大判例

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東京高等裁判所 昭和43年(行ケ)177号 判決

原告

(ロンドン市)ロンソンプロダクツ・リミテツド

代理人弁理士

川原田幸

川原田一穂

被告

特許庁長官

井上武久

代理人

斎藤昌巳

外一名

主文

特許庁が昭和四三年七月二四日、同庁昭和三五年抗告審判第二八二四号事件についてした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実《省略》

理由

〈前略〉

引用例記載のライターが充填通路と排出通路に共通の逆止弁を設ける構造であるのに対し、本願考案のライターが両通路にそれぞれ逆止弁を設ける構造であることは、当事者間に争いがない。しかし、本願老案のライターと引用例記載のライターとの間に叙上の程度の相違があつても両者の作用が同じであるとすれば、本願考案のライターは引用例記載のライターと同一またはこれに類似するものと認めるのが相当であるから、本願考案のライターは旧実用新案法第一条の「新規ノ型」とはいえない(同法第三条参照。)。したがつて、作用効果を度外視して本願考案は新規の型の工業的考案であるとする原告の主張は採用の限りではない。

次に、引用例記載のライターは、引用例に示されたままの設計では、液化ガスの充填が不可能であることは、当事者間に争いがない。被告は、引用例記載のライターにその主張の(1)ないし(4)の設計を施せば液化ガスの充填が可能であると主張し、引用例記載のライターに右(1)ないし(4)の設計を施すことができるならば液化ガスの充填が可能であることは、原告の敢て争わないところである。思うに、引用例記載のライターの構造を変更することなく、しかも当業者の容易になし得る程度の設計を施すことにより、液化ガスの充填が可能になるとすれば、引用例記載のライターに液化ガスの充填が可能であるといつてよいであろう。そこで、

被告主張の設計のうち(3)について検討する。被告主張の(3)の設計は、排出通路開口部より内側の充填通路周壁に、ボンベノヅルとの間を気密に保つための気密部材を介在させる、というのであるから、右気密部材は燃料充填時の逆止弁の位置より外側に設けなければならないことが条理上明らかである。そして、特段の主張のない本件では、右気密部材は高圧液化ガスの充填時にその圧力によつてたやすく押し戻されないようにしなければその用をなさないから、充填通路周壁に固定させるものと推認するのが相当であるから、平常時には充填通路および排出通路の入口側に位置する逆止弁は気密部材を通つて充填通路内を移動できなくてはならない。したがつて、右設計の目的を達するためには、気密部材の内径は逆止弁の外径より大きくなければならない。一方、引用例記載のライターは、充填通路がそれより小さい直径をもつ入口部を備えており、球形部材である逆止弁がコイルスプリングにより常時押圧されて充填通路とその入口部との間を塞ぐ構造であることが認められるので、逆止弁の外径は充墳通路入口部の内径よりも大きくなければならないことが明らかである。そして、ガスボンベのノヅルは充填通路入口部から挿入しなければならないから、ノヅルの外径は充填通路入口部の内径より大きいことはあり得ないところ、前述した気密部材はボンベノヅルと充填通路周壁との間を密封しなければならないから、気密部材の内径はボンベノヅルの外径と等しくなければならない。そうだとすると、気密部材の内径は逆止弁の外径より大きいことはあり得ないといわなければならない。吾人の常識上明白な叙上のような点を考えると、主としてゴム製パッキングを気密部材として使用することのほか、具体的な方法について何らの主張、立証のない本件においては、被告主張の(3)の設計が当業者の容易になし得る程度のものであると認めることは到底できない。

引用例記載のライターの構造を変更することなく、これに被告主張の(3)の設計を施すことが当業者の容易になし得ることでないことは前叙のとおりであるから、被告主張のその余の設計が当業者の容易になし得る程度のものであるか否かについて判断するまでもなく、引用例記載のライターに液化ガスを充填することは不可能であるといわねばならない。

そうだとすると、引用例記載のライターに液化ガスの充填が可能であることを前提として、本願考案は引用例記載のライターからきわめて容易に転用できたものであるとする審決には、原告主張の違法があることが明らかである。

よつて、原告の請求を認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(服部高顕 石沢健 滝川叡一)

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