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東京高等裁判所 昭和44年(ネ)992号 判決

第八六四号事件控訴人、第九九二号事件被控訴人(第一審原告。以下第一審原告という) 橋本良樹

〈ほか二名〉

右第一審原告三名訴訟代理人弁護士 山岸光臣

同 高木国雄

同 野崎研二

第八六四号事件被控訴人、第九九二号事件控訴人(第一審被告。以下第一審被告という) 斉藤寿

右訴訟代理人弁護士 井上達兮

主文

原判決を次のとおり変更する。第一審被告は第一審原告橋本良之に対し金五〇万円及びこれに対する昭和四〇年七月二四日から支払ずみまで、年五分の金員を支払うべし。

第一審被告は第一審原告橋本良樹に対し金四万一六七五円及び内金六九七五円に対する昭和四〇年七月二四日から、内金三万円に対する同四一年八月九日から、内金四七〇〇円に対する同四二年六月一七日からそれぞれ支払ずみまで年五分の金員を支払うべし。

第一審原告橋本良之、同橋本良樹のその余の請求及び同橋本佳江の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用中第一審原告橋本良之、同橋本良樹と第一審被告との間に生じた部分は第一、二審を通じてこれを三分し、その一を右第一審原告らの、その余を第一審被告の各負担とし、第一審原告橋本佳江と第一審被告との間に生じた部分は第一、二審とも右第一審原告の負担とする。

この判決は第一審原告橋本良之、同橋本良樹勝訴の部分に限り、第一審原告橋本良之において金一〇万円、同良樹において金一万円の各担保を供するときは、それぞれ仮りに執行することができる。

事実

第一審原告ら代理人は第八六四号事件につき「原判決を次のとおり変更する。第一審被告は第一審原告橋本良之に対し金八〇万円及びこれに対する昭和四〇年七月二四日から支払ずみまで年五分の金員を支払うべし。第一審被告は第一審原告橋本良樹に対し金一九万一六七五円及び内金一五万六九七五円に対する昭和四〇年七月二四日から、内金三万円に対する同四一年八月九日から、内金四七〇〇円に対する同四二年六月一七日からそれぞれ支払ずみまで年五分の金員を支払うべし。第一審被告は第一審原告橋本佳江に対し金二〇万円及びこれに対する昭和四〇年七月二四日から支払ずみまで年五分の金員を支払うべし。訴訟費用は第一、二審とも第一審被告の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、第九九二号事件につき控訴棄却の判決を求めた。

第一審被告代理人は第九九二号事件につき「原判決を取消す。第一審原告らの請求をいずれも棄却する。訴訟費用は第一、二審とも第一審原告らの負担とする。」との判決を求め、第八六四号事件につき控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張及び証拠の関係は、第一審原告ら代理人が甲第一一号証の一、二を提出し、同号証の二は医師斉藤宏が昭和四四年一一月六日第一審原告良之の右手掌を撮影したものであると付陳し、第一審被告代理人が甲第九号証の二の成立及び第一一号証の二が第一審原告ら主張どおりの写真であることはいずれも認める、第一〇号証、第一一号証の一の成立は不知と陳述したほかは、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する(但し原判決三枚目裏七行目の「……与え」の次に「そのため第一審原告良之には右手第四指の第一指関節の屈伸不能、同指の掌指関節の同伸不完全及び同指の血流阻がいの後遺症がある」と加え、同一三枚目表一〇行目、同裏九行目及び同一四枚目表二行目の各「化濃」とあるのを各「化のう」と、同一五枚目表二行目から三行目にかけて「甲号各証は甲第九号証の二および第十号証を除きその余の各証の成立を認めた」とあるのを「甲第五号証の成立は不知、第九号証の二及び第十号証は認否せず、その余の甲号各証の成立を認めた」と訂正する)。

理由

当裁判所は、第一審原告良之の本訴請求は金五〇万円及びこれに対する昭和四〇年七月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払を求める限度において、同良樹の本訴請求は金四万一六七五円及び内金六九七五円に対する昭和四〇年七月二四日から、内金三万円に対する同四一年八月九日から、内金四七〇〇円に対する同四二年六月一七日から各支払ずみまで年五分の金員の支払を求める限度において、それぞれ正当として認容し、その余を失当として棄却し、同佳江の本訴請求はこれを失当として棄却すべきものと判断するものであり、その理由は次のとおり付加訂正するほかは、原判決中当該部分の理由と同一であるから、その説示を引用する(原判決一五枚目表五行目から同二二枚目表二行目まで。但し同一五枚目裏九行目及び同二〇枚目表二行目の各「被告の」とあるのを各「第一審原告らが第一審被告から任意提示を受けて」、同一六枚目裏六行目の「化濃」とあるのを「化のう」、同二一枚目裏二行目の「金四十万円」とあるのを「金五十万円」と訂正し、同一五枚目裏一〇行目の「甲第十号証」の次に「第十一号証の一」、同一六枚目裏末行から同一七枚目表一行目にかけて「完治したこと」とある次に「及び第一審原告良之がその主張のとおり後遺症を有すること」とそれぞれ加え、同一八枚目裏六行目から七行目にかけて「右の事実は」とある部分、同一一行目から第一九枚目裏五行目まで、同九行目「しかし」から一一行目まで及び同二一枚目表末行から裏一行目にかけて、「……に、前示原告佳江の過失」とある部分を削除する)。

第一審被告は第一審原告佳江について過失があると主張するので検討する。≪証拠省略≫によれば、本件事故は右第一審原告佳江が皮膚科兼外科医である第一審被告の患者としてその皮膚病の治療を受けていた間に起ったものであることが明らかであり、これと前記引用の原判決認定事実をあわせ考えれば通常の家庭の主婦である右佳江が生後一年六月の第一審原告良之を自己が治療を受けに行くのに伴って行くことはきわめて自然であり、かような患者が伴って来る幼児を預る施設の如きもののない本件の如き医院において頑是ない幼児が母親の治療を受けているわずかなすきに親の手許をはなれることはありうることであって、特に非難に値すべきものではなく、本件においても第一審原告良之が勝手に室外に出たところたまたま第一審被告が飼育していた本件かにくいさるを見て、これに近付き本件事故を招いたとしても事は第一審被告の責任の及ぶ領域内のことであり、第一審被告に前記の如き過失がなければ、その事故は本来起らなかったことが明らかであるから、これをもって被害者側の過失として本件損害賠償金額の算定につきしんしゃくするのは当をえない。

次に第一審原告良樹及び同佳江の慰藉料請求につき判断する。右引用の原判決の認定するところによると、第一審原告良之は、本件事故によって第四指(薬指)第一関節部分を失う傷害を受け、現在同指の第一指関節の屈伸不能、同指の掌指関節の屈伸不完全及び同指の血流阻がいの後遺症を有することが認められるから、そのため第一審原告良樹及び同佳江がその父母として多大の精神的苦痛をこうむったであろうことは推察できるけれども、民法第七一一条の反面解釈として右両親たる第一審原告ら自身について当然に慰藉料請求権あるものとすることを得ず、また右傷害の部位程度にてらしてこれを右子である第一審原告良之が生命を失った場合に比肩するか、または右の場合に比して著しく劣らない程度の精神的苦痛を受けたものということはできないので、第一審原告良樹及び同佳江は自らの権利として、第一審被告に対して慰藉料の請求はできないものといわなければならない。従って右第一審原告らの右請求は理由がない。

さらに第一審原告良樹は、本件訴訟のための弁護士費用金三万円を本件事故による損害賠償として請求する。第一審被告は第一審原告良之に対し金五〇万円、同良樹に対し金四万一、六七五円の各損害賠償債務を有することが明らかであるにかかわらず、第一審原告らの再三の示談交渉の申入れに対し、誠意をもってこれに応じようとしなかったため、第一審原告良樹は同人ら代理人弁護士岸光臣に対し、昭和四〇年四月二六日本件訴訟事件を委任し、その費用として金三万円を支払ったことが、原審における第一審原告良樹本人尋問の結果及び右により成立を認める甲第五号証により認められる。そして右金額は、前記認容額と本件訴訟における訴訟活動とにかんがみ相当と認められるものであり、右はひっきょう第一審被告の右不当抗争のためやむなく支出したものであってこれと相当因果関係ある損害として第一審被告にその賠償を求めうるものということができるので、この点の第一審原告良樹の請求は正当である。

すると第一審被告は、第一審原告良之に対し、損害賠償金五〇万円及びこれに対する本訴状送達の日であることの記録上明らかな昭和四〇年七月二三日の翌日である同月二四日から支払ずみまで、年五分の遅延損害金を支払う義務があり、同良樹に対し損害賠償金四万一六七五円及び内金六九七五円に対する右同様の昭和四〇年七月二四日から、内金三万円に対する本訴状送達後である同四一年八月九日から、内金四七〇〇円に対する同じく同四二年六月一七日から、それぞれ支払ずみまで、年五分の遅延損害金を支払う義務があるが、右第一審原告らに対するその余の義務及び第一審原告佳江に対する義務のないことは明らかである。

よって第一審原告らの本訴請求を右の限度で認容し、その余を理由のないものとして棄却し、これと異なる原判決はこれを右認容の趣旨に従って変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条、第九二条、第九三条第一項を、仮執行の宣言につき同法第一九六条第一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長判事 浅沼武 判事 岡本元夫 田畑常彦)

〈以下省略〉

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