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東京高等裁判所 昭和45年(ネ)1397号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

(申立)

一、控訴人は、「原判決を取り消す。被控訴人は、控訴人に対し、別紙物件目録記載の土地上に存する同目録記載の建物を収去して右土地を明渡し、かつ昭和四四年八月二一日から前記土地明渡まで一カ月金二、二四〇円の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。」との判決、および仮執行の宣言を求めた。

二、被控訴人は、主文第一項と同旨の判決を求めた。

(主張、証拠)

当事者双方の主張、証拠の提出、認否等は、左記のほか、原判決の事実摘示に記載するとおりであるから、これを引用する。

一、控訴人

1、別紙控訴人の主張に記載のとおり主張する。

2、原判決二枚目裏(記録七丁)上欄一一行目の「約五二平方米」を、「六〇・七七平方米」とあらためる。なお同三枚目表(記録八丁)上欄二行目の「約三四・七平方米」を、「三八・〇三平方米」とあらためる。

3、原判決一〇枚目表(記録一五丁)三行目の「約五二」を「六〇・七七」と、同四行目の「約三四・七」を「三八・〇三」とそれぞれ、あらためる。

4、(証拠省略)

二、被控訴人

1、別紙被控訴人の主張に記載のとおり主張する。

2、原判決二枚目裏下欄四行目の「(ただし」から同七行目までを削る。

3、4、(証拠省略)

理由

一、当裁判所も、原審と同様に、控訴人の本訴請求は失当であるから棄却すべきであると判断する。その理由は、左記のほか、原判決の理由に記載するとおりであるから、これを引用する。

1、原判決五枚目裏(記録一〇丁)四行目の「(床面積の点を除き)」を削る。

2、原判決六枚目表(記録一一丁)五行目ないし同裏七行目を削り、ここに、次のとおり加える。

「被告は、本件土地上に所有してきた建物のうち工場部分を取り毀し、昭和四四年五月三〇日、一階を重量鉄骨造耐火構造の板金工場(床面積六〇・七七平方米)(以下「工場部分」という)、二階を木造カラー鉄板瓦棒葺居室(床面積三八・〇三平方米)(以下「居室部分」という)とする建物を新築し、残存する二階建居宅(一階部分床面積約二九・七五平方米・二階部分床面積約一三・二二平方米)と一体をなす一棟の工場・住宅兼用の建物(総床面積一四一・七七平方米)に改築した。(但し床面積の点は当事者間に争いがない。)その内容は、左のとおりである。

(一)  一階の工場部分。(1)基礎。南辺および北辺のそれぞれ長さ約6.36mの基礎は、布コンクリート造で、深さ地下約45cm、地上の高さ約55cm厚さ約25cmである。しかし基礎は木枠にコンクリートを流し込んだもので、木造建築の場合の基礎より巾が広い程度であるが、鉄筋ビル工事の場合のようにボーリングをして杭打ちをする工事は行われていない。(2)柱、および柱と基礎との緊結状態。柱は南北両辺に各四本、計八本である。そのうちの六本はH型重量鋼(200×200mm、肉厚12mm、高さ25cm)であつて、底部に座板(鉄板250mm角、肉厚12mm)を熔接し、アンカーボールト(径16mm)四本で基礎と固く緊結されているが、ボールト締めをはずすことにより、柱を基礎から取りはずし解体することは容易にできる状態にある。なお、杉柱一本(15cm角、長さ3.45m)がその柱根において羽子板ボールトで基礎に緊結されて副柱として梁の下まで立上つている。残りの二本(南北両辺に各一本)は、リツプ溝型鋼(100×50×20mm、肉厚23mm)二本を抱合せ熔接して角形の柱としたもので、座板(150mm角、肉厚12mm)に熔接し、アンカーボールト(径16mm)で基礎に緊結されている(この柱二本も、ボールト締めをはずせば、基礎から容易に取りはずせる)。(3)柱の頭つなぎ。H型重量鋼の柱六本の頭は、二階桁I型重量鋼(200×150mm、肉厚12mm、長さ6.36m)にH型重量鋼(長さ80cm)を熔接し、これに柱の頭をボールトで取りつけている。したがつて、前記の(2)と同様に、この柱を取りはずすことは容易にできる状態にある。リツプ溝型鋼の柱二本の頭は、二階桁I型重量鋼二本に等辺山型鋼によつて熔接されている。(4)梁。梁はI型重量鋼(350×150mm、肉厚12mm、長さ8.18m)三本を使用し、ほかにI型重量鋼(020×150mm、肉厚12mm、長さ3.18m)二本が梁に熔接されているが、現代建築では、木造建築の場合でも、梁に鉄骨を使用することが行われている。なお、ブレーン(振止)は、垂直ブレーンが四カ所、水平ブレーンが二カ所に取り付けられているが、垂直ブレーン四カ所のうち二カ所は等辺山形鋼(50×50mm、肉厚6mm)で取付けられており、他の二カ所と水平ブレーン二カ所は丸鋼(径19mm)タンバツクル締めが施工されている。(5)外壁。胴ブチはリツプ溝型鋼(100×50×20mm)を使用(直接熔接)、外部波型石綿スレート張り(北側および南側の一部には波型グラスライトを使用)フツク止めとしている。なお、スレートは耐火性はあるが衝撃には弱い。(6)その他。一階床は土間であるが、床全体として西側から東側(表側)に15cmの勾配差を以て水流勾配にできており、排水に好都合であり、更に東側公道に面して南北両端の柱と柱の間にシヤツターが取付けられている。(7)被告は前記認定のように(原判決五枚目裏―記録一〇丁―五行目ないし八行目)原告から催告を受けたので、催告期間内に前記H型重量鋼の柱六本の中間を切断し、それぞれH型鋼の両面から杉材の柱(15cm角)二本を抱合せ、H型鋼を通し締付ボールト(径16mm)で取り付けることにより、建物を支えるように改造している。

(二)  二階の居室部分。木造、カラー鉄板瓦棒葺、柱三寸、外壁モルタルリシン吹付、内壁繊維造りであつて、鋼材は殆んど使用されていない。なお、二階の床組みについては、南側は南辺から2.75m東西の長さ6.36mの部分にデツキプレートを張り上部シンダーコンクリート打としている。

(三)  前記の(一)(二)の建物部分の裏側には、これに接続して従来から二階建居宅が存したが、この居宅は前記(一)(二)の改築の際に若干の修理を受け(一)(二)の建物と一体をなす一棟の建物として残存することとなつたにすぎない。

以上の事実を認めることができる。」

以上のとおり加える。

3、原判決七枚目裏(記録一二丁)四行目の「とすれば」から、同末行目までを削る。

4、原判決八枚目裏(記録一三丁)八行目ないし原判決九枚目表(記録一四丁)一〇行目を削り、ここに、次のとおり加える。

「以上に考察したところによれば、被告が改築した一階工場部分の構造は前記2の(一)に記載のとおりであつて、建築材料として鋼材を使用している点において、通常の木造建築に比較すると、その耐用年数が長いことは明らかである。しかしながら、一階工場の主要部分の構造は前記認定のようにボールト締めの組立式であつて、同工場を支えるH型重量鋼の柱六本(現在では前記のように中間で切断され杉材の柱で支えられている)もボールト締めをはずすことにより容易にこれを取りはずすことが可能であり、また、基礎コンクリート・梁・建物外壁等の構造は前記2の(一)に認定のとおりであつて、全体としてみた場合、鉄筋ないし鉄骨コンクリート造に比較すると建物の堅固性において遥かに劣るだけでなく、この一階工場部分を解体することも前記のコンクリート造に比較すると遥かに容易であることが明らかである。これらの諸点を考慮して考察すると、被告が改築した本件工場部分は、借地法にいう堅固な建物に該当しないと認めるのが相当である。原審証人一瀬忠、同奥野成彬の各証言、前掲甲第二号証、第三号証の一、二中右認定に反する部分はいずれも採用しない。

そして、この工場部分と同時に改築された二階居室部分、および修繕された二階建居宅の改築ないし修繕の内容は前記2の(二)(三)に認定のとおりであるから、この改築ないし修繕により、右(二)(三)の建物が借地法にいう堅固な建物に該当するにいたるものでないことは明らかである。

しかも、被告が改築または修繕した各建物部分は構造上接続して一体をなす一棟の建物となつているのであるから、これを全体としてみた場合なおさら借地法にいう堅固な建物に該当しないと認めるのが相当である。

また、控訴人は、本件土地の賃貸借に際し、本件土地上には木造以外の建物を建築しない旨の合意が控訴人と被控訴人との間でなされていたと主張する。そして、弁論の全趣旨により成立を認めることができる甲第七号証および当審証人斉藤文夫の証言、控訴本人小山良尋問の結果中にはこの主張にそう記載および供述があるが、これを成立に争いのない甲第一号証、当審における被控訴本人三田正一尋問の結果等と対比して考察すると、前記の記載および供述によつて控訴人の前記主張を認めることはできないし、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

以上のとおり加える。

二、よつて、原判決は結局相当であり、本件控訴は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条第九五条を適用して、主文のとおり判決する。

(別紙)

控訴人の主張

一、本件建物は借地法所定の堅固な建物である借地法にいう堅固な建物と、その他の建物との別は建物を構成する主要材料の種類、品質、形態、用い方、結合方法、施工の適否などを総合し、竣功した建物が内、外力の影響に対し当該建物として相当長期の耐久性を有するか否かによるものであり、借地法第二条が第一項に於て石造、土造、煉瓦造又は之に類する堅固の建物所有の借地権の存続期間を六十年としその他の建物所有を目的とするそれを三十年と定めているのはその耐久力を勘案しているものであり、その他の建物の耐久力は三十年を限度と見ているものに外ならず、このことは同項但書が三十年の期間満了前朽廃したるとき又同第二項が、その他の建物につき契約を以て二十年以上の存続期間を定めたるときは第一項所定三十年の定めに拘らずその期間の満了に因りて借地権は消滅すると規定しているのは単に契約当事者の意思のみを参酌したるものではなく却つてその他の建物の耐久力を客観的に観察し帰納して得たる物理的建築学的その他各種科学的結論をも勘案し法文に採用したものに外ならない。しかも耐久力の決定に副次的分子たる材料等の如きは要素をなさないことは云うまでもない。

之を本件工場建物につき観るに、この建物は新築の鉄骨しかも重量鉄骨造り準防火建物である即ち、(1)基礎は南北両辺夫々長さ六・三六メートルの基礎は、布コンクリート(地下四五センチメートル、地上五五cm厚さ二五cmの鉄筋コンクリート)の強固な構造であり、(2)柱は南、北両辺に各四本(各三本は200mm×200mm、肉厚12mmの高さ25cm)のH型重量鋼を底部に250mm角、肉厚12mmの鉄板の座板を熔接し径16mmのアンカーボルト四本にて基礎コンクリートに緊結し、H型鋼の両面から15cm角の杉材柱二本を抱合せH型鋼を通し径16mmの締付ボルトで取付け以てこの柱を完全に基礎に緊結しているほか、なお15cm角長さ3m45の杉柱一本をその柱根で羽子板ボルトで基礎に緊結し副柱として梁の下まで立上らせており、更に柱の頭部は二階桁I型重量鋼(200mm×150mm肉厚12mm長さ六・三六m)にH型重量鋼長さ80cmのものを熔接し前記根柱部分と同じく両面から二本(前示の)の杉柱を径16mmの締付ボルト三本でH型鋼を通して緊結している。元々この根足固め部分のH型重量鋼と柱の頭つなぎのH型重量鋼は一本の鋼材で現場で建設した鋼柱であるが被控訴人が昭和四四年六月一八・九日に亘りその中間を熔断し前記の木柱を使用改造したものであり、この改造は控訴人の抗議の後に為したるものである。更に南北両辺のH型重量鋼柱の各西端と中央との中程には100×50×20mm肉厚23mmのリツプ溝型鋼二本を抱き合せて熔接して角型の柱と為し150mm角、肉厚12mmの座板に熔接したその底部を径16mmのアンカーボルトにて基礎に緊結しその柱の頭部は二階桁I型重量鋼(前記のそれと同一)二本に等辺山型鋼によつて熔接している。このような構造であるから柱自体が強固であり耐重力は大であり且その補充も極めて簡単可能なるほか、柱の根と頭部はいづれも夫々コンクリート基礎或は二階桁I型重量鋼に完全緊結されているので著しく堅固な構造である。

(3) 梁は梁二本のほか小梁三本から成り、その梁は350×50mm、厚さ12mm、長さ8.18mのI型鋼三本で取付柱は前記H型重量鋼柱であり、小梁は200×150mm厚さ12mm、長さ3.18m二本を梁に熔接している

(4) 振止は垂直ブレーンを北辺、南辺それぞれの中央H型重量鋼柱の西の壁面二箇所で50×50mm肉厚6mmの等辺山型鋼で取付け、右重量鋼柱の東側壁面の(南・北辺の)二箇所で径19mmの丸鋼タンバツクル締施工をし、水平ブレーンは北辺の桁西側梁の部分で径19mmの丸鋼タンバツクル締施工をし、南辺の桁と西部梁の部分でも同様施工をしている

(5) 外壁は胴ブチは100×50×20mm肉厚1.6mのリツプ溝型鋼を直接熔接して用い、外部波型石綿スレート(不燃材料である)張りフツク止めにしている、尤もその一小部分は南北側共波型グラスライト(不燃性)を用いている

(6) 二階の床組み(工場の天井に当る)を見るに南側は南辺から2.75m東西の長さ6.38mの部分はデツキプレートを張り(熔接であり且丸鋼で押え(甲第六号証の一の十二頁上部写真に明かである)その上部はシンダーコンクリート打をしている

(7) 一階の床は土間であるが、西側から東(表)側に床全体として水流勾配となし其の勾配差は東西に於て15cmあり床として排水良好且建物の耐久性に貢献する力大である。

(8) 更に表側は鉄製シヤツターを以て全面完全に表道路面を区切る施工をしている

以上の通りの構造でその基礎、柱と基礎、桁との緊結状態、桁、梁、ブレーン等の用材や構造及び施工度(熔接不能又は著しく困難な箇所以外鋼材は熔接合されている。)等を総合し前記堅固の建物とその他の建物との区分に照しこの工場建物は自重、積載荷重、積雪、風圧、土圧、水圧地震等の衝撃に十分構造耐力を有する。しかもこの建物はその構造が準防火構造であるから耐火性は強度である。

(一瀬鑑定人の甲二号証には被控訴人がシンナー等を使う業種であるからデツキプレトを張らない部分の天井は相対的には火力に弱いものがあるといつているが、これはこの点を過大視したもので誤つた見解である、火災に対しては借地法が堅固の建物と定めている土蔵(土造)とこの工場とに何等差等はない、右鑑定人はこの工場の一階天井が極めて高いこと即一階床面から天井まで実に四・五メートルもある事実を看過した謬りがある。)

更に熔接不能・困難な箇所がボルト締めであるということは毫も前記趣意の建物の堅固性に影響を与えるものではないしまたこの工場が組立式又はその類似のものなどということは建築実務に反する。以上の構造上のみならず、経済上、用途上その他いづれの角度からいつてもこの工場は借地法上の堅固な建物である、しかも耐用年数は四〇乃至六〇年存する。

而して本件現建物一棟のうちこの工場はその主要部分を占めた主体たる性格を有するものであるからこの建物一棟全部(工場以外の部分は工場の為の附属的存在としての意味を有し得るに止まること明白である。)が借地法のいう堅固な建物である、仮りに工場と工場以外とは堅固とその他の二種だとしても依然工場は堅固な建物であることに変りはない。堅固な建物を建築所有することはまさに借地契約に於ける用法違反である、既述の通り被控訴人はその他の建物所有に限定された用法契約が存するので、之を事由とする控訴人の解除は正当である、右論述は検証の結果及び甲二、三の一、二号証にて明かに証明されている。

二、当事者間には借地人たる被控訴人はこの借地上に木造以外の建物を建ててはならない約定がある。

本件建物の工場は堅固の建物であり、それは木造でなく重量鉄骨を本体とする鉄鋼造りに一部分木柱を用いたものであるが、当事者間に於ける本件土地の賃貸借は当初から被控訴人は借地人として木造を以てのみ工場、すまい等を建設所有することを要する特約があつた。

故に被控訴人が叙上木造にあらずして鋼鉄造りを主とする工場を建築所有することは特約の用法に反するものである、だから用法違反を事由とせる控訴人の土地賃貸借契約解除は正当であり控訴人の本訴請求はこの点からも速かに認容されなければならない。

三、被控訴人の主張二の(二)につき彼の主張する金額は不知且計算も杜撰で採るに足る余地なきのみならずその建物の堅固なると否との借地法上明白なる区別をことさらはなれ一審西村宏一判事の我流専横、独断、不当な且憲法第七十六条第三項に明らかに違背し強て何の為めにか法律にのみ拘束される職務を著しく逸脱した判断を索強附会せんとし木造建物と同程度の建築費のみを要したるに過ぎないから本件建物は堅固な建物でないと敢て窮余の弁疏を為すものであり絶対に借地法の解釈としてかりそめにも許さるべきものでない。原判決の論は正に判決の名をかりた暴力の範疇に属すると評さるべき失当なもので之を弁疏することの如き到底法の許すべからざるものの顕著且極端なものである。加之この論法が仮りにも許されるなら他人が全く無料で材料、手間賃その他一切を支弁し被控訴人に無償にて建ててくれた場合一審判事西村宏一の立論を以てすれば建築費はただの一銭もかからないのだからその新建物が重量鉄骨コンクリート造りのビルヂングでもやはり非堅固建物以外の建物なりと做さざるを得まい。要之控訴人が主張証明(鑑定書三通及写真、検証結果その他すべてを示す)する構造なる本件建物が非堅固建物なりなどと做すでたらめは実社会では通用しない、そのような誤まれる判決に何の正当性権威も認めることはでき得ない。

四、その(三)につき、一体一審判事西村宏一は自ら検証をした(実際には詳しく見ていないことは控訴人代理人が目撃した)のに甲第二号証の鑑定書さえ全くそらよみで、書いてある事実をことさらに判断から除外している。だから被控訴代理人も之に便乗し改造前に存した重量鉄骨柱六本の中間部分を酸水素炎で部分的に切断以て糊塗によつて節を抂げる主張をしているのであるかかる糊塗に拘らず其の前後を通し極めて堅固な……借地法所定の……建物たるに何の逕庭もないこと右甲二号証をもう一度見たらどうかとつめよらざる者はないと思われる、建築専門用語を知らないのなら勉強すればよし面倒なら鑑定証人にでも聞く方途は訴訟法上明瞭に開かれているしかも文字の読解力をもつべき裁判官が鑑定書もろくに理解せず書記官がその意思で写した写真さえ無視している本件はまさに沙汰の限りではあるまいか、まづ試みに見よ右原判決に鋼柱六本(原判決原本六枚目裏四行目と八行目表八行目)を中間切断云々と認定しているが、現物は鋼柱は六本ではなく八本(鑑定書甲二の四頁二十二行目)(並に附属図面を看よ)であり内二本はリツプ溝型鋼二本の抱合せ熔接の角柱鉄骨ではないか(附属図面第五図をも見よ)。その他原判決の事実誤認は随所に存し枚挙に暇がない、凡そ聴訟に於て真に事実を確定せずして何を根拠として判決を為し得るか故にこそ民訴一八五条の鉄則が存するのであり如何に自由心証がなされるとしても事実を抂げて判断することは憲法七六条三項に対する重大な違背である。しかも鑑定に誤が明存する旨の判示はどこにかある。当審は検証をしないというのであるからよくよく鑑定書を熟読せられ原判決の如き誤りを重ねられることは断じてないと確信するが特にこの点よくよく鑑定書を吟味体得せられたい、この建物がH重量鉄骨柱やI型重量鋼かどんな大きさの規模かよく鑑定書を見られたいmm200とあるのは20センチですぞmm200は尺貫法では実に六寸六分である。

五、更に原審は証拠によらずして「鉄鋼は概ねボルト止めであつて熔接されているのは一部にすぎない。」(原本六枚裏一~三行)という、一体原審判事西村宏一は職責を全うするだけこれ等部分をその自己の肉眼で見たかを疑わざるを得ない。記録にある鑑定書、写真等を見れば事実上為得る箇所は殆ど金属熔接であること盲人をもだませない事実ではないか、勿論木材と金属の熔接はできないから(そういう所はほんの一小部分であるが(羽子板ボールトで緊結するより仕方ないのである、一審判事は羽子板ボールトという物の性質用途を知らないことは判文を一読して幼童でも判る、それでは凡そ裁判などはできないのではあるまいかと疑われても弁解はむづかしいと思われる、又甲二鑑定書五頁七行以下の(図1、2、3、4)副柱すら見落しているのは重大な故意か過失がなければ何であろう。

六、借地法にいう建物の堅固・非堅固の別は建築基準法でいうそういうものとも全く意義を異にする後者の法では純然たる花崗岩(ミカゲイシ)作りでもすべてが堅固とは云えず殊に借地法が土蔵を以て堅固な建物として明示しているがこれも直ちに後者の法では堅固に属するものではない、要之一審西村宏一判事は借地法上の建物の堅固、非堅固の真の弁別ができなかつたのに帰着する、建築費で之を区別するなというは法を無視した失当の極致でなくて何であろう

七、その(四)について、現地は所謂ゼロメートル地帯に近く今日の如き二十屯車でも通れば通常の家でもすべてゆれることは知らぬ者はない。

被控訴代理人は六箇所重量鉄骨柱の中間を切りとつたが故に換言すれば、そうでないと用法違反になるから切取つたが故に地震にはどこよりもまつ先に倒れると誇張する。しかも近隣木造家屋よりもぜい弱かの如くいう。若しそうならそんな危険度の強い倒壊性のものを無断で建てることはいづれ近くあるかとも予想される地震に当り隣家に被害を及ぼすこと明明白白なるものを建てることそれ自体が土地賃貸借契約における重大な信義則違反でなくて何か、自ら省みてなお正しいとせられる理由があるか、

しかも倒壊危険率についての学術上の根拠は一も主張立証しないではないか

八、その五について木造建物に劣る耐震力のものだと被控訴人は云い一審西村宏一判事は「鉄筋コンクリート造りや鉄骨コンクリート造に比較すればかなり耐久性が低い」と原判決八枚ウラ一、二行で云い次いで構造の主要部分はボルト締めの組立式だという。その後者の捏造判断であることは既に証明した、もし捏造といわれるのがいやなら彼は「構造の主要部分」がこの建物のどこだか全くわからない愚を犯したといわれるであろう主要部分は可能な限、熔接となつておりそれのでき得ない所のみmm16のアンカーボルトや羽子板ボールト締めでいづれも申分なく緊結していることは検証をした以上知らなかつたとは云えまいし又鑑定書はウソだという証拠などあり得ないではないか。

被控訴代理人は地震には一挙にたおれるのかの如きおどし文句的言葉をつかつているが先日の米国ロスアンゼルス地震の詳報によれば鉄をつかつたコンクリート建物が多数倒壊死傷者さへ多く出している、鉄コンクリートなら云々という西村宏一判事や被控訴代理人は以て之を何と弁疏せられるか、見ものである。関東震災から相当年数を経た今日来震週期の切迫が重大視されている。しかしロスの例に比して東京の倒壊家屋はその大量さにおいて想像に絶することはその道の学者も国会もマスコミも異口同音に恐怖におそわれているこのことこそ西村宏一判事の言を以てすれば公知ではないであろうか。

借地法は関東震災の大正十二年九月より前の大正一〇年四月法律四九号で公布まもなく施行された、しかし一九三三年以後東京にM4以上の震度の地震が何度あつたかなかつたかあたらその被害はこれ等は東京天文台著作の僅か五〇〇円程度の理科年表を見れば小学生も直ちにわかるよう詳記してある、御庁も職務の一端として図書室で閲覧することを望むM7.9、の関東震災を基準に建物の堅固さをいう愚者はいない、甲二号証の鑑定書にはM4でもそんな地震には充分耐え得ると明確に鑑定理由がしるされている。尚ブレーン、天井等もよく読まれたい、更にこの建物の建築費が坪当五万三千余円位?なのは一階室内に何もない吹抜き同様の建物だからである図面と写真をみられたい。

被控訴人の主張

一、控訴人の主張一の本件建物が借地法所定の堅固な建物であるとの主張事実は否認する。同二に当事者間には借地人たる被控訴人において本件借地上に木造以外の建物を建ててはならない旨の約定があつたとの主張事実は否認する。

二、被控訴人の主張

(一)、本件建物はその構造上控訴人主張のごとき堅固な建物ではない。

(二)、尚、被控訴人において、本件建物建築に要した支出金額は、材料費、大工、鳶、左官等の手間賃、材料運搬賃、その他一切を含めて合計一、六二八、四七〇円であつたに過ぎず、うち基礎の部分に充てられた支出金額は建方足場代二九、〇〇〇円(これは基礎そのものの構成部分をなすものではない)を含み僅か一〇四、七七〇円であつたに過ぎないものである。

してみれば、本件建物建築に要した支出額は木造建物建築の場合と殆んど同程度のものと言うべく、この点からしても、本件建物が控訴人主張のごとき堅固な建物であるとは到底考えられないものといわなければならない。

(三)、以上のごとく、本件建物は、後記改造前においてすら、元々非堅固建物であつたものであるが、仮りにしからずとしても、被控訴人は控訴人の催告に応じ、催告期間内に鉄骨の柱六本を除去し、これらを木柱と交換しているもので、これにより同建物は右催告期間中に非堅固建物となつたものであるから控訴人の被控訴人に対する本件土地賃貸借契約解除の意思表示はその効力を生ずるに由なかつたものである。

(四)、因みに前記改造後は本件建物は、その六ケ所が各々木柱により支えられているのみであるため、安定性すこぶる悪く、附近道路(通称京葉道路)上を自動車が通過するだけで横揺れすることがしばしばあるので近時その対策を騒がれている地震の際等には、近隣の木造建物よりもいち早く倒壊することは確実視され、このため、被控訴人等家族は地震時の対策に頭を痛めている程である。

(五)、してみれば、現存建物(改造後の建物)は、木造建物に比し、その堅牢性において殆んど優劣は存せず、却つて前記構造上の欠陥からして木造建物にも劣るとさえ考えられる程のものにしか過ぎないものである。

別紙

物件目録

一、東京都江戸川区中央一丁目一、二五〇番二

宅地四二坪(一三八・八四平方メートル)の内北側二八坪(九二・五六平方メートル)(別紙図面参照)

二、一階鉄骨造一部木柱、基礎布コンクリート、外壁石綿波型スレート板作業場(工場)床面積六〇・七七平方メートル、その二階木造モルタル塗カラー鉄板瓦棒葺居室床面積三八・〇三平方メートル

木造セメント瓦葺二階建一階事務所・工具置場その他用床面積約二九・七五平方メートル、二階居室床面積一三・二二平方メートル

なる建物一棟

〈省略〉

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