに本文冒頭に『「東京・芝の東照宮境内に高層ビルを建てる」とのふれこみで、財団法人日本文化住宅協会(千代田区有楽町、三信ビル内、理事長益谷秀次氏)から手形をだまし取った不動産二人が、』とあり、(不動産二人とあるのは不動産屋二人の誤記であることが明瞭である。)、その次の段に右不動産屋二人を特定するため、被控訴人外一名の住所氏名が記載されているのであって、右のような本件記事の記載は「ビル建設でサギ」とある見出しと相俟って被控訴人外一名が、手形をだまし取った詐欺犯人と断定して報道したものと認められ、右記載に次いで被控訴人らが、愛宕署から文書偽造・詐欺の容疑で書類送検されたことおよび「調べによると」としてその詐欺事件の内容が明らかにされているのである。

このような報道記事によって一般読者に被控訴人がビル建設に名を借りて手形を詐取した犯人であることを印象づけることは明らかであって、単に捜査段階における報道として被控訴人が詐欺罪の嫌疑で書類送検された事実のみを記事としたに止るものとは認められない。

三、そして被控訴人が本件記事記載のように昭和四〇年一一月頃手形を詐取したとの事実が真実であると認めるに足りる証拠はなくかつ控訴人側において右が真実であると信ずるに足りる相当の理由があったとの証明はない。

四、≪証拠省略≫を総合すると、昭和四〇年一二月二八日被控訴人は芝東照宮氏子総代として財団法人日本住宅文化協会専務理事林文爾との間で被控訴人が芝東照宮隣接のデクート(デカルト)所有土地の売買を右協会のため斡旋する旨の契約をなし割引いて右土地売買手付金などに使用する現金入手のため、右協会振出しの約束手形八通(額面計金一、一〇〇万円)の交付を受けたが、デクートの作成名義の土地売渡の承諾書がデクートの関知しない偽造文書であったり、被控訴人らから示された芝東照宮の登記簿謄本は古いもので登載されている代表役員はすでに退任して新役員が就任していたことがわかったり、被控訴人は右協会から同協会が振出し交付した約束手形は、銀行の信用は得られず割引くことはできない見込であるから返還されたいとの申入れを受けたのであるがうち五通を返還したが他の三通はこれを返還しようとしなかったなど種々不審な点があったので同協会は被控訴人らに手形を詐取されたと信じ警視庁捜査二課に同人らの告訴手続をし事件は警視庁から愛宕署に移送され、同署勤務静野幸において被控訴人らを取調べの上被疑事実ありとして東京地方検察庁に事件送致されたが、被控訴人は証明不十分であるとして起訴されることがなかったこと、控訴会社記者乙山次郎は右のような告訴のあったことを確め、被控訴人らが、愛宕署において取調べをうけ書類送検されたことを知りその段階で本件記事としたものであることをそれぞれ認めることができる。しかるに、本件記事は一般読者が通常の注意をもって読むときは被控訴人を詐欺犯人と断定しているものと認むべきこと前示のとおりであるから、控訴会社は単に捜査段階における被控訴人の容疑、送検の事実を報道するに止めるべきをこの程度を超えて被控訴人を詐欺犯人として断定した記事を編集、報道したものにほかならず、この点において控訴会社被用者に過失があったものと謂うことができ、控訴会社が右被用者の監督につき相当の注意をしていたとの点についてはこれを認めるに足る証拠ない。また上来説示の事実関係のもとでは本件記事の掲載報道が正当な業務行為として違法性を欠くものとすることはできない。

五、以上のとおりであるから控訴会社は、その被用者が同会社の事業の執行につき被控訴人の名誉を毀損した不法行為あるものとして、被控訴人のこうむった精神上の損害につき賠償の責に任ずべく、損害額の認定については原判決理由一、の(四)記載と同一であるからこれをここに引用する。

六、よって本件控訴は理由なく原判決は相当であるから、民訴法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 谷口茂栄 裁判官 荒木大任 田尾桃二)

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