大判例

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東京高等裁判所 昭和45年(ネ)1318号 判決

控訴人

中里妙

代理人

下光軍二

上田幸夫

上山裕明

被控訴人

朝野辰人

主文

原判決を左のとおり変更する。

昭和四二年七月一一日東京都北区長に対する届出によつてした控訴人と被控訴人との協議離婚は無効であることを確認する。

控訴人と被控訴人とを離婚する。

被控訴人は控訴人に対し一〇〇万円および内金七〇万円に対する昭和四三年一二月六日以降右内金支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

控訴人のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審を通じて五分し、その二を控訴人、その余を被控訴人の各負担とする。

この判決第三項は、金七〇万円の支払いを命ずる部分に限り仮に執行することができる。

事実

控訴代理人は、「原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。被控訴人は控訴人に対して金二〇〇万円および内金一〇〇万円に対する昭和四三年一二月六日以降右内金支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」旨の判決および右判決中一〇〇万円の支払いを命ずる部分につき仮執行の宣言を求め、被控訴人は、控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張ならびに証拠の提出、援用および認否は、次に、附加、補充するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  控訴代理人は、次のように述べた。

1  控訴人は、被控訴人に対し昭和四三年一月一〇日東京家庭裁判所に協議離婚無効の調停を申し立てたが、被控訴人が裁判所の数回の呼び出しにも応じないので、話し合いの機会がなく、被控訴人は被控訴人と同居の意思がなかつたので、控訴人は、やむをえず、被控訴人との間に婚姻を継続し難い重大な事由があるとして離婚を請求したのである。

2  被控訴人は、昭和四三年四月三〇日、昌子と婚姻したから、控訴人は、被控訴人に対し右不貞行為を原因として離婚を請求する。

3  控訴人は、いわゆる離婚後の扶養を求める趣旨で本件財産分与の請求をするものである。なお、婚姻中に当事者双方の協力によつて得た財産はないが、被控訴人は、時価約二、〇〇〇万円に相当する現住土地建物を所有しているほか、給料として、昭和四四年当時で一か月約七万八、〇〇〇円、賞与として同年七月九万九、〇〇〇円、同年一二月二〇万二、〇〇〇円の収入を得ているものである。

二  被控訴人は、次のように述べた。

1  被控訴人が呼び出しを受けながら、東京家庭裁判所の調停期日に出頭しなかつたことは認める。

2  被控訴人が控訴人主張の当時、昌子と婚姻したことは認める。

3  一3の控訴人主張事実のうち、被控訴人が主張の土地建物を所有していること、被控訴人の昭和四四年当時の収入額が主張のとおりであることはいずれも認めるが、右土地建物の時価が主張のとおりであることは否認する。右時価は、約一、〇〇〇万円である。

三  証拠〈略〉

理由

一〈証拠〉によれば、控訴人と被控訴人とは、昭和四一年七月五日見合して交際したうえ、翌四二年五月一日結婚式を挙げ、東京都北区袋町二丁目二四番地被控訴人方において共同生活に入つたこと、控訴人は、被控訴人の承諾のもとに、同月一三日控訴人と被控訴人との婚姻届を東京都北区長に提出して受理されたことが認められる。原審における証人中里トメ、被控訴本人の各供述中右認定に反する部分は、原審における控訴人本人の供述に照らして採用することができず、ほかにこれを動かすだけの証拠はない。

二〈証拠〉によれば、昭和四二年七月一一日東京都北区長に対して控訴人と被控訴人との協議離婚の届出がされた事実を認めることができる。ところで甲第二号証(離婚届)の存在に〈証拠〉を総合すれば被控訴人は、肩書住所地の借地上に、兄からの資金援助により旅館を建築所有していて控訴人にその経営の手伝をさせる予定であつた。控訴人はこのことを結婚前から被控訴人より告げられていたけれども被控訴人の控訴人に対する態度が命令的一方的であつて夫婦協力の意向が示されなかつたため控訴人は不満を抱き、これをその母トメに告げたので昭和四二年五月二四日頃上京したトメが控訴人に対し連れ込み旅館のような経営を止めてほしいし、普通の旅館にして控訴人との共同経営にして収益の一部を控訴人にも分けてやつてほしいと要求したので被控訴人はこれを憤慨しトメに帰れといつて追い帰した。そこで控訴人は被控訴人の態度に不満であつたので何の挨拶をしないでトメとともに実家に帰つた。その後両者の間に格別の話合のなされないままに経過したところから被控訴人は、控訴人において婚姻を継続する意思がないものと考え同年七月一一日頃、控訴人の諒解を受けることなく離婚届に控訴人の氏名を記載し被控訴人方にあつた有合印を押捺して控訴人名義の部分を偽造し、これを東京都北区長に提出したことが認められる。原審における証人三箇島金次、被控訴人本人の各供述中右認定に反する部分は採用することができず、ほかにこれを動かすだけの証拠はない。右事実によれば、離婚届が提出された当時控訴人と離婚する意思もその意思の表明もなかつたのであるから、右届出は、無効であり、したがつて本件協議離婚の無効確認を求める控訴人の請求は、正当であるといわなければならない。

三次に被控訴人は前記のとおり昭和四二年七月一一日頃離婚届出をしたのであるから、これにより婚姻を破壊したことはいうまでもない。そこでその事情を更に検討するに原審における控訴人本人(一部)、原審および当審における被控訴本人の各供述および弁論の全趣旨によれば、昭和四二年五月下旬控訴人の母トメが上京する頃まで夫婦間に婚姻関係の継続を危くするような格別の風波はなかつたのであるが、前記のようにトメが上京して被控訴人の意に反する発言をすると被控訴人は出てゆけといつて手を振り上げてトメを道路上に追い出し、なお問題解決のため仲人である三箇島金次を交えて話し合いをした際結論を得ないまま途中で打ち切つて、仲人ともども母を追い帰したので、控訴人は事態の好転を期待して函館市の実家に帰つたのであるが、同月二八日頃被控訴人に電話したところ、同人から離婚訴訟を提起するかも知れないといわれたので、事の意外に驚き、同年六月一日母とともに上京して、被控訴人に電話連絡したが面会を拒絶され次で、同月四、五日頃、三箇島金次を介し被控訴人方に帰りたい旨申し入れたが、これまた被控訴人に拒絶され、新宿区にある控訴人の弟の下宿先に身を寄せ、重ねて、被控訴人に電話したが、被控訴人は、来てはならないと答えたこと控訴人からその先妻と協議離婚するにあたり出張中別居していた先妻の荷物が盗まれたと聞かされていたところから、控訴人の荷物を東京在住の同人の弟妹方に移すために被控訴人方に立ち寄つた際、被控訴人に生活費を要求したが要領をえないまま別居生活を続け遂にやむをえず昭和四三年一月一〇日東京家庭裁判所に協議離婚無効の調停を申し立てたが、被控訴人が数回の呼び出しに応じないので同年七月本件離婚無効の訴に及んだことおよび被控訴人は、昭和四三年四月三〇日頃から宮原昌子と結婚し同棲を開始していたことが認められる。

右事実によれば被控訴人が離婚を決意するに至つた動機に控訴人がトメとともに実家に帰つたことが挙げられ前記のように格別の挨拶をしなかつたことは軽率の譏を免れないので控訴人に落ち度がないではないが、婚姻関係の破綻の主たる責任は被控訴人にあると認めるのが相当であるから、控訴人の離婚請求は民法第七七〇条第一項第五号に則り理由があるといわなければならない。

四そこで、慰藉料および財産分与請求につき判断する。

1  控訴人は、三に認定したような被控訴人の責に帰すべき所為により婚姻を継続し難い状態にいたらせられたものであるから、被控訴人は、控訴人に対し、これにより同女の蒙つた精神上の苦痛に対し慰藉料を支払う義務がある。そして、前記三に認定した事実に前顕甲第一号証の一、公文書であるから成立を認める甲第一号証の二、原審における被控訴人、原審および当審における控訴人各本人の供述によつて認められる被控訴人は昭和三年八月五日生れで控訴人との婚姻が再婚であり、控訴人が昭和九年三月一五日生れで初婚であること、控訴人が精米および養鶏業を営む中里文次郎夫妻の二女で昭和二七年高校卒業後昭和三八年六月から全販連東京青果事務所に勤務しているうち東京都結婚相談所を介して、当時大学を卒業し、専売公社に公社員として勤務していた被控訴人と知りあつたものであること、控訴人が前認定のような事情で夫婦共同生活僅か二十数日で破婚の憂き目を見るに至つたことおよび本件離婚請求に至るまでのいきさつを斟酌するとその慰藉料の額は金七〇万円をもつて相当と考える。

2  次に、離婚に伴う財産分与は、夫婦が婚姻中に有していた実質上共同の財産を清算分配し、かつ、離婚後における一方の当事者の生計の維持をはかることを目的とするものであると解するのが相当である(最高裁昭和四三年(オ)第一四二号同四六年七月二三日判決裁判所時報五七六号一頁参照)。ところが、〈証拠〉によれば、次の事実が認められる。すなわち、(一)被控訴人は、埼玉県川口市北町二丁目一三九番地156.57平方メートルおよびその地上の家屋番号一三九番の二コンクリートブロック造陸屋根二階建居宅一棟床面積一階103.53平方メートル、二階105.18平方メートルの被控訴人所有家屋など時価一、〇〇〇万円を超える資産を有し、右所有家屋およびその敷地には、専売共済組合を債権者とする自らの債務のため債権額二一〇万円の一番抵当権および東京労働金庫を債権者とする自らの債務のため債権額三〇〇万円の二番抵当権が設定されているが、被控訴人は昭和四四年一一月当時で毎月七万八、一九七円の給料のほか、同年七月九万九、三〇八円、同年一二月二〇万二、九九四円の賞与その後これを上廻る給与を得ているのに対し、控訴人は、嫁入り道具のほかみるべき財産はなく、同年四月以降タイピスト見習としてそれまで経験のなかつたタイプライテイングをはじめ、昭和四六年六月当時で毎月手取り三万六、七〇〇円の収入を得、アパート代を支払つて自活していること、(二)被控訴人の前記不動産は、控訴人の協力によつて得たものではないこと、右の事実を認めることができ、(三)なお、前叙のとおりの生年月日から推せば、控訴人の再婚には困難が伴い、中年から開始したタイプライター技術の修得に相当長期間の訓練期間を必要とするのはみやすいところであるから、これらの事実に前記慰藉料額を参酌すれば、被控訴人は、控訴人に対し、その扶養のための財産分与として金三〇万円を支払うのが相当である。

五してみれば、被控訴人に対し、昭和四二年七月一一日東京都北区長に対する届出によつてした控訴人と被控訴人との協議離婚の無効確認および控訴人と被控訴人との離婚にあわせ慰藉料として金七〇万円およびこれに対する不法行為ののちであること明らかな昭和四三年一二月六日以降支払いずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金ならびに財産分与として三〇万円の支払いを求める限度において、控訴人の請求は正当であるからこれを認容しうるが、その余は失当であるからこれを棄却すべく、右と趣旨を異にするかぎりにおいて、原判決は不当であつて本件控訴は理由があり、原判決中その余は相当であつてこれに対するかぎり本件控訴は理由がないから、民訴法三八四条、三八六条を適用して原判決を主文第一ないし五項のとおり変更し、訴訟費用の負担につき同法八九条九二条九六条を、慰藉料七〇万円の支払いを命ずる部分に関する仮執行宣言につき同法一九六条一、三項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(西川美数 園部秀信 森綱郎)

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